瑠璃川渚の目線でお送りします。
第七話
「柿崎先輩、文香と合流しました。」
「了解。俺も今そっちに向かってる。」
「はい、気をつけてください。」
現在、ランク戦真っただ中。
――1時間前――
「よし、いいか。最終確認だ。虎太郎、対戦する隊と特徴を言ってみろ。」
直後のランク戦に向け、最終確認の時間。柿崎隊隊長、
「はい。まず、荒船隊は、三人とも狙撃手なので、上を取られると厄介です。あと、隊長の荒船さんは、弧月があるので近接戦も得意です。」
「オッケー。じゃあ、対策は?」
「とにかく射線に入らないようにすることです。建物で射線をできるだけ切って、対応します。」
「そうだな。じゃあ、次、東隊は?」
「奥寺、小荒井の二人の攻撃手と、狙撃手で隊長の東さんがいて、攻撃手二人の連携攻撃、東さんの超正確な射撃が肝です。」
「対策はどうする?」
「こっちもできるだけ早く合流するようにして対抗します。」
「東さんの射撃の方は?」
「警戒をしっかりして、オペレーターとの連携で何とか防ぎます。それと、気にしすぎないようにする、です。」
一つ一つ、丁寧に質問に答えていく
「よし、大丈夫だな。照屋も、大丈夫だな?」
しっかりとうなずく
「瑠璃川もだ。東さん対策にはお前のサイドエフェクトも鍵になってくる。よろしく頼むぞ。」
「了解してます。」
"お前のサイドエフェクト"。
柿崎さんはそう言った。
"サイドエフェクト"。
それは、トリオンが感覚器官に影響を及ぼしたことで発現する、一種の超感覚だ。
私のサイドエフェクトは、『視覚凝縮』だ。
片目をつぶって、もう一方に意識を集中させると、常人の約8倍の視力になり、透視もできる。
また、最大限能力を発揮できるようにすれば、自分を中心に半径1キロの円の範囲なら、なんでも見えるようになる。
私がこの能力を持っていると初めて知ったのは、ボーダー隊員になって少し経った頃。
たまに違和感を感じていたので、サイドエフェクトだったと分かったときはほんのちょっとの驚き、そして納得だった。
この能力のいいところは、私自身が使いたいと思った時にだけ使えて、しかも楽ということだ。
私はこのサイドエフェクトが気に入っている。
話を戻すと、私が能力を最大限使えば、ほぼ全員の位置を把握でき、それを皆と共有できれば、私たちの死角がほぼ無いということになる。
「おそらく、ほぼ全員が転送と同時にバッグワームを着用するだろうから、まずは瑠璃川の視える範囲で誰がいるか確認してくれ。そして、できるだけ早く四人合流して、そこからだ。」
「了解!」
「照屋と虎太郎も。頼りにしてるぞ。」
「「了解!!」」
転送。
おおかたの予想通り、柿崎さん、虎太郎を除く全員がバッグワームを着用。
私はけっこう南の方に転送されているようだ。
ひとまずサイドエフェクトでまわりを視る。
「文香が近いので、まず文香と合流しますね。範囲内にいないのは、、奥寺くんと荒船さんですね。東さんは転送先が結構高台なので、注意しておいた方がいいかもしれないです。」
分かったことを皆に伝える。
「渚~。私、どっちに行くのがいい?」
「う~んと。西、なんだけど、そのままだと小荒井君と鉢合わせしちゃうかもしれないから、一旦南の方に向かってくれる?」
「南、ね。了解!」
普通、こういうことはオペレーターが指示するが、うちの隊は四人編成なので、オペレーターの負担が大きい。そこで、私も眼を使って指示することが多いのだ。
その後、文香と合流して現在に至る。
「どうなの?戦況的には?」
文香と私は、同級生ということもあり、今ではかなり親しくなった。
「そうだね...。荒船さんがまだ範囲内にいないのが気になるかな。あと、穂刈くんと奥寺くんが鉢合わせそう。」
