ドラマ「IDOLM@STER」   作:毎日三拝

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※二次創作作品を一纏めにさせて頂こうと考えてハーメルン様にも投稿しました。一応この作品は処女作であります。


一幕 夢のような現実

『きらめく舞台でまた会える』

 

 青い表紙を捲ると最初のページに書いてある一文がそれだった。

 いっぱいに広がる青空。涼しく吹き付ける風が心地良く私の青く長い髪を揺らし、手元の冊子に集中する力をくれる。集中し気合が入ったので、恐る恐る開いたのだが、その文字を読んだだけで震えた。

 その言葉を実際に目にするまで、台本を貰っても、合格通知が来ていても現実を現実と受け止められずにいた。

 嬉しい。

 そう、思った瞬間に屋上の落下防止に備えて取り付けられている手すりを思いっきり殴り、嬉しさとは別の意味で飛び跳ねた。

 

 

 ■

 

 私は名前は月島薫。今いる屋上があるボロイ建物の風間芸能プロダクションに所属一年目の底辺アイドルだ。

 そんな私が貰ったこの台本は世間の注目を最も集めていると言っても過言ではない物だ。  

 昔、視聴率50パーセントを超え、世の一時代の象徴となったドラマ「アイドルマスター」のリメイク版である「アイドルマスター2」である。

 何故それ程に話題を集めるかと言うと、前作の「アイドルマスター」が世間に及ぼした影響は凄まじく、作中に在ったアイドルランク制とオーディション方式を実際に取り入れてアイドル界に革命を呼び起こしたり、プロデューサー制度を採用する芸能事務所が増えたり、メインヒロインのアイドル候補生『天海春香』は架空の存在であるにも関わらずランク制の頂点であるSランクアイドルの象徴として君臨しているからである。

 未だSランクを超えるアイドルがいないので彼女の評価は時を経る度に上がるばかりだ。

 そんな時代を創った凄まじい作品の魅力はその内容ではないかと私は思う。

 話は今にも潰れそうな貧乏芸能事務所である765プロへ一人のプロデューサーが訪れる事から始まる。事務所に所属するアイドル候補生達は自分をプロデュースしてくれる人物に期待を持ち、どんな方法でスターダムに駆け上がれるのかと夢想しているが、(プロデューサーは一々長いのでPと短縮する)そのPは事務所の社長にスカウトされてきた素人だった。

 それを知らない10人のアイドル達と新米Pが協力し合い、下はFから上はSまでに実力を別けられるランク制の実力社会に挑むという話だ。

 個性的な10人と特徴の無い平凡なPと時々現れる黒い(名前じゃなくて黒くシルエットでしか姿が分からない)社長が織り成す物語を私は何度も繰り返し放送している再放送で知って魅了された。

 中でも先程のSランクアイドルの象徴でメインヒロインである『天海春香』が好きで彼女の持ち歌である『太陽のジェラシー』は何度もカラオケで歌った、持ち歌の一つだ。

 実際、役者になりたいと思っているのに事務所の方針で渋々アイドルをやっているのも彼女に影響されている所為なのかもしれない。

 そんな私の人生に多大なる影響を及ぼした作品のリメイクをするという噂を初めて聞いた時に私は出るしかないと決意し、今回の「アイドルマスター2」の『天海春香』役のオーディションがあると聞いた時は事務所に相談せずに応募。

 アイドルランク制を考えるとこのオーディションは軽く見積もってもAからBまでの難易度を誇っており、底辺さまようFランクアイドルの私には雲を掴むに等しい行為だと自覚していたので、事務所に言えば諦めろとの言葉を言われるから黙っていたのだ。応募期間中に親しくしている事務所のPが「挑戦しなくていいのか? 」と笑いながら聞いてきた事があり、内心ビクッとしたけど悟られないように笑って誤魔化した。

