遊戯王VRAINS 幻影の咆哮~青き天使との日常~ 作:kajoker
侑哉を救う方法を思い付いた花恋…果たして、その方法とは…?
それでは本編をどうぞ!
「……はぁ」
誰もいない教室で一人、そうため息をつく。
その教室はいつもの教室じゃない…だって、いつもならこの時間に来ているはずの侑哉が居ない。
あの後、結局、ギリギリまで侑哉の側に居たけど侑哉が目覚めることはなかった。
でも、そんな状況でも、もしかしたらと期待してしまう自分が居た。
本当は、侑哉はとっくに目が覚めていて私をからかう為に眠ったふりをしていて…学校に行けばいつも通りに、『おはよう、葵!』、なんて、声を掛けてくれるって…
ーーーーーそんなこと、あるわけないのに…
私がそんなことを思っている間にも時間は過ぎていく、いつもなら侑哉と他愛ない会話を交わして、そして、朝のホームルームが始まる…
そんな当たり前の日常が今の私には存在しない。
「侑哉……あなたの声、聞きたいよ…いつもみたいに学校で一緒に過ごしたいし、デートだってしたい…」
だから、早く戻って来て…!
私のそんな呟きは誰にも聞こえずに消えていった。
ホームルームの後に授業が始まったけど、まるで頭に入ってこない、頭の中は侑哉のことばかりで授業に集中することなんて、まるでできなかった。
侑哉が居ないだけで、こんなにも私の世界は色褪せてしまう…当たり前の日常がなくなるのはこんなにも苦しいものなんだって、改めて思い知った。
…今日はもう帰ろう、それで侑哉の様子を見にいこう。
私は、そう思って先生に早退することを伝えて教室を出た。
途中で葉山さんに呼び止められたけど、今日はもう帰ることを伝えて、その場を後にした。
/////////////
「う~ん、どうしましょ…この状況…」
授業が終わり、今は放課後、いつもならデュエル部の活動をしているところなんですが…
「皆さん、元気がないですね…」
理由は言わずもがな、侑哉君が居ないからです。
いつもなら、侑哉君のデュエルしようぜ!、の一言がきっかけで活動が始まるんですが、今はその侑哉君が居ない…
それに、財前さんも早退しちゃいましたし…デュエル部に活気がないのもしょうがないのかもしれません。
いつものように、侑哉君と財前さんのイチャイチャを見せつけられて、私がそれにツッコミを入れる、なんて光景も今のデュエル部にはありませんし…
普段はそのイチャイチャに対して、若干イライラすることもありましたが、今の状況に比べたら…むしろその方が良い気がしますよ…
財前さんに元気がなかったのは間違いなく侑哉君に何かあったから…Phantomさんとブルーエンジェルのデュエルの時、明らかにPhantomさんの様子がおかしかった。
きっと、財前さんもそれを見たからこそ、あんなに落ち込んでいるんだと思う。
まぁ、Phantomさんの正体が侑哉君だってことは私と財前さんぐらいしか気づいていないでしょうけど。
「なぁ、葉山…」
「どうしたんですか?藤木君」
「侑哉がいないとこんなに静かなものなのか?」
私がそんなふうに考えていると、藤木君にそう声をかけられた。
「そうですね…いつもは侑哉君がきっかけで活動が始まるぐらいですから…」
「そうか…」
そう呟いて、藤木君は押し黙ってしまう。
「あの、もしかして何か知っているんですか?」
「知っているって、何が?」
「侑哉君のことです…何か知っているなら教えてください!」
「…あいつは」
「あいつは?」
私がそう聞き返すと、藤木君は真剣な表情をしてこう言った。
「あいつは…ちょっと体調を崩しているらしい、でもすぐに治るって言ってたから、そこまで心配しなくても大丈夫だ」
「そ、そうですか…なら、良いんですけど…」
