爽やかなそよ風が俺の髪を優しく撫でるかのように通り過ぎていく。今は春。野には色鮮やかな花たちが一面を覆っていることだろう。天気も良く、外出するには最高の天気と言えるだろう。
さて、そんな爽やかな1日だが、街の皆さんはどうお過ごしだろうか。
ん?俺は何をしてるかって?
「汝オルト・ジークスは、この女クレア・ライトフォードを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「はい、誓います。」
俺は今何をしているかというと…………
「汝クレア・ライトフォードは、この男オルト・ジークスを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
何をしているかというと、
「はいっ、誓います。」
今、俺の目の前にいる人と結婚式を挙げています。
俺の目の前で結婚の誓いをした彼女、クレア・ライトフォードは俺の結婚相手であり、王国を護る聖騎士団『ホーリー・ナイツ』の元メンバーにして、史上最強の剣士だ。華やかな純白のドレスを着こなし、さらっとした長い金髪を風になびかせながらこちらを温かく見つめている今の彼女は、可憐でおしとやかなどこかの貴族様のようで、剣士という風には全く見えない。
「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれた このお二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。宇宙万物の造り主である父よ、あなたはご自分にかたどって人を造り、夫婦の愛を祝福してくださいました。今日結婚の誓いをかわした二人の上に、満ちあふれる祝福を注いでください。」
最後に神父がそう言い、誓いの儀式は終わった。次は新郎新婦と結婚式に招待された人々みんなで盛大なパーティーを行う。
「えー。この度はお二人の結婚式に足を運ばせてくださった皆様、誠にありがとうございます。私も今回の2人のご結婚を心から嬉しく思っております。これから2人がどの様な人生を歩んでいくかはわかりませんが、2人ならきっと幸せな人生を送れると思っております。」
俺の親友のアルバートが魔法道具で会場全体に声を響かせて、宴の始まりの挨拶をした。いつもの荒い口調とは違った似合わない敬語で、思わず頰が緩んでしまう。
「えー、私からの挨拶の方はこれぐらいにしまして。それでは皆さん、2人の結婚に幸福を願って………」
アルバートがそう言うと、先程まで少しざわついていた空気が急に静まり返った。そして…
「カンパーーーイ!!!!」
その言葉と共に会場の空気がワッと弾けた。
俺は手に持っていたワインを一口飲むと壇上から降りて、来てくれた仲間たちのところへと向かおうと席を立った。
「ごめん。少しみんなと話してくる。すぐ戻ってくるから。」
俺はクレアにそう言い席を立った。
「うん、いいよ。私も騎士団のみんなに会ってくるから。」
クレアは優しく微笑んでそう言った。
「じゃあ、行ってくるね。」
「うん、行ってらっしゃい。」
俺はクレアのその言葉を聞いて、友人たちの元へと向かった。その後にクレアも席を立ち、自分が所属していた騎士団のメンバーたちのところへ向かった。
「よお、みんな。今日は来てくれてありがとな。」
俺は歩きながら仕事の仲間たちに手を振った。
俺は王都内にある少し名の知れた冒険者ギルドに勤めており、主に王都付近のモンスターの討伐や採取クエストを仕事にしてるが、2週間に一回ぐらいに行われるギルド内での遠征に参加したりしている。
そして、今俺の目の前にいる奴らは同じギルドの仲間たちだ。
「よお、オルト。結婚おめでとう。まさかお前があの聖騎士団の凄腕の美人と結婚するなんてなあ。初めて聞いたときは驚いたぜ。」
そう言いながら自分の頭をクシャッとかいた大柄な男は、さっき壇上で宴の挨拶をしていたアルバートだ。
「ほんとだよ。私もびっくりしてそのとき思わず飲んでたジュース吹き出しちゃったんだから!」