 それから数日後に書類審査が終わったらしく、万単位の人間が落ちた第一次審査を軽くパスし、来る第二次オーディション当日には万全の準備を施して勝負に臨んだ。

 学校に行きながらアイドル活動もして、最後に応募から前日まで少ない期間だけど全力で短期アルバイトを繰り返し、一張羅を拵える。小さい頃から演技一本で女子力が低い私には何が何だか分からないけど、TVでよく見るスレンダー系のアイドルの格好を真似してきたのだから周りに劣らないはずだ。高かったから大丈夫だ。値段がそのまま私に高貴さを分け与えてくれているはずだ。つまり、5万8千女子力。正に圧倒的。

 会場に入り受付を済まし、控え室に移動するといかにも芸能人だというオーラを放つ人達で溢れていた。

 自分の最高装備を見下ろす。目の前の人物達を見る。 

 私が身に付けた女子力を軽く凌駕し、私がここに来るまでに頑張った血と汗がプライスレスなのかと軽くショックを受けた。大体、よく考えたらTVの人の格好を私が真似したら劣化するだけだろうが。

 しかし、これはドラマオーディションだ。服装センスなんて衣装の人がやってくれるからドラマには直接関係無いはずだ。加えて、演技には自信があるので演技力で勝負だと。

 内心焦りながらも呼ばれては出て帰ってくるを繰り返す候補者を眺めていると

 

「番号231番、月島薫さん」

 

 私と他の二人が呼ばれた。深呼吸を一度してから立ち上がり、返事を返してから先に控え室を出た二人の後を追った。 

 

「「「 失礼します 」」」

 

 仲良く三人の声が合わさり、室内に響く。目の前にはあまり広くない空間の右側にパイプ椅子が3っつ並んで配置され、その前に横長の机ひ置いてある紙と睨めっこする4人の大人が候補者と同じパイプ椅子に座っていた。

 それぞれが室内に入り、一番前から順に奥に詰めて椅子の左側に立つ。

 

「どうぞ、座ってください」

 

 緊張して喉が渇いたのを我慢し、無表情で席に着席して失礼にならないように前を向く。その瞬間、私に電流が走った。

 

「これより「アイドルマスター2」の出演者オーディション第二次審査を始めます」

 

 今話した黒いサングラスを掛けている一昔前風のプロデューサーの格好をしたおっさんの隣にいる女性を私はよく知っている。

 日本に住む大体の人は姿は知らなくとも名前は知っているであろう人物、「アイドルマスター」の原作を手掛けた小説家、ナムコ先生がそこにいた。

 

「それでは自己アピールから右端から順にお願いします」

「はいっ! 」

 

 私の憧れが目の前にいるという事実は私から思考を奪い去った。これは恐らくドラマから影響を受けて原作に手を出し、「アイドルマスター」だけではなく、ナムコ先生の著書をかき集める程に彼女が紡ぎだす作品の魅力に溺させられたからだ。

 

「以上です」

「はい、ありがとう。次、左端の人」

 

 そんな人物が近くにいたらサインを強請るのがファンの信条だろう。

 

「左端の方から、どうぞ」

 

 そうだ。それがファンと言うものだ。

 

「おい、聞いているのか? 」

「えっ! は、はい!ナムコ先生、どうかサインを下さいっ!! 」

 

 先生方は唖然とし、右側を見ると二人の候補者が笑いを堪えている。段々と冷静になっていく思考を憎憎しげに思いながら、やってしまったと後悔した。

 しばし、沈黙が続くと見かねたのかナムコ先生が

 

「それは、後にして下さいね」

 

 と優しく大人の対応を取って下さり、圧倒的にマイナスポイントを作りながらもやり直し、自己アピールを終えた。失点を取り戻すために演技アピールでは度肝を抜いてやるとやる気を満たせたから返って失敗も悪くは無いと思う。

 その後、歌唱力のテストがあり、私を含めた三人それぞれが「アイドルマスター」の作中に出てきた歌を歌った。ちなみに私は得意の『太陽のジェラシー』を披露する。何も反応が無く、無表情の4人。

 だ、大丈夫だ。まだ演技アピールがある

 

「それでは、審査を終わりにします。ありがとうございました」

 

 はず?

