転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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「暗雲漂う孤島にて」

ーーーーーー南方の孤島。

 

「……暇ネ」

 

南方棲戦鬼は居心地の良さそうな、しかし

年季の入ったボロボロのソファに腰掛けながら

そう呟いた。

 

サンズ達に沖縄鎮守府の無力化を命じたはいいが、

サンズ達は自分が命令を下す前にとっとと出撃。

おまけにイ級やハ級などの駆逐艦を数隻、

彼女に伝えずに連れて行ってしまった。

 

彼女にとってはかなりそのことは頭に来た。

自分には(南方棲戦姫)ほどの指揮能力は

ないが、それなりにはあるはずだと自負していた。

だがサンズは事前にそのことを重々伝えたのに

それを無視して勝手に行ってしまったのだ。

 

「暇ナ上ニムカツイテショウガナイワ……‼︎

アノトカゲ男メ……私ヲコケニスルト後デ

後悔スル事ヲ思イ知ラセテヤル……‼︎」

 

「……アノ〜、戦鬼様?ゴ報告ガアルノデスガ」

 

爪を噛んで恨み言を呟いている戦鬼に、

おそるおそるといった様子でリ級が話しかけた。

何故か、猫を抱いた状態で。

 

「何?今ノ私ハ気分ガ良クナイノ。ソレトモ、

ソノ気分ヲ払拭シテクレル良イ知ラセナノ?」

 

そう言ってリ級の顔を見た戦鬼の眼光は鷹の

ように鋭く、リ級は思わず「ヒッ……」と

怯えたような声を上げた。

 

「早ク答エナサイ。私ヲイライラサセル気?」

 

「ハッ、ハイィ……エト、ソノ。実ハ先程、

最初ニ“ゲンブ”ト呼バレテイタ者ト同行シテイタ

ル級トロ級ガ帰還シマシタ」

 

「何デスッテ⁉︎彼女達ニ行カナイト‼︎」

 

「ダメデス。今ル級ハ集中治療ヲ受ケテイル

途中デス。雷撃ヲモロニ喰ラッテ

右手ト右ノ足が半分吹キ飛ンダ状態デシテ……

正直、生キテイルノガ不思議ナ位ダソウデス」

 

「……ソウ……ナラ、祈ルシカナイワネ……」

 

「ソレトモウ一ツ」

 

リ級はそう言って抱いていた三毛猫を戦鬼に

見せた。

 

「先程、海岸沿イデ見ツケマシタ。

コノ島ニハ猫ハイナイハズナンデスガ。

ドウシマスカ?」

 

戦鬼はじっと猫を見つめていた。

彼女にとって猫や犬は人間が愛玩している

動物という認識のみで、何故人間が溺愛するのか

理解出来なかった。

 

(丁度良イ。何故人間ガ溺愛スルノカ

確認シテミマショウカ。暇潰シニモナルシ)

 

「……少シその猫、貸シナサイ。

後デ処分ノ仕方ヲ考エルワ」

 

「? ハァ……」

 

リ級は戦鬼に猫を預けて、去っていった。

戦鬼は猫を抱いて、それからいつも人間が猫に

対して行うような撫で方……顎の下を

くすぐるように掻いた。

 

すると猫はゴロゴロと喉を鳴らして、

彼女の膝の上に乗って、丸まった。

戦鬼は丸まっている猫の背中を撫でた。

生物特有の温さが膝に伝わる。

 

(……猫トイウ生物ハ……マダヨク知ラナイガ……

マァ、ナントイウカ、コウヤッテ猫ト

触レ合ッテミルノモ……中々良イ)

 

初めて味わう感覚が戦鬼を包んだ。

ずっとこのままでいたいと、そう思った。

 

「アァ……猫ッテ、コンナニ……可愛イノカ」

 

「……何しとん姫さん?」

 

突然に、背後から声がかかる。

 

「ヒィイイイイヤアアァァッ⁉︎」

 

驚いた拍子に、ひょいと猫が膝から下りて

彼女の元から逃げて行ってしまった。

 

「あー、驚かせたんなら申し訳ない。

リヴァイア・サンズ、只今帰還しました」

 

「サンズ……貴様イツノ間ニ……」

 

「いや、ついさっきなんですが?

とりあえず戦果としちゃあ、王手の一歩手前まで

動かしてみたんですけどね?」

 

「……肝心ノ内容トシテハ、ドンナ感ジダ?」

 

サンズは腕組みをして、ニヤニヤと笑いながら

報告する。

 

「霧秀を鎮守府に向かわせました。

暗殺者、として。隙を突いて提督及び艦娘を

暗殺する次第です」

 

「ナルホド……奴ノ暗殺者トシテノヤリ方ハ

知ラナイガ、余程ノ手練レナノデショウ?

私ノ姉ノ暗殺を依頼シタ時ダッテ、

僅カ1週間デ暗殺シテミセタノダカラ」

 

戦鬼は姉である南方棲戦姫に追放された身で

あった。それ故に姉を恨み、なんとかして

彼女の座についてやろうとあらゆる手段を

模索した。

そんな時に出会ったのが霧秀である。

彼女は霧秀の纏う空気に興味を持ち、彼を

引き入れた。そしてある時、彼に問うた。

「オ前ハ私ノ姉ヲ暗殺デキルノカ」と。

「一カ月時間をくれれば出来る」と彼は答えた。

 

実際には一カ月も時間は必要なかった。

一週間という要人の暗殺を行なったには

いささか早すぎるスパンで彼は戻ってきたのだ。

そして、戦鬼に向かい、こう言った。

「暗殺は成し遂げた」と。

そして、彼女にあるものを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓。人間か、もしくはそれに近い生物の

心臓であった。それは未だ脈動を続けており、

その時、彼女は自分がとんでもない逸材を

見つけたと認識させた。

 

「霧秀の暗殺の技術は誰にも真似出来ない。

奴だからこそ行える初見必殺の技だ」

 

「フフ……彼ガ味方デアルコトガコンナニ心強イ

コトハナイワ……ケレド、サンズ。

モシモ暗殺ガ失敗に終ワッタラ、ドウスル気?」

 

「御心配なく。ちゃーんとね、俺だって

奴等を引きずり出せる切り札を持ってるんですよ」

 

そう言って、サンズはそれをフジツボ達に運ばせて

戦鬼に見せた。

みるみるうちに戦鬼の顔が驚愕に染まり、

そして喜色の笑みを浮かべた。

 

「……コレヲ使エバ、簡単ニ、確実ニ奴ラヲ

誘キダセルッテ訳ネ……‼︎サンズ、貴方

中々ノ策士ジャナイ‼︎アハハハハッ‼︎」

 

「でしょう⁉︎相手を確実に殺るために十重に、

二十重に策を講じる。これこそ策士サンズの

本領発揮‼︎後は仕上げを待つだけ‼︎

ヒャハハハハッハハハッゴホッゲホケホッ」

 

艦娘達を待ち受ける罠が何をもたらすのかを

考え、二人は高笑いをするのであった。


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