艦娘は人間です。成長とともに艦種が変わったりします(駆逐が軽巡にクラスアップしたり)。
鎮守府を統括する委員会という組織があります。
委員会の怪しい計画により、艦娘は民衆から神と認識される事で強くなるとこの世界では考えられています。
「艤検」とは艤装の検査・修理とかする人達の略称です。
自分でも時々わからなくなるのですが、摩耶を番長と呼ぶのが秋月で体長と呼ぶのが照月です。ちなみにボクっ娘が初月ですがこの娘は一人だけぶっ飛んでいるので多分一人称を間違えていても判別がつきます。
こんな感じになります。つまり摩耶様が神ということは周知の事実ですね。崇め奉るのが常識ですのでよろしくお願いいたします。
私は魅せられていた。
咲き乱れる、その閃光に。
■ ■ ■ ■
「いーち! にーい! さーん!」
「おらぁ! 声が小せえぞ! もっとケツの穴ふん縛って腹から声出せや!」
「はい!!!」
いち、に、と更に大きな声が空に響く。
『通達、高雄型重巡洋艦三番艦摩耶改造二号ヲ、舞鶴鎮守府新設部隊旗艦兼隊長ニ任命ス』
先月の通達である。
以前より進行していた『敵航空艦隊撃滅部隊設営』の走りとなるべく発足されたこの部隊は、現在摩耶を隊長、以下駆逐三隻から構成されている。
通達があった当時、摩耶は大分と渋った。
ガキのお守りなんぞごめんである。
摩耶の古巣は舞鶴の第一艦隊であり、対深海棲艦の花形とも言える誉ある所属だった。
そんな自分が上の自己満足で作り出されるピーキー突貫部隊への配属とは、心境的には左遷されたのではないかと考え、実際に飛ばされたのだろうと落胆した。
「隊長ぉ! きついです!」
「ったりまえだろ! だから訓練なんだよ!」
「はい!」
「文句垂れてんな! 口じゃなくて身体動かせ!」
「はい!」
「ったく」
「……」
「……」
「……」
「……掛け声言えよ!」
「えっ?!」
「ボケてんのかてめえら!」
「はい!」
これだよ、と摩耶はより落胆の色を濃くする。
絶対わざとだ。
この駆逐艦達は、摩耶を小バカにする事にかけては命を賭けている。
何故だかはわからないが、摩耶の胃を掘削する事が好きらしい。
そんな摩耶の配下にいる駆逐艦は秋月型駆逐艦の一番艦「秋月」、二番艦「照月」、四番艦「初月」である。
触れ込みはよかったのだ。
何でも秋月型駆逐艦は防空を旨として建造されたもので、摩耶と近しい役割を持つ艦とのことだった。
秋月姉妹の前所属横鎮では、品行方正、質実剛健、一所懸命、それが彼女達の評価だった。
摩耶は「左遷されたが地獄に仏」と多少気持ちに折り合いをつけようとしていたのだが……。
「隊長ぉ! 今、カウント何回目でしたっけ?!」
これだよ、と本日何度数えたかわからないため息を吐く。
「ゼロ回だ」
「えっ?!」
「おい、あんまりふざけてっとぶっ殺すぞ!」
「はい!」
おい、こっちはブチ切れてんのにニコニコしながら返事をするなよ。
カタログスペックのアテが外れるのは世の道理か、しかしこれは酷すぎる。
泣きっ面に蜂とはこのことだ、許してほしい。
摩耶の切実な思いは、今日も彼女らの笑顔を引き立てる事しかできそうもない。
■ ■ ■ ■
黄禍を論ずる手前に捧ぐ
■ ■ ■ ■
「そういえば隊長、今日らしいですね」
「あ? お前らの葬儀の日取りが決まったのか?」
「盛大な式にしてください!」
「……」
早朝訓練終了後、適当に訓練報告書を書き事務に提出した摩耶は、早速秋月に絡まれていた。
「ニコニコしてんな、横鎮から神通取り寄せるぞ」
「! 失礼しました!」
新設部隊が発足してから二週間が経過した。
その間、摩耶がまともに隊長を務める事ができたのは最初の一時間だけである。
その一時間ですら、危険な片鱗を見せていが。
『隊長、これからは敬意を込めて番長とお呼びしてもよろしいでしょうか』
『やっぱり紙ひこうきが飛んでいても撃ち落としたりするんですか?』
『……やはり防空巡洋艦といえど、重巡洋艦同様おっぱいの大きさで格付けされるのか?』
はっ倒すぞガキどもと思いながらも、まあ駆逐なんてこんなもんか? と内心もやもやさせながらおざなりに返事をした。
『隊長にしろ』
『そりゃもうバンバン撃ち落とすぞ』
『トップシークレットだ』
これがいけなかった。
諦め切れなかったのか番長と書かれたハチマキとはっぴを渡してくるし、紙ひこうきがどこからともなく飛んでくるし、メジャーを巻きつけてくるしで舐めてかかられた。
そんな日が続くものだから一度秋月姉妹の元嚮導艦、神通の名を出して脅してみた。
駆逐にとっての最大の脅威は言うまでもなく嚮導艦なので、取り敢えず牽制になればいいやと思い言ってみたのだ。
しかし秋月姉妹は遠く離れた横鎮から、神通を呼べる筈がないと高を括った。
『神通さんは忙しいから、こんな所までこれませんよ!』
