ライくんの名乗っている名前は、桜間ライ。
ライくんが、安浦清子を踏み踏みいたします。
「あっ、そうか、解ったよ、ライさん」
パッとリオの顔は明るく輝く。
喫茶店『:re』の片隅の席で、プラチナブロンドの少年、桜間ライ(さくらま らい)と、抹茶色の髪の毛の少年、凛央(りお)、リオは向かって座っていた。
とても綺麗な容姿のライと可愛い容姿のリオが、向かい合っている姿は、どこか絵になっている。腐っている方々には、たまらないシチュエーションかも。
テーブルの上には、一冊の本とノートが置かれ、ライが教え、一生懸命、リオが勉強をしている。
ライの前には、コーヒーとモンブラン、リオの前にはコーヒーだけが置かれていた。
度々、喫茶店『:re』に訪れ、いつもモンブランとコーヒー、時おり、紅茶を注文して、片隅の席で読書をしていたライ。
“彼”の影響で、本に興味を持っていたリオが、つい話しかけてしまう。
とても難しい本だったので、真面にリオは理解が出来なかったが、ライが優しく教えてあげた。
事情があって、リオは学校に通っておらず、2年前までは、碌に文字も読めなかった。
その事がきっかけとなり、店長の霧嶋董香(きりしま とうか)から、ライはリオの家庭教師を頼まれる。報酬は喫茶店『:re』のモンブランとコーヒー、もしくは紅茶。
この申し出を快く引き受けたライ。
ライの教え方も良く、またリオの飲み込みも良かったので、リオの学力は、みるみる向上。
ライと勉強をしているリオ、サイフォンの前でコーヒーカップを磨いている四方蓮示(よも れんじ)、ヨモ。
そんな様子を楽しそうに見ている、店長のトーカ。
こんな平穏な日常がいつまでも続いてくればいい、そうトーカは願う。
からんからん、ドアのカウベルが鳴り、来客を告げる。
「いらっしゃいませ」
店内に入ってきた4人の姿を見たトーカの表情が、微かに変わる。
トーカだけではない、勉強していたリオの顔色も変わった。
「ウリエ、ここのコーヒーはホントに美味しいぞ」
目付きの悪い、歯がギザギザの青年、不知吟士(しらず ぎんし)、シラズ。
(……確かに香りはいいな)
つまらなそうにしている左目の下に並んだほくろのある青年、瓜江久生(うりえ くき)、ウリエ。
「才子ちゃん、来なかったね」
男にしては細い、女にしては筋肉が付いている、左目に眼帯を当てている、六月透(むつき とおる)、六月。
「ダウン中だから仕方がないよ。まぁ、無理に連れ出すこともないしね」
優しそうなプリンのような色合いの髪型の青年、佐々木琲世(ささき はいせ)、ハイセ。
店内に入ってきたのは、この4人。
「こんにちは、また来ました」
爽やかな感じで、ハイセが挨拶すると、
「いらっしゃい」
どこかしら、嬉しそうなトーカ。
そんな2人を横目で見ている、リオも複雑な表情。
ハイセ、シラズ、ウリエ、六月、ここにはいない、米林才子(よねばやし さいこ)、才子を加えた5人組。
食物連鎖の頂点、人を“食料”として狩る者たちが存在する。
人の死肉を漁る、化け物として、こう呼ばれる。喰種(グール)と。
人を上回る運動能力、再生力、頑強な皮膚。
普通の人では太刀打ちできない喰種と戦う者たち、それが喰種対策局、略称、CCG。
人を狩る喰種を狩るCCGの捜査官。喰種たちは畏怖を込めて、捜査官を白鳩(はと)と呼ぶ。
CCGの捜査官には階級があり、ハイセは一等捜査官、シラズと六月は三等捜査官、ウリエは二等捜査官。ここにいない才子は三等捜査官。
一等捜査官の上に、上等捜査官、準特等捜査官、特等捜査官がある。
捜査官の中でも特殊な施術を施された捜査官『Q's』クインクス。メンバーは班長のシラズ、ウリエ、六月、才子。ハイセは、クインクスの指導者(メンター)。
先日まで班長はウリエだったが、粗相をやらかし、ハイセに解任されて、新たな班長に任命されたのがシラズ。
以前、ハイセ、シラズ、六月の3人で喫茶店『:re』に来たことがあり、とてもコーヒーが美味しかったので、今日はウリエと才子を誘う。
3日間、徹夜でゲームをやり続けた才子はダウンしてしまい、来れなかった……。
「今日はここまでにしよう」
「うん」
少々、残念そうなリオ。客が増えたので、リオも接客しなくて離せない。
荷物を片付けて、鞄に入れ、帰ろうとするライ。
「ライさん」
リオが呼び止めた。3歩、下がってから、ライは振り返る。
「今日もありがとうございました」
お礼を述べる。
笑顔を向け、一度、手を振ってから喫茶店『:re』を出て行く。
「今の人、無茶苦茶、綺麗な人だったな……」
ライの出て行ったドアを見て、シラズは興奮気味。
(何が綺麗な人だ、あれは男だろ。いや、もしかして女か、男装の麗人? いや、やっぱり、男だよな……)
誰にも聞こえないように、ぶつぶつ言っているウリエ。
「あれ、先生? どうしたんです」
六月に声を掛けられ、ハイセは視線をドアから外す。
「いや、何でもないよ」
注文を聞きに来るリオ。
「リオくん、さっきの人、よくここに来るの?」
「はい」
「どんな人かな」
「桜間ライって言う、学生さんで―」
ごほんとトーカが咳払いをした。お客様のプライバシーをべらべらと話すなとの警告。
それに気が付いたリオは、慌てて注文を聞きなおす。
一時、六月、シラズ、ウリエが驚いた。佐々木琲が、他人に興味を示した。それもあんな綺麗な人に!
