俺はドラゴンである   作:nyasu

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へへっ、行くぜ!最初から、クライマックスだ!

やってきた場所は山であった。

俺の修行をしていた、人のいない場所だ。

対峙するのは、ドラゴン態になった俺と鎧を纏ったヴァーリだ。

 

「さぁ、始めるか!」

「……アルビオン」

「へへっ、行くぜ!最初から、クライマックスだ!」

 

剃を用いた移動、そこから奴の背後に回る。

 

「クロックアップ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

舞い落ちる木の葉が停止する。

加速した世界、時の流れと同じだけの速度で動く。

 

「指銃!」

「さぁ、来い!」

「ッ!?馬鹿な」

 

高い金属音、俺の攻撃をヴァーリの拳が防ぐ。

まさか、俺の時の世界に入門したのか。

距離を取り、クロックアップを解除する。

見れば、拳を突き出したまま固まるヴァーリ。

やはり、アレは現実である。

 

「お前という存在が、俺の可能性を広げた」

「半減か」

「そうだ、俺は時の呪縛から開放された。殴るのに必要な最小時間が2秒だとすれば、俺は1秒でそれが出来る。そして半減した時間を糧とし、その1秒俺は使うことが出来る」

「つまり、どういことだってばよ……」

「0秒だ」

「0秒!?」

「まだ未熟故に完全には無理だが、時のエネルギーをすべて扱えるようになれば行動しようと思ったときには終わる、そうなることだろう。だが、これでいい、今はただお前と殴れるこぐらいでちょうどいい!」

 

扱いきれていなくても、奴は時の世界に入門した。

加速し、時と同じ時間で動く事で、俺の時間と周囲の時間が同じ速度となることで世界が止まるように奴も動いたのだ。

半減し、時の歩みを遅らせ、自身を時の歩みと同等まで早くすることで、時間との差異は俺同様に僅かだ。

俺の歩みに、奴の歩みが追いついたのだ。

 

「次は此方の番だ」

「逃げるかよォ!」

『Half Dimension!』

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

ヴァーリの姿が消える。

それは一瞬だ。

目の前には拳を構えたヴァーリの姿がある。

少しの出遅れが、驚異的な隙となる。

だが、だからどうしたというのか。

拳が目の前にある、避けるのは無理だ。

払うか、それには時間が足りない。

ならどうする、真正面から受けて立つ。

 

「オラァ!」

「頭突き!」

「ガハッ……」

 

奴の拳に俺の頭突きが入り、衝撃が周囲に走る。

痛みでどうにかなりそうになり、一瞬だけ思考が空白になる。

だが、すぐに俺は目的を思い出す。

そうだ、殴らなければならない。

ドラゴンになってから、久しく感じていなかった物が蘇る。

致死の一撃でもなく、無駄な攻撃でもない。

実力が拮抗した者が放つ、確かなダメージ。

苦痛に彩られた喧嘩の日々を思い返す。

 

「ハハハ、フハハハハハ!」

「ヴァーリィィィィ!」

「ぐっ!」

 

何がおかしいのか、笑い始めた奴の顔に向かって拳を叩きつける。

慣性の法則に従い、奴は吹き飛び周囲の木を薙ぎ倒しながら飛んでいく。

そして時の流れが正常に戻り、一気にエネルギーが開放されたからか山の上空に木が爆発するように散乱した。

 

「おい、こんなんじゃ満足出来ねぇぞ!」

「あぁ、そうだな」

 

爆心地のような砂煙が立ち込める場所、奴が吹っ飛んだ場所、そこから白い影が現れる。

腕の一捻りで砂煙は吹き飛び、頭部の鎧がぶっ壊れて顔が半分出たヴァーリが健在な様子で現れた。

俺はその様子に、自然と笑みを浮かべる。

やっぱり、無事でいやがった。

 

「覚えているか、俺の話を」

「あぁ」

「俺はハーフだ。魔王の血を引き、二天龍を宿した存在だ」

「知ってるよ」

「だから、今まで何もかもが脆かった。だが、お前という存在がいた!一誠、感謝するぞ!そして、悪かったな俺はお前を舐めていた」

 

ヴァーリの身体から膨大な魔力が溢れ出す。

白い魔力が、立ち上るように周囲を飲み込む。

おい、アレで本気じゃなかったっていうのかよ。

 

「お前は弱い種族である人間だ……そんな驕りがどこかあった!だが、やはりお前は最高だ!お前なら、俺は全力になれる」

「舐めんじゃねぇ、本気で掛かってこいよ!」

「あぁ、見せてやるよ。今度は、俺がお前の可能性を広げてやる」

 

声が聞こえた。

それは俺の先を行く、ヴァーリの見せる可能性。

 

「我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし二天龍なり。無限を妬み、夢幻を想う。我、白き龍の覇道を極め

汝を無垢の極限へと誘おう」

『覇龍!』

 

ヴァーリの身体が白い光に包まれていく。

鎧はその光に塗りつぶされ、影しか見えてこない。

その影は大きさを増していき、そして鋭さを増していく。

肉体が、有機的になっていく。

 

「なんだこれは」

『ジャガーノートドライブ、命を削るような禁じ手だ。奴は自分の魔力を使い、そのリスクを軽減しているようだがな。だが覚悟しろ一誠、アレは短時間だが神すら超える』

「上等だよ、それがアイツの実力って事だろ」

『それでこそだ。来るぞ一誠、構えろ!引けば老いるぞ 臆せば死ぬぞ!』

 

そこには巨大な龍がいた。

俺のようなドラゴン態に比べてどこか機械的な、鎧が変質したような形の、それでいて確かに龍である存在がいた。

アレが覇龍、俺の可能性、ヴァーリの本気。

最高だ、最高にCOOLだヴァーリ。

だからこそ、負けてられねぇ!お前にだけは負けてられねぇ!

