転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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「奪還」

太陽はその半分が水平線に落ちようという頃。

天龍達は木曾が捕らわれている下地島近海へと

辿り着いていた。

 

「……後数分で下地島へと着くな」

 

天龍が、遠くに見える島の影を眺めながら呟く。

昨夜の霧秀の情報通りであるのならば、

木曾はあそこに捕らわれているはずだ。

 

「それじゃうちも索敵機出すで」

 

龍驤が天龍のその言葉を皮切りに巻物と数枚の紙

を取り出し、炎を纏った指先で一閃する。

刹那、数枚の紙は艦載機へと早変わりし、

巻物の甲板から飛び立っていった。

それを見ていた多摩が、ふと気付いたよりに

仲間に問うた。

 

「嘘の情報だったらどうするにゃ?」

 

「まず仲間を拷問して木曾の本当の居場所を

聞き出す。そして木曾を奪還したら、

敵は全て殺す。絶対に殺す」

 

「……あんな事しなければ、って後悔させてね」

 

多摩の問いに大井と北上が物騒な答えを返す。

 

それも仕方のない事だろう。

唯一無二のかけがえのない自らの妹が、

ひょっとしたら殺されるより酷い目に遭っているかも

知れないのだから。

 

段々と島の形がくっきりと見えてくる。

と、彼女達の周りから音もなく数体の深海棲艦が

姿を現した。

 

刹那、天龍達は各々の艤装を構えて臨戦態勢に

入る。

無論深海棲艦側も黙っているわけではなく

その異形の艤装を天龍達へと向ける。

 

「……よせ。無駄な被害はこちらとしても

出したくはないからな」

 

錆びた声と共に、深海棲艦とは違う異形の怪人……

霧秀が深海棲艦の背後から現れた。

 

「ッ……テメェ……あいつは、木曾は

無事だろうな⁉︎もし何かあったら……‼︎」

 

「案ずるな。すぐに来る」

 

その霧秀の言葉通り、すぐに木曾は

島から連れて来られた。

……隣に黒い爬虫類の怪人、

リヴァイア・サンズに捕らわれた状態で。

 

「サンズ……‼︎」

 

「へーぇ。霧ちゃんを撤退させた艦娘って

こいつか。久しぶりィ、天龍ちゃん」

 

驚きに目を見開いている天龍と龍驤へ向かって

挨拶をするサンズ。

 

「……まさかオレの名前を覚えてるなんてな。

少し驚いたぜ」

 

天龍は驚きの表情を浮かべながらも冷静に

サンズに返事を返した。

 

「ハッ。当然さ。俺は頭イイからなァ。

……いやそんなことよりも、だ」

 

そう言いながらサンズは片手で拘束していた

木曾を天龍達の方へと突き飛ばした。

 

「木曾ッ‼︎」

 

球磨と多摩が慌てて木曾を抱きしめる。

身体には一切の傷は見えないが

艤装は機関部を除いて軍刀までなくなっていた。

 

「お前らの目的はそのお嬢ちゃんだろ?

とっとと連れて帰ったらどうだ?」

 

「……襲う気はないのか?」

 

「別に?やりたいならやりゃいいさ。

まあ今の状況では勝てねえだろうけどなァ」

 

その言葉には一切の虚勢などなく、

彼が本当に自分達が天龍達よりも強いと

確信しているという事がありありとわかる。

 

「……天龍、今は逃げといた方がええ。

敵さんの方が数も多い。その上あのサンズも

おるんや。一旦戻って、それから体制を整えてから

こいつらを攻略するで」

 

サンズ達には聞こえないように、龍驤が

天龍の耳元で囁く。

時間はもうすぐ日没。そうなれば空母である

龍驤は何の役にも立たなくなる。

その上こちらには丸腰状態の木曾がいる。

戦闘となれば劣勢になるのは火を見るよりも

明らかだ。

 

「……分かった。でも一つだけいいか?」

 

「……なんや?」

 

「おゥ、コソコソ話してんじゃねぇよ。

それともあれか、投降したくなったか?」

 

その言葉に天龍はサンズの方を向いて、

「ああ、決めたよ」と言い、彼の元へと近寄る。

……不敵な笑みを浮かべて。

 

「……ーーーーーーッ‼︎」

 

天龍の真意に最も早く気付いた敵は

霧秀であった。

 

「サンズッ‼︎今すぐその娘から離れろッ‼︎」

 

「あ?」

 

その警告はどういう事だとサンズは霧秀の

方を振り向く。

同時に、かちんという硬質な音と共に

何かが彼の腹を突いた。

 

それは……天龍の連装砲。

その砲口がサンズへと向けられていた。

 

「死ね、クソ野郎」

 

天龍はそう宣告して、迷うことなく

その引き金を引いた。

 

爆音。それと同時にサンズの体躯が

大きく後ろへと傾く。

その上で、天龍は駄目押しとばかりに

2発、3発と連続して砲弾を撃ち込んだ。

 

その影響で辺りが砲煙で包まれ、霧秀達の

視界を僅かな時間ながら塞いだ。

 

「ずらかるぞ!急げ‼︎」

 

ハーフアスタンツー(両舷半速後進)‼︎」

 

その間に天龍達は木曾を連れて離脱する。

後進しているのは敵からの追撃に備える為である。

 

砲煙が晴れる頃には、天龍達はサンズ達から

かなり遠くまで離れていた。

 

その様子を見ながら、霧秀は静かに問うた。

 

「……サンズ、無事か?」

 

「あー、割と平気。衝撃はあるけど痛みはない」

 

大の字に倒れていたサンズが「よっ」という

軽い声と共に起き上がる。

天龍の砲弾は、その全てがサンズの堅牢な

装甲に阻まれ、一切のダメージを無効に

されていたのである。

 

「カカカ……派手にやってくれるじゃねぇか」

 

そう言いながらサンズは背後の深海棲艦達に

向けて「テメェらは先戻ってろ」と命令する。

 

「追撃しないのか?」

 

「カカッ、何言ってんだよォ霧ちゃん」

 

その言葉と共に、サンズは霧秀に何かを

投げ渡す。

それは……サンズの所持していた長ドス。

 

「俺が()()()()()短気だって知ってて

言ってんのか?」

 

ぎしり、とその場の空気が張り詰める。

その元凶はサンズのほんの僅かな怒気によるものだ。

 

「その気になりゃあの娘を渡さずに全員殺る

事だって出来た。あえてそうしなかったのは

あいつらに対しての俺なりの誠意だ。

……だが、奴らは誠意を敵意を以って返した。

なら俺がやるべきことは一つ」

 

「……あまり彼女らを攻めるな。

肉親を盾に取られれば敵意の一つや二つ

持つだろうに」

 

サンズはその言葉に返事をしなかった。

霧秀は僅かにため息をつき、サンズから

受け取った長ドスを液体化させ、自らの

体の中へと取り込んだ。

 

「じゃあ……行くかァッ‼︎」

 

その一声が、サンズと霧秀の追撃の

開始の合図であった。

 





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