19
ーーその頃ーー
サテラポリスにも検知されていない、謁見の間と呼ぶには少々手狭な空間で脚本家を気取った男……ハイドは跪き、報告を行っていた。ここはハイドの所属する組織の拠点である。少々手狭なのは組織の人員数に合わせた広さで設計されたから、ということだ。
「……報告いたします。妙な青い少年が、我々の邪魔をしております。名前は『ロックマン』、正体は未だ掴めておりません……」
この謁見の間は正方形に造られており、その一角にこの場所へと通じるワープポイントが設置されている。その対面は二段ほどの段差があり、ハイドの所属している組織のボス……ハイド風に言うならばスポンサーが座していると思われる。思われると言うのは、スポンサー兼ボスは仕切りによってその姿を隠しており、ハイドには影しか見せていないからだ。
『愚かな人間がいたものだ……妾の崇高な計画を邪魔しようとはな』
仕切り……三百年以上前のニホンで使われていたと思われる御簾を真似た仕切りから、女性の声が聞こえてくる。相変わらず自信と確信に満ちた態度である。このようなアジトを用意出来る辺り、優秀であることは間違いなさそうではあるが。
「まったく、その通りでございます。オリヒメ様に楯突くとは……恐れ多いとは、まさにこのことでございましょう。ただ、気になることも……その少年、電波変換を行っているようなのです」
ハイドの報告に、御簾の向こうから僅かな動揺が伝わってくる。無理もない。電波変換を可能とする人間は、かなり限られている。ボス……オリヒメが言うには、人工的な電波変換の技術開発も行われているらしい。しかし酷い欠陥があり、まともに運用し続けることは不可能なのだそうだ。
『其奴も「古代のスターキャリアー」を所持しておるのか?』
一瞬で思考をまとめたらしいボスが、ハイドへと問いただす。現実的に考えて、ハイド達と同じ方法で電波変換しているのではないか考えたのだろう。むしろ例の文明出身で、未確認の電波体だったケースが濃厚だと考えた方が自然かもしれない。
「いえ、それがどうも違うようでして……我々とは異なる方法で電波変換を行っているようなのです」
『ならば然程気に病むこともあるまい。あの文明のチカラに匹敵するモノなど、この世に存在するはずもなかろうよ。これ以上其奴が計画の邪魔をするようであれば…………其奴を、消せ!』
報告の続きを聞き、安堵したオリヒメは特に策を講じることはせず、ハイドにその対応を任せることにした。実際、この地球にかの文明を越えるチカラが存在した記録、物証はない。まさか宇宙人と融合しているとは、優秀な人間と自負するオリヒメであればこそ、考え付くはずはなかった。
「ハッ。オリヒメ様の仰せのままに……」
「…………オリヒメサマ。どうやらヤツがカエってきたようです」
先程迄オリヒメの御簾の側にて、無言で控えていた全身をローブとマスクで覆った男が、このアジトに帰還してきた構成員の存在を知らせる。一切の肌を覆ったその姿は、まるで魔術師のような出で立ちだ。
ーーバシュッ!
アジトのワープポイントから出現した構成員と思われる少年は、無言のままハイドの横に並んだ。その表情はとても鋭く、段上にいるオリヒメを睨んでいるようにも見える。
『戻ったか……ソロよ』
「オーパーツの在処が判ったぞ」
簡潔に要件のみを口にした少年……ソロは、やることはやったとばかりに、オリヒメの言葉を待っている。本人にオリヒメと馴れ合う気は微塵もないのであろうが。
『随分早かったな。流石であるぞ』
ソロの報告を聞いたオリヒメは、僅かに喜色を含んだ声色でソロを称賛した。オリヒメは優秀な者や、しっかりとした功績を挙げた者には優しいのだ。本人の優秀さと相まって、まさに組織を率いる長の鏡である。
「この程度、造作もない。オーパーツは現在……にある」
『……か。警備を掻い潜るのは容易ではなかろう。丁度よい道具がある。エンプティー、アレをソロに……』
「…………」
オリヒメの指示を聞いた魔術師然とした男……エンプティーは、瞬時にソロの眼前に現れ、巨大な目玉のようなモノを出現させた。対するソロには、僅かな動揺すら見られない。ソロの瞳は、何が起きたかを正確に捉えていたからだ。その正体までは判りはしなかったが。
