艦これ ー黄禍を論ずる手前に捧ぐー   作:アテネガネ

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ご無沙汰しております。このお話を読んでくださりありがとうごさいます。というよりかこんなに間が空いたにも関わらずお手に取って(?)いただくという仏の御心のような皆様に感謝しかありません。

ところで話は変わりますが月三姉妹ですが、ゲームの方ではいつの間にか四姉妹に増えていましたね。このお話では三姉妹のままで突っ切っていきたいと考えています。

それとこのお話を書いている自分は理解できているのですが、三姉妹が一斉に話していると誰が発言しているか全くわからない感じになっていますね。基本的に「!」が語尾に付いて摩耶を「番長」と呼ぶのが秋月で、おっとりしているのが照月です。初月はボクっ娘クールな変態なのでわかりやすいですね。
それでもこれは誰?ってなった場合は、正直誰が喋っていても関係のない会話になっているので想像を膨らませてみていただければなと思います。


第2話

 

 

 あの時の女は、上手く生きられてるだろうか?

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「げえ! 対空番長!」

「テメーがそのあだ名の発端か? 瑞鶴さんよお」

 

 空母寮入口前、五航戦こと翔鶴型正規空母二番艦「瑞鶴」に失礼をかまされた。

 げえ、とは何だこんちくしょう。

 

「え?! あはは、まっさかぁ。うん、はい……」

 

 おもっくそ睨みつけた。

 

「ちょっと待って! 私は悪くない! ただ秋月が摩耶の事を教えてって言うから、私はありのままを伝えたまでで……!」

「奴らの不敬はお前譲りか」

 

 小突こうか、と思ったがやめておく。

 こいつらは何が原因で堪忍袋の緒がブチ切れるか、全くわからないのだ。

 以前龍驤に出身を尋ねたら憤慨された。悲劇を繰り返してはならない。

 だから龍驤は空母ではないのだが。

 

「お前らの同胞に横文字が増えたろ、今そいつらどこにいる?」

「そんなこと言ってるから不良扱いされるんだと思うけど?」

 

 口の悪さは標準装備だ、許せ。

 

「つーか今のそこまで悪口じゃなかったろ」

「程度が問題なんじゃなくてさぁ」

 

 言っちゃうことが問題なのよ。と瑞鶴。

 なるほど、そんなもんか?

 

「いや、そうじゃねーよ。いま国語の授業受けてる場合じゃないんだ、部隊崩壊の危機なんだよ。おら、居場所吐けよ」

「どっちかっていうと道徳の授業なんだけどね」

「いいから吐け、吐かせるぞ」

「やめて、カレーが出ちゃう」

 

 結局小突く。

 心なしか喜んでるように見えるのは、さすがは秋月姉妹の元締めという事か。

 気持ちが悪い。

 

「ていうか、ついに部隊なくなるの?」

「ちゃんと聞け、危機だってんだ。まだだよ」

「いずれなくなる口ぶりね」

「いずれはな」

 

 そもそもが、『敵航空艦隊撃滅部隊設営前段階部隊』と名前の通り、お試し隊なのだ。

 テストケースとしての部隊であり、データ取り要員である。

 

「それにしても意外じゃない? 摩耶が消えちゃうものに執心したり、言うこと聞かない娘にうつつをぬかすなんて」

「そんな儚く生きてねーし、ぞっこんしてるわけでもねーよ。一応隊長然としてねーと評価さがっちまうだろが」

「……まだ第一艦隊に戻りたいの?」

「ったりめーだろうが」

 

 あたしは諦めていない。人間、一度高みに立つとそこに執着してしまうと何かで言っていたが、どんぴしゃに当てはまる。

 早くあそこに戻りたい。

 

「あぁ、この話するとしんみりしちまうから、さっさと教えてくれ瑞鶴」

「そうなるのはすでに諦めてるからじゃ?」

「重巡キック!」

「ごふっ……!」

 

 まったくもって酷い女だ。

 乙女心にカミソリ当てるなんて。

 

「……ナイフとかじゃなくてカミソリなあたり、やっぱり不良よね」

「拳を握って中指の両隣にカミソリの刃を挟むんだよ。そんで殴る。殴った箇所は当然二本の切り傷ができて……」

「やめて、聞きたくない」

「そうか」

 

