そんなことはさて置いて。第7話をお楽しみください。
新婚旅行3日目の朝、1日目の昼寝の時とは違い、昨日に引き続いて気持ちの良い目覚めだ。心なしか体の調子もいい気がする。
俺はベッドから上半身を起こし、時計を確認する。
時刻は朝の6時、朝食まで1時間ぐらいはある。とりあえず着替えだけでも済ませるか。
着替えが入っている自分のカバンまで移動しようとベッドから降りた時、異変に気付いた。
俺が寝ていたベッドの右隣にもう1つベッドがあり、そこには我が愛する妻、クレア・ライトフォードが寝ているはずなのだが、そこには誰も寝ていない無人のベッドがあるだけだった。
部屋の中を見渡してもクレアがいる気配がない。散歩にでも行っているのだろうか。実質昨日は俺が散歩に行ったわけだし。
「さて、ささっと着替えて食堂に向かうか。」
俺はクレアのことはあまり気にせずに、寝起きのもたつく足でなんとか自分の荷物のところまで移動して中から着替えの服を取り出した。
「おはようございます、オルト。今日も爽やかな朝ですね。」
すると、部屋のドアが静かに開いて、顔の整った青年が柔らかい笑みを浮かべながら部屋の中へと入って来た。
「ああ、クオーツか。おはよう。それで、俺に何か用か?」
俺はそう言いながら着替えを続ける。
「大したことではないのですが、ついさっき目を覚ましたら、アルバートがいなかったので、もしかしたらと思って来たのですが、どうやらいないようですね。」
クオーツは一通り部屋を見渡した後に軽くため息をついた。
「そういえば、クレアもいませんね。どうかされたのですか?」
「いや、俺もわからないんだが、散歩に行ってるんだと思う。」
俺は着替えのズボンを履き、ベルトを締めた。
「そうですか。それでは、朝食まで少しは時間もありますし、我々も少し散歩に出かけましょうか。」
「ああ、そうしようか。」
俺は脱いだ寝間着を綺麗に畳んでカバンの中に入れると、扉の前で待っているクオーツのところへ小走りで向かった。
部屋を出て、俺とクオーツはしばらくホテルの周りをぶらついていた。クオーツは真面目で少し硬いところもあるが、温厚なやつなので一緒に話しているととても落ち着く。
「とうとう今日で僕たちは帰ってしまいますが、お二人は旅行の続きを楽しんでくださいね。」
「ああ、寂しくはなるが、今度はクレアと一緒に楽しませてもらうよ。」
俺とクレア以外のみんなは今日で王都へ帰ってしまうのだ。俺とクレアの新婚旅行なので仕方ないのだが。
「ええ。二人の時間は大切ですから、目一杯楽しんでくださいね。」
クオーツは前を向きつつも横目で俺を見てニッコリと笑った。
クォーツと話しながら10分ほど歩いていると、俺たちはホテルの運動場に来ていた。よく整備された土の地面が目の前に広がっている。
「折角だから少し組手でもしないか?しばらく人との戦闘をしてないからなあ。」
俺は運動場の隅にある道具箱から訓練用の剣を取り出して数回素振りをした。
「いいですね。僕もちょうど魔法を撃ちたい気分ですし。」
「それじゃあ、決まりだな。」
クォーツは道具箱から荒削りの木でできた杖を取り出して構えた。数秒ほど音のない鋭い空気が流れ、俺の心を引き締めた。
「いくぞっ!!」
その掛け声とともにその空気は弾け、俺はクォーツに向かって全速力で走り、間合いを詰めようとした。クォーツはそうさせまいと無数の火球を放ち、火球は勢いよく俺に向かって飛んで来た。俺は飛んで来た火球を剣で弾いて防御する。幸い剣は鉄製なので燃える心配は無いようだ。
俺は火球を弾いてクォーツに接近しようと試みるが、火球の数が多すぎて近づこうにも近づけない。
「どうしました?このままではあなたの体力が先に尽きてしまいますよ。」
クォーツは魔法を撃つ手を止めずに余裕の表情を浮かべた。確かにこのままではクォーツの魔法に押し負けてしまう。ここは闘技で対抗するしか無いようだ。
「『ソード・エクステンション』!」
