星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーナンスカ地上絵の電波ーー

 

 この三日間で、最早見慣れた光景となってしまったムーの地上絵を尻目に、ボク達は一陣の風となってこのエリアの最奥へと向かっていた。

 

 暫くナンスカの地を駆け抜けていると、ピラミッドの上部を切り取って足場を作り、そこに無理矢理感あふれる階段が取り付けられたような建造物が目に入ってくる。

 

 取って付けられたような石造りの階段には、当然の如く現代で言うところの手すりにあたるようなモノは無い。周囲の地上絵もあって、まるで突然古代の世界に足を踏み入れてしまったかのような錯覚に陥りそうだ。

 

ピラミッド擬きの壁面をくりぬいて造形を施されたのだろう、座した人型の守護者?のような石像もこれらの雰囲気作りに一役買っている。

 正式名称は確か……ナンスカ遺跡、だったはず。

 

「この先に、皆が……!」

 

 階段を登りきった先には、件の遺跡へと続く通路が伸びている。それなりの横幅はあるのだけど、やはり手すりにあたるモノが無いために、どうも気が落ち着かないな。

 

「鳥野郎なんざ、キグナスで散々相手にしただろ? 変に気負うコトはないと思うぜ」

 

「……うん、わかってる。ただ、人質を盾に取ってくる可能性も捨てきれないと思ってさ。要は慎重且つ迅速に……ってことだよ」

 

 骨格レベルで鳥の電波体とキグナスを比べるのはどうかと思うなぁ……というか、火力面で差がありすぎる。最近の(古代の、とも言うが)電波体は、口からブレスないしビームを吐くのがトレンドなのだろうか。

 

「そいつはちょっとばかり、難易度上げ過ぎじゃねぇか? ……まぁいい。兎に角よ、いざ巨鳥狩りとしゃれ込もうぜ!」

 

 モンハン的に考えればヤツは鳥竜種……イヤァンガルルガみたいなもんか。決して慢心出来る相手でもないが、そこまで肩肘を張る必要も無い……と。

 

「……ああ! ……それじゃ、乗り込むよロック! 準備はいいね!?」

 

「おう!」

 

 いざ、ナンスカ遺跡へ!

 

 

 

 ーーナンスカ遺跡1の電波ーー

 

 左右に設置された松明の炎に導かれ、石造りの一本道を警戒しながら進むこと約一分。何やら上空を飛翔している緑色の電波体が目につきだした頃、ボク達は漸く遺跡の中心と言って差し支えないであろう、拓けた場所に出ていた。

 しかし……何だ。電波体的に表現するなら、とても馴染みのある周波数……とでも言おうか。とどのつまり、このナンスカ遺跡の電波には、ボク達の顔なじみな電波体がいる……ような気がする。

 

「オイ、スバル。わかるか? この周波数……たぶん、同類(FM星人)が近くにいるぜ」

 

 やはりロックもこのプレッシャーを感じ取っていたらしい。

 それにしても、このピリピリするというか、どこか痺れるような独特の雰囲気……ボクの推測が正しければ恐らく、この遺跡に訪れているロックの同類というのは……。

 

「わかってる。でも、目的をはき違えちゃ駄目だからね。まずはこの先に進まないと……」

 

 ナンスカ遺跡1の電波は、俯瞰して見れば正方形の形となっており、それぞれ四辺から数本のウェーブロードが伸びている……という構造になっている。

 エリア中央を形作っている石造りの部分には、東西南北に相当する位置にそれぞれ地下遺跡行きと思われる階段が建造されている。確かこの地下遺跡を利用して、ツツッキーの襲撃を防ぐのだったか。

 

「おう。だがよ、エリアの奥にデッケェセキュリティが見えるぜ。今までの経験則から言って……」

 

「何かしらの条件を満たさなきゃダメってコトだろうね。誰か、近くに事情を聞けるデンパは……」

 

 おかしいな。こういう時には、入り口の辺りに事情とセキュリティの解除方法を親切にも教えてくれる、親切なデンパくんがいるはずなのに……まさか、ツツッキーに食われたとか!?それはマズイぞ……!

 ……って、何だ?