それはもう凄いニヤつきだった。
ーーー気に食わねえ。
上下関係がガバガバの現状は、艦隊運動に不和をもたらす要因になりかねない。
また、ここらで締めとかないと取り返しがつかなくなると予感し、貴様らの上司は無理を通して道理を踏み殺すだけのヤバいやつだぞと知らしめる必要があった。
ので実際に神通を呼んだ。
それはもう、途轍もなく迷惑だったろうが摩耶には関係ない。
追加で「嚮導の教育がなってなかったからこうなったんだろうか」と、秋月姉妹の前で神通にも聞こえるよう愚痴った。
愉快痛快とはこの事だと実感した。
神通はかつてないほどニッコリし、全力投球を開始した。
程なくして秋月姉妹は訓練用プールをゲロまみれにし、「お借りしたプールが汚れてしまいましたね。では掃除しましょうか」と、もどしたものを舐めるように拭き取る事を命じられた。
振り返ってみると随分小さい女だなと評価せざるを得ないが、円滑なトップダウン方式を採用するため、断腸の思いで行った事なのだ。
胸とかが痛む。
「何が今日なんだ?」
「はい! 今日は我らが部隊に空母が配属される日だと聞きました!」
「……あたし教えてないんだけど?」
「それはつまり、自分で調べろという愛ゆえの教育方針ですよね?」
「憎しみが溢れた結果なんだが?」
「今日もツンデレが眩しいです!」
「あたしの知ってるツンデレと違うな……」
「認識の違いは、これから擦り合わせていけばいいんですよ?」
「喧しい、ぶん殴るぞ」
「左の頬も差し出しましょうか?」
「いい根性じゃねーか」
お前ごときが聖人の真似事とは恐れ入る。
取り敢えず二回ビンタした後に再び向きなおる。
神通召喚の結果はご覧の通りだ。
効果は遅効性のものなのだと信じている。
「本日ヒトロクマルマル付けだ。そこで正規空母二隻が配属される。メンドクセーから他のバカにも伝えてこい」
「は、はい。ありがとうございます!」
暴力したのに感謝を述べるな。
そのレベルの変態なのだろうか、少し怖い。
「あの、隊長。もう一つお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「あ? 次は腹でも殴って欲しいのか?」
「それは素敵な提案なんですけれども」
素敵ではない。
「なぜ空母を倒す部隊に空母が所属するのでしょう? それにヒトロクマルマルって……社長出勤がすぎませんか?」
「一つじゃねーじゃねーか」
「あ、本当ですね! さすが番長! よくお気づきで!」
「あたしは番長じゃねえ、人違いだ」
と言い腹を小突く。
……おい、きゃっきゃするな鬱陶しい。
正規空母が所属するのは元から決定されている事であり、そもそも全員に通達がいってるはずで、その理由もしっかり説明されている。
ざっくり言うと"毒を以て毒を制する"だ。
そも敵機を撃墜するだけでは制空権は得られない。
真に航空戦を制するには、空をこちらの機体で埋める必要がある。
摩耶は正直に言うとこんなくだらない初歩中の初歩な説明したくないのだが、きっとわざと尋ねたのだろうと思い至り嘆息する。
時間についてはわからない。
ただならぬ理由でもあるのだろう。
「と言う事だ、理解したか?」
「え? 今何もおっしゃってませんよね?」
駆逐は地の文を読み解く特殊技能があると聞いていたのだが、そうか嘘だったのか。
「そんなものあるわけないじゃないですか!」
「しっかり読み解いてんじゃねーか!」
メンドクセー奴だよ本当に。
「そんな事よりもどんな空母が来るんですかね? 五航戦の先輩方だといいなあ」
「それはねえだろ。多分、普段クソみたいな態度のお前らをぶちのめすために、神通が空母に改装したはずだ。それが来る」
「冗談きついですね……」
「……」
「何で黙るんですか?」
「冗談だといいな」
「え……、え?」
冗談はさておき、あたし自身もどの空母が配属されるのか聞いていない。
恐ろしいほどの職務怠慢だ。
普通部隊長くらいには事前に連絡がいくものなのだが……。
まあ龍驤とかならどんな手を使ってでも情報封鎖する事くらい意味もなくしそうだ。
龍驤は軽空母なので違うだろうが。
「はーあ、まあ嘘だ嘘。そんなクソでも漏らしたみたいな面してんじゃねーよ」
「……」
「何で黙るんだよ。え……、え?」
「ば、番長……」
「嘘だろお前」
「はい! 嘘です!」
「キック!」
「いっ、ありがとうございます!!」
「何でだよ!」
何にせよこれで説明の手間が一回で済んだ。
これは僥倖だ。
三回もこんな調子で説明していたら大破しそうになる。
それでは配属される空母に申し訳が立たない。
というか舐められる。
一だか二だか、五の字だか知らないが空母に下に見られると後々に影響が出る。
奴らが艦ではなくプライドの擬人化なのだと信じてやまない摩耶は、今日のファーストコンタクトを結構重要視している。