俺は剣を魔力で覆い、攻撃範囲を拡大した。斬撃のリーチを伸ばすことによって火球への対応速度を上げたのだ。俺は休まずに追従してくる火球を捌きながらクォーツとの距離を縮めていく。
「なかなかやりますね。それではこれならどうですか。」
クォーツは俺との距離を一旦取ってから、新たに魔法を放った。
「『フォトン・レイ』!」
クォーツの杖から一筋の巨大な光線が地面を抉りながら俺に向かって放たれた。
「うおあっ!」
俺は転がるようにその攻撃を回避し、一気にクォーツとの間合いを詰めようと再び走り出した。
「よく避けましたね。それではこちらもそろそろ本気でいきますよ!」
クォーツは意識を集中させて魔法の詠唱を始める。これは多分やばいやつだ。
俺は魔法が放たれる前にケリをつけようと、『ソード・エクステンション』を使用して素早く攻撃を仕掛けたが、遅かった。クォーツは詠唱を終えて杖を大きく振りかざした。
「いきますよ!!」
上空に巨大な魔法陣が出現し、まばゆい光を放っている。
「『ラスター・バースト』!!!」
そして次の瞬間、さっきとは比べ物にならないほどの巨大な光の塊が俺に向かって放たれた。クォーツの奴、俺を殺す気か!
「さあ、どうしますかオルト!?」
この距離だと避けるのは不可能に近い。『オーガ・ブレード』も魔力を貯めるのに間に合わない。クソッ!一体どうすればいいんだ。
俺は打つ手がないと諦めたその時、俺の中で何かがざわついた。それは次第に大きくなっていき、やがて闘争心に変わった。なんだか今ならやれそうな気がする。
俺は剣に魔力を集中させ、闘技を発動した。
「『ブレイズ・フォース』。」
俺は炎を纏い強化された剣を構えて、光の塊に突っ込んだ。そして、斬撃とともに集中させた魔力を一気に放出した。
その一撃は一瞬にして迫って来た光の塊を消し飛ばし、クォーツに大きな隙ができた。
「なっ!?」
そして、俺は素早くクォーツに接近し、剣をクォーツの首元で止めた。
「俺の勝ちだな。」
俺が剣を首元から離すと、クォーツは力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「いやあ、強くなりましたね、オルト。闘技の扱いにも磨きが掛かってましたよ。」
「まあな。結婚式の翌日からクレアに稽古をつけてもらっててな。」
「なるほど、それなら納得です。」
俺は座り込んだクォーツに手を差し伸べると、クォーツはそれを掴んで、立ち上がった。
「ちょっと二人とも、朝から何やってんの?」
俺たちが組み手の後始末をしていると、少し離れたところからルーシーの声が聞こえた。
「ちょっと組手をしてたんだよ。お互い暴れ足りなかったようでね。」
俺は使った剣を道具箱に戻してからルーシーの方に目をやった。激しい組手によって荒れた地面はクォーツの魔法によって整備されているから大丈夫だ。
「へー、そーなんだ。とりあえず、そろそろ朝食の時間だから呼びに来たんだけど。」
ルーシーは眠いのか大きくあくびをした。
「そう言えば、クレアを見てないか?アルバートもいないらしいんだけど。」
「あー、あの二人なら私と一緒に散歩して、今はみんな食堂にいるわよ。」
やはり散歩していたようだ。それにしても、その3人の組み合わせは結構珍しいな。
「わかった。すぐに食堂に向かうから先に行ってくれ。」
ルーシーは「わかったわ。」と頷くと、そのまま食堂へと向かった。俺はそれを見送って、再び後始末に取り掛かった。
組手の後、朝食を、終えた俺たちは今アプロルオの駅にいる。今日で俺とクレア以外のメンバーは王都に帰ることになっているので、その見送りだ。
「俺たちは先に帰って仕事に戻るけどよ。二人は旅行の続きを楽しんでくれよな。」
アルバートは汽車の窓から顔を出して笑いながらそう言った。
「そーだよ。二人が帰って来たら沢山お話ししたいから、沢山のお土産話持って帰って来てね。」
アルバートに続いてシェリナも窓からひょこっと顔を出した。
「ああ。みんなの分も楽しむから、沢山のお土産話を用意しておくよ。」
俺は顔を出してる二人に微笑みながら小さく手を振った。