 

『まさか、ここに来て!』

「ヴァーリィィィ!行くぞ、コイツが俺の自慢の拳だァァァァ!」

「なんだこの光は、まさか!」

 

本能で理解している、後は使うだけだ。

始まったよ始まってしまったとか、ゴチャゴチャと頭の中で声がする。

誰かが俺の身体を奪おうとしてくるが意思で捻じ伏せる。

邪魔すんじゃねぇよ、今良いところなんだ。

 

「よせ!お前が使えばドラゴンの身体とはいえ、ただではすまんぞ!」

「うるせぇよ!」

『良いのか相棒、覇龍を使えばお前の命が』

「知らねぇなぁ……」

『赤龍帝、命が惜しくないのか貴様!』

「知らねぇって言ってんだろ!我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり。無限を嗤い、夢幻を憂う。我、赤き龍の覇王と成りて汝を紅蓮の煉獄に沈めよう!」

 

肉体がドラゴンの身体から少しだけ機械的になっていく。

ヴァーリが無機的な状態から有機的な状態への変化ならば、此方は逆。

有機的なドラゴンの身体から、無機的な鎧のようになっていく。

お互いがドラゴンのようだった。お互いがロボットのようだった。

金属のように硬く光沢を持ち、生物のように柔らかく、靭性を持つ。

大きさは同等、お互いに引き出した力は拮抗しスペックも同等、能力なんて物は無意味であり、必要なのは己が肉体のみ。

自由で、孤高で、強欲で、最強で……そんなドラゴンが二体いた。

 

「そこまで……来い、イッセェェェェェ!」

「行くぞ、ヴァーリィィィッィ!」

 

ただ殴る、お互いの拳をぶつけ合う。

時に噛みつき、時に蹴り落とし、尻尾で叩き、爪で引っ掻く。

高尚な戦いなどではなかった。

漫画やアニメで見るような華やかな物ではなかった。

泥臭い、小細工のない、ただの喧嘩だ。

空には赤と白の閃光が飛び交い、幾度となくぶつかり合う。

空中戦から共に落ちて地上戦へ、殴り合いから腕が上がらなくなって噛みつき合いへ。

血反吐を吐きながら、お互いに満身創痍になりながら、それでも戦意は衰えない。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

お互いの頭突きが頭部に入る。

一瞬だけ、意識が飛ぶ。

 

「ぐっ……」

「おっ……」

 

気付けば、お互いに地面に倒れていた。

ドラゴンから魔力も気力もなくなったからか俺は人の体になっていた。

見れば、ヴァーリの奴が何度か腕を使って起き上がろうとしている。

立たねば、まだ決着は着いていない。

 

「うぅ、ぐあぁぁぁ!」

「あぁぁぁ!」

 

立ち上がり、入らない力を入れてヴァーリを殴る。

ヴァーリはそれに対し、此方の髪を掴んで地面に向かって引っ張り倒す。

そして、そのまま飛び込み馬乗りになる。

 

「ぐぅぅ、ぎぃぃぃ」

「がぁぁぁぁ!」

 

転んだ拍子に掴んだ砂を投げ、目潰しを敢行する。

そして怯んだ所で首に掴みかかる。

 

「ハァハァ……」

「うっ、おぉぉぉぉ!」

「ぐぅぅぅ」

 

掴んでいる手にヴァーリが噛み付く。

痛みに手を緩めれば、俺は突き飛ばされてヴァーリと少しだけ距離が空く。

今のうちに、立ち上がらなければ……。

 

「まだだ、まだ終わりじゃねぇ……」

「あぁ、終わりじゃない……」

 

フラつきながらも、お互いに立ち上がって近づいていく。

動かない足を引きずるように近づいていく。

 

「ヴァ、リィィィィ!」

「イッ、セェェェェ!」

 

拳を振り上げ、お互いに相手へ向かっていく。

だが、振り下ろす拳は一つだけだ。

俺の拳がヴァーリの頭の上を掠める。

避けられた、否、そうではない。

ヴァーリの身体が前のめりに倒れたのだ。

勝った、俺の勝ちだ。

 

「へへっ、俺の――」

「……くっ!」

 

いや違う、奴はまだ意識がある!

だが、安堵したせいか俺の意識は退いていく。

そして意識を失う瞬間、俺は倒れながらも此方に視線を向けるヴァーリと目があった。

畜生、まだ意識があんのかよ……こんな所で……終わりかよ……

 




最後まで立っていたが気絶したイッセー。
最後まで意識があったが倒れたヴァーリ。

どちらが勝ちか、どちらが負けか。
引き分けはない、だが答えは自分達しか分からない。
勝ったと思ったほうが、勝者である。





余談だが、アーシアがいたら

「馬鹿げてる!男の人ってこうまでしないと生きていけないの」

って言ってくれるはず。

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