少し興奮気味でそう言った小柄な女性は数少ないギルド内の俺の女友だちのシェリナだ。そういえば、俺がみんなに結婚の知らせをした時にこいつは口に含んでいた飲み物を向かいの席に座ってたアルバートにぶちまけたっけ。
「まあ、何はともあれ喜ばしいことではないですか。」
と、爽やかな笑みでそう言った知的そうな男も同じギルド仲間のクォーツだ。
「まあしかし、正直僕も驚きましたよ。この前の遠征の打ち上げの時にあなたから、あのクレアにプロポーズされたと聞いたときは信じられませんでした。」
クォーツはそう言うと、持っていたグラスに口をつけ、ワインを一口飲んだ。
「まあ、本人の俺も信じられなかったから仕方ないよ。」
俺は微笑してそう答えながら、プロポーズされたときのことを思い出していた。
ー3ヶ月前ー
時刻はおよそ午後5時ごろだったと思う。しんしんと降る雪のなか、
ギルドの遠征任務から帰ってきた俺は打ち上げの前に一旦シャワーを浴びようと思い、ギルドの宿舎へと足を運ばせていた。しばらく歩いて宿舎の玄関が見えるあたりまで来ると、宿舎の壁に誰かが寄りかかって空を見上げている様子が見えた。少し距離があったのでその人が誰なのかわからなかったが、顔が認識できる距離まで移動すると、俺はドキッとしてしまった。そこにいたのは有名な騎士団の小隊長にして最強の剣士であるクレアだった。クレアはスタイルも顔立ちもよく、立っているだけで芸術品のようだ。そして、今、柔らかく降り注いでいる雪景色と合わさって美しさが際立っている。
俺とクレアは幼馴染であり、ついてる仕事は違えど、ときどきお互いの職場に遊びに行ったりすることもある。そして俺はクレアに気があるのである。
「や、やや、やあ、クレア。宿舎の前でな、何をしてるんだ?」
だから、心の準備がないと、たまにこんなに緊張してしまうときもある。クレアはその言葉に振り向くと、いつものように優しい笑みを返してくれた。またドキッとしてしまった。
「こんばんは、オルト。遠征お疲れ様。寒いなか大変だったね。」
クレアは、彼女の顔立ちから想像されるような少しおっとりとした口調でそう言った。
「ま、まあね。少し大変だったけど。今回の遠征で希少モンスターを何匹か討伐できたからいい経験になったよ。」
少し落ち着いてきた俺は気が緩んだのか、そう言った後に大きなくしゃみをしてしまった。クレアに恥ずかしいところを見られたなー、と恥ずかしく思っていると、クレアは小さくクスッと笑った。やっぱり恥ずかしい。俺は恥ずかしさのあまりその場から離れようと思った。
「じ、じゃあ。俺はこの後打ち上げがあるから急がないと。それじゃあクレア、帰りは気をつけてね。」
俺はそう言い、宿舎の中に入ろうとすると、後ろからクレアの声が聞こえた。
「ちょっと待って!どうしても伝えたいことがあるの。」
俺は、珍しく少し声を張ってそう言ったクレアに振り返る。彼女は寒いのか、少し顔を赤く染めて、なぜか少し恥ずかしそうに上目遣いでこっちを見つめている。なんだこれ、すごく可愛いじゃないですか。今カメラを持っていたら写真に収めたいくらいだ。そんな変なことを考えていると、クレアはなにか決心がついたように深呼吸をし、真っ直ぐこちらを見つめてこう言った。
「あなたが好きです。私と結婚してください。」
短い言葉ではあったが、その言葉の意味は幼子だって理解できるであろう。しかし、この時の俺は突然の出来事に頭が真っ白になって、その言葉が理解できなかった。そして、数秒ほど経つと、ようやく俺の思考回路は徐々に回復して、その言葉を理解する。クレアが言うには、彼女は俺のことが好きで、結婚したいということだ。うん、そのまんまだな。そして、俺の思考回路が完全に回復したとき、俺は思わず声を出してしまった。
「え、えーーーーー!?」
クレアはいきなり発せられた俺の言葉に一瞬ビクッと身体を跳ねらせた。
「ち、ちょ、ちょっと待って!お、俺が、お、お前と、え、へ、う、うそだろ!?俺なんかがお前と結婚なんて…!」
みんなも考えてみてほしい。自分が意識している異性から突然プロポーズをされたらどうなるか。絶対に焦る。
