星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーードンブラー村ーー

 

『ようこそ、外国からのお客様!ドンブラー村を、満喫していってくださいね!!』

 

 

『あ、さっきのお客さん?なんだ、カップルだったのネ。ならお姉さん、サービスしちゃうわヨ~!というわけで、ドンブラー村特製の「ドッシーフランクフルト」はいかがですか?』

 

 

『「ドッシー団子」……食べてみない?ビッグサイズだから、二人で食べても満足出来るわよ?』

 

 

『ボク、ドッシーを見るためにはるばるこの村までやってきたんダ!ここまでの交通費で、貯めてたお小遣い全部使っちゃっタ。絶対この目で拝むまで帰らないゾ!』

 

 

『そこのお熱いカップルさん!「ドッシースーパーボール」に興味ないかい?表面にドッシーが描かれた、活きのいいよく跳ねるボールさ!デートの記念に一つ、どうだい!?』

 

 

『お、そこの彼氏さん!「ドッシー掬い」で遊んでいかねぇかい?紙の紐で掬い上げたドッシー人形を持って帰るんだぜ!彼女さんに良いところ、見せるチャンスじゃないか……?』

 

 

『ワタシ観光に来たノ。もちろん目当てはドッシー!ドッシーを写真に撮れたら、きっと高く売れるワ!一攫千金を狙うのヨ!』

 

 

『いらっしゃ~い!「ドッシー焼き」だよ~!美味しいよ~!!……え?何を焼いたものかって?…………美味しいよ~!!』

 

 

『やぁ、ニホンからのお客さん!湖で採れた、新鮮な魚のフライを食べてみないかい?マヨネーズを付けると最高だよ!!』

 

 

『この「潜水マシーン」を使って、これからドッシーを探すのさ!ドッシーさえ捕まえられればボクはモテモテさ!…………イヒヒ!』

 

 

『「ドッシーアイスクリーム」、是非ご賞味ください!ドンブラー村特製のミルクをふんだんに使った、コクのあるアイスクリームですよ。おや……お客さん、キズナリョクが500以上ですね。では「ドッシーアイスクリーム」を一つ、無料で差し上げますよ!』

 

 

『そこのお兄さん、鳥の丸焼きは要らんかね?ドンブラー村の名物なんだ、買って損はしないよ。……どうだい?』

 

 

 

 ーー数分後ーー

 

 取り敢えず一通り村の人と話してみたけれど、キザマロに関する情報は、これといって見つかることも無かった。後探していないのは…………展望台エリアと、ドッシーの入江エリアくらいだ。

 確かキザマロは、ドッシーの入江エリアにいたはず……ただ、いきなり人気のない入江に赴くのもおかしいので、情報収集がてら歩き回っていたというワケである。不謹慎ではあるけれど、委員長と屋台を歩き回るのは楽しいので、ボクとしても焦るようなコトはなかった。

 

「う~ん、あんまりロクな情報は集まらなかったね」

 

「や、やっぱりワタシ達、カップルに見えるのね…………フフフ…………」

 

 ちょっと引くレベルでニヤケ出した委員長をその辺に放っておき、ボクはこの散策で邂逅しなかった人物を探すことにした。確かこの辺りに…………

 

「あっ!…………五陽田さん!」

 

 背中にXのロングコート、そして特徴的なヘッドセット。間違いなく五陽田さんだ。今回、この人にはお世話になるかもしれないので、面通しをしておく必要があったんだ。

 

「んんっ!?ス、スバル君かね!?こんな所で会うとは……なんて偶然だ」

 

「あはは、事実は小説より奇なり……かもしれませんね。ボクも外国で顔を合わせるとは思いませんでしたよ。それにしても、五陽田さんがここにいるってことは……」

 

「ああ、そうだ。本官はドッシーのコトを調査している。その為に遠路はるばるここまでやってきたのだ。これまでオバケ、雪男、神隠し……と3つの騒動が起きた。ドッシーもUMAの一種だからな、これら3つの怪事件と何か関連がありそうな気がするのだ」

 

「へぇ…………」

 

「兎に角、あまりいい予感がしないんだ。早く捜査を進めねばならん。それじゃ失礼するよ」

 

 難しい顔をして、五陽田さんは何処かへ行ってしまった。まぁ何時でも連絡は取れるし、特に問題はないだろう。

 

「(オイ、そろそろあのオンナの所に戻った方がいいんじゃねぇか?あんまり待たせると、後が怖いぜ)」

 

「う…………確かに。それじゃ一旦合流しよう」

 

