俺はごく普通の人生を送っている。
一応入るのが難しい大学を出て、そこそこの大手と言われている会社に入社し、現在は35歳。一人暮らし。彼女はいない。彼女いない歴=年齢だ。
自分で言うものなんだが、身長は低い訳でもなく、顔に至ってはそこそこイケてると思っている。だけど、モテない。何故だろう。一応、彼女を作ろうと努力した事もあった。何回か告白を試みたけれど、全てフラれた。そして、俺は心が折れた。もうこの歳だ。結婚なんて諦めている。いや、機会があれば是非・・・。
仕事が忙しいというのもあるが、そういう機会がない。別に居なくても困るものではないし、身の回りの事は自分で出来るし。言い訳してる訳じゃないからね?本当だからね?
何故俺がこんな事に考えていたかって?それは・・・。
「先輩!今度の休みに合コンに来ませんか?一人来れなくなっちゃって」
笑顔で話しかけてくる爽やかな青年。俺の後輩の西崎だ。10歳年下の25歳だ。
そう、合コンに誘われたからつい、考えてしまったのが理由だ。
何故、俺みたいなおっさんを誘うのだろう。
「先輩!どうするんですか?行くんですか?行かないんですか?もし、この機会を逃したら一生独身ですよ」
俺がこのまま独身で一生を終える事が心配らしい。余計なお世話だ。
しかし、この機会は滅多にない。彼の言う通り、これを逃したら一生独身かもしれない。
「おお。分かった。行けばいいんだろ行けば」
「そうこなくっちゃ!じゃあ、今度の休みの19時に会社の近くにあるカラオケ屋で」
そう言うと彼は去っていった。合コンなんて初めてだ。どんな服装をしていこうか分からない。俺はスマホを片手に調べはじめた。改めてスマホは便利だなぁ、と思った瞬間だった。
合コン当日。
俺は待ち合わせのカラオケ屋に入った。既に俺以外のメンバーは集まっていた。女子2人、男子は俺と西崎の2人だけだった。いや待て、これはおかしい。おかしすぎだ。女子が若過ぎるのだ。20代前半といったところだろう。
おっさん1人と若人(わこうど)3人。当然、俺はハブられた。そのまま相手にされず合コンは終わった。来るんじゃなかった。
「先輩。これからっすよ!これから!あ、ちなみに僕、あの右側にいる子と今度、デートする約束したんですよ」
西崎は上機嫌だ。そんな彼に俺はイライラしていた。普通、先輩の俺を気遣って話を進めてくれるものだと思っていた。しかし、それがなかった。
「ふーん。そうか」
俺は西崎の言葉に対し空返事で言った。
「「「キャァァァァァァアアーーーーーーーーーーー」」」
悲鳴が聞こえる。
何だ?一体何が起きている!!?
「どけどけー!どかねぇと殺すぞ!!!」
その声がした方を振り向く。顔にはマスク、手には包丁、そして、全身黒ずくめの男がこちらに向かってくるのが見えた。
逃げようとするが足が竦(すく)んで動けない。
「先輩!どうしたんですか?早く逃げましょう」
西崎は俺を心配して引き返してきた。
仕方ないだろ。足が竦んで動けないのだから。
「どけどけぇぇぇぇぇええ!!!」
男は既にそこにいた。このままでは西崎が危ない。
俺は西崎を突き飛ばした。
ドスッ!俺の背中から全身にかけて焼けるような痛みが走ってきた。
・・・痛い。
「先輩!」
西崎は叫び声をあげながら駆け寄ってくる。
どうやら、怪我はなさそうだ。良かった。安心した。
こんな奴でも俺の可愛い後輩だ。
「しっかりしてください!だ、誰か早く救急車を」
今にも泣きじゃくりそうな顔で俺を抱えた。変な顔だな。俺は笑いたかったがそんな気力どこにもない。
「・・・先輩。しっかり、しっかりしてください」
「・・・心配するな。それよりもお前今、顔が面白いぞ」
西崎は少し苦笑いにした。それでいい。お前の泣き顔なんて見たくない。
「・・・そ、そんな先輩だって面白い顔してるじゃないですか」
「・・・俺はいいんだよ」
声を出すのが辛い。だんだん痛みが感じなくなってきた。
・・・寒い。もう死んでしまうのだろうか。
「先輩。しっかり。もうすぐ救急車が来ますから。」
声が遠い。それに目が霞んできた。
「・・・・・・先輩・・・・・・先輩・・・・・・先輩・・・・・・」
もうダメだ。
俺は最後の力を振り絞った。
「・・・・西崎・・・・ありがとな」
そう言うと俺は目を閉じた。
大野健(おおのたける)35歳。童貞。独身。1人暮らし。彼女いない歴=年齢。
今、彼の35年間の人生は幕を閉じ、そして新たに幕が開かれる。
ご視聴ありがとうございます( ^ω^ )