 というか今時の不良もカミソリなんか使わないだろう。多分言葉のナイフとかの方を達者に使いこなしてると思う。

 

「自分で言ってなんだけど、多分どの時代の不良もカミソリはニッチな武器だったんじゃないの?」

「そうかもな」

 

 そんなことより。

 

「グラーフとアクィラは結局どこにいる? ここまで焦らしといて知りませんじゃあ、タダじゃおかねーぞ」

「そういうセリフが、雑談を増す原因なんだけどね。……あの二人なら今頃部屋で荷ほどきしてると思うわよ」

「そうか、それなら入国届けがいるな」

「空母に悪いイメージ持ちすぎでしょ。言えば寮ぐらい、すぐに入れるわよ」

「重巡は存外適当な人種だから、ビザの発行はしてないんだよ。それでもいいか?」

「良いって言ってんでしょーが」

 

 ほら、さっさと入りなさいよ。と背中を押される。

 

「そういや一航戦はいるか? ついでに第一艦隊復帰の口添えを頼みたいんだが……」

 

 と言いかけ自らの失策を悟る。

 

「あ、いや。やっぱり今度にするわ、悪かったな……」

「二度と加賀さんの話するな!」

「いや、加賀ピンポイントで話してねーよ!」

 

 瑞鶴に一航戦の、というか加賀の話題はタブーだ。

 二人は拗れたツンデレ関係にある。

 

「ああーー!! 何が足元にも及ばないよ! 加賀さんのやつ! 腹立つぅぅ!!!」

 

 瑞鶴が加賀大好き病を発症してしまったので、そそくさと退散する。

 これさえなけりゃ、そこそこいいやつなんだがな。残念な女だ。

 

「ああー……、じゃあな。あたし行くわ」

「誰がターキーだこらぁ!!」

 

 知るか。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「何の用だ」

「おう、菓子折りをちょっとな」

 

 失敗は続く。

 こっそりアクィラに会ってバリクソ美味い間宮をくれてやろうかと思った矢先、寮のエントランスでグラーフに遭遇した。

 

「いらん」

「そう言うなよ。日本の菓子も美味いんだぞ?」

 

 比較して言ってみたもののドイツとイタリアの菓子など知らない。

 ドイツが年輪なのはかろうじてわかるが、イタリアってなんだよ。

 

「あ、パスタって菓子か?」

「蕎麦は菓子か?」

「……違うみたいだな」

 

 それにしても空母は面倒なやつが多い。

 軽空母くらいのフランクさを見習ってほしい。

 

「まあ何だ、二人で食ってくれ」

「いらないと言っている」

「なんだと? あんまり拒絶してくれんな。悲しいだろうが」

 

 知ったことかと言わんばかりの面で睨んできやがる。

 やめてほしい、実はあたしの心は強くないんだ。

 

「あー、わかった。じゃあこれはアクィラに渡しといてくれ。そんでどうしても我慢できなくなったらお前も食っていいぞ、ほれ」

 

 と言い手を掴み無理やり包みを握らせる。

 まったく、菓子くらい喜んで受け取れ。

 巷の女子は甘味で懐柔できると聞く、それに比べてこいつは手間のかかる奴だな。

 

「……」

「あん? どうした?」

「……なんでもない」

 

 そうか、と言う前にグラーフは奥に、多分自室に引っ込もうとする。

 

「食ったら感想聞かせろよー」

「……」

 

 シカトだ。つらい。

 

 ところでグラーフは何しにエントランスまで出てきたのだろうか。

 用事があってここまできたんだろうに、あたしと遭遇したばかりに引き返したのか?

 

「……まあ、いいか」

 

 考えても仕方がない。

 

 とりあえず賽は投げたし、あとは間宮に感動したあいつらがあたしに尻尾振るのを待つだけだな。よしよし。

 

「帰るか」

 

 一仕事終えて清々しい気持ちだ。今日は良い事ありそうだ。もう夕方だけども。

 

 そんな前向きな気持ちで寮を出た。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「あ、番長! ここで会ったが百年目、いざお覚悟!」

「ビンタはしねーぞ」

 

 秋月は、あたしに覚悟を決めさせといて頬を差し出す。

 

「おかしくはねーか? 何であたしを身構えさせる? 居直さなきゃなんねーのは、てめーの痛覚じゃないのか?」

「え、私の感覚機能は全て正常ですが……」

「生まれ持ったもんがイかれてるのは……、そうだよな、認めたくないよな」

「そんなに悲しそうな目を……!」

「すまなかったな……」

 

