遊戯王VRAINS 幻影の咆哮~青き天使との日常~ 作:kajoker
スペクターとのデュエルの展開を考えている途中で最近、特別編を書いていないなと思い至り、書いてみました。
今回はタイトルにも書かれている通り、夏祭りの話しになります。
それでは、本編をどうぞ!
「…とりあえず準備はこんなものか」
黒の上着を羽織りながら、俺はそう口にする。
…というのも、今日は夏祭りの日で葵と一緒に祭りを見て回るための準備をしていた。
俺の格好は至ってシンプル、白のシャツに黒の上着、そして紺色のジーパンといった格好だ。
シンプルすぎるって?仕方ないだろ、俺はオシャレというのがよくわからないんだ、まぁ、花恋が言うには俺は基本的には何でも似合うらしいが。
まぁ、俺にはそんな自覚はないけど。
「侑哉!葵ちゃんが来たわよ!」
「わかった、今から行くよ!」
花恋の言葉を聞き、俺は下へと降りていった。
「侑哉!えっと…どうかな?」
下へと降りた俺の目に入ってきたものは浴衣を着た葵の姿だった。
葵の浴衣は水色を基調とした浴衣で所々に花柄の模様があった。
さらには、髪が纏められていて、羽のような形の髪止めがしてあった。
一言で感想を言うと、可愛すぎる。
「あ、あぁ!すごく似合ってて可愛いよ!」
「あ、ありがとう…侑哉」
頬を赤らめながら、葵はそう言った。
その顔は反則だろ…やばい、葵が可愛すぎて辛い。
もちろん、いつもの葵も可愛いけど、浴衣姿の葵は新鮮でいつも以上にドキドキしてしまう。
「これは、色々と心配だな…大丈夫かな?俺」
「侑哉?どうかした?」
「いや、大丈夫だよ…それじゃあ行こうか!」
「うん!」
葵は笑みを浮かべながら、そう返事してくれた。
うん、これは本当にやばいかもしれない…
俺はそんなことを思いながら、夏祭りへと向かった。
/////////////
「見て、侑哉!色々とお店が出てるわ!」
「本当だ、確かに色んな店が出てるな…」
葵の言う通り、射的や金魚すくい、型抜きなどの店や焼きそばにたこ焼きといった出店が並んでいて、その店の多さには少々驚かされた。
まぁ、祭りならこれぐらいが普通なのかもな…最後にこういう所に行ったのは随分前だから、すっかり忘れていた。
「それじゃあ行こうか!」
俺はそう言って、葵の手をそっと握る。
葵もそれに応えるように俺の手を握り返し、恋人繋ぎの状態になった。
「…葵、俺の側から離れるなよ」
「ふふっ!それじゃあこうしましょ!」
そう言って、葵は俺の腕に抱きついた。
ちょっ!いきなりは心臓に悪いって!
「これなら、離れずに済むでしょ?」
「うん…まぁ、確かにな…俺のメンタルが持つかはわからないけど…」
はっきり言って、さっきからドキドキしっぱなしな俺がいる。
普段から葵とはこういうことをしているはずなのに、ドキドキが止まらない。
まぁ、全然悪い気はしないけどさ。
「そ、それじゃあまずは射的にでも行くか?」
「良いわね!私、射的は大得意なんだから!」
「そうなのか…それじゃあ勝負してみるか?」
「望むところよ!」
そうして、俺と葵は射的の店へと向かった。
「さて、何を狙おうか?」
「そうね…あ!あれにしない?」
「あれか…オッケー、それじゃああれを狙おう!」
葵が狙おうと提案したのは、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンがデフォルメされたようなぬいぐるみだった。
何でファントム・ドラゴンがデフォルメされているのかわからないけど、これはこれで良い気がする。
…もしかして、俺の影響だったりするのか?まぁ、それならそれでエンタメデュエリスト冥利に尽きるけど。
(これを落として葵にプレゼントしたいな…その為にも上手いこと当てないとな!)
(これを落として侑哉にプレゼントしたいな…その為にもうまく狙わないとね!)
