現代社会では渋滞や満員電車という言葉は死語となっており、交通管制システムでコントロールされているキャビネットが主流となっている。
達也と深雪は達也の朝の鍛錬を終え、二人乗りのキャビネットを使って学校へと向かい、ギルガメッシュは二人が朝の鍛錬へ向かって少ししてから【GILGIL MACHINE】という名のバイクに乗って学校へと向かった。
「お兄様、実は昨日の晩、あの人達から電話がありまして...あの人たちも、娘の入学祝いに話題を選ぶくらいの分別はあったようですが、それで...お兄様には、やはり...?」
「ああ、そういうことか、いつも通りだよ」
「そうですか...結局、お兄様にはメール一本も無しですか...あの人たちは、あの...」
「落ち着けって。親父の会社の仕事を手伝うはずだったのを、英雄王が『命が惜しくば、達也を進学させよ。』と脅てくれたおかげで、親父を無視して進学出来たんだ。祝いを寄越せるはずもない。親父の性格はお前も知っているだろう?」
「しかし、叔母にお断りをするのが筋というものですのに、その度胸もない性格に腹が立つんです。そもそも十五歳の少年が高校に進学するのは当たり前ではありませんか」
「共通義務教育ではないのだから、当たり前でもないさ。英雄王を無視して、俺を利用するとどうなるかは向こうもわかっているはずだ。それに一人前と認めているから利用しようと気になるんだろ。当てにされていたんだと思えば腹も立たんよ」
「お兄様がそう仰るのであれば...」
深雪が頷くのを見て、達也は胸を撫で下ろした。
なお達也は改めてギルガメッシュの存在がどれだけ有難い事かを実感した。今住んでいる家もギルガメッシュが達也と深雪の入学祝いとして購入したものであり、魔法の制御、勉学も彼から教わり、CADを作る時も彼の興が乗ったら手伝ってくれる。
ちなみに、達也と深雪の親である司波小百合と司波龍郎の最大の敵(障害)はギルガメッシュである。彼がいると彼の許しなく達也を利用出来ないのはもちろん、達也や深雪に干渉し過ぎると、彼の制裁を受けてしまうため下手に動くことが出来ないからである。
☆
「ふむ、少し早かったな」
ギルガメッシュは久々にあのバイクに乗ったため速度を上げてしまい、達也たちより早く学校に着いてしまった。校門で待とうとしたが朝の鍛錬があると聞かされたので遅くなると判断し、二人を待たず先に教室へ向かうことにした。
教室に入ると女子生徒が少し騒ぎ出し、男子は嫉妬しているような目でギルガメッシュを見ていた。
だが、ギルガメッシュは雑種以下の生物の視線など気にもとめなかった。
「さて、我の座る場所は何処だ?...ふむ、あの奥か」
ギルガメッシュは珍しく勝手に決められた席へと向かう。その席は雫の隣だった。
「...貴様の隣とはな」
「雫って呼んで」
「戯け、貴様の願いなど我を認めさせてからでなければ聞かん」
「認めるって、何を?」
「ふむ...魔法だな。魔法で我を認めさせよ。見たところ、貴様は勉学だと我を越せそうにもないからな。フハハハハ」
「む...見た目で判断するのは良くない」
「ほう?筆記試験首席の我と張り合うのか?」
「...魔法で認めさせる」
「そうか......いつまで我に怯えておるのだ光井。我がそんなに恐ろしいのか?」
「だ、だって、雫が、た、タメ口で貴方に話しかけていますから...」
「はっ、そんなことか。確かに普段ならそのような口は許さぬが...喜べ。貴様らは”特別”だ。その不敬、許そうではないか」
「あ、ありがとうございます?」
ほのかはやや戸惑いながらも感謝の言葉を言った。自分が認めたか特別な人以外だとタメ口を許さない彼がイレギュラー過ぎて戸惑っていたのだ。
暫くすると、教室が騒ぎはじめた。原因は総代の司波深雪が教室に入ってきたからだ。
深雪は端末で自分の席を確認した後、辺りを見渡し、ギルガメッシュを見つけると彼に駆け足で駆け寄った。
「ギルさん!何故校門で待っていてくれなかったのですか!」
「なに、朝の鍛錬があると達也が言っていたのを思い出してな、遅くなると思い先に行ったまでよ」
「そうですか。それで私を待たずにクラスメイトと仲良く......えぇ!?あのギルさんがクラスメイトと仲良くしているんなんて!?」
「深雪よ、我を何だと思っておる...それにこやつらは昨日話した北山と光井だ。我は他の雑種共には声すら掛けぬ」
「そういえばそうでしたね。貴方は興味のない人と不敬な人には基本追い払うか無視しますもんね...あっ申し遅れました。司波深雪です。よろしくお願いしますね」
「み、光井です!光井ほのかです!こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「北山雫。こちらこそ、よろしく」
深雪はほのかと雫と仲良く談笑し、専門授業の見学はギルガメッシュ含む四人で行動し、男子は深雪と行動している男子生徒に嫉妬していたが、ギルガメッシュはそんなことは全く気にしていなかった。
この後、昼休みになり学食でちょっとした騒動があったのだが、ギルガメッシュは「あの安飯なぞ、食わん」と言い学食に行っていなかったので、この騒ぎを知らない。
☆☆