が、3人同時、気を取り直す。
佐々木琲世は色恋沙汰に縁が遠い。そんなことで他人に興味を持ったりしないだろうと。
もう少しで夕方の時間。
有馬貴将(ありま きしょう)。CCG本局所属、特等捜査官。死神と呼ばれている、CCG最強の捜査官。
有馬に蹴っ飛ばされるハイセ。
「どうした、何を考えている。集中が出来ていない」
有馬の表情は、ピクリとも変化なし。
「今日、面白い奴を見かけたんです」
イタタと、ハイセは起き上がる。
喫茶店『:re』から帰ってきたハイセは、久しぶりに訪ねてきた有馬の特訓を受けることにした。
よくこうして、ハイセは有馬から特訓を受けている。
今日は、ちゃんとしたトレーニングルームだが、会議室の机の上で特訓を受けたこともあり。
「まだ高校生ぐらいの少年なのに、呼びかけられた際、3歩、下がって振り返ったんです」
微かではあったが、有馬の表情が動く。
「あれを自然にやるなんて、相当の武道の腕前がないと……」
3歩、下がって振り返り方は相手との間合いを開けるため。こうやって振り向けば、いきなり襲われても対処できる。
「そいつはどんな奴だ」
有馬も興味を持ったよう。
ハイセはライのことを話した。ただ喫茶店『:re』は伏せておいた。そうしろ本能が囁く。
「まだ学生か……。一度、あってみたいな」
おまいう。有馬も高校生のころから、強かった。
「案外、近くにいるかもしれませんね」
何とはなしに、言ってみたハイセ。
「凝っていますね、清子さん。随分、お疲れなんですね」
執事姿のライが、ぎゅぎゅぎゅと、ベットの上でうつ伏せで寝そべっている、安浦清子(あうら きよこ)の背中を踏み踏み。
喫茶店『:re』での家庭教師の他に、この執事足ふみマッサージ屋で、ライはバイトをしている。
「仕事が大変だから、今日もこの後、夜勤よ」
「それは大変ですね」
安浦清子の仕事はCCGの捜査官。それも女性でありながらも、特等捜査官まで上り詰め、女性の捜査官からは、憧れの的。
自分が捜査官だとは、ライには話してはいない。
ただ単純に、ライは踏んでいるのではない、足のつま先、踵、全体を使い、踏み踏み、ぐりぐり、すり足を上手に使い分け、硬くなった筋肉を解していく。体重の掛け方も絶妙。
施術を受けながら、ある疑問を清子は持っていた。
疲れた体を癒すために、ネットで見つけた、この執事の足ふみマッサージ屋。そんな趣味があるのてはなく、この店を選んだのは、仕事場からの距離が、丁度、良かったから。
何人かの執事の足ふみマッサージを受け、ライの施術が気に入り、彼を指名するようになった。
天井に付いてある手すりにつかまらずに、ライは施術をしている。それでいて、しっかりとバランスを取り、両足で足ふみマッサージをしている。
まるで平地を歩いているような感じでありながらも、凝りを解していく。
(この子、もしかして……)
閉店後、喫茶店『:re』でモップを持ち、掃除をしているリオ。
「“彼”、今日も来ましたね」
以前も新しい仲間とともに“彼”が『:re』に来た。
あの時、トーカが見せた顔をリオは忘れることが出来ない。トーカにあんな顔をさせることができるのは、“彼”しかいない。
トーカは何も言わない、黙って店の片づけをやっている。
重い沈黙だけが、流れていく。
喫茶店『:re』の店員は、皆、喰種。それも人間に対しては友好的で共存を望む。
そんな喰種の喫茶店に、捜査官になった“彼”がやってきた、何という縁か。
「……あれでいいのよ」
ボソッとトーカが口を開いた。
「今の“彼”は新しい仲間に囲まれて暮らしている。もうこそこそ隠れなくてもいい、白鳩に怯えなくてもいい。堂々と、大手を振って生きていけるのよ、今の“彼”は」
その事はリオにも解っている。2年前『あんていく』に拾われるまで、兄と一緒に白鳩から逃げ回り、廃墟を転々とし、暮らしていた。はたして、あれを暮らしと言ってもいいてのだろうか?
