ーーロッポンドーヒルズーー
地上200メートルに浮遊しているロッポンドーヒルズ、その中心へと足を運んだボク達を待ち構えていたのは、ヒルズ全体を包んでいる異様な雰囲気だった。ショッピングプラザ入り口に大勢の人が集まっている。こりゃあ、既に一騒動起きてるな……!
ショッピングプラザの入り口に、見慣れた人影が確認できる。あれは……
「……天地さん!」
「あ、スバル君!大変なんだ!ショッピングプラザに妙な男が立て籠っているみたいなんだよ!しかも人質をとっているらしくてね……こっちも下手に動けないんだ!何とかしないと……!」
あの天地さんが、かなり慌てているというだけで、相当にマズイ事態だということは理解出来る。願わくば、ショッピングプラザの関係者に被害が出ていませんように……
「(……こっちで何とかしますから!天地さんはパニックが起きないよう、野次馬を抑えてもらっていいですか!?)」
「……そういうコトか。(今更キミを疑うことはしないが、立て籠っているのはかなり危険なヤツだからな。気をつけていくといい)」
申し訳ないけれど、もう少しだけベルセルク(分体)は預かっていてもらう。丁度いいし、このままトライブオンさせてもらおう。
「(はい!それじゃ行ってきます!)」
一応聞かれるとマズイことなので、小声でやりとりを済ませることになる。電波変換して、ショッピングプラザ内のウェーブロードを伝って行かなくちゃいけない。
プラザ内のエレベーターは人間専用なので、電波体には反応しないんだよな……いや、反応したらしたでマズイんだけど。
ーーショッピングプラザ三階の電波ーー
「この先に、委員長が……!」
微妙に時系列はズレたけれど、この先でファントム・ブラックが待ち構えていることに変わりはない。委員長オヒュカスとの戦闘がメインではあるけれど、そこはソード系を用いれば現実の体へのダメージは極限まで抑えることが出来る。
「いくぜスバル!」
「うん!」
……突入!
ーー映画館の電波ーー
やはり、映画館には関係者はいない。まぁ、脚本家として余計なキャストは招かない主義だろうから、予想はしていたが。
「……いたぜ、ヤツだ!」
ロックの声が示す方向……ゴーストクライシスのセットである、洋館のマテリアルウェーブの屋根の上で満足げに佇むファントム・ブラックと、仰向けに倒れていると思わしき委員長を発見した。
「委員長!」
「ンフフフ……来たか!これで役者は揃った……さぁ、皆さんお待ちかね!
ファントム・ブラックが大仰に腕を振ると、ファントム・ブラックへと続くウェーブロード上に、鎧を着た兵士然とした電波体が数体現れた。
「古代の兵士だって……?」
如何にもな量産型のアーマーを装備し、右手には単色の大剣、左手には大楯で武装しているのは共通らしい。いや、完全遠距離型とかいても困るんだけどね。
「気をつけろ……おかしな周波数を発してやがる」
ロックも警戒する程度の脅威ではあるらしい。おかしな周波数なんて、今に始まったことではないような気もするけれどね。
「さて、ロックマンよ。私のところまでたどり着けるかな?ンフフフ!」
コイツホント性格悪いな……!後でベルセルクブレードでも投げ付けてやろうか。まぁ、今は兎に角……
「「ぶっ飛ばす!!」」
この圧倒的シンクロ率。例え最強の拒絶が来たって、まるで怖くないね。あやなm……委員長を返せ……ッ!
「蹴散らすよ、ロック!」
「ヘッ、先にバテるんじゃねぇぞ!」
誰に言ってるんだ!