 遺跡中央部にある変なオブジェクトに隠れて見えないが、何やら荒っぽい怒声が聞こえてくる……。

 

 

 

 

 

 

 

『……アア?この先にはセキュリティが掛かってるだと!?……テメェ、ふざけてんじゃねぇぞ!』

 

『ヒカル落ち着いて!』

 

『タスケテ!タスケテ!』

 

 

 

 

 

 

「オイ……アレ……マジか、マジなのか……!?」

 

「ボクに聞かないでよ……」

 

 ロックが呆然としたような声でボクに問いかけてくるが、こっちだって頭を抱えたいくらいだ。

 武装化した右腕、黒を基調として、膝から脇までをグレーで覆ったようなボディカラー。間違いない、ジェミニ・スパーク(ブラック)だ……。

 そんな黒いジェミニ・スパーク(以降黒ジェミニ)は、ナンスカ遺跡を拠点にしていると思わしき、赤を基調としたデンパくんの頭部をわしづかみにしつつ、怒気を露にしている。こえーよ。

 

「ヒカル!もういい加減にしろ!大人しく炎のデンパを探すこと以外に、セキュリティを突破する方法はない!」

 

 そんな黒ジェミニを必死になって止めようとするジェミニ・スパークがもう一人。粗暴で口調も荒い黒ジェミニとは対象的に、その姿は白を基調として、膝から脇までをグレーで覆ったボディカラーだ。カラーリングの違い以外にも、武器化しているのが左腕……という違いもあるが。

 そんな白いジェミニ・スパーク(以降白ジェミニ)は、善良な面の発露である双葉『ツカサ』の人格を宿した電波体だ。ヒカルの相手をし続けるのは大変なんだろうなぁ……お気持ち、お察しします。

 

「うるせぇ!オレはなぁ、こんな時に蜘蛛の子を散らすように逃げ出したコイツらを見てるとよ……無性に腹が立ってくるんだ!おっそろしいコンドルとやらが怖くて、『台座』を守るっていう役目すら放棄して逃げただぁ!?テメェらマジでふざけてんのか!?」

 

「タスケテ!タスケテ!」

 

 ますます語気を荒くして、赤いデンパくんに掴みかかる黒ジェミニ。話を聞くに、炎のデンパとやらが役目を果たさずに逃げ出したという部分に、親から捨てられて孤児になったヒカルが反応した……という感じだろうか。

 

 ナンスカ遺跡仕様のデンパくんは、既に涙目で白ジェミニに救助を求めている。見知らぬ電波体に助けを求めたらいきなりキレられたんだ。そりゃあ、混乱もするよ。

 そして同情するよ……可哀想に。

 

「いい加減にしないと、ウェーブアウトを……って、ロックマン!?ということは……スバルくんかい!?」

 

 あ、気付かれた。

 制御不能な黒ジェミニに苛立ち混じりの態度を見せていた白ジェミニ……ツカサ君は、こちらを視認すると、驚愕の表情を浮かべて近寄ってくる。いや、先に絶体絶命のデンパくんを助けてあげなよ……。

 

「やぁ、ツカサ君。どうしたのさ、こんな所で……」

 

「ああ、ちょっと武者修行?でこの辺りまで来ていてね……ウェーブイン中に大きな鳥の電波体を見たものだから、面白そうだって、ヒカルが……」

 

 ヒカルの目的は復讐なんじゃなかったっけ?いや、その為の武者修行、ということなんだろうか?

 ……兎に角、ツカサ君の苦労は未だに健在らしい。

 

「……OK、大体わかったよ。ボク、実は今ちょっと大変なコトになっていて……」

 

 現状を簡単にツカサ君へ説明する。ゴンターガのくだりでは爆笑していたけれど、アガメさんのゴン太を利用して勢力拡大云々の辺りでは胸を痛めていたようだった。一応、ツカサ君もゴン太とは割と話すようだったので、心にクるモノが多少なりともあったのだろう。

 

「……と、言うわけなんだ。だからボク達は、そのコンドル・ジオグラフを追ってこの遺跡まで来たんだけど……」

 

「それは大変だ。……ボクも協力してあげたいのは山々なんだけど、ヒカルがキミの邪魔をしてしまうかもしれないから。……彼はまだ、キミに倒されたことを根に持っているようなんだ」

