転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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更新します。


「雨は尚降り続ける」

夜間、長月と多摩が近海の警戒から戻ってきた。

 

「異常はなし。ただ、天気が良くないが。

もしかするとこの天気に乗じて深海棲艦が

攻めてくるかもしれないな」

 

長月の言う通り、外は酷い雨だった。

バケツをひっくり返したような感じで、風も強い。

 

「一応多摩達も念を入れて警備したけど、

確認は出来なかったにゃ」

 

次の警戒班である北上と球磨がその役割を

引き継ぎ、長月と多摩は仮眠をとるため寝室に

入っていった。

 

「あいつら、消耗戦に持ち込む気やな」

 

「ですね」

 

もしも奴らに攻める気があるのならば一気呵成に

攻めるだろう。おまけに丙型生命体と深海棲艦の

混合艦隊だ。勝算は十分にあるはず。

なのに攻めないのは、俺達の士気を出来る限り

削る作戦だろう。

いつ襲撃をかけてくるのかわからない状況が

いつまでも続くのは神経にかなりくる。

即ちそれは士気の低下や精神の疲労に繋がるのだ。

 

「まずいで。このままやとじり貧や。

早よ敵さんの本拠地を叩かんと」

 

「でも、そもそもどこにあるのかわからないのに

どうやって探すんですか?」

 

「艦載機を飛ばして地道にやるしかないなぁ……

あー、もう。チマチマやってくる奴ってウチ

大嫌いやっ‼︎」

 

龍驤は頭を掻いて、それからはあ、とため息を

ついた。

俺は無力感に苛まれていた。皆がこんなにも

頑張っているのに、俺は何の役に立たない。

ただの木偶の坊だ。せめて、何かで皆を

助けたいと思うのだが……。

 

「……俺も、少し眠ってきます」

 

「あぁ。おやすみ、レンゲ」

 

どうしようもない問題に俺は頭を悩ませながら、

ベットに潜り込みのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、米軍基地の居住地区のとある建物内。

 

「なんだって⁉︎今すぐに兵士達全員を連れて

帰還せよ、だと‼︎本当に上層部からの命令が

下ったのか⁉︎」

 

ジャックの驚きの声が木霊した。

 

「声が大きいぞ、ジャック・エルリック中佐。

ああ、確かにそう先程上層部から命令が下った。

もはや日本は沖縄を維持するのは不可能だろう。

我が米軍の戦闘機も殆どがおじゃんだ。

最早我々に出来ることはない」

 

ハワードは、無機質な声でそう言った。

 

「精々、見守るぐらいだろうな」

 

「し、しかし‼︎今米軍基地に残っている部品を

使用して地元の企業の工場で戦闘機を製作している

所だ。それが完成すれば……」

 

「たかが知れてる。1機や2機で戦況を覆すことが

出来たら今ごろ深海棲艦はこの世にいない」

 

室内に備え付けてある椅子に腰かけて、

ハワードはタバコに火をつけ、一服した。

 

「諦めたまえ。あまりそう固執するとろくな所に

行けないぞ、それでもいいのかね」

 

「……くっ……‼︎」

 

口惜しそうに歯をくいしばるジャックを見て、

ハワードは灰皿に灰を落とし、最後に

「明日の18時に帰還するための飛行機が

到着する。それまで、日本の艦娘達に

別れでも告げておくのだな」と言って、

彼を残して出て行った。

 

ジャックは、行き場のない怒りに拳を

握りしめて、同時に自分の無力さを思い知らされ、

艦娘達に申し訳なく思った。

 

「……糸井川提督にこの事を話さなければ。

何も言わないのは良心が痛む」

 

そう思い、ジャックは糸井川提督のいる建物に

向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、やっぱり。置いてきてしまったか」

 

糸井川は自身の机の引き出しを探って、

ため息をつくように言った。

そして、隣で書類を作成している龍田の方を向く。

 

「すまん、少し鎮守府に用があるんだが……

龍田、構わないか?」

 

「別にいいわよ〜。でも外、凄い雨だし。

鎮守府だってかなり壊れてるから明日にした方が

いいんじゃないかしら〜」

 

「そうもいかない。大切なものだからな」

 

「……まぁ、そこまで言うんだったら無理強いは

しないけどね〜。風邪ひいたりしないでね〜」

 

「俺のことを心配してくれてるのか」

 

「私や天龍ちゃんに移るから。風邪ひいたら

近寄らないでね〜」

 

「……ご忠告どうも。行ってくる」

 

糸井川は苦笑いを浮かべて、傘立てに置いている

ビニール傘を持って、外に出ていった。

 

龍田はそれを見送ると、外の天気を眺めて、

小さく呟いた。

 

「今夜は荒れそうね〜……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍は、夜間に目を覚ました。

他の皆は仮眠をとっているか、それか他の人の

手伝いだ。

いつも脇に置いている刀を手に取る。

 

そして、窓から外の天気を眺めた。

酷い天気だ。あの日と同じ。雨は強く、風が

荒れている。

ジワリと胃の腑に滲むような痛みが湧いた気が

した。こんな日には必ず、何か嫌なことが

起きてしまうのではないかと錯覚してしまう。

 

いてもたってもいられず、天龍は服を着替え、

誰かを起こさないようにそっと部屋を出た。

刀も忘れずに携行している。

 

外に出て、ふと天龍は、自分のペンダントの

ことを思い出した。大体の人に当てはまるが、

忘れものというのは大抵結構時間が経ってから

思い出すものだ。

ただ、彼女が忘れていたペンダントは父の

形見だった。中に家族の写真が入っている。

天龍にとっては命並みに大切なものだった。

 

(どこにやったか⁉︎施設の中?いや、ないな。

時間を遡ってみるか……)

 

そう思って天龍は自分の行動を振り返った。

沖縄鎮守府に着いてからペンダントは常時首に

かけていたはず。確か、爆撃の日だって……

 

(あれ、待てよ。その日かけてねぇや‼︎

となると……鎮守府の方か。参ったな、

錆びたりしてないといいんだが)

 

爆撃が起きてからは鎮守府の中には一度も

入っていない。となるとあるとすれば

半壊した鎮守府の中だろう。

 

天龍は小さく見える半壊した鎮守府を見やり、

ペンダントの無事を祈りながら走ってそこに

向かうのだった。




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