奴らは自分が認めない者に忠誠を誓う事はまずない。
まあ忠誠なんて持たれても鬱陶しいだけなのだが、従うか反目するかのゼロか百かの連中だらけだと疑わない摩耶にとっては繊細な問題だ。
実際に、誇りに塗れた者が空母には多いので摩耶の警戒は的を射ている。
「それは空母だけに、ってことですか?!」
失敗は『敵航空艦隊撃滅部隊設営』という計画自体を頓挫させかねない。
「無視ですか……?」
「あ? ああ、罰走したいって話か?」
「的を射ている、が空母の弓矢とかけてるナイスジョークかっていう話です!」
「やっぱり罰走の話か」
「違いますけど、番長がお望みならばそれも構いません!」
「……ヒトロクマルマルまでには帰ってこいよ」
「はい!」
秋月は散歩でも行くかの様にステップを踏んだ。
「あ! おい! 秋月!」
「! 何ですか?!」
名前を呼ばれただけで喜ぶな。
犬かお前。
「番長って呼ぶな!」
いちいち面倒だが大事な事だ。
訂正させなければならない。
「気をつけます! 番長!!」
神通の効果は、未だあらわれそうもない。
■ ■ ■
「隊長、聞きたい事があります」
昼、照月にナンパされた。
部下が自分の昼飯を「空母盛り」した事を姉妹艦の鳥海に愚痴っている最中である。
その主犯がこいつだ。
いったいどのツラ下げてやって来やがった。
鳥海も引いて……いや、よく見るとニヤついてる。
お前もか。
「何の用だ、今あたしは鳥海といちゃついてんだよ。邪魔すんな」
「そんな事言わずに! お願いします!」
「いいんじゃない? 摩耶、聞いてあげても」
「あのな鳥海、こいつらは一回事を許すと、神通を目の前にするまで延々とつけあがるんだぞ?」
「そんなに酷くはないですよぉ」
犬かお前。
しゅんとするんじゃねえよ。
鳥海がキュンときちまってんじゃねーか。
「何があったの? 私にも聞かせてくれる?」
「チョロすぎんだよお前はさあ……」
「はい! それじゃあ聞きますね? ……本日付けで空母が来るってほんとおですか?!」
「秋月呼んでこい、しばいてやる」
「何でですか?!」
やろう説明せずに散歩行きやがったな、許せねえ。
「詳細は秋月に聞くか秋月を拷問して聞き出せ。いいな?」
「お、穏やかじゃないですね……」
「それが嫌なら、聞く事自体を諦めろ」
「もうっ! 摩耶? 自分の子たちに冷たくするだなんてかわいそうでしょ?」
「あたしのガキみたいに言うな」
「違うんですか?!」
「艤検に診てもらえ、その頭」
「姉妹共々すごいって言われてるから平気です!」
「平気じゃねえ!」
それは絶対やばい方のすごいだ、そんな評価を受け入れるな。
正気でもないのか。
「ふふ、聞いてた通り本当に可愛い子ね」
「え! 隊長! 陰ではそんな評価をしてくれていたんですね?!」
「たまたま鳥海の耳がぶっ壊れてる時に、お前らの不満を言っちまってたらしいな」
「普段から私たちの話をしてくれているなんて感激です!」
「壊れてんのはお前の頭か?」
何がこいつらをここまでポジティブにしているのか皆目検討がつかない。
薬でもキメてるんだろうか。
だとしたら隊長としての責務を果たさねばならない。
頭の二、三ひねれば、薬も絞り出せるだろうか。
「おい、お前の脳みそ捻転させるからちょっと頭カチ割れよ」
「それは暗号文ですよね……?」
「ああ、死ねって意味だ」
「鳥海さぁん……!」
鳥海に抱きつく照月、だが残念だったな、そいつはこっち側の人間だ。
以前、砲塔が破損した際に拳で敵を討とうとしたくらいだ。
肉体言語に文句をつけるような女じゃない。
「摩耶! どうしてそんなに酷い事を言うの?! 謝りなさい!」
「……」
味方が陥落した。
おかしい、高雄型の真面目担当が畜生の陣営に取り込まれてしまった。
これが世に聞く闇堕ちってやつか。
このままでは秋月姉妹の謀略により、高雄型姉妹離散の憂き目にあいかねない。
仕方ねえ、質問に答えてやろう。
「今日の四時に来るんだってよ、空母」
「あ、隊長が軍用語を使わない時は本当にめんどくさがってる時だって、前に教わりました」
「よく知ってるね照月ちゃん」
「はい! 愛宕さんに聞きました!」
高雄型重巡洋艦二番艦「愛宕」は摩耶の姉妹艦であり、高雄型頭ゆるゆる系女子担当だ。
主に駆逐への餌付けと懐柔、あわよくばねんごろを目指すロリコンだ。
「おい、姉貴には気をつけろよ。あいつは触れた相手の脳みそをスポンジに変える能力を持ってる」
「牛ですか……?」
「似たようなもんだろ」
「そうなんですか……? あ、そうですね」
不思議な顔をした後に自分の胸を見てカラッと言った。
そのうちこいつも大きさに悩まされる日が来るのだろうか。
というかこいつ、駆逐のくせに結構でかいんだったな。許せねえ。
