Fate/stay night Ideal alternative(アイディール・オルタナティヴ)   作:紗代

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プロローグ

 ここはドイツのある貴族が所有する城。

 外は雪深く白銀はなおも降り続いている。

 

 「・・・・・」

 

 見慣れた色素のない景色を窓越しに見ながら聖遺物が運ばれてくるのを待つ。今回用意された触媒からするに、過去の四次までの聖杯戦争を顧みても召喚される英霊の格は桁違い。自身もサポートに徹するとはいえ一応魔術師の端くれである以上は知っておくべきだろうと聖遺物の取引や譲渡の一通りを見ていた。

 召喚には聖遺物を用いるがそれが呼び出したい英霊が来るかどうかははっきり言って運次第である。伝承ではそう言われていても本当に縁があったのかどうかを知るのは本人と当事者のみ。その聖遺物が呼びたい英霊との縁が薄い場合、最も召喚者と性質の近い英霊が召喚される。まさに賭け。しかし、それは逆に言えばより縁の強い品を用いることが出来れば召喚者との相性関係なしにその英霊を狙えるという事である。

 今回の召喚は後者だった。なんせ彼を奉る神殿の支柱となっていた斧剣が触媒だ。儀式が滞りなく進み成功すれば間違いなく最強のサーヴァントが召喚される。しかし問題、というより私にはやや不安があった。それは今回の召喚するクラスが「狂戦士」のクラスだということ。魔力に関しては心配していない。あの子はそんじょそこらの、いやひょっとすると時計塔のロードたち以上の魔力量の持ち主だから。けれど、意思疎通が叶わないのであればマスターである彼女を守ってくれるとは限らない。そこだけが不安の種だった。「狂化」による様々なデメリットであればいくらでもフォローのしようはある。けれども、白く無垢で小さい親友(あね)を果たして彼は守ってくれるのだろうか。

 そんな風に一人考え込んでいると後ろの扉から控えめなノックの音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

「刹那様、聖遺物がたった今所定の位置に着いたとの連絡がありました!至急お嬢様のおられる聖堂までお越しください!」

 

「そう、ありがとう。今行くわ」

 

あの子と同じカラーリングの、この城の城主自らが造り出したホムンクルスの使用人に促されて部屋を出る。

 前回の聖杯戦争から10年。あれから10年経ったのだ。今度こそ、成功させなくてはならない。たとえこの身がどうなろうとも構わない。最高のマスターに最強のサーヴァント、そして魔術師殺したる私。駒の準備はほぼできた、私はあの子を守りながら自分に課せられた使命を果たす。

 

「待っていてくださいね、お父様。必ずやあなたを―――――」

 

「殺しますから」囁いたその声は誰に聞かれることもなく、ただ石造りの冷たい廊下に滲みこんでいった。

 


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