『それをそなたにやろう』
「なんだ、コレは?」
流石のソロも、使い方すら解らないモノをいきなり与えられて困惑している。困惑というより、訝しむような感じともとれる。
「ブッシツテンソウソウチ『カミカクシ』である。ナニかをヌスみだすのにはうってつけであろう」
巨大な目玉……『カミカクシ』を運んできたエンプティーによって、簡易な説明が為される。
「……必要ない。初めに言ったハズだ。オレはお前らと馴れ合うつもりはない。オレの体に流れる血が、それを赦さないからだ。……オレは一人でやる」
特殊な生まれと、今までの経験からか断固とした態度をとるソロ。
『そう言うな、ソロよ。カミカクシは元々例の文明の遺産であるぞ』
オリヒメから、ソロにとって無視出来ない事実が告げられる。例の文明の遺産ともなればソロとの関係性も深く、その文明の為に手を組んでいる身としては引くことの出来ないモノだった。
「……!」
『そなたと例の文明は、縁があるのであろう?そなたの言う血というやつが、騒いでこぬか?』
「…………」
既にソロの選択は決まっていた。
ーー数日後・星河家ーー
『今日のトップニュースです。先日ロッポンドーヒルズを救った青いヒーローですが……今度はヤエバリゾートに現れたようですね。現場に中継を繋いでみましょう。現場のアベさ~ん』
『……は~い、現場のアベです!ここ、ヤエバリゾートに突如現れた謎の青いヒーローですが、人々の間ではその正体について、様々な憶測が飛び交っています』
おっふ。遂に報道されるようになったか。いやぁ、人気者は辛いですねー。(棒)というかこの人、どこかで見たようなリポーターだ。別に興味はないのだけど。
「この青いヒーローって、ひょっとしなくてもボク達のコトだよね?」
「だろうな。あんだけ派手に暴れてたんだ、当然っちゃあ当然じゃねぇのか?」
いや、まぁ確かに?楽しんでる節はあったけども?でもいざ報道されるとなると、どうも恥ずかしさが先行しちゃうよね。ほら、偶々遊びに行った先でインタビューを受けちゃったみたいな。
自分としてはテレビ映りが気になるけど、知り合いに知られそうで緊張する……というのがわかりやすいだろうか?
「あはは……」
「そんなにビビることはねぇと思うぜ?結果的にはシミンサマを危険から守ったってことになってるんだ。歓迎こそされ、迫害されるってことはないと思うが……」
「ロックは認知度が上がることの恐ろしさをわかってないんだよ……」
今の時代の有能な特定班とか、考えたくもないよ。まぁウェーブアウトまで目視出来るとは思わないから、取り敢えずはソロにだけ気をつけていればいいかな……
「ま、何にせよ喜ぼうぜ。こんだけヒーロー扱いされりゃあ、多少大暴れしても目を瞑ってもらえるだろうよ」
小悪党のような邪悪な笑みを浮かべてくるロック。この世界の民度が低くないことを祈るしかないか……勝てば官軍負ければ賊軍、みたいな感じにならないといいんだけどね。シンクロ次元怖い。
「ま、電波世界じゃ既に
「それは…………いや、兎に角オレたちは今や、巷で有名な人気者ってヤツだぜ。おっ、そうだ!町に出てよ、青いヒーローの評判を聞いてみないか?」
ウゲッ、なにその痛いヤツ。自分の評判を自分で聞き回るとか、委員長達に知られたら爆笑されるに決まってる!黒歴史不可避なんですけど!?
「えぇ……」
ドン引きです……
「ンだよ、そんな目すんなよ。まるでオレが悪者みたいじゃねぇか」
「さっきまでの発言で、ロックのことをヒーロー扱い出来る要素なんて無かったんだけど……」
「…………」
「…………」
「と、兎に角だ!行くっつったら行くんだよ!」
「ええ~、仕方ないでござるなぁ……」
「なんかその口調、無性に腹立つな……」
そりゃあ時代に合っていないしね。NOUMINの凄さは今の人にはわかんないだろうさ。昔の人は逞しかったんだよ、ロック。便利だからって、何でも電波技術で簡略化するのは考えものだと思うんだけど……
ーーピロン!