「(オマエも段々、あのオンナの扱いが雑になってきたよな。まぁ、別に構わねぇが)」

 

「そこは信頼が厚いと言って欲しいなぁ……」

 

 ええっと、委員長を放置してきた場所は……あ、いた。ヤベッ、ちょっと涙目になってる。

 

「…………ど、何処行ってたのよ……!」

 

「ああ……ゴメンね。実はさっきそこで、五陽田さんを見つけてさ……キザマロって、パスポートを使って入国したワケじゃないでしょ?一応、帰国する時に頼るかもしれないじゃないか。あの黒い穴を知っている、数少ない警察関係者でもあるんだし」

 

「そういうことなら……まぁ、今回は不問にするわ。それにしても……キザマロったら、一体何処をほっつき歩いているのかしら!あと探していない場所と言ったら……」

 

 一旦言葉を切り、展望台の方を向く。ドンブラー村には展望台が建設されており、元々は広大なドンブラー湖の見学用だと思われる。ただドッシー騒動のせいで、展望台に訪れるのはもっぱらドッシー目当ての観光客ばかりとなっている……といった感じだったはず。

 

「あっちにある『展望台』くらいね……行ってみましょう!」

 

「了解!」

 

 ーー数分後ーー

 

「…………」

 

 展望台へ続く木製と思わしき橋の前で、委員長が突然足を止めてしまった。……確かデンパくんが乗ってミシミシいってるんだっけ?

 委員長は電波変換の経験もあるので、微妙に普通の人よりも敏感になっているのかもしれないな。

 

「どうしたの?突然立ち止まっちゃってさ。展望台はこの橋の向こうじゃないか」

 

「変なのよ、この橋……さっき『ミシミシ』って音がしたのよね……」

 

 一応耳を澄ましてみるものの、やはりこれといって奇妙な音は聞こえてこない。ビジライザーを通して見れば別なんだろうけど……

 

「ミシミシ、ねぇ…………うん、特に何も聞こえないよ。委員長の空耳か、振動音が橋まで響いて……」

 

「失礼なコトを言わないでちょうだい!……確かに聞こえたのよ。この橋、危ないんじゃないかしら……?」

 

「はぁ……見た限りでは新調されてからあまり年月が経っていない、新品なんだけどね。他の人も普通に使ってるみたいだし……」

 

 ヘビって、音に鈍感らしいんだけどな。いや、この場合は橋の上にいるデンパくんから伝わる、微細な振動を感知しているのかも……と考えると、委員長にオヒュカスって割といいコンビだったのかもしれない。今となっては残留電波だけどね。

 

「ワタシは特別デリケートなの!もしワタシが湖に落ちたら、どうやって責任取ってくれるのよ!」

 

 言外に神経質過ぎない?という意図を感じ取ったのか、責任問題まで言及し出す始末だ。

 

「……そこまで?」

 

 ブンブンッ!と、凄い勢いで首肯している。後ろに結んだツインテールが、首の動きにつられて上下に揺れるので大変可愛らしい。

 

「(イヤ……このオンナの言うことは、そんなに的外れじゃねぇぞ)」

 

「ホント?さっきの散策中にちょっと食べ過ぎたとか、そんなんじゃなくって?」

 

「……スバルくん?」

 

 にこやかに笑っているのに、何故か震えが止まらない。瞳を閉じて微笑んでいるのだけれど、今の委員長なら、見開いた瞳から『ゴルゴンアイ』をぶっぱすることも不可能ではないんじゃないか……と思わせるオーラを纏っている。結論:委員長を怒らせると、とても怖い。

 

「あはは……で、どういうこと?」

 

「(電波変換して、橋を調べてみりゃわかる)」

 

 ロックは電波体なので、橋の上で起こっているコトを既に理解しているのだろう。ビジライザーは電波体を目視出来ても、何故か会話することは出来ないんだよね……きっと、電波体側が配慮しているのだろう。傍から見ると、電波を受信している人にしか見えないし。いや、間違ってはいないのだけど。

 

「わかったよ。取り敢えず、電波変換して橋を調べてみよう。……委員長も、それでOK?」

 

「ええ……って、ロックマン様になるの!?」

 

「そうだけど……どうせ見えないだろうし、ぱっぱと終わらせて戻ってくるよ」

 

 電波体同士で戦闘しているわけでもないのに、わざわざビジブルゾーンが発生してくれるとも思わない。況してや木製の橋上だ。特殊な電波的エリアが展開されるには条件が厳しすぎる。

 

「ムムム…………仕方ないわね……!ワタシはここで待っているから、直ぐになんとかしなさいよ!……お願いね」

 

