転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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更新します。


「暗殺者は闇に消える」

刀を構え、木曾が大きく天龍に向かい踏み込む。

狙いは急所の首。鋭い突きを放つ。

天龍は体の軸をずらして皮一枚の差でそれを

回避する。

 

「……ちッ」

 

僅かな舌打ちをして、木曾は素早く刀を引いた。

天龍はその隙を見逃さず、上段から刀を全力を

込めて叩き込む。

 

ガヅッ、という音と共に刀と刀が衝突する。

木曾の体がぐっ、と後ろに押され、天龍の刀の

切っ先が木曾の額を僅かに切った。

 

「何やってんだ‼︎早く逃げろ‼︎」

 

天龍が糸井川の方を向き叫ぶ。

 

「だ、だが‼︎俺と木曾は共に戦ってきた仲間だ‼︎

何故俺に剣を向けるのかは知らないが、

とにかく話し合えば……」

 

「違う、そうじゃねぇよ‼︎」

 

ギリギリと刀を押し込めながら天龍はそれを

遮り、彼が勘違いしている所を訂正した。

 

こいつは木曾じゃねぇ(・・・・・・・・・・)。木曾に化けた何かだ‼︎」

 

その時、刀を防いでいた木曾が一瞬の隙をついて

天龍の腹を勢いよく蹴った。

 

「がっ⁉︎」

 

そしてその反動で天龍の刀の届く範囲から離脱し、

そして改めて二人を見据えた。

 

「ッ……なぁ、そうなんだろう?お前が木曾じゃ

ないってことは分かってるんだ」

 

天龍の言葉に対して、木曾であるはずのそれは

一切の感情を纏わない声で返答した。

 

「……驚いたな。いつから、木曾ではないことに

気付いたんだ?」

 

「確信出来たのはお前の手のひらを見た時だ。

木曾はな、左手の親指の辺りに竹刀ダコがある。

こないだ、剣を交えた時にはそれはあったんだ。

だが、今のお前にはない。タコっていうのは

そう簡単に綺麗に消せるものじゃないんだよ」

 

その言葉を聞いて、それは微笑を浮かべ、

「なるほどな、竹刀ダコ、か」と呟いた。

 

「まさかそれで看破するとはな」

 

「ああ、俺だって一目見ただけじゃ偽物だって

分かりゃしなかったよ。

……なぁ。もう偽物だって分かったんだ。

そんな姿でいないで、本来の姿を見せたら

どうなんだ?……クラゲ野郎」

 

それは押し殺したような笑い声を上げた。

それは自分のいたずらがバレた時に子供が

するような笑い方にも似ていた。

 

「そうだな。言う通りにしよう。

この姿だと“すかーと”という布が邪魔だ。

それに、股間の辺りがスースーして気持ち悪い事

この上ないからな……」

 

ドロッ、とその体が融けた。

まるで氷の溶ける様を早送りしているように

その体は色彩を失い水のようになってゆき、

やがて体があった場所には水溜りが出来ていた。

 

 

そして、今度はその逆の事象が発生した。

水が盛り上がり、足を、腰を、体を作り上げる。

……水溜りが消え、その代わりに一つの影が

立っていた。

 

2m近くある痩躯。その腕は身体のバランスに

似合わず細く長く、落ち武者のような髪……

否、触手を頭から垂れ下げた姿。

その表情は真っ白な面の下に潜み、窺うことが

出来ない。

 

「……天龍、だったな。残念だが、某は今

主とは斬り合ってはおられぬ。そこをどけ」

 

錆びた声でその影は、霧秀は天龍に告げた。

 

「悪いが、こっから先は有料だぜ」

 

「……そうか、ならば。これも任務遂行の為だ。

主諸共あの男を地獄に送るまでよ」

 

霧秀が片手で刀を構え、天龍に向き合った。

 

「おい、とっとと逃げろ。俺じゃこいつの足止め

ぐらいにしかならねぇ」

 

糸井川はそれを聞くと、ふっと笑って腰の軍刀を

抜いた。

 

「ッ‼︎聞いてんのか‼︎逃げろっつったんだよ‼︎」

 

「……男がいつまでも女に守られてちゃ、

恥ずかしいだろ?」

 

それに、と糸井川は続ける。

 

「お前で足止め出来るなら、2人でやったら

倒せると思うんだが」

 

「ッー……馬鹿野郎……」

 

思わず天龍が頭を抱えた。

 

「まあ確かに俺じゃ力不足かもしれないが……

一応、これでも木曾に剣を教える程度には

俺は強いぜ」

 

そう言って、糸井川は刀を正眼に構え、

霧秀へ言い放った。

 

「さっきはあんな手を使ったんだ、首が飛ぶことを

覚悟しておけ」

 

その言葉には、仲間の姿を利用したことへの

怒りが込められていた。

 

「首が飛ぶ、か……果たして、どちらの首が

飛ぶか、試してみるか?」

 

刹那、霧秀と糸井川の刀が衝突した。

甲高い鋼の音を響かせ、両者の体が激しく

躍動する。

 

隙の無い攻撃を的確に繰り出す糸井川。

その剣戟を片手のみでいなしてゆく霧秀。

両者共に高度な攻防を繰り広げていた。

 

と、霧秀は反撃を繰り出す。

その一撃を糸井川は受け止め、霧秀の腹に

蹴りを叩き込む。

鈍い音と共に霧秀の体がぐらりと揺れる。

その隙を見逃さず、糸井川は刀を一閃した。

刀は霧秀を腰斬し、その体を二つにする。

 

もはや勝負は決したかに思えた。

 

「……ちっ‼︎」

 

瞬間、霧秀の体が色彩を失い、唯の液体に変わる。

 

液体は床に落ちると糸井川から距離を置くように

床を這ってゆき、再び霧秀の姿を形作った。

その姿は腰斬される前と全く変わらない。

 

「液体になって体を再構築したか……」

 

「首を飛ばすと言っておきながらこれ、か。

……つまらぬ。このような児戯は早々に

終わらせるに限る」

 

霧秀は吐き捨てるようにそう言って、刀を

床に突き刺した。

 

「……某、霧秀は武士であり暗殺者。

今ここに、暗殺者の技をご覧に進ぜようぞ」

 

グッ……と細長い右の手を握り締め、霧秀は

糸井川に向かって走り出す。

 

糸井川は真っ向から霧秀を両斬せんと刀を

振り落とす。

先に届いたのは糸井川の刀だ。

霧秀は体をよじりそこへの一撃は回避したが、

握りしめていた右手に刀が命中、

右手を二つに割いた。

 

「阿呆。某の技は……」

 

霧秀の喝と共に、斬り裂かれた右手が

刀が通り過ぎてゆく所から再び癒合してゆく。

 

「なッ⁉︎」

 

そして、霧秀の伸ばした右手は糸井川の左胸、

心臓部に到達し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、血の一滴も出すことなく(・・・・・・・・・・・)

糸井川の心臓を持った状態で左胸を貫いた。

 

 

「某の技は、見敵必殺だ」

 

霧秀の錆びた声が、鎮守府の廊下に響いた。




霧秀の能力解説。
≪液体化能力≫
自身の身体、もしくは別の物体を液体状に
することが可能。
主に隠密、暗殺の用途に使用する。
水中で使用すると周りの水と同化して消滅する
可能性があるので、水中では数秒程度しか
使えない。また、能力を解除すれば液体化した
物体は元の形状、状態に戻る。

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