「大丈夫、今のボク達にパワー切れは無い。……ねぇ、オーパーツ。聞こえているんでしょ?」
「オイ、何言ってんだ……!?」
ロックは困惑しているようだけど、ボクにはハッキリとオーパーツが覚醒していることが感知出来る。いつまでも狸寝入りを決め込まれていては、コチラとしても困るんだ。
キズナリョクの数値的に無いとは思うけれど、万が一にでも我を忘れて委員長に襲いかかってしまったら、事案以前に悔やんでも悔やみきれない。
『…………ナンダ……?』
ほらやっぱり。大体、毎回ロックが聞き逃す空耳なんて都合のいい真似を、この残留電波達の思念がするとも思えない。ロックには聞こえていないようだったから、ボクを対象として意図的に聞かせていたんだろう。その理由は恐らく……
「チカラを貸して欲しいんだ。……ボクがあの兵士擬きに倒されたら、困るんでしょう?」
言外に種族の復興がおじゃんになっちゃいますね、こまったなぁ?(大魔王)と脅しているようなものである。単純だけど現在の切羽詰まった状況では効果的……だと思う。
『………………ヨカロウ…………』
体の奥底から、何重にもダブって聞こえてくるような声だ。一人ではなく、数多のベルセルク達の意思が宿っているのだから、仕方ない。ただ、コイツ偉そうな言い方してんな……的な雰囲気を感じ取ったので、そこは弁明させてもらいたい。
「ボク達だって、成長しているんだ。いつまでも、貴方達に遅れを取るような鍛え方はしていない」
『…………ワカッテイル……』
大層期待してくださるそうで、ありがたいことだ。やはりチカラを供給してくれていたのは、チカラを使いこなせるかどうかの試験運用的なものだったらしい。全く、老人ってホント遠回しなコトをするよ……
体を譲り渡す気は毛頭ないけれど……今は遠慮なく、精々酷使させてもらう!
ーードクン!ドクン!
「フゥゥゥゥ……よし、イケる」
体の調子を確認しながら、ゆっくりとエランド達が待ち構えるウェーブロードへと足を運ぶ。
アドレナリンが分泌しているみたいで、どうにも高揚感が拭えない。……ファイターズ・ハイとか?
バトルジャンキーだと思いたくはないけどね。
「だ、大丈夫か?」
やはりロックには聞き取れなかったらしく、心配するように声をかけてくる。客観的に見たら、さっきまでのボクって空中と会話していたようなものか……って、いつもロックとやってることだね。なら大丈夫だ、問題ない。(白目)
「大丈夫だって。……ロックも分かるでしょ?」
「ああ、チカラが溢れてくるようだぜ……!」
これなら、あんな兵士擬きの物量に遅れをとることはないだろう。文字通り、蹴散らしてくれる!
「……で、コレがエランドか」
件のエランドの前に立つ。どうやら攻撃的な行為を取るまでは沈黙しているようにプログラムされているらしく、積極的に攻勢に出ることはないようだ。ただ、三メートル半径まで接近した途端に武器を構えだしたので、やはり衛兵的な目的で製作されたのだろう。
「近くで見るとやはり異質に感じるが……いけるな、スバル!」
「もちろん!ウェーブバトル!ライドオン!」
ーー十分後ーー
「うおぉぉぉぉっ!!」
エランドの構えた大楯の上から、ヒートアッパーで殴り込んで映画館の壁面まで吹っ飛ばす。壁面と衝突したインパクトによるダメージでデリートされたことを確認し、先へと進む。
「よし、次……って、やっと終わりか。フゥ……」
エランド達にかける時間を減らすためにオーパーツのチカラを引き出しているけれど、思ったより負担が少なくて助かった。負担が無いわけではないんだけどね。
「あいつら、雑魚の割には中々タフなヤツらだったたよな」
そりゃあ、電波変換する相手を選ばない万能電波体だからね。ボクもエランドになってみたかったよ……
いや、流石に冗談だけど。兎に角、漸く洋館の屋根までたどり着くことができた。委員長はスヤスヤと眠っているように見える。まさに眠り姫だ……いや、クイーンか。……やはり委員長は、拉致られていても絵になるような気がする。拉致され慣れているということなのだろうか。最早職人芸では?と思うまである。
「来たな……ンフフフ……いいぞ、脚本通りだ」
「委員長を返してもらうぞ!」
おっといけない。既にオーパーツとは話が着いているとは言え、委員長オヒュカスの戦闘力を侮ってはいけない気がする。以前やったときに食らった、あの締め付けは中々ヤバかったからね。
「フム、それもよかろう……だが、彼女自身はどうしたいと思っているのかな?……直接聞いてみるがいい!」
「委員長……気がついたの!?」
「…………」
一応呼び掛けてみるも、特に反応がない。目が虚ろなのもあるけれど、何よりも以前感じたアイツの周波数を色濃く感じる……!
ーーバシュッ!
