「俺はドラゴンをやめるぞアーシア!俺は、人間に戻ってしまう!」
「オォ、素晴らしいデス」
長い修業の果て、俺はドラゴンの肉体から魔力とか気とかドラゴン的な要素をなんやかんや放出することで人間の姿になった。
因みに、放出をやめれば数秒で戻ってしまう。
何故、態々弱体化したかというとドライグ曰くオサレだからだそうだ。
『真の強者は奥の手を十個くらい持ってるものだ』
「なん……だと!?」
『フッ、例えば俺はあと変身を三回残しているとかな』
「ド、ドラグソボール!」
というわけで、俺も奥の手を手に入れるべく弱体化したのだ。
これで負けそうになっても弱体化を解除することで、俺のターンはまだ終わりじゃないぜとオサレな立ち回りが出来る。
オサレな必要は分からないが、最初から全力だと負けフラグというのが立つらしい。
フラグって何だろうか、英語は分からん。
日本語が達者になってきたアーシアと夕飯の買い物をすることになった。
いつ敵がくるか分からないので俺はアーシアのお守りである。
そんな時、違和感を感じた。
ふむ、俺の見聞色の覇気に引っ掛かるとは普通じゃないのだろう。
「モウ、イッセーさん。フラフラしちゃダメデース」
「むっ、すまない」
迷子になりますよと言われて手を掴まれてしまったので探しには行けなかった残念である。
だが、数日後のことだった。
アーシアがお袋と洗濯物をしている間に、俺は修行をしに外に出たのだがその際にまた違和感を見つけた。
今度こそはと思って行ってみれば、そこにはフードの人物が二名いた。
『相棒、教会の人間だ』
「あぁ、分かっている」
その胸元に光る十字架に俺は聖職者であると確信した。
そう、SEISYOKUSYAである。
きっと、コイツらは戦える強い奴に違いなかった。
俺は奴らに近づき、目の前で体育座りになる。
アーシアにも教えを乞うてはいるが、やはり日本に来るくらいだから宣教師ってやつだろ。
知ってるぞ、ザビエルだ。
「えっと、貴方お名前は」
「フランシスコ・ザビエル!……ハッ!?」
「思いっきり偽名だよぉ……」
「おい、そんなことより聖職者だろ。説法しろ、説法、説法しろよ!」
「な、なんなの!押しがスゴイ」
その後、俺の聖書の理解が上がった。
あと、お布施を要求したから食パンとオリーブオイルを買ってやった。
アーシアが言っていた、油とパンの話を思い出したからだ。
どうしたその顔は、笑えよ。
夜のことであった。
みんな寝静まった頃、何やら学校の方で違和感があった。
こう、虫が飛び回っているというか気配がブンブン動き回っているのだ。
つまり、鬱陶しいのである。
「イッセーさん」
「むぅ、アーシアか。起こしてしまったか」
「行く、ですか?」
「あぁ」
「戻る、大事、約束して、デース」
「日本語が不自由だな。だが、分かった善処する」
何やらアーシアに見つかってしまったが、俺が遅れを取るわけがない。
俺のドライグは最強なんだ!