「うん、任せといてよ!委員長の為なら火の中水の中……とまではいかないけれど、大抵のことはなんとかしちゃうからさ。だってボク達、ブラザーでしょ?」

 

 我が儘に付き合うのもブラザーの内だ。それに、そんなことで一々嫌がっているのなら、始めから仲良くなったりはしない。互いに補い、埋め合い、許し合える関係……ってのが理想形だと思うね。

 

「ふ、ふーん。べ、別にそれくらい、ワタシだってわかってるわ……」

 

 なんだ、急に髪を弄り出したぞ。ボクも結構クサいセリフを言ったって自覚あるんだからさ、出来ればそこは茶化してほしかったよ。

 兎に角、橋からデンパくんを退けないことには委員長が橋を渡れない。優先順位を考えないと……

 

「……よし、それじゃ行ってくるね!」

 

「あ…………うん。それじゃ……」

 

 俯いたまま手首から先だけを動かし、ボクを送り出してくれる。そんなにしんみりしなくても、どうせ数分で戻ってこれると思うのだけど。

 

 

 ーードンブラー村の電波ーー

 

「……で、橋の上まで来たけれど、橋がミシミシいってた原因って、もしかして……」

 

「ああ、もしかしなくても、橋が軋んでるのは、あのデカいデンパのせいだぜ」

 

 委員長が怖がっていた橋の上には、デカいデンパくん(ロックにしては、相当オブラートに包んだ表現だったけれど)が中央を陣取っていた。ビジライザー越しじゃない、電波体だからこそわかるこの質量感……凄く、デブいです……

 

「……ねぇ、キミ」

 

「…………ウップ」

 

 うーん、こりゃ有罪ですな。

 

「これは確定だな」

 

「……だね」

 

「……ウップ。あの、ナニかゴヨウですか?」

 

 キミをゴヨウして、何処かに強制送還出来れば最善なんだけれどね。どうも浮いてるだけで精一杯っぽいな。浮いているのに橋が軋むとは、これ如何に。

 

「実はね…………」

 

 ーー少年説明中ーー

 

「…………え?そ、それはすいません!まさかそんなフウにゴメイワクをかけていたとは!…………ウップ」

 

 いや、普通の人は大丈夫なんだけどね……ウチの委員長は特別デリケートらしいから、寧ろ申し訳ないくらいだ。

 

「……リブラ並に細かいあのオンナにも、少しは問題があると思うがな」

 

「…………ま、まぁそんなワケで。ボクの友達が『ミシミシ』って音に酷く怯えているんだ。悪いんだけど、この橋から移動してもらえないかな?」

 

「そ、それが……ワタシ、ついサキホド『HP+100/150』のアビリティをソウビしたんです。そしたらミてのトオり、こんなアりサマになってしまいまして……ウップ」

 

 キズナリョクの限界を超えてアビリティを装備すると、このデンパくんみたになっちゃうのかもしれないな。『ご利用は計画的に』ってことなのだろう。ボクも気をつけないと。

 

「そうだったんだ……」

 

「イドウしようにも、カラダがオモくてウゴけないんです。……ウップ」

 

 思ったより深刻な状況らしい。こうして話してみると、口調に『ウップ』が付くのも結構嫌なペナルティに感じる。

 

「その『HP+100/150』を外してみたらどう?」

 

「それはタメしたんですが、すぐにはモトにモドらないみたいで……ウップ」

 

 外してコレか。何だか、オックス・ファイア辺りで引っ張った方がいいような気がしてきたぞ。制限時間足りなさそうだけど。

 

「うーん、困ったなぁ…………」

 

「ホウホウがあるとすれば……ワタシのトモダチに、カラダをカルくするアビリティをモったデンパがいるんです。そのデンパにタノめば……ウップ」

 

 それって確か、フロートシューズだっけ?そんなもので、この巨体がどうにかなるのだろうか。残念ながら、そのフロートシューズなるアビリティをボクは所持していないので、そのトモダチのデンパとやらに頼るしかない。

 

「体を軽くするアビリティね……そのデンパは何処にいるのかって、わかる?」

 

 ドンブラー村周辺に存在するデンパくん達はニホンのものと仕様が違い、やけにハイテンション且つ全身のカラーリングが派手なタイプが多いのが特徴だ。

 

「いつも、ドンブラームラのチュウオウにイチする、ハナれコジマにいます。……ウップ」

 

「離れ小島、だね。わかった、探してみるよ」

 

 こんな時にスターフォースが使えれば……と思ったことは一度や二度じゃない。都合のいい時だけアクセス出来るようになってくれないかなぁ……

 

