星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

70 / 131
10

 ーー星河家ーー

 

 さて、あかねさんにスキー旅行の報告をしなければ。調理場から漂ってくる匂いからして、今日の夕御飯は恐らくカレーだ。やったね。

 

「母さん、ただいま」

 

「あらスバル、おかえりなさい」

 

 特に変わったところもない、いつものあかねさんだ。よし、今の内に言ってしまおう。

 

「ええっと、実は……」

 

 ーー少年説明中ーー

 

「……お友達と旅行?いいじゃないの、行ってらっしゃいよ」

 

 わーい。

 

「フゥ、よかった……」

 

「た・だ・し!今日までの分の宿題を、ちゃんと終わらせてからよ!」

 

 そう言われると思ってたさ!

 

「フフフッ、既に自由研究を残すばかりだよ!」

 

 嘘ではないよ!

 

「あら……勤勉ね、スバル。じゃあ今日は明日に備えて早く寝ちゃいなさいな」

 

「うん、わかった!」

 

 パソコンにウィルスが潜んでいたような気がするけど、スキー旅行から帰ってきてからでいいや!

もちろん、ご飯を食べてシャワー浴びた後に寝るよ。

 

 

 ーー翌朝ーー

 

 ーーピリリリリリ!!!

 

 昨夜セットしたアラームが鳴り響き、ボクを夢から現実の朝へと叩き起こす。あ、あと5分……

 

「オイ、スバル!アラームが鳴ってるぞ!」

 

 ウゲッ、目覚まし代わりにロックはちょっとイヤだな……

 

「ふぁーあ……うん、起きたよ」

 

「ほら、準備してとっとと行こうぜ!」

 

 ロックは元気だなぁ……

 

 

 ーー二十分後ーー

 

 よし、いい時間だし、そろそろ出発しようかな。

 

「ロック、そろそろ行こっか?」

 

「おう!」

 

 因みに待ち合わせ場所はバス停だと、昨日の夜委員長からメールが届いている。

 

「ああ、そういえば」

 

「どうしたの?」

 

「昨日の夜、荷物の用意してただろ?」

 

「今回は泊まり込みだからね。着替えとか色々、必要なモノがあるんだよ」

 

 なのでボクの出で立ちは、リュックを背負ったものになっている。

 

「その荷物の中によ、変な液体の入ったビニールみたいなのがあったよな。……ありゃなんだ?」

 

 ああ、アレね。

 

「あれはホッカイロって言うんだ。分類的にはリサイクルカイロかな。液体の入った袋の中に、金属のパーツがあったでしょ?あれを押すと、固まって暖かくなるんだ。スキー旅行だからね、防寒対策はしておかないと……」

 

 これは自分で使う用ではないんだけどね。今回は割と凍傷とかが怖いので、ゴン太かアイちゃん(だっけ?)に持たせられればベストだ。

 

「ふーん、なるほどな。チェッ、強力な新兵器かと思ったのによ」

 

 スターキャリアーと同じ扱いとは……

 

「酷いなロックは……どうみても戦闘用には見えないでしょうに」

 

「じゃあ何でハート型なんだ?」

 

「昨日家中探してあったのが、これだけだったんだ」

 

 恐らくは、あかねさんとダイゴさんで使っていたのだと思う。だってハート型だし。マテリアルウェーブのホッカイロとかないかなぁ。高そうだけどもしあったら買っちゃうかもしれない。

 

「それじゃ、待ち合わせのバス停に行こうぜ」

 

「うん!」

 

 

 ーーバス停ーー

 

 

「今日は誰も遅刻しなかったわね。いつもこうなら、ワタシも安心できるのだけど……」

 

 委員長がボクたちの不甲斐なさを嘆く。主に遅刻しているのはゴン太だけど。

 

「ちょっ、酷いぜいいんちょう!オレがいつも遅刻してるみたいにさぁ……」

 

「事実じゃない」

 

「グハッ!」

 

 ゴン太ァッ!

 

「それに今日ゴン太くんが遅刻しなかったのはグルメタウンのために、ご飯を抜いたからその分早く着いたってだけの話ですよね」

 

 もう止めてェッ!ゴン太のライフはとっくに……

 

「グヌヌ……ま、まぁいつもはメシの時間を一時間はとってるからな。グルメタウンじゃハンバーグが美味いって評判だぜ」

 

 おおっ!やっぱりそうなのか!