「ううん。本当だよ。私は今あなたにプロポーズをしてます。」
至って冷静なクレアはそう答えた。
「で、でも!なんで俺なんかと、こんななんの取り柄もない俺なんかと…。」
俺は少し落ち着いて、クレアに言った。するとクレアはいつもとは少し違う雰囲気で微笑んだ。
「ううん。私はあなたが好きなの。他の誰かじゃない。オルト・ジークス、私はあなたが、世界で一番大好きです。」
そう言うと彼女は今まで一度も見せなかったような満面の笑みを浮かべた。
「だから、私と結婚してください。」
彼女がそう言った後に、俺が彼女を抱きしめたのは言うまでもない。
こうして俺たちは婚約を結び、今に至るわけだ。
一通り知り合いとの会話を楽しんだ俺は元いた壇上に戻った。しかし、そこにクレアの姿はなかった。まだ騎士団の人たちと会話を楽しんでいるのかなと俺は思い、壇上から会場全体を見渡す。食事を楽しむ者、会話を楽しむ者、こちらにカメラを向けてはしゃいでいる者など、色々な光景が見えて少し面白い。しばらく辺りを見渡していると、真ん中の方が少し騒がしいことに気がついた。俺は少し気になって騒がしい方に向かった。するとそこには、完全に酒に酔って号泣しながらクレアに抱きついている女性がいた。何事だと俺は思い、クレアに聞こうとそちらへ足を進めようとしたが、周りの野次馬の会話に耳を傾ける。
「おい誰だよ!こいつに酒飲ませたの!こいつめちゃくちゃ酒癖わるいからこういう時とか酒飲ませないようにしてるのに!」
そう言ったのは、立派なあごひげをした大柄な男性だ。そして俺はその男を思い出すのに時間はかからなかった。その男は聖騎士団『ホーリー・ナイツ』の副隊長のディオス・グラディウスだ。そして、クレアにしがみついている女性にも見覚えがある。
「いやああぁぁーー!!!クレアァ〜〜!私を置いてかないでー!」
女性は大粒の涙を流しながら大声でそう叫んでいる。
「落ち着いてルーシー。私はどこにも行かないから。ほら、だんだん人が集まってきたから。ね?」
クレアはそう言って自分にしがみついている女性をなだめているが、一向に落ち着く様子ではない。俺はその女性の名前を聞いて彼女が誰なのか思い出した。ルーシー・ブランデ。クレアの同期で、たしかクレアと仲が良かった人だ。豹変した性格と、泣いたせいでくしゃくしゃになった顔でわからなかった。
「ルーシー、とりあえずこれ飲んで。少しは落ち着くから。」
クレアはそう言って水の入ったコップをルーシーに手渡した。ルーシーはそれを飲み干すと、少し落ち着いたのか、クレアから手を離し、涙を拭っている。
「皆さんすみません。ウチの者が大変失礼を働きました。」
そう言ってディオスさんが周りの人たちに向かって頭を下げている。騒ぎを見ていた人たちはことが治ったようなので次々とその場から離れていく。周りにある程度人がいなくなったところで、ディオスがルーシーに尋問を始める。ルーシーはディオスさんの前で正座させられている。
「で、お前に酒を飲ませたのは誰だ?」
ディオスさんは図太い声でルーシーに聞いた。
「うぅ…。今回は誰も悪くないんです。私が水と間違えて、お酒を飲んでしまっただけなんです…。」
ルーシーはまだ目に涙を浮かべながら俯いてそう答えた。ディオスさんは呆れたようにため息を吐いて何か言おうとしたが、横からクレアが入ってきてルーシーを庇う。
「私は気にしてませんから。ルーシーも反省しているみたいですし。今回は大目に見てあげてください。」
「ぐむぅ…。まあ、お前がそう言うなら仕方がない。今回だけはライトフォードに免じて大目にみるが、これ以上騒ぎは起こすなよ。」
ディオスさんは少し納得のいかない感じにそう言ってその場から去っていった。
クレアはしばらくルーシーの頭を撫でてルーシーが落ち着くのを待っている。
「やあ、クレア。大変だったみたいだね。」
俺はルーシーが落ち着いたところで、そう言いながらクレアに歩み寄った。
「あ、オルト。ううん、大したことじゃないから大丈夫だよ。」