今、私たちは四人になるべく、合流に向かっている。
柿崎さんと虎太郎も合流できたようでよかった。
「ストップ!文香!こっちから行こう。」
半崎くんの射線に入りそうだった。危ない。
すると、一人ベイルアウトしていった。
穂刈くんだ。奥寺くんと鉢合わせそうで、小荒井くんも近くに来てたから、これは、不運というほかない。
おそらく、二人に挟まれてしまったんだろう。
直後、もう一人ベイルアウト。
半崎くんが東隊のどっちかをやったのかなと思って視てみると、
なんと、倒されたのは東さんだった。
倒したのは一度も姿が確認できなかった荒船さん。
高台に行く途中に東さんを見つけ、最後は近接戦で弧月を使ったようだった。
さっきまで東さんがいたところで荒船さんが狙撃準備をしている。
この展開は、かなり予想外だ。
その後、私たち柿崎隊は無事に合流。
「東さんがやられたのはちょっと予想外だったな。」と、柿崎さん。
「そうですね。こうなるとあまり四人でまとまる必要もなさそうですね。」と、文香。
「そうだな。・・よし。虎太郎、瑠璃川と行って、半崎倒してきてくれ。」
「了解しました。」
私は眼を使い、
「柿崎さん、東隊の二人、南の方に来てます。迎え撃ちますか?」
「そうだな...。荒船に動きは?」
「見た感じではなさそうです。」
「荒船は北東にいるのか?」
「そうですね。北東です。」
「じゃあ中央の辺りで、俺は照屋と、二人を迎え撃つ。半崎との戦いが終わったら、こっち側に来てくれ。」
「「了解。」」
そうして、私たちは二手に分かれた。
私と虎太郎はできるだけ射線を切るようにしながら半崎くんの方に向かう。
時々、観察するのも忘れないように。
「大丈夫。まだ動く気配はないみたい。」
「でも渚さん、半崎さんだってある程度勘づいてるんじゃないですか?」
「だろうね。だから...」
バァァンン!! という派手な爆発音とともに、さっきまで四人でいたあたりの建物が崩れる。
「あっちで戦ってると思われるように、時限的に設置してきたの、バイパー。」
「なるほど!これならあっちに意識も向きますしね。」
ここで、私のトリガーセットについて触れておこうと思う。
前に言ったように、私は万能手。
攻撃手用と射手用のトリガーをセットしている。
メインは一応、スコーピオン。グラスホッパーもある。それと、アステロイドも。
サブでは、バイパーとハウンドをセット。
眼を使いながらバイパーを使うのが、私の一番得意とするところだ。
半崎くんに接近するのは、虎太郎の仕事。私はその援護射撃をする。
死角からの虎太郎の一発目の攻撃を避けた半崎くん。
そこに、私がバイパーを撃ち、さらに虎太郎は距離を詰めて攻撃を繰り出す。
何とかシールドで防ぐ半崎くん。だが、2対1ではやはりこちらが攻勢になるのは当たり前だ。
しかし、しかしだ。
私は、目の前のバトルに必死で、視えていなかった。
虎太郎を狙う、荒船さんの姿が。
狙いすました一本の射撃が、虎太郎を襲う。
不意を突かれた虎太郎に守る余地はなく。
虎太郎、ベイルアウト。
手負いの半崎くんを倒し、荒船君の様子を視る。
弧月を手にし、狙撃後の移動中。向かっているのは、やはり中央か。
急いで追いかける。
「柿崎さん、文香!今、荒船さんが弧月抜いてそっちに向かってます!そちらの戦況は?」
「そうか、荒船が。戦況は、まあ、五分五分ってとこだ。」
「あと、すみません!虎太郎がやられちゃいました...。」
「謝るなんてよせ。それよりもできるだけはやく来てくれ!頼むぞ!」
「分かりました!」
事態は、思わぬ展開を見せていた。
荒船さんの弧月抜刀による、戦況の変化。
私は、とにかく荒船さんを止めるべく。
一対一で戦うことに。
「『旋空』弧月!」
ズバァァンン!!