 結局、ナムコ先生のサインも貰えなかった。多分、オーディションは落ちただろうけど、結果の通知は後日、台本と共に合格通知が来るらしい。

 あっ、応募所に事務所の住所を書いた事を思い出した。このままでは不合格の通知がアイドル仲間に知られてしまう。自分だけ興味がありませんという顔をしていたのに、ちゃっかり応募していた事がバレて冷やかされる。まぁ、別にいいか。私はあまり仲良い人がいないし、今より風当たりが強くなるだけだ。

 この後、他に何も無かったのでとぼとぼと一人暮らしをしているアパートへ帰った。

 

 

 ■

 

 

「お早う御座います」

 

 学校帰りの夕方、全然お早くないのに芸能業界お決まりの挨拶を事務所内に響かせる。

 

「お早う」

「はよう」

「ハロハロ」

 

 声がした左方面を見ると事務所に唯一置いてあるTVを仲良くソファに並んで見ている三人娘が一組。

 どうやら今日は所属アイドル全員が揃っているようだ。この貧乏事務所には私を含めてアイドルが4人しか所属していない。最初に入った時は「アイドルマスター」765プロダクションの9人より少なく、そのスピンオフ作品で版南無《ばんなむ》先生の「アイドルマスターディアリースターズ」のバンナムプロダクションの三人より多いから弱小事務所としては普通なんだと思っていたが、架空の事務所の所属アイドル数なんて参考になる訳がない。

 事務所のPにその辺りの事を聞いたら、手当たり次第にスカウトしてアイドルの数を増やす、質より数の考えが弱小事務所の基本らしく、量より質といえるのは素質ある人物が向こうから勝手に来る強豪事務所の考え方らしい。

 そんな事情もあり、大切なアイドル仲間なんだけど、この三人は問題児なのである。

 一番最初に挨拶を返したのが事務所で所属している最年長でDランクアイドルの笹森奏さん。

 スタイルが良くその豊満なボディを武器にしたグラビア専門のアイドルをしている。近場の文科系の大学に通っており、自動車免許も所有し、お酒とタバコが許される大人な女性。 年齢的に落ち着いており、三人の中で一番マシなのだが男と酒が絡むと途端に悪くなるのが玉に瑕だ。

 二番目に返事したのが事務所で最年少のEランクアイドル、速水すすきちゃん。

 なんと10歳のジュニアアイドルなのだ。貧乏事務所のグラビア系アイドルなので紐としか思えない水着をいつも着用させられてイメージビデオを撮らされている。基本的に子供なので悪戯しかしない。

 最後に適当な返事を返したのは私と同じ年齢の16歳なのに3年は先輩のアイドル、篠原杏里。

 この子は2人とは違いグラビア専門じゃなく、歌って踊れる正統派のアイドルだ。変わった癒し系の声質を武器にしたヴォーカルと動作にキレのあるダンス、笹森さんに負けないビジュアル。アイドルランクはCで、事務所で一番の稼ぎ頭である。

 そこだけ見ればとても優秀な先輩アイドルなのだが、Cランクといえば全国ネットにお呼ばれされてもおかしくは無いランクのはずなのに彼女は全くそういった話が来ない。

 私が所属する前の話なので伝え聞いたことだが、有名な全国放送番組に呼ばれて一度受けたにも関わらずに行かなかった事があったのだ。

 たった一度だけど、その一度で、事務所の信頼は無くなり各地の放送局でも風間芸能プロダクションはブラックリストに載ってしまい、所属しているだけなのに事務所の他のアイドルも絶対に呼ばれることは無くなったらしい。事務所にアイドルが三人しかいないのもその所為だと聞いた事がある。

 正統派アイドルをしている私がFランクから上に上がれない理由の一つで、事務所を通さないでオーディションに行った理由でもある。風間芸能プロダクションの印象は今も最悪で、名前を出しただけでオーディションを断られた時もあった。なるべく、印象を悪くしないようにする苦肉の策だ。

