俺はドラゴンである   作:nyasu

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アーシアは死んだ、もういない!

オーフィスの誘導に従っていると、お前ってば俺を嵌めたのかと言えるくらい敵が増えた。

どういうことかというと、空に大量の魔法陣が現れてそこからフードを着た魔術士みたいな奴らが現れたのだ。

しかも、オーフィスが誘導する方向に向かって大量にである。

寧ろ、オーフィスが敵がたくさんいる所に誘導している気すらしてくる。

 

「上上下下右左右左AB」

「どこで覚えた、あとABってなんだよ」

『Bo『Bo『Bo『Bo『Bo『Boost!!』

 

ハウリングするように、ドライグの音が響く。

倍加の速度が上がったせいである。

聞こえるよりも多く、自分でも分からないくらい倍加している。

奇しくもヴァーリとの戦闘がきっかけで成長しているようだった。

 

「おぉ、消えた」

「どういうことだ?」

『最も強大で最も絶対的な、あらゆる存在の前に立ち塞がる死の力。即ち老いだ』

「どういうことだ?」

『つまり、メッチャ時間を加速させて風化させた』

「な、なんだってー!」

 

そ、そんなことが起きていたなんて知らなかった。

あれ、でも俺の背中に乗っているオーフィスは老けてないぞ。

 

「我、寿命も無限。エターナルロリータ、えっへん」

「スゴイ、流石オーフィス」

『んっ、んっ、んっ、あれ?ツッコミどころあるよね、えっ?』

 

ドライグが何か言ってるが、それを無視するかのように魔術士達の攻撃が過激さを増す。

いや、まぁ、ブレスを吐きながら突き進むだけなんだがな。

 

「むっ、ワイバーンの群れ」

「なんだ、操られてるのか?」

『ワイバーンはドラゴンと違って言葉も喋れない下等生物だからな』

「大したこともない運動能力で有名、存在するだけ邪魔」

「なんか、ワイバーンっていらない子なんだな」

 

ワイバーン共が岩を足で引っ掛けて此方に飛ばしてくる。

それを避けながら、ブレスで迎撃すると背中で拍手喝采が聞こえた。

 

「さっさと燃やし尽くす」

『クソが、ワイバーンどもめ!ぶっ潰してやる』

「なんだ、なんか恨みでもあるのか?」

 

分からんが、ドラゴン的に何か思う所があるのかもしれない。

ワイバーンや魔術士達を退けると、城らしき物が見えてきた。

この距離になると、俺の感知にアーシアが引っ掛かった。

 

『なんだこの長い坂のある城は?』

「十二人の聖闘士と戦うみたい」

「お前らは何を言ってるんだ?」

 

そんなの知るかと言わんばかりに坂の上を飛んで移動する。

途中、眷属なのか妙な気配の悪魔たちが襲い掛かってきたが、無視する。

何だコイツら、似たような気配だがやはり眷属の悪魔か何かだろうか。

おや、この気配には覚えがあるぞ。

 

「おいおい、モブは無視ってか?使えねーポーンだな、プロモーションしたってのによ」

「お前は……白髪神父!」

「そこまで思い出して、名前がなんで出てこねぇんだよ赤龍帝!まぁいいさ、俺様ヴァーリにボコられて回収されてから禍の団に入ってな、新しい力を手に入れたんだよ!んじゃぁ、死ねや」

 

久しぶりにあった神父は、いつの間にか筋肉モリモリのマッチョマンになっていた。

肌は黒く、目は血走っている。

背中には翼が生えて、舌が異様に伸び、爪が鋭く太くなっていた。

なんだ、人間をやめたのか。

 

「なんだ、ただの人外か」

『妖怪にでもなったのか?』

「構ってる暇はない、8倍くらいか」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

俺の右腕が少しだけ大きくなる。

筋力の増加、単純に筋肉を倍加しただけ。

俺の戦闘力で言うなら20%くらいか。

 

「ほへっ?」

「お前、ひょっとして自分がまだ死なないと思ってるんじゃないか?」

 

ドラゴンに相対するということは死である。

ドラゴンは強い、ドラゴンを倒せるのはいつだって英雄だけである。

そして、英雄は人間でなければならない。化物を倒すのは人間だからだ。

人間でいることをやめたコイツは、人間でいることに耐えられなかったコイツはもはや人間以下である。

 

「フン」

「あぎゃ!?」

 

ブチッ、とまるで虫を潰すように床のシミになった。

さらばだ白髪神父、来世で幸せになれよ。

さぁ、そんなことよりアーシアである。

 

扉に向かってブレスを吐き、吹き飛ばすと趣味の悪い骨のような物で出来た玉座に座った男がいた。

その上には、何故か骨に固定されて逆さまになってるアーシアがいる。

なんで逆さまなんだろうか、パンツ丸見えである。

 

「イッセーさん……」

「フフフ、待っていたよ赤龍帝」

 

なんだか余裕そうだが全く脅威に感じない。

そもそも、弱いやつがオーフィスのパワーを貰っても俺も貰ってるからトントン。

後は素のスペックの勝負である。

つまり、ドラゴンと悪魔なら俺の方が強いのだから当然だった。

 