「とは言えお前の頭はすでに海綿体だから気にすんな」
「確かにそうですね!」
「そうじゃねーよボケ」
あたしがバカにしたのに、あたしに撤回させるな。
お前は否定する事を覚えろ。
……そんな事は置いておくとしてだ。
喫緊の問題は愛宕だ。
やろう、ついにあたしの部下に手を出しやがった。
危険な兆候だ、奴がかかわったが最後、BSEじゃないが部隊がスカスカになってしまう。
……仕方がない、手を打っておくか。
「あの、何で愛宕さんに気をつけなくちゃいけないんですか? 悪い人には感じなかったのですが」
「摩耶は嫉妬してるのよね?」
「ええっ?! 隊長がジェラシー?! ギャップ萌えですか!!」
「さっさと頭を切り開け、スカスカになったぶんを粘土で詰めなおしてやる」
「愛宕姉さんは私たちが軽巡の頃からの付き合いなんだけどね? その頃から仲良くしてた娘を横から捕ってっちゃう人だったのよ。だから警戒してるのよねー?」
「隊長ー! かわいいー!」
「ひっつくな保菌者やろうが!」
鳥海もいい加減にしろ。
そんな嘘にまみれた宣伝をのたまうな、こいつが信じたらどうするつもりだ。
残りのバカどもにも誤認されてしまう。
愛宕については、何の事はない。
単純に部隊の駆逐が奴の手に堕ちると、そちらにうつつを抜かしまともな艦隊運動がとれなくなるのだ。
それは統治する側として、とても面倒臭い。
つまり迷惑を被る前に対処する、それだけだ。
「姉貴と仲良くするのはお前の勝手だ好きにしろ。でもな、それで仕事サボるような事があったら罰走じゃ済まさないから覚悟しておけよ」
「……何をされるんですか?」
「お前、脳みそ触った事あるか? 結構プニプニしてるんだが、……特別に触らせてやる」
「もしかして、それは私のモノでは?」
「よく気づいたな、生きたまま自分の頭の中触るだなんてなかなかできない事だぞ。よかったな」
「私の頭に執着しすぎです隊長」
「あ? 心配してるんだよ。あたしはお前の頭に脳じゃなくてクソが詰まってると疑ってるんだ。この目で見させろ、疑いを晴れさせろ」
「そんな人間はいませんよぉ……」
ふむ、どうやらあたしの沈痛は通じたようだ。
これで少しはマシになるといいのだが……。
「おい鳥海何だその顔は、にっこりするな」
「ん? ふふ、本当に仲が良いんだね貴女達。ねえ照月ちゃん、摩耶をお願いね?」
「うん! お任せください!」
「うんじゃねえよ」
「ゆりかごから墓場まで面倒見ます!」
「先に死ね」
「私が死んでもあとの二人が……」
「立ちはだかるな」
「ううん、あの世に引きずり込みます」
「仲良しこよしはお前らだけでやれ!」
何が何でもあたしを殺そうとするな、引導を押し付けるな。
「おい、もういい頃合いだろ。さっさと行け」
「え? 頃合いとは?」
「秋月もそろそろ帰ってくる頃だって言ってんだよ」
「あ、空母の件ですね? いや、でもそれは隊長が教えてくれたじゃないですか」
「あ? なに抜かしてんだ、交代で罰走行けってんだよ。ボサッとしくさってんな」
「そ、そんな……」
「秋月は喜んで駆けて行ったぞ、お前は違うのか?」
「秋月姉の変態性を、私に求めないでくださいぃ」
驚いた、こいつにも一般的な見地があったとは、部下の意外な一面を発見してしまった。
別段嬉しくないが。
「まああたしは、お前の良し悪しは聞いちゃいねえ。走るか営倉か好きな方を選べ」
「横暴です……」
「お? 嫌なら隊を抜けていいぞ。早速書類持ってこい」
三人分な、と言いかけたところで「防空駆逐艦照月、抜錨します!」と叫び飛び出して行った。
別に脱隊してくれてもいいのだ。
そうすれば、まあ、第一艦隊に復帰できるかはさておき、この謎の部隊からあたしも逃げ出せる公算が高くなるのだから。
「摩耶、しっかり勤めなきゃダメだよ?」
「やる事はきちんとやるよ、でも奴らの自由意志は尊重しなきゃなんねーだろ」
「……」
「辞めたいって思うんじゃ、仕方ねーから辞めさせる他ないだ……、その顔やめろ」
「ちゃんとしなさい」
「……」
鳥海にこう強く言われると、あたしとしては大きく出れない。
仕方がない、鳥海の顔に免じて隊長職は続けてやろう、と内心思う摩耶であった。
■ ■ ■ ■
「隊長、特に用はないのだがコバンザメしてもいいか?」
「よくねえ」
昼過ぎ。
事務に今日配属される空母の情報を聞き出そうとして、失敗した帰りのことだ。
イライラしたから鎮守府通常船舶用埠頭で海に向かい呪詛を吐いていたら、初月にストーキングされていた。
「お邪魔する」
「マジで邪魔なんだが、腹に擦り寄るな」
「おっぱいでもいいのか?」
「あたしに触れるなって言ってんだよ」
「それじゃあコバンザメになれないじゃないか!」
「早く人間になれ」
なぜか怒鳴られてしまった。
上官に向かって何をしているんだこいつは、バカなのか?
