転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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「苦悩」

ーーーーーー米国空軍、沖縄仮設鎮守府内。

そこで天龍を除いた関係者達は、龍田から昨夜の事を

知らされていた。

 

「……そんな、事が……‼︎」

 

怒りの為か震える声で、球磨が小さく呟いた。

 

「天龍ちゃんは今船渠にいるわ。

後数十分もあれば全快すると思うのだけれど」

 

「しかし……そのキリヒデとやらの存在を、

天龍はそう目の敵にするのでしょうネ?」

 

それを聞いて暗かった龍田の顔が更に暗くなる。

その事に気付いたレンゲが龍田に問うた。

 

「……龍田さん。何か知っているんですか?」

 

「……」

 

静寂。それが数秒程続いてから、龍田は

はあ、とひとつため息をついて話し始めた。

 

「……本来なら、天龍ちゃんの口から話すべき

事なんでしょうけどね……みんな、この事は

他の人には絶対に内密にして。絶対よ」

 

真剣な表情で、この場にいる全員を見据えてから

改めて龍田は口を開いた。

 

「ーーーーーー天龍ちゃんは、3年前に

軍法会議にかけられているの。

……提督を殺害したという罪でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍は3年前、龍田と共にとある鎮守府にて秘書艦を

勤めていた。

その鎮守府の提督とは、とても良好な関係で

あり、他の艦娘からはこの戦争が終われば

結婚するのではという噂が立つ程であったという。

 

だがしかし、二人の関係は余りにも

凄惨な形で終焉を迎えた。

 

「提督が死んだ……いえ、殺されたの。

何者かの手によって」

 

一寸先が見えない程強い雨の日のことであった。

提督の死体は鋭利な刃物によって首を落とされて

おり、提督のいた執務室は床一面が血の池と

化していたらしい。

 

「天龍ちゃんはその場にいたの。

犯人の姿も見ていた。でも、海軍はその事を

信用しなかった」

 

他の艦娘が駆けつけた際、天龍は

片目を抉り出されてのたうちまわっていた所を

発見された。

 

無論、海軍は彼女を一番に疑った。

天龍は提督と仲が良かったから、何の警戒も

持たれずに近づけるだろう。

片目を失っていたのは提督の抵抗によるもの。

天龍の証言は他の艦娘達が執務室の近くには

天龍以外誰も近付く者を見なかったと証言した為、

嘘八百と決め付けられた。

 

「……今となって考えてみれば、あの霧秀という

奴が暗殺を行ったんだと思うわ。

液体となって鎮守府内の人間の目を盗み、

提督を殺した。

だけど、その時の皆はそんな事思いもしなかった。

ただ、天龍ちゃんを責めた。責め続けた」

 

延々と続く熾烈な取り調べ。

それに加えて仲間から誹りを受け続ける毎日。

その苦しみ、悲しみはいかほどのものであったか。

まず、真っ当な人間なら耐えられないだろう。

 

「事実、天龍ちゃんは精神が衰弱して

病院で療養することになったわ」

 

その龍田の言葉に、思わずレンゲは顔を

歪めた。

 

「なんて、なんて酷い事を……‼︎」

 

「ええ。本当に、天龍ちゃんにとっては

地獄の毎日だったでしょうね……」

 

だが、やっとと言うべきか、天龍の疑いが

晴れ始めた。

理由としては、天龍の片目は失われていたのに

抵抗したはずである提督が所持していた

軍刀には血が付いていなかったこと、

天龍が所持していた刀と提督の首の切断面から

首を切断したのは天龍の刀ではない事が

証明されたことで、天龍は容疑者の線から

外れ、事件は迷宮入りとなった。

 

「だけどそれで提督が戻ってくる事もない。

今まで過ごしてきた時間も返ってこない。

他の艦娘との関係も修復されなかった。

……それからの天龍ちゃんのことは、私も

沖縄鎮守府に着任することになったから

分からないわ」

 

そこまで言って龍田は口ごもり、

苦しみを噛み殺した表情で呟いた。

 

「……私も、天龍ちゃんを疑っていた。

昨日の出来事で、天龍ちゃんの言っていた事が

本当だったと知った時、私は凄く後悔した。

あの時なんであの娘の言う事を、

信じてあげられなかったんだって……‼︎

そうすればもっと、今よりももっと別の結末を

迎えられたかもしれないのに!

彼女の心がこうまで傷つけられる事もなかった

はずなのに‼︎」

 

普段の様子からは想像できない程激昂した様子で

龍田は心の底からそう叫んだ。

 

「……龍田の言う事も一理あるクマ」

 

その言葉に球磨が同調する。

 

「だけど、龍田。過ぎた事はもう二度と

元には戻せないクマ。さっき龍田が言ったように。

……だけど、“これから”はその限りじゃないクマ。

今までの過ちを繰り返す事は絶対にさせない。

そう……球磨達の大事な妹を連れ去った

あいつらにも……‼︎」

 

ギリィ、と歯を食い縛りながら怒気を発散する

球磨……否、球磨だけではない。背後にいる

北上達からも同様に怒気が放たれている。

その気配に思わず時雨やレンゲは後ずさる。

 

「絶対に……二度とこんな真似出来なく

させてやる……‼︎」

 

その球磨の呟きは、断固たる決意に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、米軍基地の一角では、兵士達が

慌ただしく動き回っていた。

 

「一体全体、これはどういう事だ‼︎」

 

ハワードは怒声を上げながら、今起きている

事態に対して悪態をついた。

 

「で、ですが少佐。我々に聞かれても

これは全く以って理解出来ない事態なんです」

 

兵士の一人が憔悴し切った様子でハワードに

答える。

無理もないだろう。何故ならーーーーーー。

 

「電波障害……それも沖縄のみ(・・・・)がその

影響下に入るだなんて……どうやれば

そんな事が出来るのかこちらが聞きたい位です」

 

そう、昨夜から沖縄全域では謎の電波障害に

襲われているのだ。

そのおかげで、殆どの機械は鉄屑と化し、

飛行機も飛べず電話も繋がらず

外界との繋がりが完全に絶たれてしまって

いる。

 

その影響で、米軍は今日沖縄から撤退するはずで

あったのに撤退することが出来ずにいた。

 

「Dammit‼︎なんて事だ‼︎」

 

「一応、電波を阻害しているのが電磁パルスの

一種である事は特定出来ましたが、

これをどうにかするのは非常に難しい問題です。

出来るかどうかはわかりません」

 

「……出来るかどうか?決まっているだろう。

出来るとかそういう問題ではない。やれ。

なんとしても沖縄からすぐに撤退するぞ‼︎」

 

「Yes,sir‼︎」

 

ハワードは胸中に僅かな焦燥を感じながら、

部下達に命令を下すのであった。




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