東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 ル島決戦の前編になります。
 メインがル島なので『コクリア』でのカネキVS有馬はあまり出てきません。


第13章 火の用心

 ル島に上陸した捜査官たちに赫子が突き刺さる。

「《白鳩》の上陸時を狙え、できるだけ数を減らす!」

 高台に立つ首領のミザの命を受け、【刃】の喰種たちが捜査官に攻撃を仕掛けようとしたが、今度は喰種たちがクインケに撃ち抜かれた。

 《ホロウ》を構える法寺。

 射撃系のクインケ《ホロウ》装填の隙を狙おうとした喰種が駆逐されていく。

「君ら如きに、隙を見せるわけないでしょう―」

 宇井が馬鹿かと言いかけたら、

「死にたい奴から、掛かってきなさい」

 いきなり飛び出したハイルが、喰種を切り刻んでいく。

 出かけた言葉を宇井は飲み込んでしまう。

 

『す、鈴屋特等、先行しすぎです。後続班が』

 船からのクレームなど何のその。

「ミズロー、オトガイの裏を狙ってください、殺せてないのがいますよ」

 ジューゾーを中心に襲撃、喰種相手に容赦はしない。

 

 ついに防御網が緩む。

 

 

「鈴屋は遊ばしておけ、第一は兵を半分置いて残りは侵攻、第三は追従!」

 船内で指示を出す丸手。

「瓜江、浜を綺麗にしろ」

 政も指示を出す。

 

 

「はっ」

(後処理か、つまらん仕事を寄越しやがって)

 口では従いながら、内心では愚痴。

「【刃】栄養不足の喰種の寄せ集めだ」

 ウリエを筆頭にクインクスが上陸、みんな赫眼を発現。

「五分で終わらせる」

(俺は六月を救う)

 本心を心中に秘めたまま、一斉突撃。

 

 

 ル島に上陸したライ、背伸びして体を解す。

 浜にいた喰種は駆逐されていて、周辺に姿は見えない。

 浜にブルーシートに包まれた大きな荷物が4つ下ろされる。

「慎重に扱ってください、今回の作戦の切り札になるかもしれない“もの”ですから」

 法寺に言われ、捜査官たちは慎重にブルーシートに包まれた大きな荷物を運ぶ。

 顔を見合わせ、頷き合うライと法寺。

 

 

 

 

「君か」

 『コクリア』に収監された高槻泉はつまらなそうに、牢屋の外の旧多を見る。

「そう邪険に扱わないでくださいよ、先生、傷つくな」

「疲れるんだよ、君と話すのは。まだ何か?」

「“給仕”ですよ、お食事をお持ちいたしました」

 牢屋の内と外、高槻泉と旧多。

「塩野さん、立派な編集さんでしたね」

 “でした”過去形の物言いを高槻泉は聞き逃さない。

「『王のビレイク』の刊行にあたり、編集部にはギリギリまで内容について伏せられていたとか。確かにCCGや和修を暗に否定する、あの内容じゃあ、ストップかかってもおかしくないもんですもんね、その後も本が広く出回るように、いろいろ画策されたと存じています」

 表面上は悲しい顔をしている、表面上は。

「……殺したのか」

 実の父親に、この世の全てを憎んでいると言われた高槻泉。その例外、憎んでいない相手の一人が塩野。

「“パテ”にしてみましたよ」

 “パテ”の入ったタッパーを取り出す。

「あっレバーとかもつかっているので、苦手でなければ」

 意気揚々に楽しそうな笑顔。

「男の手料理でアレですが、召し上がれ」

 足でタッパーを牢屋に押し込む。

「どうも」

 なんの感情もこもっていない声で呟く。

「いえいえ」

 その時、『コクリア』中に警報が鳴り響く。

「おやおや、大変だ。事故かな事件かな」

 口では大変だといいながら、あまり大変そうではない様子。

「じゃあ、僕はもう行きますね」

 立ち去ろうとした旧多は、

「ところで」

 振り返った、ニタリと微笑みながら。

「うまくいきましたか盗聴? 上には内緒にしてありますよ。個人的に興味がありまして」

 高槻泉は何の反論もしない。

「ま、うまくいくといいですね、上官にもよろしくどうぞ」

 勝ちを誇って旧多は去っていく。

 

 牢屋の中の高槻泉はタッパーを見つめていた。

 

 