「ふん、艦娘に向かって人間になれ、とはジョークに気が利いているな隊長。そんなに僕の身を案じているのか? 健全に職務を全うし社会復帰して欲しいと望んでいるのか?」
「ジョークじゃねーし滅びろと思ってるしお前は社会に出せねーよ」
元艦娘逮捕、何て報道見たくない。
軍で密やかに処分すべきだこいつは。
「つれないな、そんなにコバンザメが嫌いか?」
「コバンザメに己の罪をなすりつけるな」
「しかしだな隊長。艦隊においては、旗艦やそれに類する艦に従う義務が生じるだろう? ならば普段から、その意思を徹底して鍛えておくべきだとは思わんか?」
「鍛えるべきはテメーの儒教観だボケ」
「そこでコバンザメだ」
「うるせーよいい加減!」
言っても聞かない(効かない?)事を思い出し、取り敢えず初月を引っぺがす。
……力強いなこいつ。
「おい、離れ、ろ。諦めろ、お前は、人だ!」
「まだ、わからない、だろう。ぐう……、離れてなるものか……!」
「この!」
「何?!」
引いてダメなら理論で、引き剥がせないからこちらに引き寄せ、勢いで足をかけこちらに向けたケツを蹴飛ばす。
そのまま海に落ちろ!
「まだだ!」
「何だと?!」
尻に蹴りを入れた瞬間、こちらに振り向き片手を握られる。
あたしの重量が乗った分、速度は落ち水面に没する事なくコンクリートに倒れ込む。
「……大胆だな隊長」
「そう思うならさっさと手を離せ」
「大胆で過激で僕の事が大好きだな隊長」
「そう思われたくないから手を離せ」
今、埠頭では重巡が駆逐に覆いかぶさっている犯罪待ったなしの現場が出来上がっている。
このままではまずいと思い、鎮守府から貸与されている拳銃を向ける。
「ま、待つんだ隊長! より悪いぞそれは!」
「それを決めるのはあたしだ」
「くっ、かっこいいセリフを言うじゃないか……!」
「減らず口の元を断つからちょっと待ってろ」
「や、やめて!」
ぎゅっと目をつむり、ハンズアップする事でようやく手を離す初月。
最初からそうしろ。
「まったく、あんましバカなことすると墓石に小便引っ掛けるぞ」
「すでに死んだ体で話を進めないでくれ」
「次にバカした時が死ぬ時だって言ってんだよ」
「それにしても隊長、おしっこかけるだなんてまるで犬だな」
「ぶち殺すぞクソガキ」
「え?! 冗談も返しちゃダメなのか?!」
まさかここにきて、あたしが犬と呼ぶ前に犬と呼ばれてしまうとは思わなかった。
ついうっかり気持ちがストレートに出た。
「ふう、何が琴線に触れたかはわからないが一応謝ろう」
「……謝ろうっつって、ごめんなさいを付けなくていいのは偉い奴の特権だ。てめーはしっかり、ごめんなさいするんだよ」
「……ごめんなさい」
「それでいい」
と言ったそばから、コバンザメし始める初月。
「死にたいのか? 何でだ? 何でだ?」
「いや、待ってくれ隊長。これはコバンザメとは違うんだ」
「コバンザメはそんなに種類がいるのか?」
「別のコバンザメというわけではなくてだな……」
その、と言い淀む初月。
こいつの度し難さにはドン引きだ。
これで「金魚の糞の真似だ」とか言い出したらどうしよう。
頭がオーバーヒートする。
怒るというか、あきれてしまう。
「これを話すのは、凄く恥ずかしいのだがな?」
「お前にそんな感情があったのか」
「ああ、気前のいい母親が誕生祝いにくれたんだ」
「挨拶に行かせろ、その不完全な恥をリコールしに行くぞ」
「会ったことがないんだ」
「え……わりい」
いいんだ、と初月は言うがそうもいかない。
艦娘は、少女ならば誰でもなれる可能性がある。
これは時に残酷で、愚かで、優しさに満ちた事実だ。
艦娘の一定数が家と家族を失った者たちだ。
数が数だけにその事を当たり前のように扱いがちだが、本人達からしたらたまったものではないだろう。
確かに、全体的に見たらそれはよくある事なのだが、当人達には特別で異常な出来事だ。
そしてそれは失った者にしかわからない痛みがあり、そうではない摩耶には本当の意味で理解をする事は出来ない。
配慮が必要な事だ。
「僕らは……、三人ともそうなのだがな? 僕らは気付いた時には孤児でな、親の顔は知らないし、周りにろくな人間はいないし、それは酷いものだった。生きるためには何でもした、死なないために全てに従った。犯罪も一通りやってきた」
「……」
「引いたか? まあいいさ、とにかく激動の人生を歩んでしまったせいで僕らは愛に飢えていたんだ。……そんな折に隊長と出会った。いや、正確には遠くから見た、が正しいな」
