東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 今回も嵐の前の回になります。


第12章 対面

 喰種容疑者や協力者が収容される『コルニクルム』を訪れたライ。

「こんにちは」

「よく来てくれたな」

 密室にて机を挟み、ライと高槻泉は向かい合って座る。

 是非と会いたいと高槻泉の要請があり、それにライは応じた。

「新作の小説、読みましたよ」

「ライくんに読んでもらえたのは嬉しいことだ。出来るなら感想を聞かせてもらいたい」

「中々、興味深い作品でした」

「記者会見で言ったとおり、あれは私の命を賭けた作品たからな」

 高槻泉の新作の小説『王のビレイク』は主人公である隻眼の喰種【名無き】が“王”として、喰種を率い、喰種を虐げる世界に対し、反旗を翻す英雄劇。

 そしてこの作品における敵役のモデルは明らかに和修家。さらに和修家が喰種の協力者だと描写されている。それは読めば誰にでも分かるように。

 小説の作者と読者が、何の気は無しに会話を楽しんでいる情景、ここが『コルニクルム』でなければ。

 向かい合う喰種捜査官と喰種。場所が場所なら戦闘にもなりかねないシチュエーション。とても危険な状況にも拘わらず、両者からは戦う意思は感じられなず、ライに警戒心はまるでなし。

「君は私が怖くはないのかね」

 高槻泉は、かって単身でCCGを攻め込んだSSSレートの【隻眼の梟】。多くの敏腕捜査官を殉職させた怪物。

 捜査官にとって最恐の存在であり、最大の敵。

 なのにライには警戒心どころか、恐怖心さえもない。

「女の子と対話をするのに、恐怖心なんか持つわけないよ」

 安定のライ。

「ライくん、君という奴は」

 楽しそうに笑う、その仕草は普通の女の子にしか見えない。

 

 

 高槻泉との対話を終え、ライは部屋を出た。そこにはハイセと部下の旧多が待機していた。

 高槻泉が暴れた場合のカウンターとして、表向きは。

「ライくん、あなたは高槻泉が喰種だと、気付いていました?」

 いきなり旧多が質問を投げかけてきた。ライと高槻泉がデートをしたことは、高槻泉本人と塩野から証言を得ている。

 ニコニコした表情なので常人には、物腰か低そうに感じさせる。

「喰種捜査官だったら、喰種と解った時点で逮捕しないと違反になるでしょ」

 何の気もなく答える。

「それはその通りですね、これは失礼しました」

 謝ってはいるが表面だけなのは、鋭い人なら気が付く。

「それじゃ、僕は行きますね」

 一礼して去って行くライ、見ているだけの旧多。

「……」

 2人のやり取りを見ているハイセ。

 

 

 1人部屋に残っている高槻泉。

「ライ、君と顔を合わせるのは、恐らく、これで最後になるな。寂しい限りだ」

 

 

 

 

 鉢川班は副班長を務めていた穂木あゆむ(ほぎ あゆむ)上等捜査官1人を残し、全滅。

 穂木は護衛についていた六月と逃亡中、Aレートの喰種、トルソーに襲われ、六月が身を挺して彼女を逃がしたため、辛くもル島から生還することが出来た。

 準特等の鉢川忠(はちかわ ちゅう)を始め、3名の殉職者を出し、六月は生死不明。

 多くの犠牲を出したが、ル島が『アオギリの樹』の本拠地であることが判明。

「ご苦労、よく帰って来た」

 穂木に労い声を掛ける吉時、隣の政は掛けない。

「ル島に向けて編隊を行う」

 吉時は宣言する。

「目的は『アオギリの樹』の殲滅、最大の戦力で奴らを攻撃する」

 

 

 この作戦はかなりの大規模な作戦となる。

 

 

「大規模作戦は攻守一体の編成になることが基本だ」

 シャトーにてウリエがクインクスメンバーに説明した。

「俺たちクインクス班は『攻撃側』ル島の上陸部隊に組み込むだろう」

 真剣な顔をして聞いているクインクスたち。

「任務は出来る限り、多くの喰種を葬ること。そして可能であれば――」

 ウリエ自身のル島で、最も成功させたいこと。

「消息不明の六月一等を救出することだ」

 