 アヤトは『コクリア』を見下ろす。

 万丈とガスマスクの喰種たち、バンジョー一味も集結。

 『コクリア』にはヒナミが囚われていて、近々、処分される。

 誰にも明かしていないが、アヤトはヒナミに大切な思いを持っている。だからこそ『アオギリの樹』を抜け、ここにいる。

 処分される前に救い出す。いくらアヤトでも『コクリア』破りは1人では不可能。

 そこで万丈に協力を頼んだ。

 万丈もバンジョー一味もヒナミとは親しい間柄、作戦の失敗はそのまま、死につながる。そんな、とてつもなく危険な仕事と分かっていても拒否はせず、参加してくれた。

 かなりの戦力をCCGはル島を叩き込んでいる。今、本土は手薄になっている、そこを狙う作戦。

 

 以前、11区が『アオギリの樹』の本拠地だと思われた時、大規模な戦力を送り込んだ。その際、手薄になった『コクリア』がタタラたちに襲撃され、多くの喰種が脱走。その時、リオも脱走し、力尽きて倒れたところをヨモさんに助けられた。

 今回もその時の作戦を使う。

 

 

 『コクリア』が破られるという大失態を起こしてしまったCCG。そんな失態は2度と繰り返さないため、今回は手薄になった本土を守るべく、CCGの最強戦力を『コクリア』を中心にした防御陣を敷いた。

 『コクリア』の監獄長、灰崎深目(はいさき しんめ)、安浦清子、田中丸望元、有馬貴将、平子丈、0番隊、佐々木琲世(カネキ)、旧多二福を中心にした強力な布陣が『コクリア』に布陣していた……。

 

 

 

 

 ル島の至る所ではCCGと『アオギリの樹』の激戦が始まっている。

 

 

「慎重に進め」

 班長であるウリエが先頭になり、廃墟の中を進む。副班長の才子は別行動。

 その顔には汗が流れていた、戦闘による汗ではない。

 トルソーに拉致された六月の匂いを辿り、この廃墟に来たが、さっきから血の匂いが強くなってきている。

 血の匂いが強すぎる、それだけの大量出血があったという証拠。

(嫌な予感しかしない)

 新人メンバーの手前、ウリエは焦りと動揺は表には出さない。

 匂いの元にたどり着く。

 そこには布の被さった“何か“が置かれていた。大きさは成人の胴体ぐらい。

 トルソーとは女性の胴体のみを奪っていくことから、付けられた通称。

 血の匂いは“何か“からしていた。クインクスを待機をさせ、確認に向かう。

 

 恐れが手を震わせる、心臓の鼓動が早くなる。布を掴み一気に剥がす。

 息を呑むウリエ。

 そこにあったのは首と手足のない、胴体だけの“男性“遺体。

 CCGでは六月は男性として通しているが、ウリエは六月が女性であることを知っている。

 そこに飾られていたのはトルソーのこと、冴木空男(さえき からお)の遺体。

 ウリエの悪い予感は当人の思っていた方向と別の方向で当たった。

 

 

 船の中で総指揮をとっている吉時の元にも『コクリア』襲撃の一報は届いていた。

 報告によれば佐々木準特等が、囚われていた喰種を解放したという。

 この情報は捜査官たちに動揺が走るため、ここだけの話にして、ル島で戦っている捜査官たちには伝えてはいない。

 佐々木準特等が何を考えて裏切ったのかは解らない。しかし『コクリア』には有馬、SSSレート【不殺の梟】を退けた最強の捜査官がいる。

 和修吉時本局局長は有馬を信じ、『コクリア』の一件は彼に任せることにした。

 

「丸、指揮はどうした」

「ひと段落、つきましてね」

「構えている“ソレ”はどういうつもりだ? 笑えないぞ」

 背後に立つ丸手は右手で銃を構えている。

「吉時さん、俺はこんな下らない読み物に翻弄されたわけじゃないです。この本が言う“和修家が喰種の”協力者だって主張は……、コイツぁー“間違っている”」

 左手には『王のビレイク』がある。

「俺なりに“和修”を洗わせていただきました。食事やすべての行動、不審な点がないか洗いざらい」

 本をしまう。

「怪しい所はなかった。“ただ一点を除いては”」

 丸手の部下たちも様子を見ている。これから一体、何が起こるのか?

