Fate/stay night Ideal alternative(アイディール・オルタナティヴ)   作:紗代

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五日目・朝 義妹

「まず依頼かどうかですが、正解は式波からの依頼です。衛宮切嗣は前回の聖杯戦争にて必勝を狙う式波とアインツベルンに雇い入れられた傭兵、当時の魔術師殺しでした。マスター適正こそ並でしたが式波はより確実に他の陣営を潰せるようにマスター殺しに特化した彼に取引を持ち掛けたのです。「聖杯戦争に勝った暁には万能の願望器をおまえにやろう。そのかわりマスターとなり戦争に勝利しろ」と。

それまでの彼に何があったのかは、私にもわかりません。でも彼は誰よりも「世界平和」を願う人だった。普通の手段ではその願いが叶わないものであると覚っていた彼はこの機会を逃すまいと承諾し、式波の手引きによってアインツベルンとも手を組みました。

そしてある特殊な聖遺物を用いて最優と言われるセイバー・・・今衛宮さんのサーヴァントになっている彼女を召喚し万全を期して戦争に臨みました。ですが、元々は傭兵。目的のために手段を選ばず効率優先で動こうとする彼は英雄嫌いも相まってセイバーに取り合うこともせずそのまま勝ち残り最後のマスターになりました。

しかし彼は聖杯に何を見たのか結局聖杯を破壊しアインツベルンと式波を裏切ったのです。必勝のために雇い入れた駒が裏切り、アインツベルンや自分たちの内情や秘密を知る者として報復と口封じのために抹殺するよう私へ依頼してきた、ということです。」

 

初めて聞く前回の聖杯戦争と、切嗣の過去。淡々と話す式波とそれを真剣な表情で聞きながら一回も声を上げないセイバーを見る限りそれは事実なのだろうと飲み込む。しかし、まだ腑に落ちないことがある。

 

「なあ、セイバーはさっき「個人的なもの」って言ってたけど。式波は親父とどんな関係なんだ?」

「シロウ彼女は・・・」

「待って、セイバー。それは自分で言うから」

「・・・そうですね、すみません。出過ぎた真似をしました。」

 

言いかけたセイバーを式波は穏やかに制する。そしてセイバーもその意図を汲んだのかこちらも薄く微笑むと姿勢を正した。友人のようなやりとりをする二人。もしかしたら前に召喚されたときに会ってたりしたのだろうか。

 

「衛宮切嗣は式波の傘下に入った際、ある一人の女性と運命的な出会いをします。その女性の名前は式波永遠(しきなみ とわ)。当時の当主の一人娘で、次期当主を目されていた才媛。出会った二人は惹かれ合い結ばれ、やがて一児を授かります。それが私、式波刹那です。」

「——————————」

 

驚きのあまり言葉に詰まる。切嗣の実の子。つまり、俺の義理の妹なのだ。

 

「アインツベルンの方でも衛宮切嗣の生殖細胞とあるホムンクルスの生殖細胞を人工授精させ合いの子を産ませることでより多機能なホムンクルスを生み出します。それがイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。」

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。バーサーカーのマスター。あの子も義理の兄妹だったのだ。そして、切嗣は聖杯戦争の後、俺を養子として引き取りそのまま息を引き取った。だからきっと式波たちはずっと二人で、ひょっとしたら一人で生きてきたのだろう。帰ってこない父親を待ちながら。

 

「私は衛宮切嗣を全面的に許すことはできませんが、切嗣に拾われたあなたを殺すほど憎んでいるわけではありません。イリヤは・・・狙ってくるかもしれませんけど」

 

穏やかな口調と少し困ったような表情をしつつも意志の強い目でこちらを見る式波。

 

「私はあくまで「衛宮切嗣の抹殺」を命じられたのであって縁者については何も言われていませんし何も知らない人間を手に掛ける義理はありませんから、衛宮さんのことは聖杯戦争以外では殺しません。もし不安なら自己強制証明(セルフギアススクロール)の方に書いてもいいです。」

「ギアススクロール・・・ってなんだ遠坂」

 

聞き慣れない単語に俺は遠坂の方を見る。と今度は遠坂が目を見開いて驚きを隠せないような表情をしている。そしてそれはセイバーもだった。

 

「裏切りが当たり前の魔術師の世界で、決して違約不可能な取り決めをする時にのみ使用される、もっとも容赦のない呪術契約の一つよ。自分の魔術刻印の機能を使って術者本人にかける強制の呪い。例え命をさしだしても、次代に継承された魔術刻印がある限り、死後の魂すらも永遠にとらわれることになる。 この誓約書を差し出した上での交渉は、魔術師にとって最大限の譲歩を意味することになるの、だから魔術師の間では滅多に見られない代物なのよ。おいそれと交わしていいものじゃないの」

 

そんな、本来ならありえない契約をかわそうとしていたのか、式波は。

 

「いや、誓約書は別にいい。俺は式波の言葉を信じるからな」

「いいのですか、シロウ」

「ああ、それに本当に殺そうと思えば昨日の昼間に商店街で会ったときに殺してる。だろ、式波」

「それはそうですけど・・・・そうですね、わかりました。衛宮切嗣がいないことも分かりましたし、私はこれで失礼します。」

 

俺に引く気がないと悟ったのか式波は諦めたように肩をすくめ、立ち上がる。

 

「もう行くのか?」

「はい。こちらもいろいろやらなくてはならないことがありまして、ああ、でも安心してください。皆さんに危害を加えるようなものではありませんし、不正のようなこともしてませんから」

「当り前よ。大体あなたのような存在が出てくることそのものが反則みたいなものなんだから」

 

遠坂がややすね気味にそういうと式波も少し申し訳なさそうに笑い玄関まで歩いていく。そして俺も見送りのためついていくことにした。

 

 

 

「今日はありがとうございました。それと、夜には敵だという事をお忘れなく」

「ああ、お前らを倒さない限り聖杯戦争は終わらないからな。またな、刹那」

「———————————え」

 

式波が動きを止めてこっちを見る。

 

「なんで、今名前」

「ん、ああ。だっておまえ名乗ってただろ。それにもう家族なんだし、駄目か?」

「ううん、そっか、家族か・・・うん。ありがとう、兄さん」

「にいさん?」

「そ、だって私妹だもの。それともダメ・・・?」

 

ほっとしたのも束の間。とんでもない切り返しが帰ってきた。ご丁寧にやや上目遣いで。こいつ、自分の見た目をわかっているのだろうか。

 

「い、いや。そんなことは、全然、ない!」

「?そっか、ならよかった・・・じゃあね兄さん。バーサーカーと当たるまで絶対に死んじゃダメだからね」

 

まるで何事もなかったかのように自然体。無自覚だった。そしてそのまま立ち去る刹那を見送り一息つく。

 

「式波にアインツベルン。魔術師殺しか・・・」

 

親父が正義のために(平和を願い)してきたこと。それはおそらく争いの火種を徹底的に潰すこと(傭兵として殺すこと)。それは間違いではないしきっと正義の味方になるうえで仕方のないことなのだろうと思う。けど、それで残された刹那たちはどんな思いだったのだろうか。少なくとも俺は、切嗣と同じことをしている刹那(無表情の彼女)が幸せそうには見えなかった。

 


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