転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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「剣戟」

たび重なる霧秀の妨害を受けながらも、

天龍と糸井川はなんとか出口まで後少しの所まで

たどり着いた。

 

「あと少しだ。出口を抜ければ俺達の勝ちになる」

 

その言葉に、大きく糸井川は頷き、

「ここから出たら、乾杯でもしたいな」と言った。

 

「それ、死亡フラグじゃねーか」

 

「?なんだそれ?」

 

多少の軽口を叩ける程度には二人の心も

安定していた。

この時までは、だ。

 

二人の頭上を何かが飛び越える。

二人が身を固めると同時にそれはビチャッ、と

水音を立てて着地し、すぐさま一つの形を成した。

 

「……まさか、某から逃げられるとでも

思っていたのか?だとしたら……」

 

そう言いながらそれは……霧秀は刀の切っ先を

天龍達へと向け、嘲笑った。

 

「少々、痛い目にあった方がいいぞ」

 

「ッ……‼︎」

 

天龍が刀を抜いた。霧秀が構える。

 

「来い。遊んでやる」

 

そして、両者の刀は、闇の中火花を散らして

激突した。

刹那の内に斬光が幾重にも放たれる。

だが、すぐさま趨勢は大きく霧秀に傾く。

 

一度天龍と刀を交えた身。

彼女の癖は既に見て、覚えている。

 

「クアアアアアッ‼︎」

 

「ぐっ……‼︎」

 

力の乗った一斬によって天龍の身体が後退

させられる。

 

「天龍‼︎俺も加勢するぞ‼︎」

 

糸井川が腰に差していた軍刀を抜きながら

天龍に向かって叫んだ。

 

「退がってろ‼︎奴の狙いはお前だ‼︎」

 

それに、と天龍は霧秀を見据え、なんと

薄く笑った。

 

「まだ奴には用があるからな‼︎」

 

糸井川は一瞬躊躇したが、

「分かった、頼む‼︎」と引き下がった。

 

「用、か。質問程度なら受け付けてやろう」

 

「……だろうな。じゃあ、ひとつだけ」

 

そう言って天龍は一呼吸置き、霧秀に問うた。

 

「最初に剣を交えた時。お前はくだらないと

思ったのか?」

 

「ハッ。何を言うかと思えば……馬鹿を言え」

 

霧秀は刀を再び構えると、質問の答えを

返した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ程の剣戟。くだらないと思う訳がないだろう」

 

「……ああ。だと思った」

 

歯を剥き出しにして天龍が嗤う。

まるで、獲物を見つけた捕食者の如く。

そして霧秀へと刀を構えると、低く、

「来い」と言った。

 

「……ならば、今度はこちらからゆくぞォッ‼︎」

 

裂帛の叫びと共に霧秀が一歩踏み込んだ刹那。

 

 

 

 

 

 

刀の切っ先が霧秀の目の前にあった。

 

(……ッ⁉︎馬鹿、な……)

 

二人の距離は一歩や二歩縮めても刀を交える事は

出来ない程度には遠い。

だというのに、現に今切っ先は霧秀の目の前に

存在している。

この矛盾した事実の原因を、今までに何度も

修羅場を潜り抜けてきた霧秀の頭脳は

看破した。

 

(投擲、か……‼︎小癪な真似をォッ‼︎)

 

確かに近距離での攻撃法しかないと思っている敵に

この奇襲は効果があるだろう。

 

だが……。

 

「ルアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」

 

霧秀に対してそれは意表を突いたものの、

表皮に届く前に打ち払われる。

打ち払われた刀は天井にぐさりと突き刺さった。

 

(中々に良い奇襲だったが、惜し……ッ⁉︎)

 

刀を打ち払った次の瞬間、霧秀は天龍が

こちらに向かってくるのを見た。

 

(本命はこちらか‼︎)

 

投擲された刀を打ち払った直後の為に

隙だらけとなった霧秀にはどうすることも出来ず

天龍の鋭い蹴りが霧秀の鳩尾を撃ち抜く。

 

「ごはッ‼︎」

 

更に天龍は蹴りの反動を利用して跳躍。

天井に突き刺さっていた刀を引き抜き、

引き抜く勢いそのままに思い切り

霧秀の頭目掛け打ち下ろした。

 

「秘剣……“兜割り”ッ‼︎」

 

蹴りによって怯んでいる霧秀にこの一撃は

まともに入る。

天龍の鋭い斬撃は彼の頭を秘剣の名の通り

かち割る……はずであった。

 

天龍の刃が霧秀の頭に直撃する寸前、

彼の上半身が消えた。

 

「なっ⁉︎」

 

否……消えたのではない。

彼は消えたとすら錯覚させる程の速度で

身体を床と水平になるまでに反らせたのだ。

 

空を切る刃。天龍は舌打ちしながら着地すると

霧秀から距離を置いた。

 

「危うい所だった……。鳩尾を足場にして

更に跳躍するとはな。誰かの受け売りか?」

 

「マンガの受け売りさ」

 

それを聞いて霧秀はくつくつと笑うと、

だらりと刀を下げた。

 

「まあ、お喋りはここまでにして。

某もやる気を出そうか」

 

そして片腕だけで刀を持ち替えると、

ぐっ、と身体を沈ませた。

 

「……頼むから、一発目で死ぬなよ?」

 

そう言うと、霧秀は天龍目指して駆けた。

そして天龍を攻撃範囲に認めるや否や

袈裟斬りを叩き込んだ。

だがその振りは先程とはうってかわって、

乱雑そのもの。

腕の力だけで振るわれたワイルドスイングに

とても近い。

 

(左から右にかけての袈裟斬り……。

止めてやるッ‼︎)

 

天龍が霧秀の斬撃を受けようと動いた直後。

 

 

 

 

 

 

 

刀が曲がり(・・・・・)、天龍の左腕を深々と

切り裂いた。

 

「……っ⁉︎ぐ、うああああああああ‼︎」

 

天龍は悲鳴を上げながらも霧秀から距離を取る。

 

そして、彼の刀を持つ腕を見て、絶句した。

 

その刀はうねっていた。唸っていた。

蛇の如く刀が湾曲し、凄まじい風切り音が

天龍の耳に鳴り響く。

 

(ま、さ、か……ッ⁉︎)

 

それを見て、天龍の頭脳はたった一つ、

あり得ないがそれしかないと思う答えを

見つけ出していた。

 

「微細かつ流動的な筋肉の動きで剣に

残像を生み出しているのか……⁉︎」

 

その原理は、目の錯覚。

分かりやすい例で言うならば、鉛筆を軽く

持って振ると曲がって見える

「ラバーペンシル・イリュージョン」という

現象が挙げられるだろう。

 

だが霧秀がやっていることの難しさはこれの

比ではない。

先の現象は指の力のみで出来るが、

霧秀は肩、腕、指、全ての筋肉を連動して

行っている。

まるで波のように。そう、この技を名付けると

するならば……。

 

「秘剣……“漣”」

 

そして霧秀は手負いの天龍に向けて再びその技を

振るわんと刀を振り上げ……。

 

「ッ‼︎」

 

刹那、背後からの斬撃を回避した。

 

「貴様……‼︎」

 

「お前、は……‼︎」

 

その斬撃は……天龍の妹艦にあたる、

龍田が手持ちの薙刀から放ったものだった。


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