そうした生活をしていたのは港町だったらしい。
港町というのは、どこも混沌としている。
いつ敵の侵略があるかわからない。そのため人が居つき難く、閑散としがちだった。
しかし、国としては国防の、まさしく壁となる場所をデッドスペースにはしたくないらしい。
まあ当然だ、艦娘をはじめとした軍が羽を休める拠点となるのだから、何も無しじゃあ話にならない。
そこで政府は、沿岸部のあらゆる税を軽くしたのだ。
こうする事で空洞化、というか人の流出を防いだ。
しかしそうしてやってきたのは、一山当てたい商売人とゴロツキだ。
かくして港町という場所は、とにかく手が早くて汚い奴らの吹き溜まりと成り果てた。
初月達のいた港町も例に漏れずそうした環境であったと言う。
そしてある時、税を軽くしたツケを払わせるかのように深海棲艦が侵攻してきた。
だが舞鶴鎮守府の艦娘らが出撃し深海棲艦を撃滅、被害はあまり出なかったそうだ。
で、その艦隊の中に当時の私がいたらしい。
三年前との事だが、ギリギリ重巡に格上げされたか、という頃だ。
そんな前の事さっぱり覚えていないが、こいつらにとっては違ったのだろう。
「あの時は、違うな。今もそうなのだが、僕はあの敵に感謝してるんだ」
「……何でだ?」
「あの時は、あの町が壊れる事に安心したんだ。僕らにとってあそこは負の遺産だ、リセットできるならこんなに喜ばしい事はない」
「だがその町に被害は出てないんだろ? わりーがちっとも覚えてねーけど、あたしらが助けたんだからよ。するとなんだ? 今は何に感謝してるっつーんだよ」
「隊長の対空射撃を見る事ができた」
「あ?」
「綺麗だった。美しかった。敵機が壊れる事に対してではない、……隊長に見惚れたんだ」
「見る目がねーな。そん頃のあたしは、良くて只の『摩耶』だったはずだぞ。対空武器はそこまで積んじゃいねーはずだ」
「しかし、見入ってしまったんだ」
「わかんねーな」
ただの対空射撃に見所なんてない。
ぱっと撃ってばら撒くだけだ。
「そして隊長に会いたいと思い、艦娘になった。そして何と隊長と同じ防空艦になれた。三人ともだぞ? 凄いとは思わないか?」
「知るか」
「ふふっ」
まあ、何だかわからないが、見知っていた人間に会えてハイになったって事か?
何だよ、じゃあ今までこいつらに暴言吐きまくってたあたしは間違いなく悪者で、嫌な奴してたんじゃねーか。
先に言えよ。
「いや、実際僕らは性的に倒錯してるから今のままでいいぞ隊長」
「台無しじゃねーか」
「これからもどんどんいじめて欲しい。できる事なら粘膜を重点的に責めて欲しい」
「オススメを述べるな」
「ただ照姉さんはまだ羞恥心が大分あるから注意するんだぞ?」
「レクチャーを始めるな」
「僕はバリネコだが隊長が望むなら逆転してもいいぞ?」
「提案をするな」
「僕らはみんな隊長が好きだ」
「……」
だから構って欲しくて、ついちょっかいをかけてしまうんだ。と告げられた。
気にくわないが理由はわかった。
……とはいえ鬱陶しいからやめて欲しいのだが。
「だからこれからも、ふふ、そうだな……。コバンザメさせてくれ」
「キック!」
「ぐえ!」
「やっぱりコバンザメなんじゃねーか!」
「バカな! いい話をしたのに蹴るのか?!」
「知った事じゃねえ! うざいってんだよ! 何でそこでコバンザメなんだよ! 変だろーが!」
「僕らは性的に倒錯してるからな」
「理由にするな! 理由になってねえし!」
「まったく隊長は、何やかんや言いながら僕の性的嗜好に合わせてくれる。……いい人だよ」
「世界一不名誉ないい人だぞそれ!」
まったくはこちらのセリフだ。
途中まではまあ良かったが、こいつはこいつだったという事か。
「……おい、『間宮』に行くぞ」
「どうした? 気を遣ってくれるのか?」
「ちげーよ、そろそろ約束の時間だ。隊の交友を円滑にするために、菓子折り買ってくんだよ」
「はは、そういって僕らにも買ってくれるんだろ?」
「あ? ……置いてくぞ」
「照れないでくれよ、隊長。それ! ひっつき虫!」
「鬱陶しいっつーの!」
「ははは!」
くそが、と思いながらも摩耶は初月を強く引き剥がす事もせず、歩みを共にした。
■ ■ ■
「本日1600付けで艦隊に配属された、Graf Zeppelin(グラーフ ツェッペリン)級正規航空母艦一番艦Graf Zeppelinだ」
「Buon Giorno! 同じく本日配属されたAquila(アクィラ)級航空母艦一番艦Aquilaです! よろしくっ」