 

 

 

 支部に帰ってくると、ライは暁に呼び出されてル島の作戦に参加することを告げられた。

「ライ、私たちは法寺特等と同じ一番隊だ。恐らくタタラと戦うことになるだろう。法寺特等とタタラは因縁があるからな」

 タタラは中国で名を知らしめた喰種集団【赤舌連】(チーシャーリェン)の首領、焔(イェン)の弟。

 焔を駆逐し、【赤舌連】を壊滅させたのは法寺。

 タタラはSS~レートの強力で危険な喰種。戦うには相当の覚悟が必要になる。

「SS~レート喰種か……」

 考えるライには不安も恐れも感じられない。

「暁さん、法寺特等に頼みたいことがあるんですが」

 

 

 ル島上陸まで、捜査官は各々の時間を過ごす。

 

 

(ああ、ハイルお姉さま)

「シャオの太ももはむっちりしっとりしてるっしょ」

 膝枕でシャオはハイルの耳そうじをしている。

「もうちよっと、右の奥が痒いんよ、あっ、そこそこ」

 耳そうじされているハイルはとても気持ちよさそう。

 同じ《白日庭》出身で先輩後輩の関係のハイルとシャオ。以前からハイルは耳そうじをねだってきた。

「シャオたん、次、私の耳をかいておくれ」

 ちょこんとソファーの陰から才子が顔を覗かせる。

「順番だから、次にやってあげる」

 可愛い先輩と可愛い上司の耳そうじ、シャオは幸せに包まれていた。

 

 

 

 『王のビレイク』が発売された当初は高槻泉の確保に関する世論は賛否は五分五分であったが、本が広まるにつれ、擁護する意見、喰種の権利保護を訴える団体まで出現。

 高槻泉の命を賭けた作品『王のビレイク』は大きな投石となった。

 

 

 

 『コルニクルム』の面会室。

「やあやあ、ショートもお似合いですね、高槻泉センセ」

「黙れ、嘉納の道化(ピエロ)が」

 ライとは違って硬質ガラスを隔てての面会。旧多と高槻泉がニコニコ顔で対面。腹の内では正反対の顔。

 嘉納と組み、喰種化の実験体を集めた。その中にはハイセの事、カネキも含まれていた。

 『月山家駆逐作戦』で護送車が沿われた時もルートを密告。

 全て旧多が行ったこと。

 それらのことを『アオギリの樹』の構成員を使って把握している高槻泉。

 繰り広げられるキツネと狸の化かし合い。

 

 そして旧多は宗太と名乗り『ピエロ』に潜入。目的は【隻眼の王】の正体を探るため。

 《V》は大衆をコントロールする方法として、敵と正義の味方、悪と善を広めた。すなわち喰種とCCG。

 だが【隻眼の王】は《V》にとって、イレギュラーな存在で邪魔もの以外の何者でもない。

 どうしても排除しなくてはならない存在。なのに、その正体が掴めない。

 そこで《V》は旧多に正体を突き止めるように命令した。

 様々に暗躍したが、未だ正体を掴めず。

 旧多は取引を持ち掛けた。【隻眼の王】の正体を話せば『コクリア』のVIPルームで過ごさせてやると。

 革命なんか起こしても悲しむ人や死体が増えるだけ、歪だろうが均衡が保てればそれでいいと語る。

 裏を返せば支配する側は、大衆は無知な方が好ましいということになる。

 旧多の持ち掛けたのは取引という名の脅迫。

「生憎、私は“排斥される側”でね、君の意見は、あくまで“排斥者”からの視点だろう」

 冷たい目で硬質ガラスの向こう側を見つめる。

「母も育ての親もお前らに奪われた身として、容易には聞き入られん」

 ため息を吐いた旧多、わざとらしく。

「君らが焦らなくても、近々【隻眼の王】は現れるさ」

 高槻泉の答えを聞き、

「交渉決裂、ということで『コクリア』の廃棄場で、あなたがゴミらしくプレス機に圧殺されるところを見物させてもらいますよ」

 へらへら笑いながら、面会室から出て行こうとした。

「おい【和修】」

 その一言で旧多の足が止まる。

「お前も哀れだな、父を父と呼べない気分はどうだ? ゴミはお前もだろう」

 ガン、硬質ガラスを叩く。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 へらへらした笑顔はどこへやら、豹変した旧多、表情が完全に切れた人のもの。