 

「ホント!?ボク、ハンバーグとポップコーンには一家言あるんだよね。グルメタウン……名前負けはしていなさそうだ……!」

 

「お、乗り気だなスバル!んじゃあ、後で一緒に回ろうぜ!」

 

「こっちこそ!先にヘバんないでよ?」

 

「あっ、ボクも行きますよ!美味しいアイスクリームがあるって評判なんです!」

 

 調子乗りすぎて夕御飯食べれなくなったりしたら、委員長に大目玉食らいそうだ……

 

「誰に言ってんだ!このゴン太様に胃袋で勝とうなんざ、十年は早いぜ!」

 

「その余裕が何時まで持つかな……?」

 

「上等!……ヘヘッ、楽しみになってきたぜ」

 

「だからメインはスキーだからね!?アナタたちってホント、変なところで気が合うのねぇ……(ワタシも後学のために、そのハンバーグは食べてみたいところだけど)」

 

 何だか委員長もこのノリに同調しているような気がする……というか、男は大抵、ガッツリした美味しいモノが大好きなんだよ!だから話が合うんだけどね。

 

「あ、バスが来たよ」

 

「それじゃ、ヤエバリゾートへ出発よ!」

 

『オーーー!!!』

 

 

 ーーヤエバリゾートーー

 

 バスに揺られること一時間と少し、意外と近くにヤエバリゾートはあった。凄いな。トンネルを潜ったら、そこは雪国だったレベルの変貌だ。トンネルを潜る前は夏全快だったのにね。

 

『ヤッホーーー!!』

 

 窓の向こうで、恐らくは上級者と思われる成人男性が急勾配なコースを滑っていくのが見える。

 スキーの経験は……スバルくんの体では0だけれど、向こう(憑依前)では何度か滑っている、はず。初心者に違いはないけれど。

 

ーーウィーーン

 

 バス停に着いたバスの扉が開き、ボクたちはサクサクとした銀世界に足を踏み入れた。

 

「ステキね!ホントに夏なのに雪があるわ!」

 

 バスの中でキザマロから聞いた話だと、ヤエバリゾート自体割と最近完成した施設らしい。ただグルメタウンの方が先に完成したらしく、リゾートのホテルが調整中の傍らで賑わっていた、という裏話もあって中々面白かった。

 

「なるほど、雪が積もっていないところは夏って感じですね……!」

 

「雪かぁ……凄いサクサクしてるよね。人工雪なんだっけ?」

 

ーーサクサクサクサクサクサクサクサク

 

「スバルくん、はしゃぎ過ぎよ……」

 

 だってなんだか凄く楽しいんだもの。子供だけの旅行っていうシチュエーションに興奮してるのかな?

……変態みたいだから止めとこう。

 

「あはは……」

 

「兎に角、まずはホテルにチェックインしましょう」

 

 バス停の道路越しの向こう、そこには巨大なホテルがあった。流石は話題を浚っているだけはある。外観からしてスペシャルって感じだ。

 

「ウホホホーーー!!画像で見るよりゴージャスだぜ~!」

 

 ゴン太の感動もひとしおだ。

 

「でも……チェックインってどうやるんだっけ?」

 

 委員長も、子供だけで旅行したことはないんだろうね。それが普通なんだけど。

 

「オ、オレは知らねぇ……」

 

 ゴン太は悪くないよ。

 

「ま、まぁゴン太には期待してないけど……キザマロは?」

 

「え、ええと……『マロ辞典』によりますと、ホテルのフロントに予約した人の名前を言えばいいはずですが……し、知らない人に話かけるのってボク、苦手で……」

 

「しょうがないわねぇ……じゃあスバルくんで」

 

 ええっ、そんなテキトーでいいの?

 

「スバルなら知らない人相手でも大丈夫だと思うぜ!」

 

 ゴン太から謎のフォローが。何かしたっけ?

 

「あら、どうしてかしら?ゴン太」

 

「だってこの前オレがチケットを落とした時に、知らない綺麗な女の人と仲良さそうに喋ってたじゃねぇか。あれが出来るなら多分、大丈夫だぜ!」

 

……………………………………。

 

「スバルくん、今のは?」

 

「チ、チケットを回収するために必要な行為でして………その、別に他意は」

 

「そう言えば、キズナリョクが高い人が好きだって情報を手に入れたって話してましたよね」

 

 それはイケツラさんに話した内容だよ!