そんなことを考えながら、俺は射的の店主にお金を払い、射的用の銃を受けとる。
もちろん、葵の分のお金も払っている。
「さて、やってみようか!」
そう言って、俺達は次々にぬいぐるみに向けて、銃を撃つ。
俺と葵の弾は次々とぬいぐるみに命中しているが、なかなか落ちない。
そして、最終的に俺と葵の弾がそれぞれ1発ずつになり、それを放つと同時にそれぞれの弾が同じタイミングでぬいぐるみに命中し、ついにぬいぐるみをゲットできた。
「よし、やったな!葵!」
「うん!でもこの場合は引き分けかな?」
「そうだな…引き分けで良いんじゃないか?」
「そうね…あ、そうだ!侑哉!」
「うん?」
そう言って、葵に視線を移すと、葵がファントム・ドラゴンのぬいぐるみを俺に手渡してくれた。
「これ…侑哉にプレゼントしようと思って…これを狙ったのも侑哉が喜んでくれると思ったからだし…」
「そっか…まさか、葵も同じことを考えていたなんてな」
「え…?」
「俺も葵にこれをプレゼントしようと思ってたんだ…先を越されちゃったけどな」
俺はそう言って、葵に笑みを向ける。
さて、どうしようかな?どうせなら葵に受け取ってほしいけど…せっかく、葵がプレゼントしようとしてくれてるわけだしな。
…よし、決めた!
心の中でそう口にし、俺は葵からファントム・ドラゴンのぬいぐるみを受け取った。
「…ありがとな、大事にするよ!」
「侑哉…ありがとう」
「何で葵がお礼を言うんだよ、むしろ、お礼を言うのは俺の方だろ?」
「侑哉が受け取ってくれたのが嬉しくて…ほら、私はいつも侑哉にもらってばかりだから」
葵は嬉しそうに頬を赤らめながら、そう口にする。
やれやれ、そんな顔をされるとこっちまで嬉しくなってくるな。
そんなことを思いながら、俺はやっぱり葵のことが大好きなんだと改めて思った。
「葵…ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ」
「侑哉…」
「それじゃあ、次の所に行こう!せっかく祭りに来たんだ、楽しまないと損だしな!」
「うん!それじゃあ次は…」
そんな会話を交わしながら、俺達は次の店へと向かった。
俺にもらってばかりか…それはちょっと違うな。
…俺の方が葵からたくさんもらってるよ。
俺は俺の腕に抱きついている葵を見ながら、歩き続けた。
///////////////
「うーん…やっぱり、何か変な気分だな」
「どうかしたの?侑哉」
「あぁ…いや、大丈夫だよ」
「そう?それなら良いけど…」
葵と一緒に歩きながらそんな会話を交わす。
…一応、誤魔化したが、今、俺は正直に言うと気分があまりよろしくない。
誤解しないでほしいが、葵と一緒に色々な所に行ったり、話したりするのはとても楽しいし、幸せだ。
ただ…周りの男共がうるさい、それだけが気にくわない。
葵と俺の横を男共が通りすぎるたびに、〈あの娘、めっちゃ可愛くね?〉とか〈彼氏いるのかよ…いなかったら、誘ってたんだけどな…〉とか、とにかくうるさい。
実際、葵が可愛いなんてことは俺が一番よく知ってる。
…だけど、自分の恋人が不特定多数の人間にじろじろ見られるのはあまり良い気分はしない。
「葵、ちょっとこっちに来てくれ!」
「えっ!…どうしたの?侑哉」
「良いから、ちょっと来てくれ!」
そう言って、葵の手を引きながらできるだけ人目につかない場所へと移動した。
「ふぅ、ここなら大丈夫かな?」
「急にどうしたの?侑哉」
「あぁ…いや、ここから見える花火が結構キレイだって聞いたからさ…」
葵に尋ねられ、そう言葉を返す。
とっさに誤魔化したが、ここから見える花火がキレイだという話しは本当だ…まぁ、花恋から聞いただけで俺は見た記憶がないんだけど。
何でも俺が小さい頃に花恋や両親と一緒に来たことがあるらしいが、異世界に飛んだ影響でその記憶を俺は失っている。
「本当にそれだけ?」
葵がジト目で、そう聞いてくる。
うっ…これはバレてるのかもしれないな…仕方ない、正直に言うとするか。
「まぁ、それ以外にも理由はあるよ…」
「どんな理由?」
「その…他の男達に葵がじろじろ見られるのって、あんまり良い気分はしないからさ…」
俺はそう言って、思わず恥ずかしくなって目を逸らす。
我ながら自分勝手な理由だと思う。
だけど、そう思ってしまったんだからしょうがない。
「へぇ~、嫉妬してくれてたんだ…侑哉」
そう言って、葵は少し嬉しそうな表情をする。
「嫉妬…まぁ、そうなるのか…」
「ふふっ!心配しなくても、私が侑哉以外の人を好きになることはないわよ!むしろ、侑哉が私以外の誰かを好きになることの方が心配よ」