「……おう」
「番長ー! 押し負けないで!」
「圧倒されないで!」
「こっちを見るな」
まさかのグローバリズムの波が到来した。
どういう事だこれは。
「……あたしは『敵航空艦隊撃滅部隊設営前段階部隊』旗艦兼隊長の高雄型重巡洋艦三番艦摩耶改造二号だ。……よろしく頼む」
「番長ー! えらい! ちゃんと言えた!」
「噛まずに言えた!」
「僕を睨まないでくれ」
結局事務から情報を聞き出す事が出来ずに今という勝負に臨んでしまったが、完全に虚を衝かれた。
「ふん、しけた面だな」
「ちょっとグラーフ!」
「いきなりバカにされてしまったな隊長」
「私は隊長のご尊顔好きですから安心してください」
「私もですよ番長」
「うるせえよ」
お前らも自己紹介しろ、と促す。
しかし、しけた面とはな。失礼な奴だ。
「では、私は秋月型駆逐艦一番艦の……」
「もういい」
「え?」
「必要ない」
「グラーフ!」
随分とまあ……、困った奴だ。
「おい、挨拶くらいはさせろ。こいつらはイジメられると喜ぶ質(たち)なんだ。欲を満たすのは程々にさせとかないと躾にならない」
「私は違います!」
照月が抗議するが、タレコミが先程あったので無意味だ。
シカトしよう。
「隊長、その無視も悦ばせているんだぞ」
「微妙に文字を変えてくるな。……グラーフ、犬じゃないんだからフラフラすんな。こっちに戻れ」
「くだらん」
「くだらなくねえ。いい歳こいて、そんくらい言われなくてもしゃんとしろ」
「……貴様、私を馬鹿にしているのか?」
「そうだよ。そんでその原因はお前に有るってさっさと気づけ馬鹿たれ」
「なんだと?」
「あー、おいおいまてまて、海越えてケンカしにきたわけじゃねーだろ? いや、わるかったよ、あたしは口が悪いんだ。今のをマイルドに言い直すと『もっと仲良くしよ』って意味だ」
「番長ぉ、それは意訳がすぎますよ」
秋月、いま丸く収まりそうなんだから黙っててくれ。
「今ので丸く収まると思ってるなら、隊長も随分とまあるくなりましたねっ!」
照月、後で罰走だ。
「僕も一緒に走ろう」
初月、お前は神通監修のもと横鎮にピットインだ。性癖を治してこい。
「まあなんにせよ、よろしくって事に変わりはねぇ。グラーフ、アクィラようこそ日本へ、ようこそ舞鶴へ。これから一緒に頑張ろうな!」
「無理くりまとめたぞこの人」
「隊長も私たちに引けを取らないくらいキャラ濃いですよね」
「番長はすごい人ですね」
だから喧しいってんだよ馬鹿ども。
「……おい、一つ、聞かせろ」
「あ? 何だ、気を遣うな。一つと言わず沢山聞いていいぞ?」
「貴様は何故、艦娘になった?」
「なぜ? って……」
「……答えられないならもういい」
「あ、ちょっとグラーフ! ええーと、皆さん、失礼します!」
行ってしまった。
何だったんだあいつは、というか困ったぞ? 完全に下に見られたのではなかろうか、めんどくせえ。
「番長、追いかけなくていいんですか?」
「……いま行っても効果ねえだろ。無闇に喧嘩して終わりだ」
「隊長、ですがこのままでは良くないですよね? 会うたびにつっけんどんな態度されたら困ります」
「そうだな」
「隊長、今のは『私は隊長の態度も気にくわない』という宣戦布告だぞ」
「何だと?」
「ち、違いますよ隊長?!」
「照は欲しがりさんだから……」
「不器用な求め方しかできないんだな」
「違うって!」
「だからうるせえってお前ら」
ああー、どうすっかなー。と悩むが妙案は浮かばない。
駆逐なら生意気でも、力で抑える事ができる。
しかし空母となると話は変わる、子供騙しは通用しない。
「ところで番長、一つお聞きしてもいいですか?」
「あ? ろくでもない話だったらグラーフと仲良くなってもらう」
「それを条件に持ってくるあたり、隊長もよっぽど参っているみたいだな」
「うるせーよ。で、何だ?」
「あ、いや私も番長が何で艦娘を目指したのか気になりまして。……あ、もしかして赤札ですか?」
「……いや、志願だ」
「へー、そうなんですね。番長面倒臭がりだから、強制されてやってるのかと思いました!」
「ちゃっかり失礼な事言ってんじゃねーよ」
まあ、あたしの事はどうでもいい。
今はグラーフをどうするか考えなくてはいけない。
「よし、これから意見を募る。いいか? 採用された奴は、今日一日だけあたしと会うたびにビンタを受けれる権利をやる」
「俄然!」
「やる気が!」
「……わきません」
