星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーナンスカ村ーー

 

 取り急ぎ電波の体を脱ぎ捨て、待機場所の岩場へと帰還する。既に委員長達は退避したようで、岩場には人影一つすら認めることは出来ない。

 

「……先に行っちまったか」

 

「みたいだね。……いや、メールが届いてる。委員長からだ。何々……村中が大混乱に陥ったのを確認したので、先に地上絵のテントまで退避してるわ! よくやったわねスバルくん! ……だってさ」

 

 確かに、電波体として正面から包囲網を突破出来るボクを待つのは合理的ではない。通話ではなく、メールで伝えているのも、隠密性を保つためだろう。

 

「……なら、このまま一気に駆け抜けちまおうぜ!」

 

 アガメさんが倒れている村の祭壇には、慌てたナンスカ族の人達が続々と押し寄せている。村人の注意がアガメさんに一点集中している今、村の隅を全力疾走しても誰の目にも止まることはないだろう。

 

「オーライ! いくよロック!」

 

「派手に行くぜ!」

 

 だから、見つからないように逃げるんだってば。

 

 

 ーーナンスカの地上絵ーー

 

 スカイボードで楽をしたい気持ちを抑え、逸る鼓動と相談しながらテントを目指すこと数分。何とか村人達に見つかることなく、合流場所に辿り着くことが出来た。

 テントの側には、まるでエジプトか何かの神殿を思わせる遺跡への階段が設けられている。日陰になっていていいと呑気にテントを設置してしまったが、実はあんまり褒められた行為ではなかったのかもしれない。

 

「はぁ、はぁ……お待たせ!」

 

「あら、ロックマン様のままで来ると思っていたのに……残念ね。まぁいいわ、早く脱出しましょう!」

 

 ウェーブホールが、遠いんだよ! 誰だって、自分の側でいきなり子供が出現なんてしたら注意を向けてしまうじゃないか!

 

「マテリアライズ! クルマ!」

 

 キザマロのかざしたスターキャリアーから、緑色を貴重とした中型の車?がマテリアライズされる。マテリアルウェーブはお高いんじゃないなかったっけ……? それとも、容量を食うから分割で保持してたとか? タイヤもついていないし……と言うか、浮いてるじゃないか!

 ……今考えても詮無きことだよね。

 

「では早速、このクルマで飛行場まで急行しましょう! 飛行機に乗って、離陸してしまえば、彼らも手出しが出来ないと悟るハズです!」

 

「ふぅ、これでやっとニホンに帰れるのか! 帰ったらニホン食を食いまくるぜ!!」

 

「程ほどにね……」

 

 運転担当のキザマロとナンスカなんて早いとこお去らばしたいゴン太は、我先にと出現させた四人乗りと推測できるクルマのマテリアルウェーブに乗り込み、後に残るはボクと委員長だけとなる。……っと、委員長が心配そうにこちらを伺っている。何か言ってやった方がいいのかな?

 

「大丈夫、ボクの心配は要らないよ」

 

「…………その、ええっと……」

 

 心配性な委員長様だ。パスポートガン無視なボクの心配をするよりも、密入国状態のゴン太を帰国させる方が余程先決だと思うのだけどね。

 

「そんなに頼りなく見えるかな? 委員長(キミ)のブラザーは、さ」

 

「バ、バカね!アナタはワタシのスバルくん(ブラザー)なのよ? ……信じてるに決まってるじゃない!」

 

「GOOD!」

 

 照れくさいのか、少々赤い頬の委員長に向かって親指を突き立ててやる。それでこそ委員長だ! しかしボクの意図が伝わることはなかったようで、委員長は気が抜けるようなため息を放った後、呆れたようなジト目で睨んでくる。何故だ!

 

「どうにも締まらないわね……まぁいいわ。それじゃ、ニホンで会いましょう! 必ずよ!」

 

「もちろん! ……何なら、空港まで迎えに来てあげようか?」

 

 ワープホールで超高速移動可能な電波体になれる以上、同時に出発すればニホンへ先に到着するのがボクであることは明白だ。飛行機の荷物より後に届くメールなんて、存在しないだろうしね。

 

「フフッ、結構よ。ワタシとしても、アナタにエスコートしてもらえるのは嬉しいけれどね」

 

 そう言って委員長はクルマ(エアカー?)に乗り込み、起動したクルマはナンスカの大地に砂埃を巻き上げながら、あっという間に走り去ってしまった。流石のナンスカ人でも、走行中のクルマに突っかかったりはしないだろう。多分。どちらにしろ、後はアガメさんの安全輸送に期待するしかないか。

 

「やれやれだぜ……とりあえず、これで『一件落着』ってヤツだな。よし、とっととウェーブインして、あのオンナにどやされないようズラかるとしようぜ!」

 

「うん。了解!」

 

 ここからウェーブホールまではちょっと遠いけど、慎重に人目を避ければ問題なくいけるはず。

サイレントミッション、スタート!