 絡み方が全力投球すぎて鬱陶しい。

 今後の課題は上手なあしらい方の習得だな。

 

「そんな事より袖の下は成功しましたか?!」

「歯に衣を着せろ。お前らは文明を身に纏えねーのか」

「ええー、じゃあ。山吹色のお菓子は渡せましたか?」

「代案になってねーぞ!」

 

 相も変わらずぶっ飛んでいやがる。

 つーかなんでこんな所にいる? ここは重巡寮なのだが。

 

「ところでおい、ビンタ標的器官 。あたしは待機を命じたはずだ、何してんだ」

「またまた、番長は『真っ直ぐ帰れ』としか言ってないじゃないですか」

「それがつまり待機命令だってんだよ。命令違反で便所掃除言い渡すぞこら」

「ああ! それなら心配には及びませんよ!」

「なんだと?」

「なぜなら私たちは全員、一度真っ直ぐ帰った後に数瞬の待機をしてから自由行動に移りましたから!」

「嘘だろ」

 

 こいつらまじかよ、なに言いつけは守ってますアピールしてんだ。

 

「じっとはしてられねーのか」

「過ぎ去る時を、漫然と過ごすのはナンセンスですよ?」

「お前が軍人じゃなかったら褒めてやったんだがな」

 

 そのスタンスは規律を守るべき艦娘がとってはいけない。

 

 でもまあ、いいか。

 ちょうど手持ち無沙汰になったし、暇でも潰すか。

 

「お前の片割れにさっき脳みその話をしたんだよ」

「局所的で限定的な話題すぎるのでは?」

「脳みそってつまり頭の話だから、お前には玉つながりで……」

「ああー! うら若き乙女に何て話をしようとしているんですか番長! 不潔です!」

「誰も金玉の話をしようとはしてねーよ」

「言ってしまっては意味がないのでは!」

「なんだよ、まあそれで睾丸の話に戻すけどな?」

「結局モノの話なんじゃないですか!」

 

 いちいち反応がでかいな。

 悪い気はしないが。

 

「陰嚢に毛が生えてる奴とそうじゃない奴がいるのは今や常識だな?」

「いつから常識にイノベーションが」

「この陰嚢に生えてる陰毛、抜く時に気を付けないといけないんだよ」

「待ってください番長、このなんの役にも立たないお話、話しきるおつもりですか?」

「将来役立つかもしれねーだろ」

「例え男の人ができたとしても、下の毛を引っこ抜く機会は訪れないのでは?」

「わかんねーだろ。多分、まあ、……そうだな」

「諦めた」

 

 細かい事は置いておけ馬鹿。

 

「で、抜く時に毛が生えてる走行に沿った方に引っ張らなきゃ血が出るんだよ」

「あああ、色々な意味で生々しい」

「怖いよな」

「はい……。え? もしかしてこれで終わりですか?」

「なんだよ、欲しがりかよ」

「いや、引っ張った割にはパンチが弱いと言いますか」

「血まで出しといて足りねえってのか?」

「引っ張ったのはお話の方って意味なのですが」

「パンチが欲しいのか?」

「はい! あ、いや今のはグーって意味ではなくてですね」

「わかっとるわ」

 

 仕方ねえ、もう少し話してやろう。

 何の話がいいかなー。

 

「……毛っていうのは剃らずに引っこ抜くと危険なんだよ」

「毛ぇ引っ張りすぎでは」

「抜くと皮膚に穴が開く訳だろ? つまり傷ができたのと同じ扱いになる訳だ」

「ふむふむ」

「で、自然にしとくと傷が塞がるな」

「そうですねぇ」

「でも毛はまた生えてくるな?」

「おや?」

「すると皮膚の中で外に出ていけない毛が生まれるんだよ」

「ええ、気持ち悪いですね」

「まあ、学術的な観点から話してるわけじゃあねーから、傷が塞がってんのか真っ直ぐ生えずに出口直前で小便カーブしてんのかは知らねーけどな?」

「何にせよ嫌ですね」

「だろ? そんでこの毛、そのまま放置しとくと皮膚下で無限に伸びそうだろ?」

「知りませんよ……」

「なんと救出するには皮膚を切り裂かなきゃいけねーんだ」

「なぜすぐ流血沙汰に」

「金玉傷だらけにしたくなかったら毛は無闇に抜かない事だ、わかったな?」

「はい! いや、生えてませんよ!?」

「つるつるか」

「そうではなくて!」

 