「おネガいします……ウップ」

 

 

 ーー数分後ーー

 

「…………っと、ここだな。それにしても、随分と時間食っちまった」

 

「やっぱり土地勘が無いからね……しょうがないよ」

 

 ボク達は現在、件の離れ小島に来ている。この離れ小島というのがまた曲者で、中々この場所まで繋がっているウェーブロードを見つけることが出来なかった。

 まさかあんな場所から繋がっていたなんて……取り敢えず、今は離れ小島のデンパくんにアビリティを譲ってもらうのが先決だ。

 

「……ちょっといいかな?」

 

「ハイ、ナンでしょう?」

 

 ーー少年説明中ーー

 

「……え?カラダをカルくするアビリティ?エエ、ソレならモってますけど……」

 

「……よかった。それで悪いんだけど、そのアビリティを譲ってほしいんだ。キミの友達が困ってて……」

 

「へ?ワタシのトモダチがコマってる!?そ、そういうコトでしたらモっていってクダさい!」

 

 いそいそと体から取り出したのは、体を軽くするというアビリティ……フロートシューズだ。見た目では、特に大きな差異はないようで、普通のフロートシューズと言えばそのまま信じてしまうだろう。

 

「イマワタしたモノはホカのフロートシューズよりも……ダイエットコウカがバツグンなのです!そのショウコに……ムカシのワタシのスガタをミたら、きっとオドロきますよ。イマのバイくらいタイジュウがありましたからね~」

 

 へぇ……ダイエット効果か。ミソラちゃん……もといハープ・ノート辺りにあげたら喜びそうだ。いや、逆に怒られる、かも?

 

「カラダがオモくてコマっているなら、きっとこれでカイケツするはずです。ワタシのトモダチをヨロシクおネガいします~!」

 

 友達思いのデンパくんだ。どっかの古びた双眼鏡の電波にいた商人とは、まるで反応が違う。まぁ、あの時は仕方なかったんだろうけどさ。業務用ってことらしいし、秘匿していたのかも……

 

「うん、任せといて!あ、でも後でお見舞い行ってあげなよ?結構苦しそうだったからさ」

 

「そうですね……ワかりました!アトでヨウスをミにイってみます!」

 

「うんうん……それじゃあボク達は、この辺で!」

 

「んじゃ、早速あのデカイデンパにフロートシューズを届けに行こうぜ!オレも、ドンブラー村の展望台とやらが気になってきた」

 

「ああ……コダマタウンにもあるもんね、展望台。最近あんまり行ってないし、今度風に当たってこようかなぁ……」

 

 

 ーー数分後ーー

 

「おお!それは!!……ウップ」

 

 急いで橋まで戻ってきたボク達は、漸く例のデカイデンパくんにフロートシューズを 渡すことに成功していた。な、長かった……

 

「…………オオ!!カラダがカルくなりました!サスガフロートシューズです!アリガトウゴザイマシタ!」

 

 フロートシューズを装備したデカイデンパくんは、その鈍重そうな見た目が嘘のように、元気よく歩き始めている。これならそう時間もかからない内に橋の上から移動出来るだろう。

 

「よし、これでもう大丈夫なはず。委員長もビビらずに橋を渡れるよ、きっと」

 

「ア、ちょっとおマちを!カンシャのキモちです!どうぞこれをおウけトりクダさい!」

 

 そう言ってデンパくんは、先程まで装備していた強化アビリティ『HP+100/150』を渡してくる。これコスパあんまり良くないんだよなぁ……無いよりはマシなのだけど。

 

「ハシがコワれなくて、ホントヨかったです~!」

 

 呑気ですね。他人事では無かったんだけどなぁ……

 

 

 ーードンブラー村ーー

 

「……お待たせ委員長!どう、渡れる?」

 

「ええ、さっきから『ミシミシ』っていう音がしなくなったのよ!これで渡れるわ……!えっと、その……ありがと、スバルくん」

 

 あんまり真正面からお礼を言われると、なんだか照れてしまうよ。ちょっと頬が赤くなってるような自覚もある。……委員長に見つかったら、笑い飛ばされるに違いないので、ここは堪えないと。

 

「…………うん、きっともう大丈夫。じゃ、改めて展望台に行こっか?」

 

「ええ、そうね………………フフッ」

 

 なんだよもう、やけにニヤニヤしちゃってさ。調子狂っちゃうから止めてほしいんだけどなぁ……




いつも感想・評価をいただき、星屑大感謝です!

GET DATA……
『ヘンゲノジュツ1』『HP+100/150』

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