Fate/stay night Ideal alternative(アイディール・オルタナティヴ)   作:紗代

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三日目・夜 月下の出会い

 教会の帰り道、遠坂と別れ帰ろうとしたときそいつは現れた。

 白い幼げな少女とそれに相反するように巨大な巌のような怪物。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと名乗った少女とそのサーヴァント・バーサーカー。ギリシャ最大の英雄「ヘラクレス」だと言うそいつにはセイバーの攻撃も、遠坂の魔術も効かない。きっと俺はここで殺されてしまう。けど、それでも、傷ついている誰かをみすみす見逃せない。

 

 「セイバー!」

「っ?!シロウ!!」

 

 そう思うが早いか、俺はセイバーを突き飛ばし前へ出た。そこには安全地帯なんてものはなく、死を告げるように振り上げられた斧剣が俺に向かい――――。

 

「——————そこまで」

 

透き通るような澱みない高い声と一発の銃声。目を開けるとそこには、黒いコートの少女が一人佇んでいた。遠坂よりも長い黒髪をポニーテールに結い上げやや大きめにも見える黒いコートを着込んでおり、靴も、彼女の装身具すべてが黒。それが彼女の恐ろしく整った白い顔を引き立てる。

俺の足元には一発の弾丸がアスファルトに深々とめり込んでおり、おそらく彼女の手に持つ銃からのものであろうことが分かった。

 

「———————————っ」

 

一瞬、彼女と視線が交わった。何の感情も含まれない眼差しはすぐに逸らされてしまったが、俺は月明かりに照らされる彼女の美しさに見惚れ、視線を逸らされてもずっと彼女から目を逸らせずにいた。

 

「ごめんね、セツナ。お兄ちゃん殺しちゃうところだったわ」

「いいよ、イリヤ。電話に出てくれないからもしかするとって思ってたし。—————それにまさかサーヴァントを庇うような奇特なマスターがいたことにも驚いたしね」

 

「あ」と白い少女は思い出したように呟き、コートのポケットを探って携帯を出して確認すると「ごめんなさい・・・」と反省したようにセツナと呼んだ彼女に謝罪した。そして彼女が怒っていない事を覚ると元の調子で俺たちに視線を戻す。

 

「・・・・そうね、紹介するわ。じゃないとフェアじゃないだろうし。セツナ!いい?」

「・・・・だめって言ってもどうせいつか知られるだろうし、いいよ」

「ありがとう!じゃあセツナ、お願い!」

 

 ため息でも吐きそうな雰囲気をした彼女は肩をすくめながらも俺たちの方に向き直り、その重たい口を開いた。

 

「私は式波刹那。此度の聖杯戦争ではアインツベルンの協力者—————猟犬として遣わされた魔術師殺し」

 

魔術師殺し、俺たちへ差し向けられたこの戦争には持って来いの魔術師専門(おあつらえ向き)の刺客。その紹介に凍り付いたのは俺だけではなく遠坂もだった。しかし、遠坂の方が俺より顔色が悪く青白いのを通り越して紙のようになっている。

 

「魔術師殺し・・・それも式波って」

 

そんな俺たちをよそに少女は白い少女の方まで歩いていき、途中合流したバーサーカーもそれについていく。

 

「イリヤ、今日はもう帰りましょう。夜が明ける前に帰らないと」

「えー、お兄ちゃんともっと遊びたかったんだけどなあ。まあ、いっか。じゃあまたね、お兄ちゃん!リン!——————————————次に会うときは殺すから」

 

白い少女とバーサーカーが俺たちに背を向け歩き出す。そしてその後を付いていくように黒いコートを翻した彼女と再び目が合う。

 

「————————————」

 

長い沈黙。彼女の焦点は間違いなく俺に向けられ、どこか憐れんだような憂いているようなそんな目をしていた。それもまた一瞬だけで、そのまま背を向け歩いていく。俺はその背中をただ見つめることしか出来なかった。

 


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