そして、汽車の汽笛が鳴り、そろそろ出発するようだ。
「それでは、二人とも楽しんでくださいね。」
「オルト、クレアを泣かしたら承知しないからね。」
「オルト、初夜の感想待ってるぞ☆」
最後にルーシーがダリオの頭をど突いてお別れの挨拶は終わった。
「それじゃあ、みんなも王都で頑張ってくれよな。」
俺はそう言って走り出した汽車に向かって大きく手を振った。
汽車の中のみんなも大きく手を振って何かを叫んでいる。そしてそのまま汽車はみんなを乗せてどんどん小さくなっていった。そして、汽車が完全に見えなくなると、俺は名残惜しさを吹き飛ばすように深く呼吸をした。
「それじゃあ、俺たちはみんなの分も楽しもうか。」
「……うん!」
今の時刻は午前10時。先に王都に帰るみんなを見送った後、俺とクレアは今、多くの人で賑わっている市街地へと来ていた。
「うわあ。すごい人だねぇ、オルト。」
「ああ。現地の商人の他に旅商人とかも様々な出店を出していて多くの人に人気なんだよ。」
アプロルオの市街地は世界中の旅商人が集まり、各地の名産品や珍しい代物が売買される世界でもトップクラスの規模を持つ市街地なのだ。
「折角だし、いろいろ見ていこうか。お昼はどこかで済ませばいいしね。」
クレアは何回も頷いたものの、周りの出店に釘付けである。そんなところも可愛いんだけどな。
「お、ヤマトの国の食器だって。珍しい形をしてるなあ。」
「この…オハシ?というものはどうやって使うのかな?」
しばらく歩いていると、変わった飾りの出店が目に入ったので立ち寄ってみたが、ここから遥か東に位置する小さな島国のヤマトという国の特産品が売られているようだ。
「おお、いらっしゃい!これはな、こうやって持ってこうして食べ物を摘んで口まで運ぶんだ。」
筋骨隆々な体にタンクトップと定番的な身なりの中年の男性がハシを器用に持ってカウンターに置いてある豆を摘んでみせた。
「変わった使い方をするのね。てっきり刺して食べるのかと思っちゃった。」
「おおっと、お客さん。刺し箸はマナー違反ですぜ。」
しばらく店員と話したり、品物を眺めたりした後、ハシを1セット買ってから俺たちは再び歩き始めた。
「すっかり気に入ってるな、そのハシってやつ。」
俺は大事そうにハシを持っていかにもご機嫌なクレアを見て思わずニヤついてしまう。
「うん。帰ったら早速練習して早く使えるようになりたいなあ。」
クレアはまるで新しいおもちゃを買ってもらったような嬉しそうな表情で周りの出店を見ている。
再び歩いてから10分ほど歩くと、今度はある武器屋に目がいった。近くまで寄って確認すると、そこには世界のあらゆるところから集められた珍しい武器が並んでいた。
「うっわあ!なにこれー!?見たことない武器ばっかりだねー!」
クレアはそこが武器屋だとわかると急にテンションが上がり、珍しい武器に興味津々だ。クレアはかなりの武器マニアで珍しい武器を集めるのが趣味の1つらしい。
「いらっしゃい!ここでは世界中の珍しい武器を販売しているよー!もちろん性能や使いやすさも抜群ですよー!」
クレアが意気揚々と武器を眺めていると、店の奥から店主らしき小柄の男性が威勢良く声をあげながら出て来た。
「お嬢さん、これなんかどうだい?ヤマトの国に伝わる『刀』という武器さ。このフォルムが凄くいいと思わないかい?」
店主はそう言って店の隅に置かれた変わった形の刃物を取り出して来た。
「おお!!わかりますわかります!この鞘の装飾とかも素敵ですね!」
クレアはどうやら気に入ったようで店主の話に食いついている。
「他にもこの『七支刀』とかもどうだい?実用性はないが、部屋の装飾とかに使ったらインパクトあるよー。それにこの『ソードブレイカー』も実用性抜群で。それから……」
「うんうん、いいですね。これとかも見た目に反してかなり使い勝手が良さそうですし。」
店主とクレアが武器の話で夢中になってる横で俺は1つの武器に目を奪われていた。武器、と言っていいのだろうか?
