星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーードンブラー村ーー

 

「……ねぇ、委員長。キザマロもさ、ちゃんと理由があって帰りたがらないんだよ。でも、ボク達に愛想を尽かした……とかじゃなくて、しっかり前を向いて歩いていく為に必要な…………」

 

「…………」

 

 ダメか。ちっとも聞いてくれやしない。さっきからずっと橋の上で湖面を見つめていて、ロクに反応も返してくれない。

 

「はぁ………………ん?……地震!?」

 

 なんだ、こんな時に……って、まさかもうブラキオ・ウェーブのお出ましか!?

 ……どうしよう。ボクに水中戦の心得はないのだけれど、ちゃんとブラキオ・ウェーブの相手が務まるのだろうか。

 

「(いや……な~んか、妙だぜ)」

 

 ロックの勘は正しい。地震が起きた時、水辺なら真っ先に警戒しなくてはいけないもの。それは…………

 

 

 

『ツ、ツ、ツ…………ツナミだぁぁぁぁっ!!』

 

「津波…………だって!?」

 

 ボク達が状況の確認に努めている間に、幾人もの村人が橋を渡っていく。こんな場所に住んでいる人間だ、津波の脅威なんて嫌って程理解しているに決まっている。それに、展望台にいた人の話では、大昔に近隣の村々が纏めて津波で沈んだコトもあるそうだし、一層敏感になるってものだろう。

 

 

『高い所へ……「展望台」へ避難しろぉぉぉっ!!』

 

 村人と思わしき声が、周囲の人々へと避難を促す。何処へ避難すればいいのかわからずにオロオロしていた人達が、一斉に展望台へと駆け出していく。

 

「ボク達も早く、『展望台』へ避難しよう!」

 

 ここで油を売っている暇はない。流石に津波に巻き込まれて溺死なんて結末はごめん被りたいところだ。

 

「…………」

 

 喋らなくても危険は理解しているようで、委員長は駆け出したボクの後ろにピッタリと張り付いてくる。あれ、結構本気で走っているんだけど……相変わらずのハイスペックぶりである。委員長の部屋には、何かの大会や賞で手に入れたと思わしきトロフィーが、山ほど飾ってあったので今更感はあるけどね。

 ……兎に角、一刻も早く展望台にたどり着かなくては!

 

 

 

 ーー展望台ーー

 

 轟音と共に、ドンブラー村へと巨大な波が唸りを上げて襲い掛かる。……これが津波か。まるで、死を振り撒く死神かのような存在感だ。村全体を覆い尽くす程の水量は、意思なき破壊者として表現するのも烏滸がましいレベルの衝撃を、各々の家屋に与えていく……

 

 

 

 

 

「フゥ…………危なかった……!」

 

 記憶の中にも、実際に津波を体験したという事実はない。なので、これが初めての実体験になるのだろう。端的に言うと、とても恐ろしかった……死が鎌首を上げて追い縋ってくるような、そんな得体の知れない恐怖だ。

 

「…………」

 

 委員長は何も喋らない。先程から展望台に避難してきた人達を確認していたので、恐らくはキザマロがいないことにも気づきかけているのだろう。

 津波による影響を鑑みても異常な程に水位は上昇し、展望台の周囲は完全に水没してしまっている。復興するにも手間と費用が掛かりそうな状態だと推察出来る。

 

 

 

『あ、あれは何だ!?おい!!皆、あれを見てみろ!』

 

 観光客が突然、驚愕の声をあげる。展望台にはドンブラー村にいたほぼ全ての人間が集まっているので、自然と皆、声をあげた観光客の方へと注意が集まっていく。その視線の先、湖面に見えたのは……

 

『ド……「ドッシー」だぁぁぁッ!!!』

 

『本当に居たぞ!』

 

『だ、大発見だ…………ッ!!』

 

 驚きと興奮が、見物人達の心を支配する。津波に襲われたばかりだというのに、人々はドッシー(と思われる存在)を発見したことで大いに沸いていた。

 

「シッシッシッシ!いいね、いいねぇ!!その反応!!カメラッ!!「ドッシー」様をしっかり録ってくれよな!!世紀の大スクープ映像!!……本物の古代竜だぞ!!」

 