藤木君のその言葉に少しだけ、周りの空気が和らいだ気がする。
今の藤木君の言葉が嘘か本当かはわからなかったけど今は本当だと信じることにした。
…侑哉君はすぐに戻ってくる、そう信じたかったから。
侑哉君、早く元気になってくださいね…
私はそう願いながら、デュエル部の活動を再開した。
//////////////
「……はぁ」
自分の部屋で何度目かわからないため息を溢す。
結局、家に帰ってきたところで何かが変わるわけでもなく、こうして一人でただボーっとしている。
侑哉の様子を見に行きたいのに、心のどこかでそれを拒否してしまう。
多分、見に行っても何も変わっていないのが怖いんだ…侑哉がもしかしたら二度と目を覚まさないかもしれない、そう思うと怖くてたまらない。
「侑哉……あ、そういえば…」
あるカードのことを思い出し、デュエルディスクの中のカードを見る。
そのカードはオッドアイズ・ファントム・ドラゴン、侑哉のエースモンスター…
「…結局、返せてなかったわね…このカード」
本当はすぐに返すべきだったけど、侑哉を助けることに夢中で、返す暇がなかった。
「侑哉の目が覚めたら、ちゃんと返そう…目が、覚めたら…」
そこまで言って、また心が沈む…
もし、侑哉が目覚めなかったら…?二度と話せなくなってしまったら…?
もしそうなったら、私は…
「…っ!電話?」
ふと、電話の着信音が響き、慌てて電話の相手を確認する。
「花恋、さん…?」
その着信者の名前を見て、すぐに電話に出る。
花恋さんが電話を掛けてきたってことは…
「もしもし!花恋さん、侑哉を助ける方法がわかったんですか!」
『ちょ、ちょっと落ち着いて、葵ちゃん…ちゃんと説明するから…』
「あ、すみません…花恋さん…」
『良いわよ、気にしないで…それで、電話した理由だけど…葵ちゃんの言う通り侑哉を助ける方法が見つかったわ』
「本当ですか!?」
『本当よ、それで今からこっちに来れる?できれば家で説明したいんだけど…』
「はい!すぐに行きます!」
『そ、そう…わかったわ、それじゃあ待ってるから』
花恋さんは少し困惑したような声でそう言って、電話を切った。
花恋さんとの通話を終えて、すぐに準備を始める。
さっきまで、悲観的になっていたのが嘘みたいに活力が湧いてくる。
侑哉を助けられる、そう思うだけで体が軽くなってなんでも出来そうな気がしてくる。
そして、そんなことを思っていると、いつの間にか侑哉の家に着いていた。
「花恋さん!侑哉を助ける方法を教えてください!」
「葵ちゃん、嬉しかったのはわかるけど、せめてインターホンぐらいは押して欲しかったわ…」
私が勢いよく家の扉を開くと、目の前に呆れたような表情をしている花恋さんの姿があった。
「まぁ、なんとなくこうなりそうだったから鍵を掛けてなかったんだけど…」
「…すみません、つい…」
「良いわよ、それじゃあ着いてきて」
私は花恋さんに促されるまま、着いていった。
「それで、花恋さん…侑哉を助ける方法って?」
「まぁ、とりあえずそこに座って、ちゃんと説明するから」
「はい…」
花恋さんは私に近くのソファーに座るように促し、説明を始めた。
「侑哉を助ける方法としては、まずLINK VRAINSに居るアバターの内部に侵入、そして、アバターの内部から電脳ウィルスを見つけ次第それを除去する、という方法よ」
「電脳ウィルス…?何ですか、それ…」
「簡単に言うと、アバターの内部に潜んで現実の体を蝕むウィルスのことよ…侑哉の体に異常がなかったのもそのせい」
「アバターの方にウィルスがあったから、現実の侑哉には何の異常もなかった…そういう事ですか?」
私がそう言うと、花恋さんは肯定するように頷いた。
でも、アバターの内部にウィルスがあるならどうやってウィルスを除去するの?