 気にするな、お前らくらいの年頃なら無くても気に止む事はない。

 なんならグラーフとかの真似して自分から剃り込んでもいい。

 

「グラーフさん達のを見たんですか!?」

「あ? 想像の話だが?」

「会って間も無い方々の陰毛を想像するなんて、思考回路アグレッシブ過ぎではありませんか?」

「青少年ならみんなそうだぞ」

「私達に青少年ならの話は適応されませんよぉ」

 

 それもそうだな。

 ところで陰毛の話をしすぎた。食傷気味だ。

 

「ほら、次はお前の番だろ?」

「今の話への対抗馬は持ち合わせてないのですが」

「いや、便所掃除の話だ」

「嘘ですよね番長! その体罰有効だったんですか?!」

「神聖な罰を体罰と称すな」

「そんな、待ってください!」

「ああ、あたしがクソするまでは待っててやるよ」

「あ、番長が致している間、そのお隣の個室掃除してますね?」

「おい、あたしの排泄音を聞こうとするな」

「集音器とかって幾らしますかね?」

「録音は控えろ」

「下から覗くのはありですか?」

「倫理って言葉を知らねーのかよ」

 

 まあ仕方がないから便所掃除は免除してやろう。

 罰を与えるだけではいつか噛みつかれる可能性も出て来てしまう。引き際は大事だな。

 

「そういえば番長、バルトリンと言うものをご存知ですか?」

「何だそれは、新しい兵器かなんかか?」

「このバルトリンと言うものは物理的な損傷を防ぐものなのです」

「はあ、便利だな。で? 結局何だ?」

「はい! 女性器の分泌液を排出する穴の事です!」

「その話は何かまずいだろ!」

「なぜですか! 男性の方は良くて女性の方がダメだなんて差別です! フェミニズムの敵です!」

 

 そうは言われても。正直な話をすれば多分玉の話もだいぶギリギリを攻めていたので、どっちもダメだろう。

 

「あたしが言ってんのはな、男女が揃うのがダメだと言ってるんだ。いいか? 片方の話をしたらもう片方は控えろ」

「それはきっと何の解決もしてはいない気がしますが心得ました!」

「よろしい」

「ホモは許されるという解釈でよろしいですか?!」

「よろしくねえ」

 

 良いわけねーだろボケナスが。

 

「ではレズは? これなら番長も満足なさるでしょう?!」

「なぜ満足すると思った。そう言う話じゃねーんだよ」

 

 いけねえ、段々とめんどくさくなってきた。そろそろ逃げるか。

 

「ああー! やっとこさエンジンかかってきましたよ! 番長、もっと私と遊んでください!」

「あたしが逃げる算段を立ててる最中に追加注文するな」

「逃がしません!」

「ここで背後から夾叉だぞ隊長」

「初月だと」

「うおー! 姉妹でサンドです!」

 

 おかしい、なぜ初月までいるのだ。

 こいつの出番は照月の次のはずだろう。

 

「出番とか、何の話をしている隊長」

「誰もが次は照月だと思ったはずだ。空気を読め馬鹿たれ」

「何の話をしているんだ」

「初は空気を吸って吐く事しか出来ないので無駄ですよ番長!」

「おい、言われてるぞ変態」

「隊長の中を循環した謂わば体液とも言える物質を僕の中に取り込み再び隊長の中にお返しする能力を有していると考えると興奮するな」

「一息に凄い気色悪い事を言うな」

「初がいると全ての人間が普通に見えるステキマジック!」

「本当にな」

 

 初月がいると、こちらが一生懸命考えた話が霞むから正直帰ってほしい。

 