 まぁ、そんな事は過ぎた話なのでもうどうでもいいのだが。

 三人によく弄られる私は、彼女らを避けるように入り口から素早く事務所奥に移動する。事務所で最も偉い人物に挨拶と連絡、報告を来たらしないといけないため、社長室とプレートが下がっている扉を軽く二回ノックする。

 

「ドウゾ」

「失礼します」

 

 中に入るとよく日焼けされた暑苦しい筋肉とその褐色の肌が目立つ、禿げたバーコード頭のオッサンがいた。社長の風間幹彦さんだ。50過ぎのオッサンなのにボディビルダーのような筋肉を未だに保持している。本当に暑苦しい。

 

「お早う御座います」

「オハヨウ」

 

 前から思っていたが日本人なのに何で片言なんだろうか。

 

「ミス月島ニ郵便ガキテイルヨ。ホラ」

「有難う御座います」

 

 社長は言い辛そうに日本語を喋ると小さいダンボールを渡してくる。何だろう。

 

「今日は歌のレッスンで終わりなので、終わったらそのまま帰宅しますね、社長」 

「ヨキニハカラエ」

 

 イラッとしたけど、何も言わずにダンボールを小脇に抱えて部屋を出る。あんなんでも社長なのだ。

 

 ■

 

 郵便の送り主はTV局らしく、先日の結果通知だろう。

 先に他の連中が開けてしまう前に回収できたのは幸いだった。実際に被害が出る前に一人に慣れる場所で開封して悔しさをバネに今後の肥やしにしようと屋上へ向かう。

 ガチャリと扉を開けると空は快晴で心地よい風が吹き抜けた。

 ふぅと息を吐いて落ち着くと、屋上の真ん中でガムテープを爪でガリガリ剥がし、ご対面。

 

「ん? 」

 

 取り出して見ると中には、封筒と表紙が青い冊子が入っていた。

 

「あれっ? 」

 

 ちょっと、待ってくれ!この青いの!この青いのにナムコ先生のサインが書いてあるじゃないか!? ネットのオークションで見た事があるサインの形が、一緒で「薫ちゃんへ」と書いてある。

 夢が叶った。ゴメン、ゴメンナサイ。ナムコ先生。あの後に先生がサインをくれなかったから凄くケチな方なのだと思っていました。無神教で悪いけど、この奇跡に神よ感謝致します。

 しばらく、感動に浸っていると頭が冷えてきてサインが書いてある冊子が台本なんじゃないかと思って、封筒を開ける。

 もしかしたら受かっているかもしれないという緊張に手を震わしながら、封筒から紙を抜く。長ったらしい文章が並び最後の方に「合格」の文字が見えた。

 トテトテと端の手すりの所まで歩き、台本の一ページを開く。そこには一ページを贅沢に使って『きらめく舞台でまた会える』という「アイドルマスター」のキャッチフレーズがあった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 何度も転げ回りそうになったが、手すりを殴りつけた時の痛みを何とか堪えた。そのご褒美に台本の中身を何度もぱらぱらと確認していると嬉しさが止まらなかった。

 あの憧れの「アイドルマスター」に役者として出れ、尚且つ、憧れの『天海春香』を演技する事が出来るのだ。これ以上に嬉しい出来事はもう二度と来ないだろうと断言できる。

 

「へへへっ、う、えっ! 」

 

 知り合いが聞いたら確実に病院へ連行される程に変な声を出して悦に入っていたら、天国から地獄とは言い過ぎかもしれないが、幸せ絶頂の状態から崖下へ突き飛ばされたような衝撃が私に降りかかった。ぱらぱらと捲っていた冊子の最後のページにキャストの予定欄が書いてある。そこに当然、受かった私の配役が書いてあるのだが役名がメインヒロインの『天海春香』じゃなかった。

 そこに書いてあったのは

 

「……『如月千早』だと!? 」

 

 765プロダクションの孤高の歌姫の名前だった。


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