転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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何かと至らない部分があると思うので、
アドバイス等頂ければ幸いです。


「迫る白刃」

沖縄に朝が訪れた。

だが、そんなことは警戒に当たっている天龍と

木曾にとってはどうでもよいことであった。

強いて言えば、交代する時間に何か起きやしないか

という懸念が二人の心に小さく芽吹いている

ことだろうか。

 

「……天龍、そっちはどうだ?」

 

まだ微かに降っている小雨に濡れながら、

天龍はレシーバーからの木曾の声に答えた。

 

「異常なし。……今の所はな」

 

「あと少しで球磨姉と皐月と交代する時間だ。

それまでに何か起きやしないといいが」

 

ゴロゴロゴロ……と遠くから雷の音が轟く。

天龍は遠くにある黒雲を見やった。

今はまだ遠くにあるものの、暫くすれば

ここの辺り一帯は大雨になるだろう。

 

「ちっ、面倒なことになったな。木曾、

次の警戒の人数増やさないといけなくなるかも

しれねぇな」

 

「あぁ?マジかよ。仕方ねーな、多摩姉に

頼むか、龍田さんに頼もうかな」

 

龍田、と聞いてチクリと天龍の心は僅かに

痛んだ。昔の出来事を思い出したからだ。

あの頃は龍田との仲は今のように他人行儀の

ようなものではなかった。

むしろ、非常に密接な関係であった。

それこそ、親友か家族のように。

あの忌まわしい事件さえ起こらなければ、

今もそのような関係を続けていたに

違いないだろう。

 

「……って、何考えてんだ、俺は」

 

今はそんなこと考えている場合ではない。

そう思い直して天龍はレシーバーに向かい

「そうした方がいいな、頼む」と応答した。

 

「あー、悪り。……ザーッーーー……

何か……ガガッ……て……ザザザッ……

龍……ガーッ……応……ザー……」

 

「? 木曾?聞こえるか?聞いてるなら

応答頼む」

 

だが、それっきりレシーバーは不快な音を

立てるだけとなってしまった。

思わず舌打ちしながら天龍はレシーバーを

しまおうとして、手を止めた。

 

昔、軍学校で似たような事態について

講義を受けたことがあった。

3、4年程前だから殆ど内容は覚えていないが、

確かこのようなことを言っていた気がする。

 

 

 

 

 

レシーバー等の電子機器が海上で異常をきたした

場合、近くに深海棲艦がいるか、もしくは

接近して来ている可能性が高いと。

 

 

 

天龍はレシーバーをしまいながら慌てて

遠くの海上を確認した。

すると、先程の黒雲の下に、深海棲艦の

一隊が見えた。

先頭の深海棲艦は遠くからなので良く確認は

出来ないものの人型。

それ以外は全て駆逐艦だった。

 

「マジかよ」

そう、思わず天龍は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、レンゲは沖縄鎮守府の近くにある

桟橋に腰を下ろしてそこから見える

水平線を眺めていた。

 

「……俺も戦えたらなぁ」

そう、ポツリと呟く。

深海棲艦であるために、戦いたくとも

戦えないもどかしさ。

こんな自分でも何かの役に立ちたいのだが。

 

「はぁ……」

 

「何ため息ついてんの?」

 

後ろからの声に振り向くと、そこには

北上がいた。

 

「私も暇なんだ。隣いいかな?」

 

レンゲが僅かに体を横にずらし、北上は

その隙間に座った。

 

「……戦いに行きたいの?」

 

「‼︎」

 

「誰だってそんな深刻な顔してたら

何か考えてるって分かるよ?

子供とかだとなおさらねー」

 

北上はふっ、と笑うと、話を続けた。

 

「……私も昔はそうだったなー。

でも、今はそう思わない」

 

「なんで、ですか?」

 

「何回も出撃する内に、幾人も仲間が

沈んでいく所を見た。

深海棲艦に襲われた人々の嘆きも聞いた。

目の前で輸送船を沈められたりした。

何百人も載せていた船をね。

……そんなことがずっと、ずっと頭の中に

こびりついて離れなくなるんだ。

夢にも毎日出る。

レンゲはさ、そういうのに耐えられるの?」

 

北上は先程のダウナーな印象とは

うって変わって真剣な表情で、

北上はレンゲに問うた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

深海棲艦を率いて霧秀は沖縄鎮守府に

一直線に進んでいた。

ふと、左手で背後にいるハ級達に

ハンドサインで命令を下し、反対の手で

腰に差してあった日本刀を抜いた。

 

スラリと音を立てて白銀の色に光るそれは、

素人の目でも丁寧に手入れされたものと

分かるものであり、なおかつその刀が

かなりの業物であると理解させるには

充分な代物であった。

 

日本刀を正眼に霧秀は構え、まっすぐに

前を見据え、そして。

 

「……喝ッ‼︎」

 

裂帛の勢いで振るった。

その剣速は余りにも疾くそして鋭く、

刀を振るう動作すら目視出来ない程。

もしも至近距離で刀を振るわれれば、

何者もその一閃を止めることは出来ないだろう。

 

彼が刀を振るった直後、彼らのすぐ側で

二つの水柱が上がった。

霧秀はただ単に刀を振るった訳ではない。

自分達に向かって来る砲弾を真っ向から

切り捨てたのだ。

 

ハ級達が霧秀から離れて行く。

鎮守府に向かうことを優先し、先に

行かせたのだ。

そして、霧秀自身も少しだけ高揚していた。

 

「……某と最初に斬り結ぶのは、誰ぞ?」

 

霧秀は速度を上げ、砲弾が飛んで来た方へ

向かう。やがて、彼は一人の艦娘の姿を

視認した。

 

片手に刀を持った隻眼の少女ーーーーーー、

天龍に。


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