 

 

 旧多と入れ違いに、面会室へ入って来たハイセは隠していたボイスレコーダーを回収、早速、再生。

 高槻泉と旧多のやり取りの一部始終がしっかりと録音されていた。

「僕に部屋へレコーダーを仕掛けさせたのは、これの為ですか」

「言っただろう、面白いことが聞けると。これで少しは私の言うことも信用したまえよ」

 『王のビレイク』で和修家が喰種の協力者だという描写。これは高槻泉の母親、憂那(うきな)の残したノートに挟んであったメモが元になっている。

 憂那は《V》の深いところまで突き止め、それが原因で《V》の構成員であった父、功善(くぜん)に殺されたのだ。

 高槻泉は《V》を籠の主、この世界を自らの所有物だと勘違いしている連中と称す。

 また検査ゲートには細工がしてあり、《V》に所属している喰種には反応しないことを教えた。

 これはCCGに喰種が紛れ込んでいる可能性を示唆している。

 

「カネキくん、君の考える“最後の仕事”は君が考えるよりも難しいぞ」

「あなたに僕がこれから何をするかなんて、解るんですか」

 高槻泉はハイセをカネキと呼び、カネキは訂正を求めない。

「解ってしまうんだよ、作家だからねぇ、もはや職業病。手を貸そうか? 奴らの妨害ぐらいはして見せよう。その代わり、私の願いも聞いてもらうけどね」

「あなたも言っているじゃないですか、“最後の仕事”だって僕はそこから先のことは考えてない。あなたの頼みを聞く時間なんて、残されてはいません」

 返答は早かった。

「そうかい」

 フー息吐く。

「近々私は移送される」

「ええ存じています」

 高槻泉が喰種であることが判明した以上『コクリア』送りは免れない。

「気が向いたら、ノックしたまえ。多分、下の方の部屋だから」

 『コクリア』の下層に行けば行くほど、警戒が厳重になる。下―行けば行くほど、強く凶悪な喰種が収監されている。

「念のため、私の願いを言っておこう。――【隻眼の王】を殺してくれ」

「……」

 返答せず、面会室から出て行こうとしたカネキ。

 そんなカネキの背中目がけ、言葉を贈る。

「最後に忠告をしておこう、決して【皇】は敵に回すな」

 

 

 

「随分と熱心ですね」

 法寺が部屋に入ってくる。

 ブルーライトカットの眼鏡を掛けたライはパソコンと睨みあいながら、焔のことを調べていた。

「法寺特等、ちょうどいいところへ、聞きたいことがあるんです」

 椅子を回して法寺の方を向く。

「焔の赫子と性質、弟のタタラも同じようなものなんでしょうか?」

 ええと法寺は了承。

「ですが、私はタタラの方が焔よりも危険性が高いと考えております」

 血縁者の赫子は類似するもの。

「そう」

 ブルーライトカットの眼鏡を外す。

「法寺特等、こんな作戦を考えたんですが……」

 

 

 ライの作戦を聞いた法寺は目を大きく見開いた後、

「そんな作戦を思いつくとは、あなたという人は本当に……」

 珍しくクスクスと笑う。

「面白い作戦ですね、やってみる価値はあるでしょう」

 笑い終え法寺はいつも通りの表情に戻る。

「ル島上陸までに必要な道具は揃いますか」

「はい、問題はありません。用意して見せますよ。これでもれっきとした特等ですから」

 

 

 

 




 正直な気持ち、ライと鯱は戦わせたかった。武術を身に着けている者同士なので。
 でもオリジナルでは有馬と0番隊と戦っているので、ライの出番はありませんでした。
 眼鏡を掛けたライを出したかったから、ブルーライトカットの眼鏡を掛けさせました。
 これからはハイセはカネキとなります。

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