 心配しなくとも、既にカメラマンは撮影を始めている。リポーターがいないので、若干味気ない映像になること請け合いだろうけどね。

 

「あれが『ドッシー』!?……ロック!」

 

「(……ああ。コイツはヤベェ!あの感じ、間違いなく電波体だぜ!!)」

 

「やっぱり……それにしても、『ドッシー』の正体が電波体だったなんて……!?それに、ビジライザー無しでも見えるってことは……」

 

「(ああ、ここはビジブルゾーンなんだろうな。……なんてコトはどうでもいい!兎に角、さっきの津波はヤツの仕業だぜ!クックックッ!やっと面白くなってきたじゃねぇか!!大暴れしてやるぜ!!)」

 

「ロック、ブレないね……」

 

「(ヘヘッ、そりゃ褒め言葉ってモンだぜ!)」

 

 もうちょっと、程々にブレてほしいというのがボクのお願いではあるんだけど……まぁ、乗り気なのは良いことか。あとはレッドホット・チリペッパーみたいに、水中で拡散しちゃわないといいんだけど……

 

「スバルくん!!」

 

 ブラキオ・ウェーブを視界に納める為に、委員長から一度離れていたのだけど、今度は委員長の方からボクに寄ってきている。流石に何時までも無言のまま……というワケにはいかないのだろう。

 

「どうしたの、委員長?」

 

「や、やっぱりいない……いないのよ…………!キ、キザマロが……何処にも!!」

 

「いない?…………キザマロが!?」

 

「ふと気になって、展望台を探し回ってみたの!そしたらやっぱり、いないのよ!あのコまさか……逃げ遅れたんじゃ……!?」

 

 

 ーープルルルル!!

 

「ッ!!」

 

「ッ!!…………っと、キザマロからだ!……ブラウズ!」

 

 反射的に発声したブラウズの指示に従って、ボクの眼前にエア・ディスプレイが出現する。その画面は乱れ、ノイズが走ってまともに見ることは出来ないようだ。

 

『助けてくださぁぁぁぁい!!』

 

 音声のみのエア・ディスプレイから、キザマロの悲痛な声が響いてくる。何事か……と周囲の視線が集まるが、逃げ遅れた人が通信出来るとは思えないだろう……という判断によって、直ぐにその視線は霧散した。

 

「無事なの?キザマロ!?今、何処にいるの!?」

 

『そ、その声は……委員長……!』

 

「大丈夫!?ケガは無い!?」

 

『お、怒っているんじゃないんですか……?』

 

 キザマロが恐る恐る……といった具合に委員長のご機嫌を伺う。こんな状況で気にすることじゃないっての!

 

「バカ!!何言ってんの!こんな時に!!もう一度聞くわ!今、何処にいるの!?」

 

『い、委員長…………今、どうやらボクは湖の底にいるみたいです!せ、潜水艦に閉じ込められているんです!!狭いし…………真っ暗だし……もうどうしていいか、わかりません……!!!お、お願いし……す!助け……くだ……』

 

 ーーブツッ!

 

 通信状況が悪くなったのか、遂に音声すら届かなくなってしまったようだ。

 

「キザマロ!キザマロ!?…………ダメ、かからない!…………う、ううう……ワ、ワタシのせいだわ……ワタシがキザマロと喧嘩なんてしなければ……」

 

 直ぐに自分のスターキャリアーでもキザマロへ電話を試みるが、やはり通信状況が悪いらしく、ちっとも繋がらない。しまいには、泣きそうになってしまった。

 

「委員長……」

 

 まったく、今日のキザマロはサイテーだ。……二度もダイアモンドメンタルの委員長を泣かすなんて!因みにダイアモンドって、実は結構……いや、何も言うまい。

 

「スバルくん……お願い。一生のお願い!!キザマロを助けてあげて!!」

 

「キザマロだって、ブラザーなんだ……そんなの当たり前だ!ボクに任せて!絶対に、キザマロはボクが助けてみせるから!だから大船に乗った気持ちで待っててよ!」

 