「ところで秋月姉」

「はいはいなあに?」

「君がいると純粋培養の隊長エキスが採れない。息を止めていてくれ」

「お前それは、お前」

「……」

「おい、本当に止めるな」

「隊長、こちらを向いてくれ」

「犯行予告をあっさりするな」

「早く! 秋月姉はそこまで長く口を閉じてはいられない!」

「好都合じゃねーか」

「あ、良い事思いつきましたよ」

「ほう、聞こう」

「私が隊長の呼気を吸い込んで初の口元まで輸送するんです。そうすれば良いのでは?」

「待て、お前それは純粋にキモいしうっかり初月の要望もガン無視してんぞ」

「いや、それでいこう」

「何でだよ」

「この際僕は何でもいいんだ! 美少女二人分の循環液を体内に吸収できると考えれば全て丸く収まる! さあ、実行しよう!」

 

 しねーよ。

 考える事が人類に許容された範疇を凌駕し過ぎている。

 神は何を考えてこんなに重たい咎を背負わせたのか、さすがに可哀想だ。

 

「ふ、まあいいさ」

「何をクールに決めてやがる」

「僕は知っているんだ。人間の皮膚は不感蒸泄という形で体液を排出している事を。つまり隊長の下肢に顔を近づければ、いや、隊長の股ぐらに顔面を密接させればそれだけでいいのさ」

「凄い! これは私もびっくりの発言です!」

「おい、姉にもどんびかれてんじゃねーかよ」

「では失礼して」

「キック!」

「「痛い!」」

 

 秋月も引いてるかと思いきや感心しているだけだった。

 二人してあたしの身体に擦り寄るな。

 

「何なんだよお前ら。ちょっと変だぞ」

「ちょっとと言わずたくさんと言ってほしい」

「このちょっとは尺度じゃねえ。拒絶の心だ」

「日本語は難しいですね!」

「てめーらの性癖ほど難解じゃねえ」

 

 本当にここいらでやめにしないと無限に無駄話が展開されそうだ。

 ほんの出来心での暇つぶしだったが、こいつらの手にかかると身の危険まで考慮せねばならなくなる。怖い。

 

「おい、そろそろあたしは部屋に戻るから、お前らもはけろ」

「あ、そうなんですね。じゃあお泊まりグッズがいりますね」

「何泊するかは不明だが、パンツだけは多めに用意しよう」

「は? 営倉に荷物持ってけるわけねーだろ。手ぶらで行け」

「え、番長って営倉で寝泊まりしてるんですか?!」

「意外と質素倹約な生活をしていたんだな」

「二人分の営倉、まあ空いてるだろう。ついてこい」

「ぃやったー! 番長のお部屋にお泊まり!」

「あ……、僕は遠慮しよう」

「どうした突然、気にする事はねえ。さあ、来い」

「済まない体長、僕ら二人突然用事が出来たんだ。これで失礼する」

「そんなものありま……! むごむご」

 

 どうやら初月は気づいたようだ。秋月の口を抑え撤退の準備を始めた。

 

「そうか、残念だ。でも来たくなったらいつでも言えよな、憲兵には話を付けておくからよ」

「……ああ、うん。平気だ。たった今、雅やかな御心を手にしたから、気を遣わないでほしい」

「そうか」

 

 よし、撃退には成功したみたいだな。

 初月が微妙に察しが良くて助かった。実際には、あたしは軍規に触れてない奴を営倉にねじ込むだけの権限はない。

 面倒だから嘘をついた。バレる前にあたしもトンズラしよう。

 

「じゃあお前ら、自室で待機すること。いいな?」

「「了解」」

「よろしい」

 

 達者でな。と言い残しあたしはこの場を立ち去った。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 日もどっぷり暮れた。

 もう今日のタスクは何もなく、あとは飯を食ってクソして寝るだけだ。

 

 ということで食堂へ向かう。途中照月に遭遇するかと思ったのだが、何と誰にも会わずに食堂の席に着けた。

 それだけでなく食べてる最中もトイレにいるときも、誰の影に怯える事なく済んだ。

 

 正直物足りなさを感じている。

 

「そう言うと思っていたんですよ隊長」

「言ってない」

 

 風呂場だ。

 あたしが全力で羽を休めなければいけない場所だ。

 

「最初に言っておくがこの場であたしを怒らせたら、もうあれだぞ」

「どれでしょう」

「怒るぞ」

「あ、え?」

 

 湯船に浸かりぐだっていたら照月がすり寄ってきた。

 ゆっくりしたいから構って欲しくないので釘を刺す、が面倒くささが先行し中途半端に終わる。

 

「隊長お疲れでしょうか?」

「……そうだな」

「そうですか」

 