委員長の側で、薄紫色の炎が燃え上がるようなエフェクトが起こり、蛇遣いがよく用いそうな笛を構えた電波体が現れた。はっきりとした意識は存在しないようで、揺らめきながら佇む姿は正しく残留電波といったところか。
「ッ!!」
「オ、オイオイ!勘弁してくれよ!ありゃ、オヒュカスじゃねぇか!?」
ロックの言う通り、コイツは間違いなくオヒュカスだ。とは言え、委員長が電波変換した姿であるオヒュカス・クイーンは、この2ヶ月間で闘い慣れた相手でもある。油断さえしなければ、こちらの勝率だけは揺るがないだろう。そう、勝率だけは。勝つだけなら楽なんだけどなぁ……
「オヒュカスって……委員長、まさか!?」
微動だにしない委員長の体を覆うように、オヒュカスがその体を融合させていく。残留電波とは言っても委員長を媒体にしているのだから、最新の注意を払って闘わないといけない。
「チッ、そのまさかだぜ!」
電波体やソロのような特殊技能か、ビジライザーを使用している者にしか知覚することの出来ない閃光が映画館を包み込む。
……お前がやっても強キャラ感は出ないぞ!
「委員長が……また電波変換してしまうなんて!」
閃光が晴れた先には最早見慣れた姿ではあるものの、しかし明らかにこれまで薙ぎ倒してきた個体達とは違う、女王然とした雰囲気を纏ったオヒュカス・クイーンが佇んでいた。
「おやおや?お嬢さんは、貴様と戦いたいそうだ。ンフフフ……」
今回は自分が戦うつもりもないんだろう、やけに余裕そうな顔をしている。やっぱり絶対一撃叩き込んでやるべきか、真剣に検討した方がいいような気がしてきたぞ。
「クソッ、委員長に何をしたんだ!」
「なに、大したコトはしていない。お嬢さんのカラダに面白い『記憶』が刻み込まれていたので……そいつを少し、呼び起こしてみただけだ」
呼び起こす……?ノイズドカードのようなことを可能とする技術がオリヒメ側にはあるらしい。それとも、脚本家らしく人の感情を把握することには長けているということなのかもしれない。……となると、コイツかファントムの個人的な技能だと考えた方が自然か。
……もうメンタリストにでもなっちゃえよ!
「テメェ!……ロクな死に方しねぇぞ!ヤクシャだか脚本だか知らねぇが、気取りやがって……!」
激昂するロックを他所に、ニヤニヤとボク達を笑うファントム・ブラック。ホント、腹立つ顔をしているよ!
……決めた。やっぱり一撃入れることにしよう。極めて正当な憂さ晴らしをしてやる!
だけど、それよりもまずは……
「委員長!目を覚ましてくれ!……気をしっかり持って、電波変換を解くんだ!」
ここで委員長と戦う必要って、実はほとんどないんだよね。だからまぁ……ダメ元で説得をさせてもらう。これで目覚めたら儲けもの……くらいの浅い希望だけど。
「…………」
やはり効果無しか。洗脳された委員長と戦うって、そこはかとなくエロティックな状況だ。委員長が素で戦闘態勢をとっているとも思えないし、体は許しても心だけは……というヤツなのかもしれない。
というかミソラちゃんも含めて、このパターン多すぎだろ!
「無駄だ!彼女が目覚めることはない……ンフフフ!元はと言えば、貴様のせいだ。貴様がちゃんとヒーロー役をこなしていれば、彼女はこうならずに済んだ……違うか?」
責任転嫁とはまた、姑息な考えを……!
「全部、自分で仕組んでおいて……何を言っているんだ!!」
「ンフフフ!ンフハーハッハッハ!!」
ファントム・ブラックの声に反応し、委員長……オヒュカス・クイーンが戦闘体制に入る。とても2ヶ月超のブランクがあったとは思えない程、堂に入っているように見えるのは、FMプラネットの戦士としての最後の意地だろうか。
「……やるしかない。ちょっと我慢しててね、委員長……!」
ここは向こうの脚本に付き合ってやるしかない。
はっきり言って、凄い癪だけどね!
「さぁ、戦え!そして物語は感動のフィナーレを迎える!!」
アンタはホント、
「来るぞスバル!構えろ!!」
「必ず、必ず元に戻す!……ウェーブバトル!ライドオン!」
ボクとしても、あの
今回はOHANASHI方式じゃないぞ!
……アイツとブラザーになるなんて、死んでも御免だからね!
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GET DATA……『モエリング2』