 

 通話中は割とウザイだけのヤツだったけど、ベルセルクの剣で思いっきり斬り刻んでしまったからなぁ……トラウマになっていないといいのだけど。

 

「そういうことなら……」

 

 まぁ、無条件で協力してもらえるってのはムシのいい話か。今のところはヒカルもこちらを邪魔するつもりは無いようだし、戦闘に移行しなかっただけでも良しとするべきだろう。だってジェミニ、強いんだもの。

 

「ただ、ここのデンパから幾つかの情報は得られたんだ。それをキミに提供するよ」

 

「ホント!?ありがとう、ツカサ君!助かったよ……」

 

「そ、そうかい? 全然大した情報じゃなくて申し訳ないくらいなんだけど……」

 

 多少オーバー気味に感謝の言葉を伝えると、ツカサ君は照れているらしく、頬を赤らめながらはにかんだ笑顔を見せた。まぁ、友人に頼られると嬉しくなっちゃうこと、結構あるよね。

 

「そんなこと無いって! ボク達にも、あんまり油を売っている暇はないんだ。だから情報を集める手間が省けて、感謝してもしきれないくらいさ!ありがとう!」

 

「……ゴホン、それじゃあまずは、このエリアのコトからだ。このエリアにはセキュリティが掛けられていることはもう流石にわかっているね?」

 

「うん、入り口から向かいに見えた大きなセキュリティでしょ?」

 

 入り口から真向かいには、このナンスカ遺跡1の電波から先へ向かうための大きめに造られた、これまた石造りの大きな通路がある。セキュリティはその唯一の通路をがっちり塞いでしまっている、というワケだ。

 

「そう。で、そのセキュリティの向こう、このナンスカ遺跡の最奥に、件の電波体『コンドル・ジオグラフ』は向かって行ったらしいんだ。さっきここのデンパが大慌てで『おっそろしいコンドルが来た!』と言っていたから、多分間違いないと思う」

 

「なるほど……でも、セキュリティが解除されないんじゃあ、陸路からでは先に進めないよ。スターフォースもアクセス圏外だし……」

 

 ドンブラー湖と違って、エリアへの入り口全体にセキュリティが掛けられているワケではないので、飛行手段があれば一気に遺跡の奥まで移動することは出来る。

 スカイボードを使いたいところだけど、上空には中型の鳥型電波体『ツツッキー』がいるために、非常にリスキーだ。コンドル・ジオグラフ戦前にスカイボードが破壊されてしまっては、目もあてられない。

 

「空路を移動する手段がないなら、一つだけ方法がある。それは、このセキュリティを解除してしまうことだ。……上空を見てごらん」

 

「何か、緑っぽい色の鳥?みたいな電波体が飛んでる……アレは?」

 

 より正確に言うと、ジェット噴射するカラーコーンの上部に鋭い目付きを描いた球体を突貫通させ、それからカラーコーンに翼っぽい湾曲したパーツを取り付けたような外見だ。結構カッコいいのがイラっとくるけれど。

 

「あれは『ツツッキー』。このナンスカ遺跡のセキュリティを担っている炎のデンパを主食としている電波体……らしい。セキュリティを解除するには、炎のデンパを指定された『台座』に設置しなければならないんだけど……どうにも、皆コンドルやツツッキーが恐ろしくなって逃げ出してしまったらしい」

 

「つまり、先へ進むためには全ての隠れたデンパくんを探し出して、指定された『台座』にセットしなくちゃならないのか……」

 

 うーむ。知っているとはいえ、改めて考えるとやはり面倒くさい。ウィルスもそこそこのが湧いてくるみたいだし、油断は出来ないな。後はヒカルが騒ぐことで、ウィルスの注意を引き付けてくれれば言うこと無しだ。

 ……何? 外道過ぎるだって? ヒカルはそれくらいじゃくたばらないよ。多分。最悪、本体のツカサ君が生きてさえいれば、復活は可能だろうし。

 