『あんていく』に拾われ、ようやくリオは人並みの生活を送ることが出来た。
だが兄は殺され、やっと出来た居場所『あんていく』は喰種の隠れ家であったことが白鳩に発覚して、失ってしまった。
この2年、やっとのことで新たな居場所『:re』を作った。
しかし、ここも《白鳩》にバレたら終り。
「蛇が出ると解っていて、藪を突く必要はない」
きっぱりと言う。
トーカの気持ちは、痛いほどリオは解る。
頭では理解していても、“彼”とトーカの関係を知っているリオは、どうしたらいいのか気持ちの整理が付かない。
2人分のコーヒーを、ヨモはテーブルの上に置いた。
「“あいつ”が記憶を取り戻して、居場所を失えば、ここで迎えいれればいい。そのためにここを作ったんだろ」
「「……」」
トーカ、リオはヨモの淹れたコーヒーを飲む。
この2年の間に、リオのコーヒーを淹れる腕前は上がった。けれど『あんていく』の店長やヨモ、トーカの淹れるコーヒーには、まだまだ及ばない。
夜の帳の中、1人の中年の喰種が逃げている。追っているのは清子と、口ひげにリーゼントの大男、田中丸望元(たなかまる もうがん)。彼も特等捜査官。
その後に続く、一等捜査官と二等捜査官たち。
全員、手にアタッシェケースを持っている。
喰種の皮膚は固く、生半可な物では掠り傷さえも負わせられない。そこでクインケ、CCGが対喰種用に開発された武器を使う。クインケは個人に応じた、様々な武器の形をしていて、普段はクインケはアタッシェケースに収納している。
曲がり角から、1人の少年が出てきた。清子には見覚えがある、ライだ。
バイトの帰り、たまたま通りかかったところ。
「邪魔だ餓鬼ィィィィィィ」
中年の喰種がライに襲い掛かる。その肩からは大きな剃刀のような器官が出現。
赫子(かぐね)。液状の筋肉とも呼ばれる、捕食器官。喰種は体内に赫包と呼ばれる器官があり、そこから放出する。手っ取り早く言えば、赫子は喰種の体に内蔵された武器。
「いかん!」
田中丸が慌てて、アタッシェケースを開き、自身のクインケ、バズーカ砲のような形のハイアーマインド(高次精神次元)もしくは天使の羽ばたき(エンジェルビート)を展開したが、間に合いそうにない。
他の捜査官たちもアタッシェケースを開き、各々のクインケを展開させるが、間に合わない。
誰もが最悪の結果を予想した。清子以外は。
ひょいと軽く、赫子の攻撃をライは躱す。
中年の喰種は二撃目の攻撃を放つが、それもひょいと躱す。
「でかしたぞ、ボーイ。はいあぁぁぁぁぁぁ」
田中丸は、今度こそはと、ハイアーマインド(高次精神次元)もしくは天使の羽ばたき(エンジェルビート)を放とうとした。
「待って」
それを止める。
「? レディ清子」
清子は、
「ちょっと、借りるわよ」
一番近くにいた二等捜査官の持つ銛型のクインケを掴むと、
「ライくん、これを使いなさい!」
とライに向かって、銛型のクインケを投げる。
投げられた銛型のクインケを掴むと同時に、襲い掛かってきた赫子を足場にしてジャンプ。
「!」
驚く中年の喰種に、容赦することなく、銛型のクインケを投げつけ、モズのはやにえに串刺しにし、着地。
唖然として、一等捜査官と二等捜査官たちはライを見ていた。
無理もない、捜査官でもない、クインケの使い方の訓練もしていない、一般市民のずぶの素人、それも少年が喰種を仕留めたのだから。
「見事だボーイ、いや、もしかして、ガールか?」
特等捜査官だけあり、平静な田中丸。
「ボーイです」
「失礼したな、では改めて、ボーイ、出来れば名前を聞かせてくれないかね。私の名前は田中丸望元」
手を差し出す。
「桜間ライです」
田中丸の手をしっかりと握って握手。
(やっぱり、ライくん、ただものじゃ無かった……)
何故か清子は、有馬と初めて出会った時のことを思い出していた。
東京喰種:reとコードギアス 反逆のルルーシュ LOST COLORSのクロスオーバーになります。
ライくんの名乗っている名前は、桜間ライ。
ライくんが、安浦清子を踏み踏みいたします。