「『ゲート』に“仕込み”があるってのタレコミがありましてね。クインケの誤反応を避けるシステムが、特定の個人に対してつかわれていると」

 これは高槻泉がカネキに言ったのと同じ。

「詳しいヤツに頼んで調べました。“システムがいつ反応しているか”。反応していたのは、有馬貴将をはじめとする《庭出身者》クインクス所属、シャオ・ジンリー、そして……和修家のあなた方が通過するとき」

 黙って立ちモニターを見ている吉時。

 モニターには、『アオギリの樹』と各所で戦っている捜査官の姿が映し出されていた。今、この時もル島の戦闘は繰り広げられている。

「和修家が喰種の協力者じゃねぇ、“喰種”そのものだ」

 初めて吉時が振り返る。

「俺の知る丸手特等は、浅はかでなかったと思うが」

 表情は普段と変わらない、怒っているのでもなく、動揺もしていない、いつもの本局局長の顔。

「俺や有馬は付き合いも長いだろう、お前が気付かないはずがない。望むなら作戦終了後、有馬らの検査記録を見ればいい」

 堂々とした語り口、傍ら見れば正論を言っているようにしか見えない。

「確かに、これだけでなにが決まる、ってワケじゃないっス」

 それは丸手にも解っていること、状況証拠にすらなっていない。

「ただ古いダチの言葉でね、まぁ俺はこの言葉は嫌いッスけど」

 その古いダチはもういない。

「これは……」

 引き金に当てた指に力を込める。

「俺の勘です」

 船内に鳴り響く銃声、弾丸は吉時の眉間に命中。

 倒れる吉時、床に血が流れる、普通の人間なら即死間違いなし。

 撃った本人の丸手も勘が外れ、自身が人殺しになることを願っていたが……。

「失望したぞ、マル」

 起き上がり、赫眼を発現させた吉時が丸手に襲い掛かる。

 願いは叶わなかった。奇しくも勘は的中していた。

(なんだよ、チクショウ、嘘だったのかよ、ぜんぶ)

 丸手と吉時は新人の時からの付き合い、多くの死線を潜り抜けてきた戦友だった。

「お前の“タレコミ”通りだったぜ、永近」

 永近英良(ながちか ひでよし)果っての丸手の部下であり、カネキの親友。

(これじゃ、死んでいった連中が浮かばれねぇ……)

 

 

 

 

「【赤舌連】(チーシャーリェン)の首領、焔(リェン)を駆逐するのに、15名の特等と30名の準特等、100人以上の犠牲が出ました」

 淡々と語りながらも法寺には恐れは一切ない、班長が恐れを見せるわけにはいかない。

 このポイントで生き残っている喰種は、白髪に赤い金属製のマスクで口を覆ったタタラのみ。

「弟の彼の危険性は、それを凌ぐと評価しています」

 たった1人でも危険すぎる相手。

「暁さん、私が死ぬぐらいの想定は済ませた上で立ち回りをお願いいたします」

 流石の暁の顔にも緊張の色が宿る。

 何故か、この場にライの姿が見えない。突如、6人の捜査官と別行動を始めた。

 あのライが逃げるはずがないのだが……。

「法寺、俺は嬉しい。今日で全てが終わる、兄への無念もお前の憎しみも、そして……」

(『アオギリの樹』も)

 タタラの中に思い浮かぶ高槻泉、エトの姿。

「ええ、全てが終わるでしょう。あなたには」

 一旦、言葉を区切り、

「死んでもらいます」

 宿敵にお別れの言葉を放つ。

「お前、やっぱり嫌いだよ」

 上着を脱ぎ捨てた。赫子が体を覆い、異形の姿への変貌を始める。

 共食いを繰り返すことで、身にまとうような赫子を持つもの。喰種の中でも、とびっきり危険な喰種、赫者。

「似ていますね、兄に」

 『アオギリの樹』リーダーの【隻眼の梟】が赫者だというのは知っている捜査官たちも、タタラの赫者化には動揺が走る。

「も え ろ」

 炎を放つタタラ。【ひょっとこ】の火とは比べ物にならないほどの四千℃にも達する高温の炎、これが【赤舌連】、炎の舌。当たればひとたまりもない。

「炎にくべる薪は、私への復讐心ですか。炎の強さは、そのまま兄への想いの強さ。憎悪の火は果たされるまで燃え続ける」

 ガラスの瓶を法寺は投げつける。

「ならば、その炎、自ら味わいなさい」

 タタラに命中、ガラスの瓶は砕ける。中身はガソリン、自身の炎で引火、タタラが炎を纏う。

 このガソリンは粘性を高くしているので、流れ落ちず、体にへばりつく。

「こんなもので俺を殺せると思ったのか」

 攻撃を仕掛けるタタラ、法寺はクインケ、《イイツウ》を使いタタラを牽制。

「あなたもその程度では、兄の仇は取れませんよ」

「ほ~じほ~じほうじ」

 挑発して自分にだけ、攻撃を集中させる。

 その合間に背後から暁、回避や投擲に自信のあるものが、次々にガソリンの入った瓶を叩き付けて行く。

 タタラに当たり、ガソリンをぶち撒けるたび、纏う炎が大きくなっていく。

「だぁぐうぅぅぅぅ」

 全身に高温の炎で包まれながらも倒れることなく、平然と法寺に襲い掛かる。

 怒りと憎悪の炎の舌を躱し、1人至近距離で《イイツウ》を振るい戦う。

 

