私/俺のヒーローアカデミア   作:真暇 日間

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わたおれヒロアカ17

 

 雄英体育祭まで二週間。その間に私は雄英の開会式での宣誓文を考えなければいけないらしい。ヒーロー学科の一位通過者が毎年やっているそうだけれど、正直に言って私はこういうのはあまり得意ではない。なにしろ個性にある狂気の項目が100000の手前まで来ているくらいなんだから、その凄まじさがわかると言う物だろう。

 そんな私が宣誓文を考えた所であまり良いのはできないだろうし、だからと言ってよくあるものをそのまま持ってきたんじゃぁそれこそヒーローらしくない。ここは一つ燃える物を、あるいは多くの人達がその流れを知らなくとも乗れるものをと考えるとなると、とても難しいと言わざるを得ない。

 そんな時には記憶から持って来るのがいい。前世がいったいどこの時代のどんな人のかはわからないけれど、とりあえずその知識の中にあるフレーズをパソコンで調べればある程度の時代がわかるはず……と思っていた時期もあったけれど、どこにもないと言う事しかわからなかった。私の前世の知識の中ではこれはかなり有名だったはずなんだけれど、流石にこの世界のこの時代には廃れていたか、あるいはそもそも存在していなかったのか……まあ、そのお陰で版権元とか気にしなくていいのは良かったけどね!

 

 それに、雄英体育祭は学生でありながら世間に自身の存在を大きくアピールできるチャンスでもある。今のうちにしっかりと目立っておけば、将来に向けた大きな一歩を踏み出しやすくなる。

 だから、私もちょっと全力に近い状態で行くつもりだ。よっぽど無茶な条件でもない限りは一位を取れるような、そんなぐらいの気持ちと力で行く。かっちゃんだってその辺りは多分同じだろう。むしろかっちゃんは私が本気で相手になるとわかっているからこそ本気でやって来ると思うしね。

 

 ……それにしても、敵情視察には遅い気がするんだけどね。宣戦布告だったらそれこそ戦闘の開始直前にするのが一番だと思うし、なんとも不器用と言うか変な所でヒーローらしいと言うか……。

 

「意味ねぇから失せろモブ共」

 

 ……かっちゃんは本当に(ヴィラン)体質だなぁもう。どうしてそんな無駄に敵を作りに行くんだろう。本当に勝利を掴みたいんだったら、こっちが相手に勝利してから戦いがあったと理解させるくらいが一番だと思うんだけど。あるいはこっちが勝つ方がこっちだけでなく相手も他の全ても得をして、かつこっちが負けると相手も破滅してしまうくらいに状況を整えた上でそれをしっかり理解させた上で勝たせてもらうとかさ。

 まあ、かっちゃんはそう言う事は絶対にしないんだけどね。相手が全力を出して、自分も全力を出して、その上で勝利を掴む事が自分を世界に認めさせる一歩と考えているフシがある。正直それも悪くないし、それで世界が回るんだったらそれで全く問題は無いんだけど、残念なことにそれだけだと世界は回らないんだよね。そう言うあたりを私がなんとかするつもりでやってるんだけどさ。

 この状況だと、私が手の内を広げた方が学年全体では丸く収まりそうだけれど、もうすぐ全員が敵になる雄英体育祭と言う事を考えるとわざわざそう言うのをあけっぴろげにする意味とか全くないよね。うん。態々手の内を曝して対策を立てさせるとか、馬鹿のやることだからね。対策に対しての対策とか、あるいは相手の心を折る必要があるとか、そう言うのがあるんだったら話は別だけどさ。

 

 まあとりあえず―――

 

「かっちゃんかっちゃん、一旦そこまで。ね?」

 

 

 

 

 

 ピリピリと張り詰めた中で聞こえたその言葉が、一瞬にして張り詰めた空気を叩き壊した。

 声の元は、なんとも地味な顔をした女生徒で、まるきり人畜無害にしか見えないその表情は苛立つ気持ちを僅かではあるが抑えさせた。

 

「えーと、B組C組D組E組……までかな? の皆さん。うちのクラスの一番の問題児が大変失礼な事を言いました。申し訳ありません」

「おいデク」

「ちょっとだけ黙ってて? お願い。 ―――ですが皆さん。正直に申し上げますが、皆さんが通行の邪魔になっていると言う事実と、すぐに帰路につきたい者が居ると言う事情を鑑みていただけませんと、こちらも困ってしまいます。申し訳ありませんが、こちらのクラスの者が通れるだけの余裕を作っていただきたいのですが」

 

 見下している訳では無い。かと言って遜っている訳でもない。対等の存在に対して、理路整然と事実だけを並べて対話していると言う状況。そして、そもそもの原因となったのが自分達が他所の教室の出入り口を塞いでいたことだと言う負い目を持っている以上、こう言われて引き下がらない雄英生はそういない。少なくとも、一番の問題児と言われた男子生徒がクラスの代表でもなければヒーロー科の顔と言う訳でもない状態であれば、多少の不満は引っ込めて行動することくらいはできた。

 まあ、もしもここで爆豪が相手であったのならばそんな状況でも絡んでいったのは間違いないだろうが。

 

 少しずつ出来ていく道と、それを恐る恐ると見る丸顔の女生徒。笑顔を浮かべたまま変わらない地味目の女生徒はそれを見て納得したように頷き、目の前にいる生徒たちに語り掛けた。

 

「さて、ご用件は何でしょうか。敵情視察、宣戦布告、単なる見物、(ヴィラン)と戦ったと聞いてその話を聞きに来た、人が集まっていたのでなんとなく、本当はここでは無くてこの先に用事があるけど人が集まりすぎていて通れなかっただけ……と言ったところだと予想しますが、まあとりあえず見物以外で用がある方は中へどうぞ。お茶などは出せませんが、椅子くらいならありますので。20ほど」

 

 そう言っている間にもA組の生徒の大半は作られた道を通って帰路に就き始めている。しかし何と言うか、ここにいる『それ以外の奴』の視線は目の前にいる地味めの女生徒に釘付けにされている。まるで注目を集める個性でも使われているかのように。

 

「じゃ、かっちゃんもまた明日ね」

「……おう」

 

 そして他称『A組一番の問題児』も姿を消して、残るのは数の多い野次馬。

 

「……さて、それじゃあ本題。まだA組(このクラス)に用事がある方は、いらっしゃいましたら中へどうぞ。それ以外の方は、どうぞお帰りくださいな」

 

 


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