 幸いなコトに、キザマロは凍傷になりかけているとか、永遠にコチョコチョの刑を執行されている……とかでは無いので、多少の余裕はある。あとは残存酸素量の問題だけど、仮にも潜水艦って呼ばれているくらいなんだから、酸素の貯蔵量にあまり気を配る必要はないだろう。

 

「う、うん……」

 

「(オイ、助けに行くのはいいとして……どうやって湖の中を探すつもりだ?この湖、かなりデカイし底も深そうだ。何も考えず探してたら、途方もなく時間を食っちまいそうだぞ)」

 

 なんか、こういう時に限ってロックの勘が冴え渡るのは何故なんだろうか。必要な物資を手際よく提案してくれるところとか……

 

「確かに……効率よく探す方法か……いや、あるよ!……ほら、潜水用のマテリアルウェーブを所持してた人がいたじゃないか!」

 

「(それだ!じゃあ次は……)」

 

「決まってる!その人を探して、潜水用のマテリアルウェーブを貸してもらうんだ!」

 

 

 

 

 目当てのドッシーハンターは、展望台に避難していたので直ぐに見つかった。まぁ、側に件のマテリアルウェーブを展開していたから、丸わかりだったんだけどね。

 

「ヒィィ……危なかった。この潜水用のマテリアルウェーブが無かったら、今頃湖の底だよ!」

 

 激流の中を、マテリアルウェーブにしがみついて展望台へ泳いでこれたのか…………それって、かなり凄くね?

 名前は…………マルボーズ・ヘタツリーか。変な名前だ。ここにも、製作側による被害者が……

 

「……あの、すいません!その『潜水用のマテリアルウェーブ』を貸していただけませんか!?」

 

「……へ?」

 

 よく理解していないような返答だ。ここは……畳み掛ける!……というか押しきる!

 

「人が……友達が!湖に沈んじゃったんです!だから…………お願いします!」

 

「は?沈んだ!?……それは大変だ!いいよいいよ!持っていって!早く友達を助けてあげなさい!」

 

 軽いパニック状態になった釣り下手…………ヘタツリーさんは、マテリアライズを解除してカード状になった潜水マシーンを手渡してくる。…………助かった!

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

「……これで湖に潜れるぞ!」

 

「(スバル、ビジライザーをかけてみろ!)」

 

「了解!……あっ!」

 

 ビジライザーをかけると、展望台の一角から、湖中まで繋がっていると思わしきウェーブロードが視認出来る。

 

「(おう!あそこから潜れそうだぜ!…………まずは電波変換を忘れんなよ!?何せ、生身じゃあ潜水時間なんてたかが知れてるからな!)」

 

 ……それはちょっと、抜け過ぎじゃない?いや、釣り下手……ヘタツリーさんならいけるかもしれないけどね。津波の中を泳いできたんだ、今更湖中なんて何のそのって感じはする。

 

「……うん!」

 

 

 ーー展望台の電波ーー

 

「よし……それじゃ、行くよ!」

 

 説明欄によると、『ブクボン』という名前があるらしい。コイツも語尾に自分の名前の一部を付けなければいけない呪いに侵されているらしい。

 ……それってほとんどウィルスじゃね?

 

 潜水マシーンのマテリアルウェーブ、スタンバイ!

 

『例え深さ一万メートルでも潜ってみせるだブク!!ブクブク……』

 

「それじゃ乗り手が保たないよ……っと、マテリアライズ!潜水マシーン!」

 

 スターキャリアーの機能を搭載したバイザーを操作して、湖面へと潜水マシーンをマテリアライズする。

 湖面へとマテリアライズされた潜水マシーンは、饅頭のような黄色いヘッドパーツにロボアームが接続されたような見た目をしている。顔にはゴーグルを模した蒼と水色のペイント?が描かれている。

 

「ふぅん……こんなので水中へ、ねぇ」

 

 ロックは何処か懐疑的だけど、普通の人間を津波から救いだした性能を侮ってはいけない。電波人間なら呼吸の心配も要らないので、これならドンブラー湖中を自由に探し回れるだろう。

 

「まぁまぁ、ずっと泳ぐのって大変だし……推力があるだけマシってものだよ。釣り下手……ヘタツリーおじさんには、感謝しなくちゃね」

 

 それじゃ、Let's diving!