「それはない、断言しても良い…葵以外の人と恋人になることは考えられないよ」
「へっ!?あ、ありがとう…そう言ってもらえると、嬉しいな…」
葵は耳まで真っ赤になりながら、そう言葉を紡いだ。
そして、そのまま俺にそっと抱きついた。
「…正直言って…今でもまだ不安なの…侑哉がいつか私から離れていっちゃうんじゃないかって…だって、侑哉の周りには魅力的な女の子がたくさんいるから」
「葵…」
「だから、侑哉が嫉妬してくれて嬉しかったの…だって、それは私のことをそれだけ好きでいてくれてるってことだから」
「そっか…まぁ、俺からしたら葵が他の男達にじろじろ見られるのはあまり良い気分はしなかったけどな…だから、独善的なことを言うと、これからも俺の側から離れるな、これは命令だ……なんてな」
さすがにふざけすぎたかな…そう思って、謝ろうとすると、葵が口を開いた。
「ふふっ!言われなくてもこれからも侑哉の側に居るわ…例え、侑哉が異世界に飛んでしまっても私が必ず見つけて侑哉を連れ戻すから」
葵はそう言って、より強く俺を抱きしめる。
俺もそれに応えるように葵を強く抱きしめる。
「そっか、それなら安心だな…なぁ、葵…」
「どうかした?」
「大好きだよ…葵」
「私も大好きよ…侑哉」
そんな風に言葉を交わしながら、俺と葵は口づけを交わす。
それと同時に花火が上がり、辺り一面に光が溢れる。
俺と葵はその花火に祝福されながら、より深くキスをする。
辺りには俺達以外の人の姿はなく、花火の光と音だけが響いていた。
/////////////
「花恋が言ってた通り、ここから見る花火は確かにキレイだな」
「そうね…花恋さんに感謝しないとね」
葵は俺に体を預けながら、そう呟く。
「あぁ、そうだな…」
本当に花恋には感謝しないとな…おかげで葵とこんな風にキレイな花火を眺めていられるんだから。
…さて、葵とゆっくり花火を楽しむ為にもさっきから俺達をじろじろと見ているやつらを何とかしないとな。
足音からして、人数は3人ってところか…しかも、全員男か…何が目的かは知らないが邪魔はしないでほしいもんだな。
そう思考しながら、俺は携帯を操作をし始める。
「侑哉…?」
「気をつけろ、葵…何人かが俺達を監視してるみたいだ…今から、ちょっとした作戦を始める」
「監視って!?いつから?」
「そうだな…俺達がちょうど花火を見始めたぐらいだな…すぐに居なくなってくれるかもって期待していたんだけど、そんなことはなかったな」
葵に監視されていることを伝えなかったのも確証を持てなかったからだ、もしかしたら偶然ここを通りかかっただけの人かもしれないからな。
「でも、どうして私達は監視されているの?」
「多分、葵を拐うことが目的なんだと思う…今、動き出していないのも葵が1人になるのを待っているんだと思う…」
「そんな…!」
葵はそんなふうに驚愕の声を上げる。
俺だって、正直言ってあり得ないと信じたい…だけど、今の状況ではその可能性が最も高い。
幸いにも、向こうは俺達が監視に気づいているとは夢にも思っていない、だから、葵を救う為にも最善を尽くす!
「侑哉…」
そう俺の名前を呼んで葵は俺へとしがみつく。
その体は小刻みに震えていた。
「大丈夫だ、俺が葵を守ってみせる」
そう言って、葵のことをそっと抱きしめる。
「侑哉…ありがとう」
「あぁ、任せてくれ」
俺がそう言うと、葵は安堵した表情で頷いた。
…さて、ある程度の準備は整った…もうしばらく時間を置いて、作戦開始だな。
そうだ、一応念のため…
そうして、今の状況で、できるだけの準備をしてから俺は行動を始めた。
「それじゃあ、そろそろ行こうか!葵」
「うん…!わかった!」
葵がそう元気よく返事を返し、そのまま俺の腕に抱きつく。
「葵、悪いけどちょっと離れてくれないか?」
「どうして?」
「良いから!」
「わ、わかった…」
そう言って、葵は少し名残惜しそうに俺の側から離れた。
そんなに名残惜しそうにしなくても良いのにな…だって…
「よっと!軽いな…」
「ふぇっ!?ゆ、侑哉!?」
葵は突然の出来事に思わずそんな声をあげる。
それもそうだろう…だって、今の葵は俺に所謂、お姫様抱っこされている状態だからだ。
「逃げるぞ!葵!しっかり掴まってろよ?」
そう声をかけて、俺は全速力で走り出す。
そのおかげで、すぐにさっきの場所から離れられた。
俺達の逃走に気づいたのか、先ほどまで俺達を監視していた人達が後ろから追いかけてくる声が聞こえてくる。
悪いが、あんた達に付き合っている暇はないんだ…このまま逃げ切らせてもらう!