やっぱり、荒船さんは強い。でも、負けるわけには、、いかないっ!!
「アステロイド!! ハウンドっ!!」
がっちりシールドで守られる。
一気に距離を詰めてこられるとまずいので、一定の距離を保つ。
「(やっぱり不意をつくような攻撃じゃないとダメだ!それならやっぱりバイパーで...)」
間合いをはかってくる荒船さん。
「グラスホッパー!」
空中に浮かんだ状態から、
「アステロイド!」
攻撃を繰り出す。
少しは傷を負わせられただろうか。
さらに、「グラスホッパー!」荒船さんに突っ込んでいき、スコーピオンでの攻撃。
しかし、これは弧月での守りに防がれる。
「ハァァッッ!!」
ブオォン!
荒船さんの弧月による攻撃。少しダメージを受ける。
少し離れる。
荒船さんは、まだまだ余裕がありそうな様子だ。困ったなあ。私、結構ギリギリなんだけど。
なんてね。
次の瞬間、荒船さんを弾撃の雨が襲う。
「っっ!!!」
突然のことに驚く荒船さんを尻目に、私は最後の攻撃をする。
「アステロイド!!!」
全力で撃ったそれは、シールドを破壊する。
勝った~!ふう、かなり疲れた。
決め手となった弾撃は、グラスホッパーで飛んでアステロイドを撃った時に、同時に後ろ手で空中に放出していたものだ。ばれないものかとひやひやしていたが、何とか上手くいって良かった。
「真登華、柿崎さんのほうどうなった?」
オペレーターの
「少し前に終わったわ。文香は倒されちゃったけど、東隊の二人とも、柿崎さんが倒したわよ。」
「よかった~。じゃあ、これで...」
「ええ。ランク戦、終了よ。お疲れさま。」
「お疲れさまでした~!」
ランク戦後。
「お疲れ。荒船さんに勝ってくれてよかったよ、本当に。」
「渚~!すごいがんばってたね!かっこよかったよ~!」
「渚さん!お疲れさまでした!」
「ありがとう、皆。虎太郎、ごめんね。私が視てなかったばかりに。」
「いえいえ。その分ポイント取ってたからいいんですよ。注意してなかった俺も悪いですから。」
それぞれの活躍をねぎらう。
「皆、お疲れ!そして、ありがとう!おかげで、順位を上げることができた!」
柿崎さんは、奥寺、小荒井コンビを倒したというのに、私たちに感謝の弁を述べる。
「次回も、相手はまだわからんが、今回のように全力を尽くして、頑張ろう!今日は本当に、お疲れさま!」
最後の締めも終わり、帰路につくことに。
「ナギちゃ~ん!」
天ちゃんの声だ。
見てみると、ソウくん、ユウくんも一緒にいた。
「かっこよかったよ~!ナギちゃん!」
うなずく男子二人組。ここまで褒めてもらえると、むしろ、恥ずかしいかも...。
「やっぱり強かったね。」と、ソウくん。
「うんうん!実況、解説の先輩たちも強いって言ってたし!」これは、ユウくん。
そこで私は、自分のサイドエフェクトについて話すことにした。
いつかは話そうと思っていたから、ちょうどよかったのかもしれない。
三人とも、すごく驚いていたし、それならあの強さも...と納得していた。
また、それよりも驚いたことに、その三人はそれぞれ違うものの、皆"個性"を持っているらしい。
"個性"と"サイドエフェクト"。
かたちは違うものの、どちらも特殊な能力だ。
それを四人とも持っている。
この瞬間。
私たち四人の間には、幼少期の頃よりもずっと強い絆が生まれた気がする。
え~。というわけで、何とかランク戦終わりましたね。
楽しんでいただけたでしょうか?
次回はようやく、われらが主人公、操志くんの目線です。
ここ二話での彼の黙りっぷりは...すさまじかったですね。笑
ぜひとも、彼の活躍を期待して待ってやってください!
読んでいただきありがとうございました!
感想や誤字訂正等、お待ちしております!