「すみません。このナイフに刻まれてる文字って何語なんですか?見たことないんですけど。」
俺は自分の目の前にある小型のナイフに指を指しながら店主に聞いた。
「ん?ああ、その武器か。………はて?これはどこの武器だったかなあ?んん……?」
「それは遥か南のとても小さな島国『ラーナ』に伝わるお守りじゃ。ラーナ国では旅に出る際に祈りの言葉を刻んだナイフを身につけて、旅の健闘を祈る風習があるのじゃ。」
店主が悩んでいると、いかにも魔道士のような服装の小柄な老人が横から入ってきた。黒いローブにマント。右手には大きな水晶玉がはめ込まれた杖を持っている。絶対魔道士だ。
「詳しいんですね。ちなみにこれはなんて読むんですか?」
「ええと、どれどれ……。『我が最愛の夫に神のご加護がありますように。』と書かれておるのお。それで、隣の方は、『我が最愛の妻に『神からのご加護がありますように。』と書かれておる。」
老人はナイフに顔を近づけて顔をしかめた後、解読し始めた。どうやらこのナイフは夫婦用のお守りのようだ。
「折角じゃし買ってみたらどうじゃ?どうやらお前さん達夫婦のようじゃしな。」
老人はにこにこと柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
「そうだな。ここで見つけたのも何かの縁。すみません、このナイフください。」
「お買い上げありがとうございます。合計で2400Gになります。」
俺は財布から取り出した1000G紙幣を店主に渡してお釣りに100G効果を6枚受け取った。
「じーさんもありがとな。おかげでいい買い物ができたよ。」
「フォッフォッフォッ。それなら何よりじゃ。」
老人は嬉しそうに笑いながら立派なあごひげを撫でた。
「それじゃあ、じーさん。俺達他の店も見て回るから、元気でな。」
「あー、ちょっと待ってくれんか。」
俺は老人に別れを告げようとしたが、老人は少し急いだ口調でそう言った。
「これからじかんはあるのじゃろ?もしよければ、わしの占いでも聞いてかんか?」
どうやら老人は魔道士ではなく占い師だったようだ。特に予定もないし付き合ってもいいかな。
「俺はいいけど、クレアはどうする?」
「私も占い聞いてみたいな。」
クレアは少し興味あり気にそわそわし始めた。
「それじゃあ、今からわしの占いの館に案内するからついて来なさい。」
そう言って老人は店を出て、俺とクレアも老人に続いて店を出た。
店を出てから数分ほど歩いて、俺たちは市街地の隅の方にある小さな館の前にやって来た。館と言っても普通の二階建ての一軒家ほどの大きさではあるが。
「ここがわしの占いの館じゃ。ささっ、遠慮せずにお入り。」
老人は丁寧な手つきで扉を開いて俺たちを中へ案内した。館の内装は古い木造で、少し暗い雰囲気だ。
「こっちの部屋じゃ。」
俺たちは老人に案内され、玄関から正面の奥の扉を開き、奥へ進んだ。その部屋は魔法道具や何かの薬品が設置されていて、中央には大きな水晶玉が丁寧に置かれていた。
「それじゃあ、早速始めるかのお。まずはそちらのお嬢さんから占おうかのお。」
老人はクレアに手招きをして水晶玉の前に置かれた椅子に座らせた。
「まずはこの水晶玉に手を置いて、意識と魔力を集中させるのじゃ。」
クレアは目をつぶり、深く深呼吸をして水晶玉に魔力を集中させた。すると、水晶玉が淡い光を放ち、老人は水晶玉に意識を集中させた。
「お主は……、近い未来に大きな障壁にぶつかるじゃろう。しかし、乗り越えるのは容易ではないが、皆と力を合わせれば必ず乗り越えるじゃろう。それから……。」
老人はさらに意識を集中させて占いを続ける。