 

「スバルくん?」

 

「ち、違うよ!これは誤解だ!あれはモテt」

 

 モテツグさんに頼まれたんだよ!

 

「モ、モテたかった、ですって!?」

 

 話を最後まで聞いてくれよォッ!

 

「ま、待って!委員長は今、重大な思い違いをしている!ボクがナンパなんて、するわけないでしょ!?」

 

 このままでは、ボクの印象がチャラついた元引きこもりになってしまう!それは……嫌過ぎるぞ!

 

「……それもそうね。でも、詳しく聞かせてくれるんでしょう?ねぇ、スバルくん?」

 

「もちろんでございます……」

 

 

 ーー少年弁明中ーー

 

「ふーん、そう。スカイボードを手に入れるために、ねぇ……まぁ、そういうことなら仕方ないわ。ゴン太のためってことだし……」

 

 な、なんとかわかってくれたようだ。っていうか、何でこんな思いしなくちゃいけないんだ!

 チクショウ二人とも、恨み晴らさでおくべきか……!

 

「そうそう!ゴン太のためだったんだよ!ホントは嫌でしょうがなかったんだ!」

 

「へ、へぇ……そう。別にワタシは、スバルくんが誰にナ、ナンパしようが、か、構わないけれど?」

 

「だよね。でもチェックインはボクがするよ。何だか申し訳ないし……」

 

「わりぃなスバル、頼んだぜ」

 

「お願いしますね」

 

 クソッ、いけしゃあしゃあと……!

 

「ま、任せておいてよ」

 

「そ、それじゃあ、お願いするわ……行きましょう!」

 

 はぁーい……そこらに生えてるヤシの木辺りに、雪玉でもぶつけたい気分だ。ていうかヤシの木って……夏要素にしては安直過ぎない?

 

 

 ーーリゾートホテルーー

 

「あれ……なんだろう。イヤに混んでるね」

 

 防寒対策だろう、二重のドアを通った先にはお客でごった返したフロントがあった。恐らくUMA事件の対応を求めた客達だろうね。

 

「あの、すいません。チェックインしに来たんですけど……」

 

 その辺のホテルマンを捕まえて、この混雑の説明を要求する。

 

「申し訳ありません……現在、お客様方の対応に追われておりまして。手が空きましたら、すぐにメールでお知らせさせていただきますので……」

 

「わかりました。こちらこそ、忙しいのにすいません」

 

「いえ、私どもの不手際ですので……」

 

 謙虚なホテルマンさんだ。好感が持てる。

 

「じゃあ適当に散策してますので、メール宜しくお願いしますね……」

 

「ええ、申し訳ありません……」

 

 手を振ってホテルマンさんと別れる。うーん、やっぱり時間がかかっちゃうか。

 

「……どうする?少し散策でいいかな?」

 

「ま、仕方ないわね。適当に見て回りましょう」

 

『はーい!』

 

 というわけでヤエバリゾートを散策することにしたボクたち。まずはエレベーターで2階に上がり、そこから外に出ることにした。グルメタウンやスキー場にはホテルの2階出口から行ける。

 

 ーーヤエバリゾートーー

 

 リゾートホテルの2階から出ると、直ぐに中継路へと出る。ホテルの上に取り付けられたスキーコースか、スキー場に上がることの出来るリフトがあるグルメタウンに分かれているようだ。だけどまず、ボクの目に入ったのは……

 

「ウゲッ、五陽田さんだ……」

 

とっつぁ~ん、やっぱりいるのかよ……

 

「おや、キミは……おお!スバル君じゃないか。友達も連れて何をしているんだね?こんなトコロで」

 

「こんなトコロって……ここはリゾート地じゃないですか。普通に遊びに来たんですよ」

 

 ファーストコンタクトが悪かったのか、やっぱりこの人は好きになれない。ていうかキズナリョク54だって。やーいやーい!……止めよう。虚しくなってくる。

 

「フム……まぁ、そうだろうね」

 

「五陽田さんはどうしてここに?」

 

 確かUMA関係の事件を追ってるんだっけ?取り敢えず、ゴリを直ぐに逮捕出来る人材がいるのは助かる。アイツは絶対、取り調べで余罪が見つかるパターンだろうし。

 

「雪男のコトはキミも知っているだろう?見たまえ、そこの巨大な足跡を。それが、雪男の足跡と言われている」

 

 そう言って背後の地面を指す。そこには正しく巨大な足跡としか表現しようのない足跡があった。これって観光資源じゃないの?