夏祭りでごった返す人達を次から次へとかわしながら、全速力で走り続ける。
そうして、人混みを抜けて、夏祭りの会場の奥にある神社へとたどり着いた。
「はぁ、はぁ…ここまで来れば大丈夫かな?」
「侑哉!大丈夫!?」
「あぁ…大丈夫、大丈夫…」
そう言いながら、少しずつ呼吸を整える。
さすがに全速力で走るのは疲れるな。
「君達、大丈夫かい!?」
俺と葵が会話を交わしていると、警察官の人が俺達へと声を掛けた。
声を掛けてくれた人以外にもう1人警察官の姿が目に入り、うまくいったと心の中でガッツポーズをした。
「ここに誰かに追われている人達が居ると、通報を受けて来たんだが…君達のことだったのか」
「はい、そうです…多分、俺達を追ってきた人達がもうすぐここに来ると思います…あ、噂をすればなんとやらですね」
ふと、視線を移すと先ほどまで俺達を追っていた男達が姿を現した。
「ゲェッ!何でここにサツがいるんだよ!」
「ヤッベェ!早く逃げねぇと!」
「そうだな、早く逃げねぇと!」
そう言って、男達は逃げようとしたが、ここまで俺達を追ってきたせいで、体力が残っていないようだった。
まぁ、それも含めて作戦の内ではあったけど。
そうして、ほどなくして男達は警察官の人の手によって逮捕された。
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「はぁ、疲れたな…せっかくの夏祭りだったのにな…まぁ、結構祭り自体は楽しめたから良かったけど…葵は大丈夫か?」
「うん、侑哉のおかげでね!そう言えば、結局作戦って何だったの?」
「そうだな、どう説明するかな…とりあえず、まずは、あの監視に気づいた後、俺は花恋にメッセージを送って110番に連絡をしてもらったんだ」
私が作戦について侑哉に尋ねると、侑哉は自分の考えていた作戦を語り始めた。
「ただ、警察に連絡したところですぐに来れるとは限らない、だから、警察に電話する時に花恋に場所を指定してもらうように頼んだんだ…それがあの神社だ…そうして花恋にそう連絡をしたら、しばらく時間を置いて、全速力で逃げる…そうすることで、警察が来るタイミングと合わせることとあの男達のスタミナを奪うのを同時にこなそうと思ったんだ」
結果的にうまくいって良かったよ、と侑哉は後に付け足しながら、苦笑しつつそう言った。
「後は、一応証拠を残すために花恋に俺に仕掛けた小型カメラを送ってもらって、葵からもらったぬいぐるみを葵に預けたってところかな」
侑哉はそう言って、笑みを浮かべた。
すごい…侑哉は全部計算してたんだ…あの男達の行動や警察官が来るタイミングまで…
わかっていたつもりだったけど、侑哉はすごく頭の回転が早い。
…だけど、何よりも侑哉が私の為にそこまで行動してくれたのが嬉しかった。
「ねぇ、侑哉…今日は侑哉の家に泊まって良いかな?」
「もちろん、葵なら大歓迎だよ!」
「ありがとう…ねぇ、もう一つ我が儘を聞いてもらって良い?」
「それは構わないけど…何だ?」
「えっと、その…侑哉の家に着くまでお姫様抱っこしてほしいな…なんて」
自分で言って恥ずかしくなり、思わず侑哉から目を逸らしてしまう。
「何だ、それぐらいならお安い御用だよ!」
侑哉はそう言って、私をすぐさまお姫様抱っこする。
侑哉にお姫様抱っこされると同時に侑哉の顔が近くなる。
ち、近い!お姫様抱っこされているから当然なんだけど、こういう感じで顔が近くなるのは心臓に悪いわね…
多分、今の私は顔が真っ赤になっていると思う。
ただ、侑哉も同じなのか、照れくさそうに私から目を逸らしていた。
「…そ、それじゃあ帰るか!」
「う、うん…!」
そうして、私達はどこか気恥ずかしさを感じながら帰路へと着いた。
といった感じの特別編でした!
夏ということで、夏祭りか海に行く話しにしようか悩んだのですが、最終的に夏祭りの話しを書くことにしました。
まぁ、もしかしたら、海に行く話しもその内書くかもしれませんが…
それでは今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!