転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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久しぶりの投稿です。
遅れてすいません。


「霧秀帰還」

天龍達が抜錨した頃。

 

サンズは、早朝に帰投した霧秀を伴って

南方棲戦鬼の元へと現れていた。

 

「申し訳ございません、戦鬼殿。

いかような処罰でも甘んじて受ける所存でございます」

 

「イイエ、霧秀。貴方程ノ暗殺者トモアロウ

者ガ失敗スルノデアレバ、誰デアッテモ

失敗シタデショウ」

 

「……ご厚意、感謝致します」

 

霧秀がそう言いながら退がると同時にサンズが

進み出る。

 

「さて、姫さんよぉ。俺が言ったような

万が一の事態になっちまったが、

こちらとしては問題nothingだ。

なんせ秘密兵器(木曾という名の人質)があるからなァ。

ま、強いて言うなら人手が少し必要だが」

 

そのサンズの言葉に戦鬼は口端を上げて、

まるでその言葉を待っていたと言わんばかりに

笑った。

 

「エエ。イクラデモ貸シテアゲル。

丁度、リベンジヲシタイッテ娘がイルシネェ」

 

「リベンジ?」

 

戦鬼の言葉に首を傾げるサンズ。

そしてそれは誰だと問おうとした刹那、

その件の者が姿を見せた。

 

彼女の全身には火傷の傷が痛々しく刻まれていた。

特に顔の右半分を覆う傷は目を引く。

失われた両脚と左腕は機械の義肢で補われ、

彼女が動く度駆動音を響かせる。

 

その顔を、サンズは知っていた。

 

「誰かと思えば、アンタか。

命令聞かずに飛び出して魚雷踏んだル級ちゃん」

 

「ッ……‼︎」

 

そう、北上と大井の魚雷によって

大怪我を負って撤退したル級であった。

サンズの歯に衣着せぬ発言に顔を歪める。

 

「貴様、アノ時私ハナ……」

 

「反論したければどうぞご自由に。

ま、勝手に出てって自爆した奴に出来れば、の

話ですけどね〜。……プッ、ダッセーノ‼︎」

 

「ッ……テメェエエ‼︎」

 

激昂しかけるル級を戦鬼と霧秀がどうどうと

抑える。

 

「サンズ、仲間に喧嘩を売るのはよせ。

くだらん争いを生む気か?」

 

だが霧秀の諌める言葉にもサンズは飄々とした

様子で返事をする。

 

「こんなやっすい挑発でキレる方がくだらねぇな」

 

「……サンズ‼︎」

 

霧秀の静かな怒号に対してサンズはやれやれと

ばかりに首を振り肩を竦めると、

「あーはいはい。分かりましたよ。

俺が悪うございました」と言い放ち、

頭を下げた。

 

「ホラ、サンズガ頭下ゲタンダカラ

モウ怒ルノハヤメニシテ」

 

「クッ……‼︎」

 

ル級はサンズがこの場を収める為に

頭を下げたのであって心から申し訳ないと

思っている訳がないと分かっていた。

だが上司である戦鬼から咎められては

引き下がらざるを得ない。

 

「……さて、俺としても色々準備があるんで

お暇させていただきまーす。

後、ル級。オメーその義肢乱暴に扱うなよ。

ゲンブが自信作だと言ってたからな」

 

サンズはそう言い放つと、その場の全員に背を

向けて去っていった。

 

「本当に申し訳ない。あやつはいつもああいった

言動だからこちらもいつも手を焼かされております。

が、仕事はしっかりと遂行する男故その所は

安心して下さい」

 

「ソノ事ハ重々承知ノ上ヨ。ソレニ、後少シデ

沖縄占領ノ足掛カリガ作レルノダカラコノ程度ノ

問題ハ度外視シテモイイワ」

 

戦鬼の返事に対して霧秀は恭しく頭を下げ、

サンズの後を追って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦鬼達からかなり離れた所でようやっと

霧秀はサンズへと追いつき、背後から激しく

彼を叱咤した。

 

「サンズ‼︎貴様先程の言い草は何だ‼︎」

 

「あ?あァ、さっきの姫さんとの話し合いか?」

 

「その通りだ。仮にも同盟を結んだ仲とも

あろう者が、喧嘩を売るなど……」

 

すると、サンズはため息をついてやれやれと

ばかりに霧秀へと振り向いた。

まるで、馬鹿な生徒に対して呆れを示す

教師のように。

 

「あのなァ霧ちゃん。まだ分からないなら

言っとくけど。

……ここの連中、弱ェぞ。それもかなりな」

 

「ッ……」

 

僅かな動揺を示した霧秀にサンズは更に

話し出す。

 

「……その様子を見るに分かっていなかった、

ってクチでもなさそうだな。

なぁ、霧ちゃん。俺よりも長く奴らと

付き合ってたお前なら分かっただろ?

ここの連中は他の深海勢に比べると遥かに

考えなしで素直過ぎて、練度も低い。

実際俺らの提案にも負んぶに抱っこだったしな」

 

そこで一旦言葉を切り、サンズは改めて

霧秀の顔を見た。

 

「そこまで気付いていて、霧ちゃん。

お前なんで奴らに従ってんだ?」

 

「……某は、否、某“達”は戦士である」

 

錆びた声で霧秀は言葉を紡ぎ出す。

 

「祖国の為、愛する者の為、自分が生きる為に。

某達は戦い抜いた。抗い続けた。

だが今はどうだ?守る者もなく、目的もない」

 

彼が数多の人間と艦の魂を以ってこの姿を

成した時も、今現在も彼の心は空虚であった。

何をしようと見ようと壊そうともその心が

動くこともなく、ただただ塵芥の如く

あちこちを彷徨っていた。

 

……正確には、ある一時を除いて。

 

「それこそが闘争だった。

某達はその事に気付いてからは変わった。

闘争の為に目的を作り、頼まれれば守るようになった」

 

闘争を行う。その目的の為だけに人を守り、

殺し、共謀する。それはかつての思考とは真逆。

なんという倒錯だと罵る者もいるだろう。

本末転倒だと怒る者もいるだろう。

 

「だが某達は空虚であり続けるのは嫌だ。

誰が何と言おうと、風に吹かれて消える煙のような

生き様は嫌なのだ。

……戦鬼殿の所にいるのも闘争をする為だけ。

ただ、それだけだ」

 

「……ふん、まあいいさ。

俺は口は出さない。好きにやるといい」

 

サンズはそう言って、再び霧秀に背を向けて

去っていくのであった。

 

 

「……願わくば、お前の欲を満たす者が

現れる事を祈っておくとしよう……」

 

微かに、そう小さく呟いて。




リヴァイア・サンズのイラスト投稿します。
下手くそなので変な期待はしないで下さい。


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