「アバターに侵入するプログラムなら、もう完成しているから、特に問題はないわ…」
「え…?」
私の疑問に答えるように花恋さんがそう言い、思わず間抜けな返事を返してしまう。
「まぁ、元々侑哉に頼まれていたプログラムを形にしただけだから、そこまで時間は掛からなかったんだけどね…」
「ちょっと待ってください、侑哉が頼んだんですか?」
「そうよ、葵ちゃんがplaymakerにデュエルを挑んだ時があったでしょ?」
「は、はい…ありましたけど…」
「…その後の葵ちゃんの様子がおかしかったから、誰かが葵ちゃんに何かしたんじゃないかって、侑哉は考えたみたい…だから、それを確かめるために…」
「花恋さんにそのプログラムを作るように頼んだ…」
「そういうこと…」
知らなかった、侑哉がそんなことを考えていてくれてたなんて…
未だにあの時のことは思い出せないけど、今はそんなことより侑哉が私の為に行動してくれていたことが嬉しかった。
「まさか、そのプログラムを侑哉を助ける為に使うことになるとは思っていなかったけど…」
花恋さんは少し悲しげな表情をしながら、そう言った。
「花恋さん…」
「…さて、続きを話しましょうか」
「はい、お願いします!」
「…次にウィルスを除去する方法だけど、私達は電脳ウィルスの除去プログラムなんてものは持っていない、だから、正攻法で除去するのは難しいわ」
「それじゃあどうするんですか?」
「…ウィルスを書き換えるのよ、いわゆるリプログラミングね」
「リプログラミング…?」
聞きなれない単語に首を傾げる。
「詳しい説明は省くけど、要するにウィルスを別のものに書き換えて、除去するのよ」
「…えっと、話しについていけないんですが…」
「そうね…ゲームのセーブデータをイメージしてもらえば良いかもしれないわね」
「ゲームのセーブデータですか…」
「元々あったセーブデータにセーブするとデータが上書きされるでしょ?それと同じように電脳ウィルスに別のものを上書きして、電脳ウィルスを除去する、要はそんな感じね」
「なるほど、なんとなくわかりました…」
本質的には少し違うのかもしれないけど、花恋さんの説明のおかげでなんとなく理解することができた。
「まぁ、とにかくそうすることで侑哉の電脳ウィルスを除去するのよ……ただ、少し問題があるの」
「問題?」
「このプログラムは電脳ウィルスを、デュエルウィルスに書き換えるものなの…まぁ名前から察してくれてるかもしれないけど、デュエルに勝てば侑哉のウィルスは除去できるけど、負ければ逆に自分がウィルスに感染してしまうっていうウィルスね」
「つまり、リスクが高いってことですか?」
「ごめんね、本当は無害なものに書き換えるようにしたかったんだけど、時間がなかったの…」
花恋さんは申し訳なさそうにそう言った。
でも、私からすれば十分すぎるくらいだ…だって
「…デュエルに勝てば良いんですよね?それなら私でも何とかなります」
「…葵ちゃんなら、そう言ってくれると思ってたわ…ちなみに一応言っておくけど、私の作ったプログラムはろくに検証が出来ていない…本当に上手くいくとは限らない…それでもやる?」
花恋さんが私の覚悟を試すようにそう聞いてくる。
―――――そんなのとっくに決まってる。
「やります…侑哉はいつも私を助けてくれた…だから、今度は私が侑哉を助けてみせる!」
「…わかった、そこまで言うなら止めないわ……葵ちゃん、侑哉のこと頼んだわよ!」
「任せてください!侑哉は絶対に私が助けます!」
「ありがとう…それじゃあさっそく葵ちゃんのデュエルディスクにプログラムを転送するわ」
そう言って、花恋さんは私のデュエルディスクをパソコンへと繋ぎ、作業を開始した。
待っててね、侑哉…すぐに助けに行くから!
私はそう決意しながら、花恋さんの作業が終わるのを待った。
といった感じの第23話でした!
侑哉を助ける方法がわかりましたね…果たして、葵は侑哉を助けられるのか…?
それでは今回はここまで、ここまでの拝読ありがとうございます!