ドラマ「IDOLM@STER」   作:毎日三拝

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お待たせしました。番外編の締めです。


番外編 月島さんデビュー④

 結果から述べると私は合格した。

 アイドルの第一歩を確実に踏み締めた瞬間でもある。

 なのにあんまり実感が無い。

 微塵も欠片も何もから何もかも無いったら無い。

だってさ、だってさぁ、あれから数ヶ月経ってるのに仕事がまったくないんだよっ!

 弱小事務所なのは分かってたさ、社長も無意味に黒いし、篠原さんが以前にやらかした失態もあるしね。

 それでも、それでもさー、これはないよ……。

 芸能事務所御用達の有名トレイトコースに入ったのに毎日放課後まで勉強三昧っ、皆勤賞も欲しいままで、渾名も委員長だよ!

 おかげで最初のテストも上手くいったよ!!

 他の特進クラスの子達と変わらない点数だってさ!!

 アイドルの仕事と言えばお客さんの前で歌って踊って楽しい時間を提供するあれだよね、いまのところ私は照明が暗く人気の無いレッスン場で歌って踊ってるんだけど如何いう事ですかね……。というかこれは現実ですか。ちくしょう。

 練習終わって、自宅に戻りTVを点ければ同期にデビューしたアイドルたちが華々しく活躍している姿を見る破目に……。

 

『私、アイドルデビューできて幸せですっ。頑張るんです!』

 

 だってさ。

 思ったとおり雑魚過ぎて相手にならなかったね。私が。

 でも相手は天下のIMSGキュートグループのトップアイドル。たった数ヶ月の間に成長したよね、デビューオーディションの時とは別人だよね、大したやつだ。

 まぁ、分かってたよ。

 現実はそんなに甘くない。

 いくら想像の中では合衆国の大統領になれても現実ではただの小娘さ。唯一の自慢であった演技者の技能はあまりアイドルには役立ってないしね。

 このままトレイトコースで皆勤賞の委員長という呼び名を欲しいままにするしかないのかな。帰りたい……、温かかった母の胎内へ……。

 ようし! ネガティブ終了!!

 これから月島薫はポジティブになります。

 きっと明日には良いことあるさ、ケセラセラ。

 取り合えず私はお気に入りの卓袱台に広がった書類を集める。

 これは伊嶋Pに頼んで集めて貰った近日行われるオーディションの詳細資料だ。

 書類審査で落ちる確率の高いので、とにかく仕事は選り好みせず広範囲に手当たり次第参加している。

 これまで受かった仕事は金融関係のティッシュ配りから飲食業関係のティッシュ配りまで幅広くティッシュ配り関係の仕事だ。偶にチラシ配りもあるけど……。

 おかげさまで如何に効率よく道行く人に受け取って貰えるかを熟知出来たと思う。

 だからなのか、私の振り付けを覚える基準はティッシュ配り関係が多い。非常に悲しい。

 でもさ間違いなく風間芸能事務所で一番ティッシュ配りが上手いのは私だ。これは譲れない、譲りたくない。

 変にポジティブシンキングになったところで、そのやる気をまわし書類作成に務める。

 びっしりアピールを載せた履歴書に宣材写真を貼り付けて送らないといけない。それを何枚も何枚も繰り返し、繰り返し作成して郵便で送る。

 地味に大変な作業だ。

 本当ならば事務所の事務員がしなきゃいけない事だけど、うちの事務所は事務員がいない。

 代わりに事務仕事をやっているのが忙しい伊嶋Pとちゃらんぽらんの竹之内Pなので必然的に仕事の無い私が自分の書類を作成して送っている。

 最初の内は履歴書など書くのも大変だった。

 大切な書類だからと思い込み、テンパって誤字を量産したりね。

 今ではなれて機械的な作業になっていた。

 多分この技能も風間芸能事務所で一番上手い。

 最近ではそれを見込まれて年少のススキちゃんのも私が書いてるし。

 なんだろう。

 事務員の方が向いている気がしてきたような。

 もしアイドルとして大成出来なければそのまま事務員としてやっともらおうか。その前にあの事務所潰れてそうだけどさ。

 流れ作業のように何枚か仕上げた後に休憩を挟む。

 やっているうちに気付いたのだけど事務仕事はキリが無く、続けて出来てしまうので精神的な疲れが溜まり易い。

 だから小休憩を挟むと効率的です。

 仕事中では無理だけど自宅ではTVを見ながらとか出来るから精神的に楽に書類整理できるよね。気を抜き過ぎると失敗するけどさ。

 

(それにしても……)

 

 私は徐々に気付き始めていた。とある事実に。

 迷走に迷走を重ねて、目を逸らしていた事があった。

 

(私、このままだと事務所クビになるんじゃないか?)

 

 アイドルデビューしてからの実績無し。

 単独ライブどころか、合同ライブの前座にも呼ばれた事が無い。

 オーディションには参加しているが未だに実績になるような大きな仕事に関っていない。

 ないのないない尽くし。

 

「……………………」

 

 一人暮らしの寂しい空間にひやりとした冷たさを感じる。

 心の其処から段々と不安が噴出し、得体の知れない恐怖が身体を包み込む。沢山の感情が駆け巡っていくが、頭の中は一言で支配されていた。

 

(やばい)

 

 何がやばいって、落魄れて消えていくパターン入ったよね?

 アイドルブーム全盛期でもある昨今だが、栄枯衰退は必ず存在する。全てのアイドルを夢見る少女が夢を叶えて邁進出来る訳では無い。

 夢破れて陰に隠れてしまうアイドルもやっぱりいる。

 芸能事務所からスカウトされたり、夢叶えようと田舎から上京してきたはいいが、成績は揮わずのまま静かに田舎へ戻っていく。

 そんな姿はこの業界では大して珍しくない。

 現に私はそんな人達を何人も見送ってきた。何度経験しても辛いものだった。

 寂しそうにして精一杯の笑顔を作りながら地元へ帰っていく人達の姿を自分に重ね合わせる。

 

「……やだな」

 

 心底そう思う。

 出来るなら経験したくない。挫折以上に現実と折り合いをつけるのは難しく、とても辛いんだろうな。

 

「頑張らないとな」

 

 実際問題、私を取り囲む現状は風向きが悪い。常に向かい風へ立ち向かっているような感じだ。

 だからこの風を変える大きな何かが必要なんだと思う。

 それが何か?

 

「あっ」

 

 その時、私の脳裏にとある話がよぎる。

 

『ドラマのアイドルマスターが新しくなってまた復活する』

 

 これだと直感した。

 現状これしかないと思った。

 実績と実力に見合わないと諦めていたが、一般人でも参加出来る大規模オーディションが丁度参加受付期間内だ。

 どうせ落ちてもまったく痛くない。駄目で元々ってやつだ。

 参加概要が書かれた資料は伊嶋Pに渡された応募資料にも一応入っている。

 何故か知らないが、お膳立ては済んでいた。

 必要なのは私の気づきとやる気だけだったのだろうか。まぁ、そんな事はいいや。

 

「いよ~し、やるぞぉい!」

 

 私に吹く風向きが変わった気がした。




お気に入りの小説が投稿されたので自分も久し振りに投稿。出来るならこのまま繋がれ、投稿の輪……ッ!!?
次回からは本編ですね。
多分に他の作品の方を優先するかもしれませんが。

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