入学編 #1
今日は国立魔法大学付属第一高校の入学式の日。だが、開会まで二時間あり、新入生や彼ら以上に舞い上がっている父兄の姿も、疎らである。
その入学式の講堂前に、真新しい制服に身を包んだ一組の男女が何やら言い争っていた。女子生徒には胸に八枚の花弁をデザインとしたエンブレムがあり、男子生徒にはそれがなかった。
「納得できません。何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績だってギルさんと並びトップだったではありませんか。魔法だって本当なら」
「深雪!それは口にしても仕方ながない事なんだ、わかっているだろ?」
「...申し訳ございません」
「それにな、俺は楽しみなんだ。可愛い妹の晴れ姿を、このダメ兄貴に見せてくれよ」
「お兄様はダメ兄貴なんかじゃありません!...ですが、分かりました。見ていてくださいね、お兄様」
少女の姿が講堂へ消えたのを確認して、少年はため息をついた。
入学式まで時間があるため、中庭のベンチに座り、書籍サイトにアクセスしようとすると、何もないところから金髪の青年が現れた。彼の名はギルガメッシュ。彼も真新しい制服に身を包んでおり、花弁のエンブレムもある。
「相変わらず、仲の良い兄弟よな」
「英雄王、霊体化して見ていたのなら深雪の説得を手伝っていただいてもよかったと思うのですが」
「戯け、我も貴様が他の雑種共より劣っていることに納得しておらん。あのような実技テストで優劣つけるなど呆れて物も言えぬわ。まぁ、あのようなテスト、我なら頂点に君臨していただろうがな」
「...失礼ながら、何故貴方は首席では無いのですか?」
「貴様は我より深雪の答辞を聞きたいだろう?それにあの雑種共に語る言葉など我にはない」
「後半はともかく、確かに深雪の答辞は聞きたいですね」
「貴様はいつからそんかシスコンになったのだ...」
青年と少年はそんな会話をしていた。途中、一科生が何回か通っていたが青年が一科生からか、特に何も言われなかった。
入学式まであと三十分となった。
「新入生ですね?開場の時間ですよ?」
と頭上から声が降ってきた。
CADを左腕につけていたので声を掛けてきたのは、生徒会か委員会のメンバーだろう。
「ふむ。もうそんな時間とはな、知らせた事を褒めてつかわすぞ、雑種。」
相変わらず生徒会、委員会のメンバーが相手でも見下している。相手もいきなり雑種呼ばわりされて呆然としているようだ。
「えっと...あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、とかいて、さえぐさ、と読みます。よろしね」
最後にウインクが添えられそうな口調だった。
「ふむ。数字付きで、しかもあの道化の七草か。達也、あの道化の相手をしておけ、我は先に向かっておく」
青年は達也を置いて先に講堂に向かった。
(英雄王、いくら七草家に興味がないとはいえ、置いていくことはないでしょうに)
達也は真由美の相手をせざるを得なかった。
ギルガメッシュは講堂の中に入り、一科生と二科生がキッチリと分かれている光景を目にして呆れていた。
(呆れた雑種共よ、我からしたら全員が二科生、いや、それ以下だろうに。まぁ達也と深雪は例外だがな)
暫く立ち尽くして、仕方なく前の方の席へ移動した。丁度座れる席三人分空いていたので三人分の席をを一人で座った。
(安物の椅子よなぁ、家の椅子の方がまだよいぞ)
などと思っていると
「あっ、あの...二人が一緒に座れる席がないので...席を詰めていただけませんか」
ギルガメッシュは声のした方向へ視線を移すと二人の女子生徒が恐れながら立っており、周りの席を見渡すと、二人が一緒に座れる席は空いていなかった。
「ふむ、確かに貴様らが共に座れる席はないな。よかろう、この我に恐れながらも声を掛けたのだ。特別に席を詰めようではないか」
ギルガメッシュは二人が座れるように席を詰めた。
「席を詰めていただき、あ、ありがとうございます。私、光井ほのかと言います。ほら、雫も」
「北山雫...」
二人はまだ恐れていた。
「そう怯えるでない、とって食おうとせん。光井と北山か、頭の隅にでも覚えておくか」
視線を前に戻すと
「私は自己紹介した...貴方の名前教えて」
北山から声をかけられた
「雫!?」
ほのかは慌てて雫の口を閉ざした