「今後の金運と恋愛運はいい傾向にある。健康運が少々下がっているから体には気をつけるのじゃぞ。」
老人はそう言い終わると、水晶玉から意識を解放し、一息ついた。
「もう楽にして良いぞ。次はお主の番じゃな。」
クレアは目を開けて再び深く深呼吸をしてから立ち上がり、俺と交代した。
「それでは、いくぞ。手を水晶玉に置いて意識と魔力を集中させるのじゃ。」
俺は老人に言われた通りに水晶玉に手を置いて魔力を集中させた。老人も水晶玉に意識を集中させて占いを読み取る。
「お主は…………これから、苦しい出来事が起こるかもしれん。それを乗り越えるには周りの人を大切にし、自分も大切にすることじゃ。」
さらに老人は続ける。
「そして、全体の幸運のバランスは良くも悪くもないのお。強いて言うなら金運が若干低いからお金は考えて使うようにの。」
老人はふうっと深く息を吐いて首をコキコキと鳴らした。
「お主も楽にして良いぞ。これで占いは終了じゃ。」
俺はそっと目を開けて意識を解放し、ぐっと背伸びをした。
「ありがとうございました。料金はいくらですか?」
「二人で1000Gじゃ。すまんのお、付き合わせてしまったのに。」
「いえいえ。俺たちもこれから頑張れそうな気がして来ましたし。はい、ちょうど1000Gです。」
俺は老人に1000Gを渡して館を出た。
「ありがとう。占いはあくまで今後の予報や予感みたいなものじゃ。本当にどうなるかは本人次第じゃから、あまり気にしないようにのお。」
老人も俺たちに続いて館から出て来た。
「それじゃあ、じーさん。元気でな。」
「ちょっと待った。」
俺が老人に別れの挨拶をしようとしたら再び中断された。
「お主ら、名は何というのじゃ?」
老人は細く垂れ下がった目でこちらをじっと見つめた。
「俺はオルト・ジークスです。」
「私はクレア・ジークス。旧姓はライトフォードです。」
俺たちは少し不思議に思いながらもそう答えた。
その答えた老人は少し目を見開いてこちらを見つめた。
「そう言うじーさんは?」
「おお、そうじゃな。相手に名乗らせといて自分が名乗らないのは無礼じゃったな。」
老人は我に返ったようにそう返事をしてゴホンと大げさに咳払いをした。
「わしの名は、ガルド・ドレイク。ガルドと呼んでくれればいいよ。」
「そうか。それじゃあ、ガルドじーさん。元気でな。」
「ああ、またいつか会える日が来ると信じとるよ。」
こうして、俺たちはガルドじーさんと別れ、市街地の出店巡りを再開した。そう言えば、ガルドじーさんと話していると、どこか懐かしい感じがしたような気がするが、あまり気にすることでもないだろう。
俺たちは再び珍しい品物を探しに市街地の中心へと歩き始めた。
オルトがガルドの館を出てから数分後。
黒いローブとマントを身に纏った老人は水晶玉をじっと見ていた。
「まさかこのような形で再開するとはのお。運命というものはつくづくわからないものじゃな。」
老人はふうっとため息を吐き、水晶玉に映し出されたソレをじっと見つめた。
「さて、わしは王都へ向かう準備をするかのお。これから忙しくなりそうじゃ。」
老人はそう言って立ち上がると、ドアを開けてその部屋から出て行った。
その部屋には魔道具や薬品が無造作に置かれており、中央には派手な土台にさの上に大きな空色の水晶玉が暗く光っている。
そして、その水晶玉の中に、激しい憎しみと怒りに満ちた表情の黒い巨龍が映し出されていた。それはまるで、世界の全てを破壊尽くすような、強大な邪気を放っていた。
最近急に気温が下がりましたね。みなさん風邪には気をつけてくださいね。私は風邪引きましたけどね。