遊戯王VRAINS 幻影の咆哮~青き天使との日常~ 作:kajoker
今回は少し暗い展開です…まぁ、侑哉が倒れちゃってるわけですから、しょうがないかもしれませんね…
それでは本編をどうぞ!
「……侑哉」
「葵ちゃん、大丈夫?」
花恋さんが心配そうに私にそう尋ねてくる。
私達の今いる場所は病院…あの後、侑哉を安全な場所に連れて行った後、ログアウトして侑哉の様子をすぐに確認した。
すると、やっぱり、侑哉はぴくりとも動かなくて、すぐに病院へと連絡した。
そして、その時に偶然、屋上にやってきた藤木君に手伝ってもらい、今に至る。
まさか、花恋さんと藤木君が知り合いだとはおもっていなかったけど…
でも、よくよく考えたら藤木君は侑哉とも知り合いだったわけだから花恋さんと知り合いだったとしても不思議じゃない。
「葵…!」
私がそんなふうにここに来るまでの経緯を思い出していると、声が聞こえてきた。
「兄さん…」
「葵、無事か?」
「何とか…」
「そうか、良かった!」
兄さんの安堵したような声が響く…私の事を心配していたからこその言葉…でも、今はその言葉に苛立ちを覚えてしまう。
だって、その言葉は侑哉のことを無視しているから…兄さんはSOLテクノロジー社で私と侑哉のデュエルを見ていたはず…なら、私よりもまずは侑哉のことを心配してほしい。
そうじゃないと、花恋さんにも失礼だ…
「…兄さん、悪いけど帰ってくれない?」
「何故、そんなことを言うんだ!私はお前の事を心配して…」
「ごめんなさい…でも、今は兄さんと話す気分になれないの…」
「…わかった、それじゃあ私は先に帰るとしよう」
「ありがとう、兄さん」
「…いいや、私の方こそ配慮が足りなかった…すまなかったな、葵…」
兄さんはそう言って、病院から去って行った。
少し強く言い過ぎたかな……でも、このまま兄さんと話していたら、もっと酷いことを言ってしまいそうだったしこれで良かったかもしれない。
「…葵ちゃん、良かったの?お兄さんを追い返して…」
「はい…あのまま話し続けたら間違いなく喧嘩になってましたから」
「そう…」
花恋さんはそう言って、俯いていた。
それにしても、喧嘩か…少し前の私からは考えられないわね。
思えば、前の私と兄さんは普通の兄妹とは程遠かった気がする……侑哉と出会っていなかったら、今ごろこんな風に普通の兄妹みたいになれていなかったかもしれない。
「…侑哉…」
そう、名前を呼んで実感する…侑哉の存在が私の中でどれほど大きなものだったのか。
「葵ちゃん、もしかして責任を感じてるの?」
「…責任を感じてるか…?そんなの当たり前じゃないですか…」
「………」
「だって、私のせいだから…私のせいで侑哉が…!」
花恋さんの言葉に感情が爆発する…涙が頬を伝い、流れてゆく。
私が、あのカードの存在に気づいていたら侑哉はあんなことにならずに済んだかもしれない、そう思うと後悔せずにはいられない。
「葵ちゃんのせいじゃないわ…侑哉もそう言ってたんでしょ?」
「確かに、そう言ってました…でも、そんな簡単に割りきることなんてできません…」
涙を拭いながら、そう言う私に花恋さんは言葉を続ける。
「確かにそうかもね……なら、責任を感じたままでも良いわ、ただ…侑哉が目を覚ました時は笑顔で出迎えてあげて」
「笑顔で、ですか…」
「そうそう、侑哉は葵ちゃんの笑顔が大好きだからきっと喜ぶわよ?」
「そ、そう、かな…?」
花恋さんの言葉に、少し恥ずかしくなって思わず目をそらす。
「うんうん、やっと暗い表情以外の表情が見れたわね」
「え…?」
「ずっと暗い表情ばかりしてたから…やっと暗い表情以外が見れて良かったわ」
「あ…」
確かに侑哉が意識不明になってからずっと暗い表情だったかもしれない。
花恋さんはそれに気づいて…
「ありがとうございます…」
「良いのよ…あ、ちなみに侑哉が葵ちゃんの笑顔を見たがってるだろう、って思ったことは本気よ…まぁ、言わなくてもわかってるだろうけど…」
「…っ!そ、それは…」
恐らく花恋さんはお家デートの時、私が侑哉と花恋さんの会話を聞いていたことを言っているんだろう。
あの時、侑哉が言っていたことを思い出して、思わず頬が熱くなる。
「いや~、あの時は驚いたわよ…侑哉と葵ちゃんがあんな事を……」
「それ以上は言わないでください!思い出したら恥ずかしくなってきましたから!!」
「ごめんごめん…少しからかいすぎたわね…でも少しは元気になったみたいね」
「まぁ、確かに少しは気が楽になりましたけど…」
確かに少しは元気になった気がする。
「それなら良かったわ…あ、先生が出てきたわね」