彼女はどこか幸せそうな表情でそう言った。ルーシーは場の空気を察してくれたのか、クレアにお礼を言うと、駆け足でその場から去って行った。クレアはしばらくルーシーを見送って、そして俺に顔を向けると、いつもよりも大げさな笑みを浮かべた。
「それじゃあ、パーティの続きを楽しみましょう。」
今の時刻は夜の8時
式場でのパーティが終え、今から二次会の会場に向かっているところだ。他の国ではどうかは知らないが、この国では結婚式の後に二次会を開くのは珍しくないことだ。二次会の場所は俺が所属しているギルドの酒場だ。そしてメンバーは俺とクレアに、『ホーリー・ナイツ』のクレアの知り合い、俺のギルド仲間だ。みんな遠征の打ち上げに顔を出しているので全員顔見知りだ。綺麗な星空の下を俺たちは少し騒がしく歩いていく。
「いやあ。それにしても、ルーシーの酒癖の悪さには今日も驚かされたなあ。」
ルーシーをからかうようにそう言った男性は、聖騎士団のメンバーの1人、ダリオ・ナーグワーだ。こいつはアルバートの幼馴染の関係で俺たちと知り合った。深い碧色の髪と少し意地の悪そうな細い目が特徴的だ。
「うるさいなあ。今度からは気をつけるからその話はやめてって言ったよね?」
ルーシーは少し頰を膨らませてそう言った。そんな何気ないやりとりを後ろから俺とクレアは微笑ましく眺めている。クレアはドレスから普段着の白いワンピースに着替えたが、クレアの魅力はそれだけでも十分引き立っていた。
「オルト、見て見て。星が綺麗だよ。」
クレアはそう言って俺の服の袖を引っ張りながら星空を指差して言った。こういうたまに無邪気なところも好きだ。俺は空を見上げると、その景色に感動した。夜空には数え切れないほどの星たちが微量でありながらも力強い光を放って、夜空をライトアップしている。
「綺麗だねえ…。」
クレアはうっとりと星空を見上げている。俺はそんなクレアを見て思わず声を漏らしてしまった。
「君の方が、何倍も綺麗だよ…。」
「ん?なんか言った?」
俺はクレアの言葉で我に帰り、今言った自分の言葉を思い出し、恥ずかしくなった。
「な、なんでもないよ。」
俺は慌ててそう言うと、「そう?」と言ってクレアは視線を星空に戻した。そういえば、まだ君にちゃんと気持ちを伝えていなかったっけ。俺は深呼吸をして、少し心を落ち着かせる。恥ずかしいけど、伝えたい、伝えなければならない。
「クレア。」
「ん?なあに?」
ずっと、伝えられなかった俺の本当の気持ちを。
「俺は、君が大好きだ。」
みんなの声が遠く聞こえる静かな夜に優しい風が吹き抜け、クレアの髪を大きくなびかせる。
「そう…。私もあなたが大好きだよ。」
そう言った彼女の表情は大きくなびいた髪でよくわからなかったが、その言葉からは温かい気持ちが伝わってきたような気がした。
「二人ともー。そこでなにしてるのー?早くこっちにおいでよー。」
前方からシェリナの呼ぶ声が聞こえた。
「ああ!今行くよー!…それじゃあ、行こうか。」
俺はそう言ってクレアに手を差し伸べる。彼女は優しく微笑むと、俺の手を握った。
この先、どんな困難が待ち受けているかはわからない、けれど。けれどせめて、大切な君だけは命に代えても守り通してみせる。俺はそう心に強く誓った。
この後、二次会でルーシーが再びやらかし、ディオスに大目玉を食らうのはまた別の話☆
最後ベタになりましたね、すみません☆
次回からバトルシーン出す予定です
キャラクター紹介
【オルト・ジークス(20)】
身長:177cm
体重:65kg
like:クレア、小動物、肉料理、もやし
hate:キノコ、喧嘩
イメージカラー:黒(赤)
容姿、黒髪、ミディアムストレート、赤目、軽装、片手剣
性格:温和、面倒見がいい
【クレア・ライトフォード(20)】
身長:172cm
体重:46kg
like:オルト、ネコ、ドラゴン、魚、新発見
hate:硬い食べ物、怪談、エレメント系モンスター、アンデット系モンスター
イメージカラー:白(赤)
容姿:金髪、サラサラロング、赤目、軽装、片手剣
性格:若干天然、面倒見がいい、あまり騒がない