 

 

 

 ーー十分後・ナンスカ村の電波ーー

 

 未だに混乱を極めるナンスカ族の視線から逃れ続け、なんとか電波変換までこぎ着けてから数分。ボク達は漸く、ナンスカ入国時に使った日時計のある岩場まで戻ってくるコトが出来た。後は、ここからスカイウェーブまで上がってコダマタウンへの帰路に着きつつ、連絡がくるのを待てばいい。

 

「電波転送! スカイウェーブ、オン・エア!」

 

 電波体(ボク)からの要請を受諾したワープホールが、ロックマンの体を遥か上空へと射出する。

 毎度思うのだけど、相変わらず凄まじい加速だ。止まるんじゃねぇぞ……!

 

「これにてナンスカ逃亡劇も、無事に終幕だぜ!」

 

 どっかのロリコンみたいなこと言わないでよ……って、何かとすれ違った?

 ……まぁ、別に何でもいいか。どうせメール運搬のデンパくんか何かだろう。さて、コンドル・ジオグラフ。どう攻略したものか……

 

 

 ーーナンスカのスカイウェーブーー

 

 チュイン! という小気味良い音とともに、再び広大な空の世界へと足を踏み入れたボク達。

 澄み切った空気。彼方まで見渡すことが出来る、地上の美しさ。ここには、人を惹き付けてやまない要素が溢れていると、今ならそう断言出来る。

 

「……ふぅ、これで少しは落ち着けるかな」

 

「ま、空まで追いかけてこれるワケはねぇからな。後は気楽に楽しもうぜ、ちょっぴりデンジャラスな空の旅ってヤツをよ!」

 

 この辺りには中級の雑魚ウィルスしか出現しないので、ロックの発言もあながち間違いではない。

最近はウィルス程度じゃ満足している様子にも見えないので、コンドル・ジオグラフみたいな大物狩りは、ロックの戦闘狂的な部分を大いに刺激してくれるだろう。ブラキオ・ウェーブ(あのクソ野郎)はあまりにも遣りづら過ぎて、ストレスしか溜まらなかったようだし。

 取り敢えず、ゆっくりコダマタウンを目指しますか……。

 

 

 

 ーーナンスカ村ーー

 

 ロックマンが去った後のナンスカでは村長のアガメが意識を取り戻したこともあり、村人達を襲った混乱は、一応の収束を見せていた。そのアガメ自身は、心配心を寄せる村人達に回復した旨を告げ、今は一人、村の中央にある祭壇から少々離れた場所で心の整理を行っている。

偶然にもその場所は、先ほど件のロックマンがスカイウェーブへと旅立って行った日時計のある岩場のすぐ近くであったのは、ある意味奇縁と言えるだろう。

 

「さっきの『タベルンスカ』は一体……? 私の体は至って健康だが、周囲のお供え物はいくつか消失していた……それより……ゴンターガ様に逃亡を許してしまった。支配者として、あれ程相応しい存在はいなかったというのに……我らナンスカ族が夢見た『勢力拡大』もここまでか……」

 

 果たして、(ムー)はナンスカを見捨ててはいなかった。

 

 

 

『その夢……諦めるには早いんじゃないのか? この私が叶えてしんぜよう』

 

 人気が無いと言っても過言ではない岩場に、怪しげな男の声が鳴り響く。

 

「!!」

 

 年を経て衰えたとは言え、長年の村長経験で培った察知能力が、ナンスカ・オサ・アガメの体を衝動的に振り向かせる結果となる。別に襲われるとか、そんな物騒な予感ではなかったのだが、とにかくコイツに背後を赦してはいけないという、嫌な感覚がアガメの思考を支配していた。

 

「誰だ!!」

 

 老いた村長が岩場の先、日時計の側に認めたのは金髪で長身痩躯な怪盗然とした男……つまりハイドであった。

 

「どうやら、ソロは失敗したらしい……オリヒメ様も最初から全てこの私に一任してくだされば、手っ取り早く済んでいたモノを」

 

 やれやれ……と、ハイドは肩をすくめてみせるが、その実、彼の内心は苛立ちと嫉妬心に満ちあふれていた。最近、組織内部での扱いが日に日に悪化の一途をたどっている。このままでは、いつか古代のスターキャリアーまでもが……という不安も強かったが。

 

「……キサマのコトを尋ねているのだが」

 

「ああ、これは失礼。私の名はハイド……夢破れ、意気消沈注の貴様に『ムーの遺産』を授けるため、参上した者だ」

 

 多少の苛立ちを含んだアガメの言葉を受け、欠片も申し訳なさそうではない態度でハイドが口にした内容は、ムーを信仰しているナンスカ族として、到底見過ごせる文言ではなかった。

 

「……何? 『ムーの遺産』だと? キサマ、軽々しくムーの名を……よもや、先程の者達と繋がっているとは言うまいな?」

 

「おっと、私を疑うと言うのなら、まずはコイツを見ていただこうか。……出でよ! コンドル!!」

 