 それを見ている暁。

 前もって法寺は自分1人、前面で戦うから他の捜査官は距離を取るようにと指示していた。

 法寺特等に何かの策があるのは暁も解ってはいるが、

(炎ではタタラは倒せない)

 つい不安を持つ。

 炎に包まれるタタラから放たれた炎の舌を避け、《イイツウ》で攻撃、熱により額に汗が流れる。

 法寺はインカムマイクに囁く。

「ライくん、あなたたちの出番です」

 

 

「よし、法寺特等の連絡が来たぞ」

 法寺たちと、少し離れた場所に待機していたライ。

 ブルーシートを外した4つの器具にライを含め、それぞれ捜査官が2人ずつ着いている。

「これからが正念場だ、みんな、気合い入れて行くよ」

 捜査官たちは4つの器具を引き押し、法寺たちの元へ急ぐ。

 

 

「焔やフェイがどんな風に死んでいったか、知りたいですか?」

 さらに挑発を繰り返す法寺。

「ほ~じほ~じほ~じほ~じほ~じほ~じほうじほうじほうじほうじ死ねねねねねねねねねね」

 怒りを爆発させ、高温の炎を吹きかける。

 何とか躱した法寺の髪が掠り、チリチリと数本焦げる。

(私の中国時代はあなたの兄に攻略を費やした……)

 そこへライたちが到着、例の器具をタタラの四方に置く。

 法寺に集中していたタタラの対応が遅れる。

(ライくん、中国時代にあなたが部下でいて欲しかったと、本気で思いますよ)

 ライを初め、器具を運んで来た捜査官たちは大口のホースを構えた。

「火の用心!」

 ライの掛け声を合図に、ホースから高圧力で水が噴き出す。

 四方からの水がタタラを直撃。

 『焼け石に水』という諺があるが、物を熱すると膨張し、急激に冷やせば縮む。しかし冷却されていない部分は膨張したままなので歪みが生じ、その結果……。

 赫者化したタタラの全身にヒビが入り、そして割れた。

 ライの持った来た器具は水を高圧で放水するだけではなく、冷却する機能付き。

 砕け散る。このダメージは大きすぎた、満身創痍のタタラ、立っているのもやっと。

「【赤舌連】最後の生き残り、タタラ。もう憎しみの炎に身を焦がさなくていい」

 法寺は《イイツウ》を振りかぶる。

 死が迫る中、タタラの脳裏に『20区の梟討伐戦』の情景が浮かぶ。

 

 

 ズタボロのカネキを引きずっていく【王】に傅くタタラ。

「【王】“望みのもの”は手に入ったか」

 

 

(俺はどちらも……エト……)

 最後の瞬間、タタラは法寺を見ていなかった、彼の眼には映っているのはライ。

 

 

 ル島去り際にエトが言った。

『銀髪に碧眼の綺麗な少年が現れたら、それはあなたが死ぬ時、あの子には勝てないわ。私たちにどんなに強い力があっても―ね』

 

 

(そうか、あいつのことなんだな、エト)

 倒れるタタラ、赤いマスクが外れて落ちる。

「眠りなさい、タタラ」

 《イイツウ》を突き立て、法寺はとどめを刺す。

 宿敵を倒した法寺の中に、様々な思いが駆け巡っていく。

 

 

「ライ、これはお前の立てた作戦か?」

 暁は尋ねる。

 答えずにとぼけて見せたライだが、暁には解っていた。こんな奇策を思いつくのはライしかいない。

 ついに『アオギリの樹』の中でも恐れられるタタラを駆逐した。【隻眼の梟】も逮捕されているので、これで『アオギリの樹』は終わったようなもの。

 捜査官たちが喜びを分かち合おうとする中、

「こちら法寺班、タタラの駆逐を完遂いたしました。遺体の回収をお願いします。以後、我々は残存勢力の討伐に向かいます」

 インカムマイクを切る。

「まだ仕事は終わっていません、勝利に酔いしれるのはル島を去った後にしましょう」

 喜びを分かち合うのは後回し。

 法寺には、まだ“やり残した仕事”がある。ただ、その“やり残した仕事”が、すぐそばにいたことには気がついてはいなかった。

 

 

 




 ライくんの立てた対タタラ策は本編で使用した策の他にも、鉛を口に放り込むといアイデアもありました。鉛が解けて体内に流れ込むので。
 出番の無かった【オウル】滝澤は次回に出る予定です。

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