放課後となり、深雪は兄である達也と一緒に帰ろうとしたが、深雪について来たクラスメイトが達也に難癖をつけたことが発端となり、騒ぎが起きていた。
「いい加減にして下さい!深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです!何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」
「み、美月は何を勘違いしているのでしょうね?」
深雪は何故か、慌てていた。
「深雪...何故お前が焦る?」
「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」
「そして何故に疑問形?...それと英雄王、笑いすぎです」
渦中の兄弟が塩梅に混乱しているのを横目に、思いやりにあふれた?雑種共はますますヒートアップしていた。
なお英雄王はずっと笑いを堪えながらこの騒ぎを傍観していた。
「僕たちは彼女に相談する事があるんだ!」
「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」
彼らの勝手な言い分を、二科生の男子生徒が威勢良く笑い飛ばした。
「うるさい!ウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
一科生の男子生徒が二科生の生徒のセリフに切れた。
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ?」
「...どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」
「ハッ、おもしれえ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」
一科生の威嚇と取れるセリフに、挑戦的な大声で応じた。
「だったら教えてやる!」
一科生の生徒が小型拳銃を模した特化型のCADの銃口が向けられた。
エリカは一科生の生徒のCADを弾き飛ばそうと、身体を動かそうとしたが、背後から物凄い殺気を感じた瞬間身体が動かなくなった。
殺気のする方へ振り向くと、ギルガメッシュが一科生を睨んでいた。
エリカが動こうとしたと同時に、銃口を突きつけていた一科生が悲鳴をあげた。小型拳銃のCADは真っ二つに切られていた。
「地を這う雑種風情が、誰の許しを得て我に銃口を向けている!」
ギルガメッシュはCADの真横に歪んだ空間を発生させ、剣を出現させ、CADを切った。
「雑種、我が近くにいるというのに魔法を発動しようとしたな?本来から死をもって償わせるが、先程の道化は中々だった故、許そうではないか。だが、二度目はない。我の前から疾く失せろ。さもなくば貴様ら全員死ぬがよい」
ギルガメッシュはそう言うと背後に歪んだ空間を発生させ、そこから剣斧槍が出現した。
一科生の生徒達は抵抗しないと死ぬと察したのか、CADを慌てて構えはじめた。
「そうか、我に歯向かうか。なら死ぬがよい」
ギルガメッシュが武具を発射しようとすると
「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、犯罪行為ですよ!」
「1-Aと1-Eの生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」
騒ぎを聞きつけたのか、生徒会長である七草真由美と風紀委員長である渡辺摩利が駆け寄ってきた。
一科生の生徒はCADを下ろし、ギルガメッシュも歪んだ空間を消した。
ここにいる殆どが硬直している中、動いたのは達也だった。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました。」
「ではその後に後ろの一科生が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのはどうしてだ?」
摩利が達也に尋ねるとそれに答えたのはギルガメッシュだった。
「達也、もうよい。貴様は深雪と共に帰るがよい。我はこの道化に用がある...事情を知りたいと言ったな?よかろう、この我が説明しようではないか。場所を変えよ、あの雑種共がいるところで説明しとうない」
そう言うと、真由美と摩利はギルガメッシュから事情を聞く為移動する。一科生の近くを通り過ぎようとすると
「運が良かったな雑種共。昔の我なら躊躇いなく殺していたぞ」
そう告げると一科生(ほのかと雫は除く)は震え上がり一目散に逃げていった。
☆☆☆
達也達と別れ、生徒会室で騒ぎが起きた原因をいい加減に説明した後
「それで?我々に用があるんだったな?」
そう摩利がギルガメッシュに尋ねた。
「貴様に用はない、そこの道化に用がある」
と七草に指をさした
「お前!会長に向かってなんて口を!」
「半蔵くん、少し黙ってて」
真由美に強く言われて半蔵くんという男子生徒は黙った。
「それで、何の用なのかしら?ギルガメッシュくん」
真由美はギルガメッシュにそう尋ねる。
その問いに彼は一言で答えた。だが、彼の一言は生徒会室にかなりの衝撃を与えることになる
「我を生徒会長に任命させよ。」