転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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「運命の一瞬‼︎」

幾重にも重なる激音。

天龍と霧秀は激しく競り合っていた。

 

「シャアアアアッ‼︎」

 

「らあああああああッ‼︎」

 

鋼が噛み合い、火花が飛ぶ。

もはや常人にはその一合一合が目視すら

難しい程の速さで、両者は斬り結ぶ。

 

やがて、その趨勢が明らかになってゆく。

押されていたのは、

 

「ぐ、うう‼︎」

 

霧秀……そう、先程までは天龍を圧倒していた

霧秀が、押されていた。紛れもなく、

誰の目にも明らかな程に。

 

(何故、だ……⁉︎何故に貴様はそれほどまでに

強くなっているのだ⁉︎)

 

霧秀には知る由もないだろう。

当然だ。それは既に彼が捨て去ったもの……

悲しみや怒りといった感情から天龍は力を

得ているのだから。

感情を捨てた者が感情によって押されている

皮肉とも言えるこの状況。

 

「らああッ‼︎」

 

天龍の刀の切っ先が僅かに霧秀の腕を裂く。

もはや何故とは思わない。

今はただ、そう。

目の前の少女との楽しい時間(・・・・・)を、

霧秀は過ごしたかった。

 

「ふ……ははは。

くはははははははは‼︎」

 

「ッ‼︎」

 

刹那、霧秀の刀を振るう速さが増す。

押されていた剣戟が拮抗する。

 

「小娘ェッ‼︎貴様程の剣客とやり合うのは

某も初めてだ‼︎」

 

「そうかよ‼︎」

 

鍔迫り合いになりながらも2人は一歩も引かない。

引けば、その瞬間に死ぬと分かっているから。

 

「ああッ……素晴らしい。このような剣戟は

久しぶりだ‼︎サンズとやり合った時以来‼︎

こんな感覚は味わえなかった‼︎」

 

「ッ……⁉︎サンズ……だと⁉︎」

 

天龍はその名を知っていた。

皐月達から沖縄近海にいたという情報を聞いては

いたが、やはり。

そう思い天龍は霧秀に問うた。

 

「おまえ……サンズの仲間なのか?」

 

「それがどうかしたか?それよりも、

今この瞬間に味わえる感覚に、

身を震わせさせてくれ。

またいつ味わえるかわからないからな……‼︎」

 

だが霧秀は問答すら難しい程に高揚していた。

まるで酒に酔ったように。

かつて戦ったサンズの仲間……イカリも

キレた際には同じような状況に陥ったのを

天龍は思い出す。

彼らは一旦昂ぶると自制が効かなくなるの

だろう。まるで獣のようだ。

しかしその事を深く考える暇は彼女にはなかった。

 

霧秀が刀に大きく力を入れて、

天龍を弾き飛ばしたからだ。

続けて、大きく息を吸う音。

 

「ああ、なんという快感‼︎

もはや息を吸う事すら(・・・・・・・)惜しい‼︎」

 

刹那、再び霧秀が斬り込んで来た。

天龍に一閃も斬る暇も与えぬとばかりに、

烈火の如き連撃を加え続ける。

 

「くっ‼︎おっ⁉︎」

 

速い。ともすれば、閃光のように。

その閃光を凌ぐ中、天龍はある事に気付いた。

 

息を、していない。

霧秀は、無呼吸でこの連撃を仕掛けているのだ。

これこそが、霧秀が磨いてきた我流剣術の

一つの到達点。

ありとあらゆる身体のブレ……それこそ、

呼吸すらも廃し、己が身が引き出せる

最高速度で撃ち放つ圧倒的な手数の連撃。

その名も……。

 

「秘剣……≪五十嵐≫ッッ‼︎」

 

正しく嵐の如き連撃の中、天龍は

必死で防戦に回っていた。

だがそれもいつ押し切られるか分からない。

 

(やっぱり……)

 

天龍は額に汗を浮かべ、苦笑した。

 

(あの一刀に賭けるしかねぇ、か……)

 

次の瞬間、霧秀の斬撃を弾いた天龍が

身を低くすると同時に居合の構えをとった。

 

しかしそれと同時に霧秀も大上段からの

一刀を振り下ろしていた。

 

「シャアアアアアアアアアアアアッ‼︎」

 

「ーーーーーーッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血飛沫が舞った。

その血は……霧秀のものであった。

 

「ギ、ィイ……ッ‼︎」

 

霧秀が天龍から数歩離れると同時に、

どさっ、と何かが両者の間に落ちる。

 

霧秀の右腕であった。

 

はああっ、と大きく息を吐いて天龍が

霧秀を睨みつける。

 

「ッ……まさか、某の、……≪五十嵐≫よりも

疾く叩き斬られるとは、な……」

 

ボタボタと、欠損した右腕から血を流しながら

霧秀は驚嘆していた。

あの刹那、天龍の放った一閃は、

霧秀の斬撃よりも速く、霧秀の斬撃が

振り落ちる前に彼に到達した。

 

だがこれは天龍自身もかなりの賭けを

していた。

というのも先程の一斬、彼女の父から

伝授された中でも唯一、父のそれに

並び立つ事の出来なかった秘剣だったのだ。

その秘剣の持つ理念はたった一つ。

相手よりも、疾く、鋭く斬る。

その事のみを追求した一斬の名は。

 

「≪斬光≫……それが今てめぇを斬った斬撃だ。

見えたか、クソ野郎」

 

「……はは、残念ながら某ですらも一瞬見失った。

見事だ。その領域に達するまで、さぞや

苦しい鍛錬を積んだのであろう?」

 

「てめぇに言う必要があると思うか?」

 

と、二人の横顔を光が照らす。

朝日であった。既に夜が明けかかっている。

 

「……提督の暗殺失敗、か。まぁ某も少々

熱くなり過ぎた。逃げるしか後はあるまい」

 

そう言いながらも、霧秀の声音には

喜色が混じっていた。

 

「……貴様等が望むならば、下地島に来い。

囚われの少女を救いたければな」

 

「ッ……‼︎」

 

「それともう一つ……サンズからの伝言だ。

……“この島から逃げられると思うなよ”だそうだ」

 

ドロリ、と霧秀の身体が溶ける。

ダッ、とあちこちを斬られて体力を

消耗していた龍田が薙刀で霧秀を背後から

横斬する。

 

だがその一撃を受けても霧秀は

苦悶の声も出さず、血も何も流さず

水となり、木の床下へと染み込み、

消えた。

 

「……逃げたか」

 

天龍は、大きく床の上に大の字になり、

脱力した。

もう身体が動かない。

霧秀との戦闘で身体を酷使しすぎたのだ。

 

「天龍‼︎龍田ー‼︎無事かー!」

 

遠くからの糸井川の声を聞きながら、

天龍の意識は闇に落ちてゆくのであった。


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