何の事はない、単にグラーフと仲良くなろう作戦を実施するにあたりご意見を募集するだけだ。
「さあ、集(つど)えスポンジ脳ども」
「はい!」
「良いぞ秋月、言ってみろ」
「はい! なぜかはわかりませんが、グラーフさんは我々を気にくわないご様子です!」
「おう、そうだな」
「なので国に送り返しましょう!」
「無邪気にあたしを困らすな」
「良い案だと思ったのですが、どこかダメでしょうか!」
「強いて言うなら、奥の手を手前に持ってきた事だ」
「わかりました! まだ伏せておきます!」
「おう、それでいい」
「は、はい!」
「よし、むっつり言ってみろ」
「照月です!!」
「知ってるぞ」
秋月はダメだった。横暴な案を出すとは正直驚いた。
多分挨拶を中断させられた事を根に持っている。
「私はグラーフさんと敢えて仲良くする必要はないと思います!」
「お前らあたしの話聞いてたか? これは仲良くなろう作戦なんだが? ビンタの前借りが欲しいだけなのか?」
「ち、違いますよ?!」
「じゃあ、その案の何たるかを言ってみろ」
「はい。……グラーフさんは少し怖いので、あまり関わりたくないからです!」
「お前の気分でものを言うんじゃねえ!」
最高にマイペースじゃねーか。
無論却下だ。
「ふむ、では僕からも」
「なるほど、案は出尽くしたか」
「……あれ? 隊長? 僕が残ってるぞ?」
「あーあ、どうしたもんかねえ」
「隊長ー?」
とりあえず取っつきやすそうなアクィラに菓子を渡して様子を見よう。
そんでしばらくは衝突しないよう気をつけよう。よし、これで行こう。完璧だ。
「僕は無視するのか?」
「そんな面で見るな」
「悲しいぞ? 隊長」
「手を握るな」
「……」
「なんか言え、脚を絡めるな。おい、ちょっ、触るな!」
「なるほどな、今日のパンツは純白か、いいぞ? そのギャップ」
「待て、今のタイミングのどこでパンツを見た?」
「ふむ、ほんとに白か……」
「いや、今日は真っ赤なヒモだ」
「なんだと?!」
「いえ! 今日の番長ファッションは水玉のはずです! 私にはお見通しです!」
「待て、待て」
「隊長はズボラなので、上下は揃えていないはずです。なので上はピンクのレースです」
「やめろ、的確に当ててくるな」
「隊長、あのだな? いくら女所帯とはいえ、もっとしっかりした方がいいぞ?」
「喧しい」
仕方がないだろう。
こちとら前所属が第一艦隊だったんだ。
出撃数はかなり多い、つまりそれは、損傷しやすいという事を意味する。
そして損傷のツケは制服が支払うのが艦娘のしきたりなのだ。
「あたしの下着は犠牲になったんだよ……。どいつもこいつも、いいやつだったのにな」
「戦友みたいに語るな」
「あいつら今、どこにいるんだろうな」
「海の底だと思いますよ?」
「深海の奴ら、許せねえ」
「あ! 番長良い事思いつきましたよ!」
「何だ?」
「海に出て、艦娘の下着をサルベージする事業を始めるんです! 絶対儲かりますよ!」
「そうか、頑張れよ」
「いくらだい?」
「一欠片五千円からスタートです」
「いいだろう、二万出す」
「ではこちらが駆逐艦初月の物と思われるパンツのパーツです」
「馬鹿な……、僕のパンツだと? こんな所で、また逢えるなんて……!」
「やだ、感動の再会ですよ隊長……!」
「よかったな」
どうでもいいが初月がパンツをちゃんと履いているとは思わなかった。
意外だ。全身タイツが下着とか主張してそうだから驚いた。
ん? そういえば何の話をしてたんだっけか。
「あ、おい、三文芝居はやめろ。話を戻すぞ」
「「「はーい」」」
「んで、グラーフのパンツが何色かわかったか?」
「そんな話はしてないぞ!」
「しっかりしてください隊長!」
「番長がこわれた!」
冗談だ馬鹿。
「んじゃあ、良い案は出そうもねーから今日は解散にする。寄り道せず真っ直ぐ帰れよ」
「「「はーい」」」
「はい、じゃねえ、敬礼だろうが」
了解。と三馬鹿の言質を取り、解散する。
これでこの地雷どもは大人しく待機するだろう。
空母とのファーストコンタクトは、まあほぼ失敗したが何とかなるだろう。
幸いにして片割れのアクィラはまともだ。
取りつく島が無いわけではない。
柄じゃねえが、頑張っていくか。そう思い摩耶は一人、さっそく空母寮に向かって行った。
ところで『さざんかのように』をまともに進めていないのに新しいお話を書き始めてしまい、自分まじで何してんだって思ってます。
でも、叢雲だけでなく摩耶様の良さも伝えたかったので仕方ないですね。