Fate/stay night Ideal alternative(アイディール・オルタナティヴ)   作:紗代

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六日目・昼 ボーイミーツガールズ

やることがないためあてもなくぶらつく。

そしてたどり着いたのは公園だった。と、よく見ると先客がいる。ブランコの上にちょこんと一人で座っているのは――――――あの時のバーサーカーのマスター、刹那とは対照的な白い少女。たしかイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、だったか。

 

「——————」

 

どうすべきだろうか。仮にバーサーカーを連れてなかったとしても相手はアインツベルンのマスター。昨日の刹那の話からするに只者ではない。殺される可能性も十分にある。なにより一緒についてきた刹那にこちらへの敵意がないとはいえ、あの子もそうだとは限らない。なんせ刹那と出会ったあの夜、実際に俺は殺されかねない状態にまで追い詰められた。本来なら逃げるべきではあるのだが、そう思考する前に、目が合う。

 

「あ、お兄ちゃんだ!」

 

俺に気付くと屈託のない笑顔で駆け寄ってくる。

 

「こんにちは、お兄ちゃん」

「あ、ああ。こんにちは。えっと、イリヤスフィール」

 

名前を呼ぶと嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「覚えててくれたんだ。ありがとう。でも長いからイリヤでいいよ、セツナもそう呼んでるし、そういえばお兄ちゃんの名前聞いてないね」

「俺は衛宮士郎。よろしくな、イリヤ」

「うん!よろしく、えっとエミヤシロ?」

「ちがう。シロウが名前でエミヤが苗字だ」

「シロウ・・・・シロウね。覚えたわ。シロウ、うんいい響き!」

 

まるで覚えたての言葉を自慢するように繰り返すイリヤ。しかしこちらとしてはバーサーカーが近くにいるのではないのかと思うと気が気でない。そんな俺の様子に気が付いたのかイリヤは面白くなさそうにこちらを見た。

 

「今日はバーサーカー連れてきてないよ。シロウだってセイバー連れてきてないんだからおあいこ。」

「連れてきてないって・・・いいのか?刹那はどうしたんだ?」

「だって聖杯戦争は夜でしょ?お日さまが出てるうちは戦っちゃだめなんだよ、セツナは一緒に来たんだけど、撒いてきちゃった」

 

笑顔でとんでもないことを言うイリヤに内心頭を抱えた。俺もついさっきまで危機感を感じていたが刹那はその比ではないだろう。気づいたら聖杯戦争が終わっていましたなんて家から正式に送り出された刹那にとっては卒倒ものである。

 

「ね、シロウ。時間があるならお話しましょう。シロウと話すのたのしみにしてたんだから」

「ああ、けど刹那はいいのか?」

「セツナなら大丈夫よ、ちゃんと見つけてくれるわ。ほら、ちょうど空いてるし、座りましょう」

 

促されるままに近くのベンチに腰掛ける。なんの警戒もなく俺の隣に座るイリヤ。いや、現時点で最強のマスターであるこの子に警戒すべきなのは俺の方なのだが、いくら魔術師だからといってもこんな小さい子の手を振りほどく勇気はなかった。事情を知らなければそうしたかもしれないが、刹那からあらかじめ事情を聞いている身としてはそんな気は起きなかった。

 

「そういえばシロウはあの子、刹那に会った?」

「ああ、一昨日買い物に付き合ってもらって、昨日ウチに来た」

「いいなあ、セツナばっかりずるい。私もシロウとお話したいのに」

「これからたくさん話せばいいだろ、その、家族なんだし」

 

俺が言いづらそうに言うとイリヤはきょとんと呆気に取られた表情をした。

 

「それ、セツナから聞いたの?」

「セイバーや俺がウチに上げるに当たっての条件みたいなものでな。全部とまではいかないだろうけど聞いた。アイツの役割と目的、切嗣の過去、俺と刹那とイリヤが血の繋がらない家族だっていうこと。」

「そう・・・でも、でもいいよ。シロウの気にすることじゃないし、悪いのは私たちを置いていったキリツグだもの。」

 

「それに」とイリヤは続ける。

 

「私のこと「家族」って言ってくれたから、シロウは特別!」

 

その純粋な笑顔がこの間の酷く照れくさそうにしていた刹那と重なった。

 

「ねえ、セツナには言ってあげた?」

「ん、ああ。言ったらかなり驚いてたけどな」

「ふーん。でもうれしいな、セツナ以外に家族が増えて。私もセツナもお城ではそれぞれひとりぼっちだったから。なんだか新鮮」

「ほかにだれかいないのか?その、母親とか」

「いないよ。私のお母さまもセツナのお母さまももう死んじゃってて、お城にいるのはおじい様とホムンクルスの使用人たちだけ。セツナの式波のお城の方もそんな感じなんだって。だからちゃんと血が繋がってて仲良くしてるのは私とセツナだけ。おじい様たちも仲いいみたいだけど、お互いにお城から出ないから」

「————————」

 

それはつまり、お互いに自分の家の中で孤立していたということなのではないのだろうか。

 

「キリツグは帰って来なかったけどセツナは帰ってきてくれたの。2年前の、いつもより強めな吹雪だったあの日に。すごく嬉しかった。だから今も夢を見てる気分」

「そっ、か」

 

なんだか、イリヤや刹那のことを思うと―――――――――と、そこで最近見慣れた黒い人影が目に入った。

 

「イリヤ!」

「あ、セツナ。やっときたのね」

「探したよ、もう、いくら魔力の残滓辿れるって言ってもあんなに薄くされてたら誰だって時間かかるって」

「ふんだ。セツナばっかりシロウと話した罰よ、ね、お兄ちゃん」

「え、あ、えーっと」

 

と、そこで俺の存在に初めて気づいたように驚く刹那。

 

「あれ、兄さん。イリヤと話してたの?もしかしてお邪魔だった?」

「いいや、別に。ほら、イリヤ。刹那も迎えに来たことだしまた今度な」

「むー、約束だよ?」

「ああ、約束だ」

「うん!」

 

満足したのかイリヤは刹那を急かすように袖を引っ張って遠ざかっていき、また、刹那も俺に軽く頭を下げるとそのままイリヤについていった。

彼女たちのことを見ていると、このままでいいのかと、ふとそう思ってしまう。

正義の味方。決して間違いなんかじゃない。けれど―――――――――――――。

その先は、まだ思い浮かばないままだった。

 


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