『遊びは終わりだアスタロト』

「誰だ」

『君が赤龍帝か、初めまして。正当なるベルゼブブの後継者、シャルバベルゼブブだ』

 

そんな男の背後に魔法陣が浮かび上がり、そこから人が現れた。

足からゆっくり出てくる様は、なんだか間抜けである。

身体が透けているので、多分実体はない。

取り敢えず、アスタロト殴るか。

 

『白龍皇ヴァーリに痛手を負わせたそうだな、君には英雄派達の借りもある。その礼もしなければ――』

「オラァ!」

「ぐげぇ!?」

 

なんか立体映像越しに喋ってるやつがいるが、ソイツは後で殴るとして目の前のアスタロトとかいう優男をぶんなぐる。

何、オーフィスの蛇があるって?飲んだからどうした、透過の能力を使って貴様のバリアごとブン殴るわ。

 

「オラァ!へばってんじゃねぇぞ!もう一発行くぞ!どうしたどうした!」

「ぶっ!ぶべっ!?や、やめっ!うげっ!?」

『くっ……』

『お気の毒に、策士面して大上段から勝ち誇ってたのにガン無視で手下を攻撃されるとか立つ瀬なさすぎて泣けてくるわ。ウチの子が空気を読まなくて、本当スマン』

 

何を言ってるんだか、俺の目的は最初からアーシアを拐った奴を殴ることだ。

途中から出てきたやつなんかどうでもいい、実行犯を殴れればどうでもいいのだ。

 

『貴様ッ……』

『どうした、その渋面は?笑えよ、ほら笑えって』

『いい気になるなよ!』

「シャルバ助けてくれ!手を、手を貸してくれ!旧魔王と現魔王が力を合わせれば――」

『愚か者が!』

 

俺の殴ってた場所に、何らかの力が集まるのを感じて退避する。

すると、今までいた場所に穴が空いていた。

穴はアスタロトの胸の上にも空いており、何が起きたのか分からないと言った顔でアスタロトが驚愕している。

 

『いかん、もっと退避しろ』

「分かった」

 

ドライグに言われて飛び退くと、アスタロトが巨大な光に包まれる。

その光は大きくなり、光の中でアスタロトが悲鳴を上げた。

 

「イッセーさん!」

「ッ!アーシア、しまった!?」

『あっ……』

 

アスタロトの近くには拘束されたアーシアがいたことに遅れながら気付く。

目の前で大きくなっていく光、そしてそれに飲み込まれていくアーシア。

馬鹿な俺でも分かる。あの光は触れたら最後、死んでしまう。

 

「アーシアァァァァ!」

『…………』

「イッ――」

 

此方に手を伸ばし、光に飲み込まれるアーシア。

そして、光が消え去ったその場所には冥界の紫の空が広がるばかり。

城が半壊し、向こうの景色が見えるばかりで、そこにはアーシアもアスタロトの姿も見えない。

アーシアが死んだ。

 

『フフフ、フハハハ!これは思わぬ誤算だ、だが実に愉快だな!』

『あー、アレだぞ相棒。アーシア生きてるから、オーフィスの蛇とかも一応保険で掛けといたから多分大丈夫だから』

 

ドライグが慰めの言葉を吐いてくるが分かっている。

 

「アーシアは死んだ、もういない!」

『いや死んでねぇよ!俺、ちゃんと考えてたよ!次元の狭間でも生きられるようにしたからな!』

「貴様を、殺す!」

 

もう これで 終わってもいい。

だから ありったけを……。

 

『いやいや、ダメだって!それアレだから、間違った流れだから!アグモンがスカルグレイモンになるとかそういう流れだから!憎しみに囚われちゃダメだって!』

 

「我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり!」

 

もっとだ、もっと力を寄越せ!

 

『始まったよ』『始まってしまうね』『いつだってそうでした』『そうじゃな、いつだってそうだった』

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う!」

 

もっとだ、もっともっと!アイツを殴れるだけの力を寄越せ!

 

『世界が求めるのは』『世界が否定するのは』『いつだって力でした』『いつだって愛だった』

 

「我、赤き龍の覇王と成りて!」

 

アイツを殴れるなら、二度と殴れなくなったって良い!

 

『何度でもお前たちは滅びを選択するのだな』

 

「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう!」

 

絶対に、ぶっ殺す!

 

『覇龍!』

 

「■■■■■■■!」

 

目の前に奴がいた。

透過の能力を使って、俺と奴の間にある距離を『透過』したのだ。

ありったけの力が、右腕に溜まっていく。

きっと殴れば体ごと消えてしまうだろう。

それほどまでのエネルギーがギリギリの状態を保っている。

殴れば制御を誤り、俺はきっと消滅する。

 

「な、なんだと!いつの間に!?ふざけるな、我が裁きの光受けるがいい!」

「左腕はくれてやるよ……」

 

奴の光が俺を削る。

痛みはない、強がりじゃない。

少しだけ嬉しいんだ。

アーシアと同じになれた、あの時の……。

少しだけ救われた、そんな気がした。

 

「わかった、降参だ!降参す――」

「お前も、もう、おやすみ……」

 

俺は全力で、100%中の100%で奴に向かって拳を振り抜いた。


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