 竜宮城に行くみたいで、何だかドキドキしてきたぞ……!

 

 

 ーードンブラー湖の電波ーー

 

 湖底に続くウェーブロードを降ること数分、ボク達は水中に広がる幻想的な世界へと足を踏み入れていた。魚が沢山獲れるということで、割と濁った水質だと思っていたのだけど、電波体になったことによる感覚拡張影響か、かなり広範囲まで見渡すことが出来る。

 …………総評としては、中々快適な空間だ。

 

「へぇ……キレイなところだね」

 

『タスケテタスケテ!おっそろしいカイブツが!おっそろしい!ブクブク……』

 

 周りの景色を満喫していると、いきなり水中型のデンパくんが話しかけてきた。見た感じ、藁にもすがるような雰囲気ではあるけれど。

 

「……大丈夫だから、落ち着いて!そのおっそろしい怪物は何処に行ったの?」

 

 おっそろしい怪物とは、もしかしなくともブラキオ・ウェーブのコトだろう。もし、同じような電波体がもう一体いたとしたら、とてもボク一人の手に負えないよ。

 

「ブクブク……ふぅ、アブなかった。オボれるところでした。カイブツはここよりもっとフカいバショにイってしまいましたよ」

 

「……ありがとう!」

 

「あ、ちょっとマってクダさい!このままむかってもダメなんです。カイブツのエイキョウで、スイモンのセキュリティがウゴいてます。セキュリティをカイジョしないとオクにはススめません!ブクブク!」

 

 …………あ"っ。そうだった。ここはトレジャーハント的な仕掛けのエリアなのを忘れていた。幸い上昇すれば見晴らしの良さを確保出来るので、直ぐに攻略出来ると思うけれど……

 

「……どうやったらセキュリティを解除出来るの?」

 

「ヌシです!このエリアのドコかにウまっている、スイモンのヌシをサガせばカイジョできます。……この『コモンジョ』をモっていってクダさい!ヌシのウまっているバショのヒントがカかれています」

 

 デンパくんからデータが送られてくる……これが古文書のデータなのか。何か書いてあるみたいだけど、元人間のボクにはさっぱりわからない。

 

「この『コモンジョ』はデンパモジでカかれていて、デンパタイにしかよむコトができません!」

 

「もちろんボクには読めないよ!」

 

「威張ってんじゃねぇよ!……チッ、メンドクセーけどオレが読んでやる。有り難く思えよ!」

 

「ありがとうございます、ウォーロック様!」

 

「その気持ちワリィ敬語を今すぐ止めてくれ!背中がむず痒くなってくる!」

 

 ……今のロックに背中とか、存在して無いよね?

 

「あ、そう?じゃ、兎に角任せたからね!……っと、ヌシは埋まってるんだよね。あとは穴を掘る道具か……」

 

『ボクにお任せくださいブク!潜水マシーンのブクボンですブク!怪しい場所を教えてくれれば、ボクがゴソゴソ掘りたいと思うでブク!』

 

 ゴソゴソって、まるで黒光りするG……い、いや、丁寧に掘り起こすって意味だと受け取っておこう。邪推は良くない。

 

「ウィルスもウもれているので、クレグレもキをつけてクダさい!」

 

 ここだ!と思って掘り起こしたらウィルスが出てきたとか、酷いホラーじゃないか。しかも不意討ちを受ける可能性も高い。確か、ピラニアみたいなウィルスもいるんだよね、ここ。噛まれたら、痛そうだ。

 

「えぇ…………テンション下がる情報止めてよ……」

 

「オラ、このエリアにいるヌシの数は……3体。とっとと探しに行くぜ!」

 

「……古文書は任せたからね、ロック」

 

「おう!」

 

 地図でもあれば、湖底でのヌシ捜索が楽になるんだけど……それは高望みが過ぎるってモノだ。まずは水中での動きに慣れないといけないな。スイスイ進むだけでも、意外とコツがいるので大変だ。

 




GET DATA……
『潜水マシーン』

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