そう言って、花恋さんは集中治療室から出てきた先生へと駆け寄っていった。
「私も行かないと…」
私はそう呟いて、花恋さんの後を追いかけた。
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「原因不明…ですか?」
「はい、身体検査を行ったのですがどこにも異常は見当たりませんでした…」
「なら、どうして侑哉は目を覚まさないんですか!!」
先生の説明を聞いて、思わずそう声を荒げる。
「葵ちゃん、落ち着いて…」
「で、でも…」
「…もう一度、精密検査を行ってみますので状況がわかり次第、ご連絡します」
そう言って、先生はどこかへ行ってしまった。
「侑哉…」
部屋のガラス越しに眠っている侑哉の姿を見る。
どうして…?何で侑哉が…
そんなことばかりが頭に浮かんでしまう。
本当なら私がああなっているはずだった…でも、侑哉が助けてくれたから、私はここにいる。
…何だ、結局は私のせいじゃない…
侑哉がこんな目に合っているのは……
「葵ちゃん、もしかして自分がああなれば良かったって思ってるの?」
「え…?」
「だとしたら、それは大きな間違いよ…もし、葵ちゃんがあんなふうになってたら今頃、侑哉の方が今の葵ちゃんみたいになってたわ」
「それは…!」
確かに、もし侑哉が私の立場だったら私と同じように考えてくれたかもしれない。
自惚れかもしれないけど、侑哉ならそうしてくれる気がする。
「…どうしたら侑哉を助けられるんでしょうか?」
「それは、私の方で考えてみるわ……そして、私の侑哉に手を出したことを後悔させてやるわ…!」
「ちょっと待ってください…最後のは聞き捨てなりません、侑哉は私の恋人です!」
「そこには反応するのね……葵ちゃんって意外と独占欲が強い方?」
「そう、かもしれません…こんな時まで嫉妬しちゃうぐらいですから…」
自分で言ってて、嫌になってくる…本当に私って重い女…
「そう…まぁ、とりあえず侑哉を助ける方法がわかったら連絡するわ!それじゃあまたね!」
花恋さんはそう言って、病室から出ていった。
私もそろそろ帰ろうかな…
「…やっぱりもう少しだけ…侑哉の側に居たいな…」
私はギリギリまで侑哉の側に居ることにして、近くのソファに腰掛けた。
もしかしたら侑哉が目を覚ますかもしれない、そんなことを思いながら。
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「さーて、どうしましょうか…」
葵ちゃんにああは言ったけど、正直、手詰まりなのよね。
そもそも侑哉があんな状態になっている原因すらわからないから対処のしようがないのよね。
考えられる可能性としては…
「やっぱり、電脳ウィルスかしらね…」
侑哉の身体に特に異常がないんだからそれぐらいしか考えられないわよね。
電脳ウィルスは簡単に言えば、アバターに潜んで現実の身体を蝕むウィルスのこと。
まさか、そんなものが現実に存在しているとは思っていなかったけど…
「いや、あの人なら可能かもしれないわね…」
ある一人の人物のことが頭に浮かぶ…でも、あの人はもうすでに…
「いや、今はそんなことを考えている場合じゃないわね…侑哉を助ける方法を考えないと」
電脳ウィルスを除去する方法…一番良い方法は電脳ウィルスを作った人間に除去プログラムを渡してもらうことだけど…
「…渡してくれるわけないわね」
そもそも渡してくれたら苦労しない…
そうなると、自分で除去するしかないわね。
「…そうだ!侑哉に頼まれてたプログラム…あれが使えるかもしれないわね…」
そう思いついて、すぐに侑哉に頼まれていたプログラムを開く。
まだ、作成途中だけど完成できれば、アバターの中に潜む電脳ウィルスを除去できるかもしれない。
「後は、どうやってウィルスを除去するか…それが問題ね」
除去プログラムを作るのは、いくらなんでも無理だし…考えろ、考えるのよ、私!
もし、侑哉ならどう考える?
いつも私には思い付かないような発想を見せてくれる侑哉なら…
侑哉なら…きっと発想を逆転させる。
「発想を逆転させる……そうだ!ウィルスを除去できないなら、書き換えちゃえば良いのよ!」
そうと決まれば、さっそく始めないと!
私はそのまま思い付いたアイデアを形にしていく…
少し時間が掛かりそうだけど、これなら侑哉を助けられるかもしれない!
私はそんなふうに思いながら作業を続けた。
といった感じの第22話でした!
しばらくは、侑哉以外の人達を中心に話しを展開する予定です。
それでは今回はここまで、ここまでの拝読ありがとうございます!