 アガメから険悪な雰囲気が漂ってくることを察したハイドは、慌てず騒がず……といった余裕とともに、懐から一台の携帯端末を取り出してアガメに見せつける。馴染みのない形状である、『古代のスターキャリアー』を目の当たりにしたアガメは、訝しげな表情を見せるばかりだ。当然、件のスターキャリアーが強烈な閃光を放ち、内部から赤い不死鳥然とした電波体が出現するまでの短い期間であったが。

 

「な……何!?」

 

「我はムーの『監視者』。ムー大陸とともに大空を飛び、その存在を見守ってきた」

 

 件のコンドルと名乗る電波体は、黄色い嘴と襟に該当する箇所に装備された黒色プロテクターを除けば、後は燃え上がるような真紅色の電波が体覆っている……という意外にシンプルな容姿をしている。

 

「ムーの監視者? バ、バカな……いや、まてよ……! ナンスカの地上絵にも鳥の絵が描かれていたな……あの地上絵の鳥は、ムーに住んでいた鳥だと言われている。まさか……」

 

「フフフ……如何かな? 本物の『ムーの遺産』である、この『古代のスターキャリアー』があれば、ナンスカの『勢力拡大』など、実に容易い……」

 

 アガメの動揺をはっきり感じ取ったハイドは、ニヤリとした笑みを隠す気もなく交渉を再開する。今回、ハイドの目的はナンスカ族の人間としてはタブーにあたる可能性があるので、なるべく平常心を奪っておきたかったのである。

 そしてハイドの目論見通り、ムーの遺産がブラフやハッタリの類いではないことを察したアガメの心中は激しく揺れていた。

 

「……これを、私に授けると?」

 

「タダというワケにはいかない。キサマという立場の人間(ナンスカ村の村長)が知っている限りの、ムーに関する情報と交換……というのはどうかな?」

 

「……!」

 

 提案の形を取りながらも、それが曲げようのない条件であることは明白であった。故に、、ナンスカ族の規範となるべきな村長という役職のアガメは心穏やかにはいられない。

 

「そ、その条件をのむことは出来ない……ムーの情報は、我らナンスカ族が秘匿し続けてきたトップシークレットだからだ」

 

 独自の風習や慣習に従い続けてきた影響かナンスカ族の人間は外に対して否定的であったが、その代わりに身内や部族への思い入れは非常に強固なモノになっていた。

当然、このナンスカ・オサ・アガメも例外ではない。そのアガメがたとえナンスカの為とはいっても、ナンスカの民を裏切るような真似をすることは、崖っぷちのアガメの心にも強力なストッパーとしてはたらいていた。

 

「『ムーの遺産』が欲しくはないのか? 今という機を逃せば、キサマの望みは本当に絶たれてしまうのだぞ! ナンスカを、南の果てのちっぽけな国で終わらせたくはないだろう!? ンフフフ……」

 

 まさに甘言。アガメの心は既に、コンドル(このチカラ)によって発展したナンスカの姿を思い描いていた。

 

「……東だ……ナンスカより東の地にムーの大陸はあったと、我らの伝承には記されていた……」

 

「ンフフフ……村長、貴重な情報を感謝させてもらうよ。では約束通り、この『ムーの遺産』は貴様のモノだ」

 

 根負けしたアガメの言葉に満足したハイドは、アガメに約束だった古代のスターキャリアーを投げ渡し、成り行きを見守ることにする。

電波変換を見届けるまでは、報酬を払い終えたとは言えないのだから。

 

「我がチカラを授けよう……」

 

 一瞬でアガメの下に移動したコンドルは、そのまま溶けるように体を変化させアガメを覆うことで、電波変換を開始する。

 

「こ、これは……!? 今までに感じたことの無い、未知のチカラが流れ込んでくる!! う、うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 辺りを、閃光と爆風が吹き荒れる。強大な電波体が誕生するその様子を見ているハイドの口は、限界まで弧を描いていた。

 

 

 

「ハァ、ハァ……こ、これは……!?」

 

 まるで、鳥と飛行機の融合したような姿。真紅の体色に、純白の羽。それをうつぶせにした状態で、巨鳥の電波体、コンドル・ジオグラフはナンスカの空を悠然と飛行していた。

 

「その姿こそ、コンドル・ジオグラフ!! ムーを天空より守護せしめてきた、偉大なる戦士の伝説だ!! 最早、ナンスカを導く為に偽物の支配者など必要ない。その大いなるチカラを民衆に示すことで、貴様こそが本物の支配者として君臨すればいい!!」

 

「オォォォォォォ!!」

 

 ハイドの言葉に漸く実感が湧いたのか、雄々しい雄叫びを一つあげ、ナンスカ・オサ・アガメ、いや『コンドル・ジオグラフ』は更に高度を上げ、ナンスカを侮辱した不届き者達の後を追って行ってしまった。後に残されたのは、ニヤつく笑みを浮かべたハイドのみ。

 

「ンフフフ……ンファーッハッハ!!」

 

 この後の展開を予測したハイドは、とうとう堪えきれずに吹き出してしまった。

 ナンスカの大地に、ハイドの高らかな笑い声が鳴り響く……

 




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