「あ、メールが来たよ!差出人は……天地さんからだ」
「おっ、まさかアレか!?」
「らしいね。ええっと、データの移行は完全に成功したから、後は好きな時に取りに来なよ……だってさ!」
天地さんマジスーパーハカー。体型的にも、渾名はダルでいいんじゃないだろうか。
「なるほどな。よし!それじゃあ天地の元には、話を聞いてから向かうとするか!」
「やっぱり……?」
「おう!当たり前だぜ!」
正直ダルいなぁ……でも確か、ミソラちゃんがお忍びで遊びに来るんだっけ?それでロッポンドーヒルズに行くことになったハズだし、それまでの暇潰しなら……
ーー20分後・コダマタウンーー
「(フゥ……一通り聞いてみたけど、皆、ボク達に凄く期待しているね……)」
肩凝りで困ってるとか、しょうもない悩みを解決してほしい人とかもいたけど。ロックマンをお手伝いか何かと勘違いしているのではないだろうか。その老人の肩は揉ませてもらったけど、正直なんとか出来るとは思わなかったね。
「(まぁ、話題のヒーローならそんなもんじゃねぇか?FMプラネットだって、アンドロメダの活躍には沸いていたしよ)」
「(へぇ……)」
まぁ、人的犠牲を減らせるって点では画期的だったのかもしれないけど……
「ねぇ、青いヒーローのコト、知ってる?」
「ッ!……っと、何ですか?」
危ない危ない。普通にエア友達と会話している怪しいヤツに見られたかと思った。話しかけてきたのは……以前スターキャリアーのパーソナルビューの使い方を教えてくれた人(一人目)だ。
「こんにちは、スバル君。実は私……そのヒーローに憧れてるの!ヒーローって言う位だからきっと、チカラ持ちで頭が良くて、背も高くてハンサムに決まってるわ!」
「ええっと……すいません」
うわっ、何一つマッチしてないじゃないか。こちとらただの、元引きこもり小学生のショタだよ……
「そう……まぁ気にしないで!……それじゃあね、また会いましょう!」
そう言って手を振って向こうへ行ってしまった。元気な人だなぁ……
ーーコダマタウン・公園ーー
「(まぁ、別に気にすることはないと思うぜ?)」
「それは何の慰めなんだい!?」
べ、別にさっきのハンサム云々は気にしてないよ!本当だよ!?今日は早く寝ようなんておもっちゃあいない。多分。
「(そんなことは置いといて…………つまり、こいつは良いことなんだ!有名になったってことは、それだけオレ達が強いって証明だろ!?)」
露骨に話を逸らしてきたな……
「ハイハイ、戦闘民族は黙っててくださいな」
また自慢話でもされたら堪ったもんじゃない。
「(チェッ……)」
『だ、誰か~~!!』
これは……悲鳴?……BIGWAVEからだ!あぁ、確か現実にウィルスをマテリアライズしてしまったんだっけ?
「……行ったほうがいいかな?」
『ぐぁ~~!!』
うわっ、結構ヤバそう。でも店内には、電波人間の蟹泡がいたんじゃなかったっけ?
「(この声は確か……)」
「(BIGWAVEの店長、南国さんだよ!)」
そういえば暫く閉まってたんだよね。新環境のカードでも集めていたのだろうか。それじゃあ元々あった、トランサー専用のカード代の分は……考えたくもないな。
「(兎に角、BIGWAVEに行ってみようぜ!)」
「(はぁーい……)」
ーーBIGWAVE店内ーー
自動式の扉を通った先に広がっていたのは、困惑した様子の南国さんとビジライザーをかけずとも目視出来るウィルスの群れだった。今はまだ様子見といった風に見えるので、本格的に暴れだす前にデリートした方が良さそうだ。
「……南国さん!これは!?」
「ああっ!スバル君!!そ、それがさぁ……ボク的にお気に入りのサーフボード的なモノがあるんだけど、それってマテリアルウェーブでね。そのサーフボードをマテリアライズしたら……ウィルスまで一緒にマテリアライズされちゃったんだよ!どうやら、サーフボードのデータがウィルス的なモノに侵されていた感じなんだ」
これもスターキャリアーの弊害だよね。多分こんなコトが起こらないように、ハンターVGではウイルスバスティング機能が強化されているんだ。あっちもリアルウェーブだかを扱えるハズだしね。ていうか話長いよ。
「なるほど……」
「このままじゃ、お店的なモノがメチャクチャになっちゃう……うぅ、しょ、しょうがない……ボクはこのお店の店長だ。ここはボクがやる感じで……」
え、うわっ凄いな。バトルカードもナシにウィルスへ突貫するなんて!いや、好都合なんだけど。
「ちょ、南国さん!?」
「やぁぁぁ~~!!」
ーードカッ!バキッ!
ひ、酷い。タコ殴りをするなんて!
「う~~~ん……ビ、BIGWAVEをよろし……く……」
「南国さん?……南国さァァァァん!!」
「気絶しただけだぜ」
「わかってるって」
ちょっとやってみたかっただけなのに。
「……取り敢えず、これでおおっぴらにウェーブインできるぞ」
「うん!ウェーブインしてさっさとウィルスをデリートしてしまおう!トレーダーまでイカれちゃったら、ボクの生き甲斐が……」
「お前は一体何の為に生きているのかと、たまに聞いてみたくなることがあるぜ……」
「そりゃあ刹那的な快楽と……あとは母さんの為?」
メテオGの攻略は絶対条件だ。あの
「……兎に角ウェーブホールを探すぜ。そこからウェーブインだ」
「え、何その反応!?どういうことさ!?」
ボクはいたって真面目に答えたハズなんだけど!いいじゃないか、ガチャ狂でも!回転数が全てなんだよ!
「何でもねぇって!ホラ、早くこのウィルスどもをやっちまうぞ!」
何か腑に落ちないような……まさかマザコン扱いされてないよね?いや、あかねさんの子供なら誰だってマザコンになるはずだ。ボクはおかしくない……ハズ。多分。きっと。恐らく。違うと言ってよ、バーニィ!
感想・評価が私の気の総量です。
GET DATA……無し