 

「確かに、凄く……大きいわね」

 

 委員長さん下ネタは止めてください。言ってもわからなさそうだけど。汚れているのはボクのほうか……

 

「まぁ、あくまで噂だがね。しかしこれは本官の勘だが……この騒動は後々、相当危険な事態に発展しそうな気がするのだ」

 

「危険な事態……」

 

 取り敢えずゴン太とスキー少女は危険な目に遭うよね。ただ、敵の目的にスキー少女(アイちゃん?)の負傷があったはずだから、多分そっちを未然には守れない。四六時中警戒も出来ないし。ボクたちの旅行が終わってから事に移られると、タイミングを逃してしまう。

 

「コトは一刻を争う。だからロックマンの正体を探る任務は一時中断して、本官は雪男に関して捜査をすすめることにしたのだ」

 

「なるほど……」

 

「何か情報があったら、すぐに本官に知らせてくれ。頼んだよ」

 

「ええ、わかりました!それじゃあ連絡先を……」

 

「ああ、わかっている。これだ」

 

 あんまり気が進まないんだけど、仕方なく五陽田さんの連絡先をスターキャリアーに登録した。顔見知りの捜査官がいるなら何かと便利かもしれないし。

 そんなワケで五陽田さんと別れたボクたちは、次の散策場所を話し合っていた。

 

「それじゃあ次は……取り敢えずグルメタウンの方にでも行ってみようか?」

 

「賛成賛成!オレは大賛成だぜ!」

 

 ま、ゴン太はそう言うよね。

 

「そうですね……アイスクリームの件もありますし、ボク、気になります」

 

 キザマロがやっても映えないと思うよ……

 

「まぁ、いいんじゃないかしら?」

 

 委員長も異存はないようだ。

 

「それじゃ決まり!グルメタウンへGO!」

 

『オーー!!』

 

 一々ノリが良くて助かるよ。

 

 

 ーーグルメタウンーー

 

「オ、オイ…………嘘だろ?嘘だろォッ!?」

 

 崩れ落ちるゴン太。それもそのはず、雪男がやったと思われる(やったんだけどね)落雪事故の影響でグルメタウンに出店している店は、軒並み臨時休業と相成ってしまったからだ。

 

「ゴン太……」

 

「スバル……オレはよう、スキーなんて出来ないし、ベッドだって家にある普通のヤツで文句なんか無かったんだ。それでも、それでもだ!オレは、オレはオマエらと一緒にグルメタウンを回りたかったんだよ!それが最高の楽しみだったんだよォ!うわぁぁぁぁっ!!」

 

 ゴ、ゴン太……お前はもう、一人の立派な漢だよ……

 

 

ーーピロン!

 

 あ、メールが来た。ホテル側の準備が出来たみたい。それと、今日はリフトが使えない旨が記されている。

 

「ゴン太、取り敢えずチェックインしようよ。大丈夫、きっと良いことあるって」

 

 慰めにもなってないな、コレ。

 

「スバル……ああ、オレ決めたよ。今回のスキー旅行、全力で滑りまくってやる!グルメタウンなんか忘れちまうくらい、皆と思い出をつくるんだ!」

 

「おおっ!それでこそゴン太だよ!」

 

「ヘヘッ、オレも成長してるんだぜ。例えアンラッキーがあってもな、それ以上のラッキーを自分で見つければいい!……全ては自分次第なんだ!そうだろ?」

 

 まさに漢だよ、ゴン太!

 

「うん!今のゴン太、凄く輝いてるよ!」

 

「なんか照れくさいな……」

 

 もっと誇っていいよ!もしボクがゴン太の立場なら、旅行中はずっとしょげてるだろうし。

 

「よし、それじゃあチェックインしに行こうか!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

「もう、何だかこのままブラザーでも結びそうな雰囲気ですよね、あの二人」

 

「いいんじゃない?ワタシこういうの好きよ?」

 

「委員長にそういう趣味があったとは……!『マロ辞典』にも載ってませんでしたよ」

 

「ちっ、違うわよ!?ワタシはただ……!」

 

「別にわかってますから弁明しなくてもいいですよ」

 

「ちょっと、それはどういう意味かしら!?キザマロ?キザマローっ!?」

 

 蚊帳の外の会話であった。




感想・評価が私のスピードカウンターです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。