転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

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書くこと無し。


「過去からの刺客」

 

神崎が退出してから数分後。

執務室で芝浦はある男と向かい合っていた。

その男の姿は異常であった。

全身を白い布で覆い、辛うじて見える

腕や足の部分にも肌が見えない程の包帯が

巻かれている。

その男は嗄れた声で喋り始めた。

 

「お久しぶりでございますな。

といっても、この姿では誰か分からん

でしょう」と言いながら、懐から写真を

取り出した。

その写真には軍服を着た男達が並んで

写っている。

 

「私は、倉井 健斗元二等水兵です。

この写真の……ここです、ここに写っています」

男は写真の中に写っている一人の

快活そうな男を指差した。

 

「ああ……確か、かなり前に会った事が」

 

「思い出して下さいましたか。

あの頃はまだ私は学生で……と

失礼しましたな。危うく話が

逸れる所でした」

男は再び懐に手を入れ、何か黒い液体が

入った瓶を取り出して机の上に置いた。

 

「……これが、俺に渡したいものですか」

 

「これこそが、貴方の兄上、悠斗さんが

人生を懸けて作り出そうとした薬です」

 

芝浦は、瓶を持ち上げ傾けたりして、

それから尋ねた。

 

「何故、今俺に渡したんですか?

その経緯を教えて頂きたい」

 

「分かりました。少々長くなりますが、

あれは5年前、あの忌まわしい作戦の

時でした」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその時、船は深海棲艦に

包囲され、後はゆっくりと沈められるのを

待つだけの状態でした。

悠斗さんは、我々を救う為に小舟に

分乗させて逃がしました。

私は最後に小舟に乗った人間でした。

その時、悠斗さんは軍服のポッケから

何かの紙を握らせて、こう私に言ったんです。

 

「これは通常の人間に艦娘の特徴を

与える効能を持つ薬の調合書だ。

もうどうやら俺は生きて陸に

戻れないらしい。

お前に託す。必ず、薬を完成させて

弟に渡してくれ」と。

 

そう言って悠斗さんはきびすを返して

船の奥に行きました。

あの時、彼を無理やりにでも、小舟に

乗せておけば良かった……。

貴方の兄上は軍人として立派な最期を

迎えました。

私も、深海棲艦に襲われて全身に大火傷を

負ってこのような醜い姿になってしまいましたが

この……この薬の調合書だけは欠損なく

守り抜きました。

 

 

 

 

 

 

「それから私は3年近くもこの薬を

調合し続け、ようやく完成させたのです」

 

「しかし、このような薬に頼るのは

日本男子として……」

 

「何を仰る‼︎」

倉井が怒ったように叫ぶ。

 

「艦娘という存在は希少です。

そして、か弱いのです。そのような

不安定な存在にいつまで頼るのですか‼︎

貴方は、兄上の意志を裏切るのですか⁉︎」

 

「兄者の……意志……」

 

「熱くなってしまいましたな。

私はそろそろお暇させて頂きます」

そう言って、倉井は薬の瓶を置いて

出て行った。

芝浦は、瓶の蓋を開けた。

 

(そうだ……いつまでも艦娘達に

頼ってはいられない……俺が、

俺自身が闘って、あの忌々しい

深海棲艦供を……)

 

そして、薬を一気に飲み干した。

 

(この世から消してやるッ‼︎)

 

 

ーーーーーーズキン。

 

「うッ……」

 

なんだ、頭が痛い。体中が焼け爛れそうに

熱い。痛い。

芝浦は、体を抑えてうずくまった。

意識が……消えていく……。

まるで……自分の身体が人間ではない者になりそうだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

自分の意識を芝浦は保とうとしたが、その

抵抗も虚しく彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー内房鎮守府に近い海岸。

そこに、倉井がーーーーーー否。

 

「やはり、ガキほど騙すのは簡単なものは

ないな……ククク」

倉井ではない。そもそも芝浦と

会ったのは倉井ではなかった。

倉井という人間に化けたイカリ(・・・・・・・・・・・・・・)だったのだ。

 

「奴があの薬を飲んだなら、後はゆっくりと

見物させて貰おう……」

と、イカリは布と包帯を剥ぎ取った。

その姿はまさに人外の一言を形容していた。

全身は白く、粘液のような液体で覆われている。

頭は前後に長く、後頭部に烏賊のようなヒレが

ある。腕は8本あり、その内二本が歩行を

補助する為に足に絡みついていた。

そして、イカリもサンズと同じく助骨を

模した装備が付いていた。

 

「ああ、今からどんな惨劇を鑑賞出来るか、

愉しみだ……クククククク」

 

8本の腕を絡ませながらイカリは言うと、

海の中に飛び込み、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……司令官?」

場所は戻り内房鎮守府の執務室。

その扉を翔鶴はノックした。

神崎と芝浦を引き合わせる為だった。

彼女は神崎を罵倒してしまった。

だから、これぐらいしか罪滅ぼしが

出来なかった。

未だ、中から返事はない。

 

「……司令官。いいですか?開けますよ……」

と翔鶴は扉を開けて中に入った。

そこには。

 

 

 

 

 

 

 

「ウ、グルルル……グウウウ……‼︎」

歯を剥き出しにして唸る人間型の深海棲艦がいた。

頭の大きな艤装は、ヲ級のそれだ。

今にも襲いかからんとヲ級は四つん這いで構える。

なぜか、サイズの合わない軍服を着た状態で(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……し、れいか、ん……⁉︎」

 

翔鶴はそのヲ級を見て、否が応でも

気付いた。気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーそのヲ級が、芝浦提督だという事に。

 




どう考えても次はドンパチやらかします。
前に「レッドファイッ‼︎」とか
書きましたが、今回はない。
???「ゆ"る"さ"ん"‼︎リボルクラッシュ‼︎」

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