「一度『台座』にセットされたデンパには一定時間の間、保護フィールドが張られるらしいから設置後に食い荒らされる心配はない。ただ、そのデンパを抱えて移動している間にツツッキーが襲いかかってくるらしいから、その時はエリア中央にある地下遺跡への階段に入って、ツツッキーの攻撃をやり過ごしてくれ……っていうのがあのデンパの言っていたコトさ」

 

 ふぅ、と一息ついたツカサ君は、未だにキリキリと頭部を掴まれたままのナンスカ遺跡仕様のデンパくんへと武装化していない右腕の、細くて柔らかそうな指で差し示す。全身に呆れとやるせなさを纏った、そんな仕草だった。

 とにもかくにも、やはりあのデンパから聞いた情報だったらしい。保護フィールド以外は概ね既知の内容であることは確認出来たので、早急に所謂『絶』中のデンパ達を探しだすべきだろう。

 

「そうなんだ……ありがとう、ツカサ君!……っと、そろそろボク達も行かなくっちゃ」

 

 あんまり時間を掛けすぎると、委員長が『見せられないよ!』な状態になっているかもしれないしね。

 電波体のprprが生身にどこまで有効なのか……それが問題だ。小学生のア◯顔は見たくないなぁ……。

 

「うん、頑張れスバルくん。ボクも陰ながら応援してるよ。それじゃ……また、会おう」

 

「……もちろん! そうだ、この件が終わったらさ、またブラザーバンドを結び直そうよ! 機種変したから、ブラザーバンドもフォーマットされちゃってるでしょ?」

 

「……わかった。それじゃ、期待して待ってるよ」

 

「大丈夫だって! あんな鳥なんて、丸焼きにして食ってやるからさ! ……それじゃ!」

 

 ブンブンと風を切るように片腕を振り、ツカサ君に別れを告げる。中々良き出会いであった……。

 

「オイ、そこの岩男!」

 

「……何?」

 

 漸くデンパくんをヘッドロック?から解放したようで、黒ジェミニ……ヒカルの武装化した右腕は手持ちぶさたになっている。と言うか、ここで邪魔されてもいい迷惑なのだけど。体力の無駄だし。

 

「喜べよ。今回の件、オレも協力してやるぜ」

 

「ええぇ……ヒカルって、そんな人助けに燃える殊勝なヤツじゃないじゃん……」

 

 かなりぶっちゃけたけど、ぶっちゃけ間違ってはいないはずだ。

 ヒカルは特に他者(主に両親)への憎しみが強いから、そんなことをするようなタイプではない(断言)。

 

「……そういうやつじゃねーよ。ここでトンズラこいても胸糞悪いだけだからな。オレは親の役目から逃げ出したヤツら(あいつら)とは違う。それを証明したいだけだ」

 

 おっと、いつになくマジモードのヒカルだ。なんだろう、もっとこう……本能のままに暴れるようなヤツだと思っていたんだけど。

 祭りの場所は、ここか……?みたいな。

 

「ヒカルが協力するのなら、その、ボクも……」

 

 ついで、とばかりにツカサ君も協力を申し出てくれる。

 常識人の比率が増えるのは有難い。ボクだけじゃ御しきれなかっただろうからね。当然、ボクも常識人枠だ。異論は認めない。

 

「ボクは歓迎なんだけど……どう、ロック?」

 

 先程から気を使っていたのか、沈黙を保ったままのロックへと問い掛ける。残留電波で変身しているのだから、ジェミニによる造反の気は無いと思うけど……?

 

「……オレも構わねぇぜ。テメェらからFM星人の意識は感じられねぇし、手が足りないのはわかりきってたからな。協力する理由も明確だから、断る理由もねぇ」

 

「……決まりだな。どうやら炎のデンパとやらは、お互いにある程度存在を察知出来るみてぇだ。入り口付近にいたデンパ(アイツ)の話だと、北西の方角に炎のデンパ特有の気配ってヤツを感じるらしい」

 

 ロックの判断に対した反応も見せず、黒ジェミニ……ヒカルは淡々と方針を決めていく。

なるほど、躊躇や迷いが少ない分、話がポンポン進んでいくのはやり易い。この辺の強引さは、委員長やロックに通じるものがあるように思う。

 

 それじゃあ……ナンスカ遺跡、攻略スタートだ!

 




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GET DATA……無し

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