書こう書こうとしていると色々な行事が重なり忙しかったのと、パトレイバーを見るのに夢中になっていたらいつの間にかこんなに時間が流れていました。
これからも、読んでくれると有り難いです。
ジャブローの夜は開発区に比べて比較的、静かだった
風の音も、野鳥の鳴き声も、虫の声も、宇宙出身のクロウには新鮮なものだった
だからといって目を輝かせたりはせず、静かに環境の変化を感じとりながらケルゲレン護衛の任務を明日に控え、静かに目を閉じた
目を閉じると開けているときより多くの感情がぐちゃぐちゃと入ってくる
クロウはそれらを、制御する事が出来るが、しばらくはうるさい
でも、最近は、誰かがクロウの耳を塞ぐように優しくぐちゃぐちゃとした感情が塞がれていくような感覚がある
それが誰なのかは分からないが、連邦の実験機ジムと対峙した時の違和感に似ている、博士の言っていた通り、強化人間であるクロウとニュータイプである何者かの仕業なのか、と頭の中で疑問を解決させようとするが、徐々に睡魔が自分の意識を夢の中へと流していき、眠りについた
ギニアスは新型高機動ガンダム奪取成功を聞いた後、とある計画のために救援信号を出した。
それは、この地球に来てから叶えようとして失敗に終わったアプサラス計画の続行、そして、自分に傷を負わせたシロー・アマダと自分を侮辱し、裏切った妹、アイナに対する復讐心だった。
復讐のために薬で苦痛や病状を誤魔化しながらアプサラスⅣを作り上げた、しかし、アプサラスを浮かせるための発電効率の良いジェネレータが調達出来なかった。
しかし、連邦軍が開発していた新型高機動ガンダム、あの機体のジェネレータがあればアプサラスⅣを浮かせる事が出来る、あれさえあれば、アプサラスⅣを浮かせる事が!
そんな時だったジオンの部隊が新型高機動ガンダムを奪取したという情報を耳にした
そして、MSを搭載して地球を脱出するためにこの基地に来ると知った時、ギニアスはこれ程までに好機を実感する瞬間はなかった
そして、この好機を逃せば、二度と復讐と美しさを持つアプサラスⅣは起動しない
今しかない、そのためギニアスは新型高機動ガンダムを起動させようとしていた
「来ると思っていたよ」
暗闇から声がした、誰だか分からない声、いや、正式には誰にでも当てはまる声と言うべき声だった
「だ、誰だ!そこに居るのは誰なんだ!」
分からないという恐怖はギニアスを襲う、ゴーストなどは信じて居ないが、そんな物の存在すら感じさせてしまう
「俺だよ、俺、そう怯えんなよ」
ギニアスの前に現れたのは、自分の知人である、ユーリ・ケラーネという男だった
「馬鹿なっ!貴様はあの時、確かにっ!」
そう、ユーリ・ケラーネはギニアスが自分の手で殺し、その死に様も自分の目で、確かに見ていた
しかし、この男はここに居る、何故だ、何故なんだ
「そう騒ぐなよ、久しぶりに飲もうぜ、アイナは今日はいないのか?」
この馴れ馴れしく、嫌悪感を感じずには要られない話し方、間違いない、本物だ
本当にゴースト等というものは存在していたのか、それとも過労から来る一時的な幻影なのか
「ユーリ・ケラーネ少将、今のギニアス様のお身体にお酒を進めるのは少々、配慮に欠けるかと」
ギニアスの前に次に現れたのは、サハリン家に遣え、単独で出撃し死んだ、ノリス・パッカードの姿だった
「ノリスっ!?貴様は確か……」
なんだ、今、自分の周りで何が起きているんだ、一体、なにが
ギニアスは状況を理解しようとしたが、その状況は決して理解できるものではなく、ギニアスの混乱をさらに加速させた
そして、二人の姿はぐにゃりと歪んで行き
「ギニアス、久しぶりだな」
そう、誇るべき父と
「ギニアス、大きくなりましたね」
恨むべき母の姿に変わった
「母上、貴女には二度と会わないと思って居ましたよ、いや、会いたくもなかった」
ギニアスは母に対して、睨みながらそう言った
「ごめんなさい、ギニアス、決して許されないと思うけれど」
母だった女は困ったような顔して自分にそう言って来た、申し訳なさそうな素振りを見せれば許してもらえると考えているのだろうか
「愛などという粘膜が作り出す幻影にすがり、私達、家族を捨てた女を今さら謝られても許すものか」