『おいやめろ!マジでやめろ!』
「行ってきます」
学校に向かうと、そこは変哲もない校舎であった。
うーむ、見ているものと感じているものが違う。
そうか、幻術とか幻覚の類だろう。
「よし、殴ろう」
『違和感に対しての最初の行動が殴るかよ』
学校の校門に向かってパンチを繰り出す。
すると、ガラスが割れるような音がした。
よく出来た演出である、気にせず中に入った。
「誰だ!?」
「お前こそ誰だ、いや待てこういう時は名乗りを上げるとしよう」
中に入ったら、空に浮かんでたロン毛の堕天使が驚きの声を上げていた。
おい、ちょっと待てなんだあのでっかい犬。
あとで戦うとしよう。それより名乗り上げである。
「誰だと聞いている!」
「な、何者ですか!その制服、まさかウチの生徒……」
「会長、アイツは間違いない!番長のイッセーだ!アイツ、死んだはずじゃ……」
外野を無視して、俺はビシっとロン毛を指差しながら言った。
「俺は兵藤一誠。通りすがりの、仮面ライダーだ!」
「何言ってるんだ、馬鹿かお前?」
「ブッ殺!変身!」
朝のヒーロータイムを見ている俺に対してその発言は如何なものか。
許せん、奴は絶対に倒さないといけない悪である。
仮面ライダーを馬鹿にするとは、つまり正義の敵対者であり、悪であることは明白であることは自明の理なのである。
『いや、正論だろ。子供か、お前』
「へ、変身だと!?まさか、本当に仮面ライダーだと!?」
『お前もか!子供なのか、貴様ら!』
俺の身体が放出をやめることで、竜の気やら竜の魔力やらを体内に留める。
結果、人の身体からドラゴンの身体へと変わる。
その際、一張羅である制服が破けてしまった。
なんてことだ、帰りは全裸になるから人間態では帰れないではないか。
「か、怪人だぁぁぁぁ!」
「や、やめなさい匙。本人は、仮面ライダーって言ってるんだから」
「ほぉ、その竜の闘気。そして、赤い色、なるほど貴様赤龍帝だな」
『そこに気付くとは天才か』
ドライグが自分の正体を見破ったことに対して驚きの声を上げていた。
だが、天才だからどうしたというのだ。
天才だって負ける時はある。週刊少年ジャンプじゃ、たくさん負けてる。
「このコカビエルに戦いを挑むとは、正義の味方気取りか。赤龍帝よ、いや仮面ライダーよ」
『この堕天使、ノリノリである』
「アーシアが言っていた。汝、左の頬を殴られたら左の頬にカウンターをしなさいと。つまり、やられたらやり返すってことだ」
『言ってない、アーシアはそんなこと言ってない』
仁王立ちで、上空を飛んでいる堕天使を見上げる。
取り敢えず、落とすか。
「ほぉ、ならば――」
「月歩!」
「何ィ!翼も持たずに空を飛んだだとォ!?」
「確かに俺は翼がないが、でも飛べるんだ!オラァ!」
堕天使に向かって、右ストレートをぶち込む。
だが、奴は軽く殴り飛ばされるだけで体勢を立て直し、離れた空中で口元に血を垂らしながらニヤリと笑っていた。
「随分と軽いパンチだ。恐らく、蹴りの圧力で空気の壁を蹴ることで宙に浮いているのだろう。だが、そのせいで体重を足場に流すことが出来ない。結果、腕だけのパンチというわけだ」
「あの一瞬でそれに気付くとは、やはり天才か」
パンチとは全身を使って放つもの、体重の乗ってないパンチはただの当て身である。
牽制になっても、攻撃にはならない。
「惜しかったな。生まれる種族さえ違えばいい戦いが出来ただろう。だが、なかなか楽しめそうだ。魔王の妹を殺害して戦争でもしようと思っていたが、気が変わった」
「フンッ、俺のターンはまだ終わりじゃないぜ」
「何?」
「ドライグ、今だ!」
『Transfer!!』
俺は見上げた状態で、奴に向かって譲渡を使った。
そう、これこそ俺が手に入れた新しい力。
修行の末に、ドライグの能力が開放されたのだ。
「俺の力である譲渡は、対象を倍加する赤龍帝の能力を付加する」
「敵である俺に対して説明するとは慢心が過ぎるぞ赤龍帝」
分かってないな。
説明してやる、つまりオサレである。
これにより、俺は戦闘を有利に進めることが出来る。
ドライグが言ってるんだから、間違いじゃない。
「だが、俺を強くするとは愚かな、なっ!?」
「教えてやるよ。これは慢心ではない、余裕だ!」
「な、何をした赤龍帝!うおぉぉぉぉぉ!」
ロン毛の堕天使、コカビエルが慌てたような声を上げる。
その声に、チャンバラをしていた白髪と金髪の剣士も固まる。
ボロボロになってる、SEISYOKUSYAの姿も見えた。
なんで凹んでるんだ?まぁ細かいことはどうでもいい。
「な、なるほど!」
「分かったんですか会長!」
「恐らく、彼は飛行するのに使用する力の量を倍加したのでしょう。悪魔であれば、空を飛ぶのは物理ではなく魔力を用いている。つまり、飛ぶために必要な量が増えれば飛べなくなるということです!」
「な、なんだってー!」
生徒会長、そこに気付くとは天才か。
そう、奴は消費MPが増えてしまったのだ。
つまり、魔力が足りないから飛べないのである。
羽ばたかないで飛ぶのが悪い、物理で飛べよ。
「さぁ、降りてこいコカビエル!翼なんて捨てて、掛かってこい!」
「人間風情がぁぁぁ!野郎、ブッ殺しゃぁぁぁぁ!」