 やけに聞き分けがいい気がする。普段からこうしていればいいものを、まあいいか。

 

「そういえば隊長はご存知ですか?」

「あ? 何をだ?」

「このお風呂、実はアルカリ性のお湯なんですよ」

「へー、そうなのか。もしかしてこの肌がヌルヌルするのは、そのアルカリ野郎のせいなのか?」

「アルカリ野郎という呼称はさすがにヤバさを感じますがその通りです」

「なんでぬめるんだ?」

「人間の肌が弱酸性と言うのは、さしもの隊長でも存じているかと思うのですが」

「いま馬鹿にしたか?」

「とんでもないです」

 

 隙あらば人を貶すこいつらのスタンスは眼を見張るものがある。もっとあたしに気を抜かせろ、気づかえ隊長を。

 

「肌は弱酸性で保たれていますが、アルカリに触れると溶けるんです」

「は? じゃあこれに浸かりっぱだとそのうち消えて無くなっちまうってことじゃねーか」

「いえ……、そんな兵器じみたもの溜め置きませんよ?」

「腹まわりが気になりだしたら丁度いいかもな」

「おっぱいも減量しそうですね」

「それは困るな」

 

 この年齢になってようやっと大きくなりはじめたんだ、消えてもらっては困る。

 

「肌、というよりも古い角質が溶けたものがそのヌルヌルの正体です」

「なるほどなぁ」

「そのため、こういったアルカリ性のお風呂や温泉はその性質上、お湯が出ているところ以外は他人の垢でいっぱいなんです!」

「汚ねえ!」

「ぬめりの正体は汚物と言って差し支えないでしょう」

「最悪な気分になっちまった」

 

 なんで人がくつろいでいる時に、それをぶち壊す情報をリークするんだこいつ。

 

「ちなみにこの現象は、おむつかぶれと同じです」

「おむつかぶれって何だ? パンツのゴムで赤くなるみたいなもんか?」

「まあそれもそうですが、ここで私が言うおむつかぶれとは、糞尿でかぶれることを言います」

「何でお前らって会話に下ネタねじ込むんだ?」

「隊長の背を見て育ってますから」

「いま馬鹿にしたか?」

「とんでもないです」

 

 この風呂が垢まみれだとは知らなかった。とは言え他人と入る風呂なんてどこでも汚いと言えば汚いので、どうでもいい気がする。

 

「隊長」

「なんだ?」

「百数えたので私は先にあがりますね?」

「……そうか」

 

 百数えてたのか。随分と可愛らしいことしてんだな。

 そういやあたしも小さい頃は数えてたな。

 まあ、愛宕の姉貴に無理矢理やらされてたんだけども。

 

「さすがに陰毛を百本数えると骨が折れますね。えへへ」

「気持ち悪っ!」

 

 想像を絶する気色の悪さだ。

 なに陰毛を数えるって。

 

「あ……、そうですよね」

「自分のイカれ具合についに気がついたか」

「さすがに数を数えてからお風呂を出るだなんて、子供っぽすぎましたよね……」

「そうじゃない」

「次からは、私より大人な隊長の陰毛を百本お借りしますね」

「誰が貸すか!」

 

 陰毛借りるってなんだよ。おそらく人類史上初めての発言だろう。

 

「そんな……。あ、では代わりに私の毛と交換っこいたしませんか? それなら隊長も満足していただけますよね」

「お前と陰毛を植毛し合うつもりはかけらもない」

「一本いっぽん丁寧に抜き取りますのでご安心ください」

「そういやさっき、秋月に陰毛を引っこ抜く手順をレクチャーしたんだよ」

「え」

「今晩は鉄のパンツ履いて寝ろよ」

「唐突に私の貞操に危険が」

「じゃああたし、あがるから」

 

 私も一緒に、と言う照月を伴いあたしは風呂を出た。

 結局ゆっくりはできなかったが、何となく気持ちは落ち着いてしまった。




なんというかそれっぽいタイトルを付けてしまったことに後悔を感じたりします。これはふと思いついたタイトルなのですが、思いついた瞬間自分天才なんじゃないか?とか感じましたが寝言だったみたいです。そういうタイトル付けても文章作る実力が見合ってなかった。
なのでただ駄弁っているだけの話を挟んでいけたらなって思ってます。でもこの話ってそもそも雑談しかしてなかった。じゃあこのままで……。

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