ギニアスはこの女が嫌いだった、サハリン家が衰退したのも原因として、最終的に行き着くのはこの女なのだから
「愛にすがっているのは貴方ではなくて?ギニアス」
その女は微笑みながらギニアスにそう言った
「ふっ、何かと思えば、私に対する仕返しか、そんな根拠もない発言に踊らされる程、この私は幼稚ではない」
ギニアスは微笑みを浮かべている女に対して睨みながらそう言った
「ギニアス、貴方も粘膜の作り出した幻影によって生まれた一つの命なのです、その事くらい、分かるでしょう?」
ギニアスにとって恨むべき女は首をかしげながらギニアスにそう言って妊婦のように膨らんだ腹部を触る
「そして、貴方はまた、母の子宮の中へと戻りたいと望んでいる、違いますか?」
ギニアスに対して両腕を広げて微笑みながら戻って来ても良いのですと優しく訴えるようにしている
「っ!黙れ!そんな世迷い言でこの私が惑わされてたまるものか!」
そう言うと父と母の隣に妹だったアイナと妹を惑わしたシローとか言う男が現れた
「くくっ、待たせたなアイナ……これが夢幻の類いであっても、その男と貴様を葬れる日を楽しみにしていたのだからな!」
ギニアスは笑いながら妹だった女とその隣の男を睨む、二人ともギニアスに対して悲しい目をしていた
「なんだ、私にそんな目を向けるな!私をこれ以上愚弄するのか!これ以上、私に!」
「同情するな、ですか?」
ギニアスが言いかけて止めた言葉をアイナは悲しそうにそう言ったその悲しさは兄に対する同情であり、優しさでもあった
ギニアスはその優しさが、自分を包み込もうとする優しさに恐怖した
「貴方は優しさと、愛を求めている、しかし、求めている事を認めてしまったら自分を捨てた母へすがる惨めな部分が浮き彫りにされてしまう、それを恐れているのですね」
母の言う言葉にギニアスは図星だった、彼が愛を否定する理由の根源はその思いにつながっていた、もう否定する術を持たないギニアスは反論出来ず
「でも、良いのです、貴方にもう一度、母の体の中の優しい温もりと、愛をもう一度与えましょう」
そう言って母は妊婦のように膨らんだ腹部を半分に割ると、緑色のドロドロとした液体がビチャビチャと音をたてながら落ち、床を汚した
「さぁ、貴方のために用意した、本当の子宮です、そんな冷たい鉄の子宮を捨て、私の中へ戻りなさい、ギニアス」
母は緑色の液体を一歩、ギニアスに歩み寄る度にビチャビチャと音をたてながら床に落ち、ギニアスの恐怖心を煽った
「来るな!来るなぁぁあ!そんなもの要らない!私には必要ない!」
恐怖で車椅子を動かすことの出来ないギニアスは叫ぶ、しかし、誰も来ない、目の前に現れたゴースト達は微笑みながらその様子を見ている、狂喜、狂気、凶器、そこから来る恐怖心、そしてその恐怖心はギニアスを飲み込む優しさとなってギニアスを襲う
「来るなぁぁぁあ!!」
ギニアスは最後の抵抗でそう叫ぶ、母はギニアスの目の前に来て
「おかえりなさい、ギニアス」
「!、はぁ、はぁ………何だ、今のは……」
クロウは凄まじい悪夢を見ていたようで汗をかいて目を覚ます
人のイメージが自分の中に入って来ることは多々ある、しかし、今のは鮮明過ぎる、並のイメージじゃない
しかし、恐怖で目覚めた後、その夢を思い出すことは出来ない、思い出そうとする度に記憶が滑っていく
「…………まだ……2時か……」
時計を確認すると、まだ夜中で、とりあえず、かいた汗を流そうとシャワーを浴びる
人のイメージが夢に影響する、悪夢なら苦しんでいるイメージ、幸せな夢なら温かいイメージ、しかし、幸せな夢は見た事がない、それはクロウが強化人間として作られた存在で感情が無いからと考える、しかし、そうなるとさっきの悪夢はなんだ
恐怖に目を覚まして起き上がる、強化人間は恐怖という感情はあるのだろうか、任務が終わったら博士に聞いてみよう
そんな事を考えながら、シャワーで汗を洗い流して、また部屋に戻り、クロウは眠りについた
翌日、ギニアス・サハリンがコトリバコと呼ばれる箱にバラバラで収納された死体で発見された
事態は確かに大きな事だが、ケルゲレン出発の日程をずらすわけにはいかないという事で、その事件は未解決のままケルゲレン出発の準備を急いだ