「何!?我の名を知らぬだと!?...まぁよかろう、その勇気をたたえ教えてやる。我は英雄の中の英雄王、ギルガメッシュである!」
彼は堂々と自分の名前を言った。
「ギルガメッシュさんですか?何処かで聞いた事あるような」
ほのかは何かを思い出そうとすると入学式が始まり、思い出すことをやめた。
☆
式が終わり、それぞれ個々にIDカードが渡さた。
「ギルガメッシュは何組?」
「...我はA組だが」
「そう、なら私達と同じ」
雫は躊躇いもなく対等の立場であるように話した(本人はそんなつもりではないが)事にギルガメッシュは興味を持ち、あまり不敬とは思わなかった。
なおほのかは、落ち着きがなくあわあわとしていた。
「そうか...光井の奴は何をしておる」
「おそらく司波さんのこと」
ギルガメッシュは人集りが出来ている方を見ると、深雪の姿があった。だが、人集りのせいで動けない状態だった。
「仕方あるまい。深雪を助けてやるか」
ギルガメッシュは人集りの一番外側に寄り
「深雪よ!!いつまでこの我を待たせるか!!」
ギルガメッシュはそう叫び、人集りは彼を見た。彼と初対面の人だとかなり怒っている表情に見える。そのため人集りは自然と彼を避けるようになり、道が出来ていた。その道を歩き、深雪のいる所まで歩いた。
だが、そこには深雪と朝に出会った人がいた。
「今朝ぶりね、ギルガメッシュくん」
ウインクしながらそう言ったのはその人は七草真由美であった。
「あの時の道化か。貴様に用はない。疾く失せろ」
あまりにも冷たい対応に真由美は硬直した。
「深雪よ、貴様の兄が待っているだろう。さっさとゆくぞ。」
「は、はい。ですが、七草会長は兄にも用があるみたいなので、一緒に付いてきても良いですか?」
「...まぁよかろう、道化よ、ついてこい」
彼の後ろに深雪と七草会長とその付き添いであろう一科生の男子生徒がギルガメッシュを睨みながら付いてきた。
暫く歩くと達也達が見えてきた。
深雪は兄の元へ走りだし、
「お兄様、お待たせしました...ところで、早速クラスメイトとデートですか?」
「そんなわけないだろう。お前を待っている間、話をしていただけだって。そういう言い方は二人に対して失礼だよ?」
達也が目に軽い非難の目の色を乗せると、深雪はハッとした表情を浮かべたあと
「はじめまして、司波深雪です。私も新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね」
「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」
「よろしく、私のことはエリカでいいわ...ところで後ろの人は?」
エリカは深雪の後ろにいつの間にか立っていた金髪の青年を指差した。
「エリカ、彼がさっき話していたギルガメッシュだよ」
と達也が答える
「我に指を差すなど不敬であるぞ。だが、貴様は達也のクラスメイトだと言ったな、よってその不敬を許そうではないか」
明らかに見下している発言にエリカは少し苛立った。
「あんたは私が二科生だから見下してるわけ?」
「フハハハハ。そう怒るでない、愛い奴め。我は一科生や二科生だからといって見下しはせぬ。我に認められた者以外を見下すだけよ」
「...へぇ、なら私があんたに何かを認められたら見下さないのね?」
「左様、我と同等の立場ではないが、それに近い態度をとっても許そう。まぁ我に認められるなどそうそう無いがな、精々励め」
「いいじゃないの。いつかあんたを認めさせてやるからね」
達也はエリカとあの英雄王が打ち解けあっている?事に驚いているが、このまま突っ立っていると通行の邪魔となることを思った。
「深雪。生徒会の用事は済んだのか?」
「大丈夫ですよ、今日は挨拶させていただいただけですから、詳しい話は日を改めて」
真由美は軽く会釈して講堂を出て行こうとしたが、後ろに控えていた一科生男子生徒が呼び止めた。
「しかし会長、それでは予定が...」
「予めお約束をしていたものでありませんから、別の予定があるなら、そちらを優先すべきでしょう?」
それでも食い下がる男子生徒を目で制して、達也と深雪とギルガメッシュに微笑みながら
「それでは深雪さん、今日はこれで。司波くんもギルガメッシュくんもいずれまた、ゆっくりと」
再度会釈して立ち去る真由美と、その背後に続く男子生徒が振り返り、舌打ちを打ちそうな表情で睨んだ、ギルガメッシュが睨み返すと男子生徒は一目散に逃げるように講堂から出ていった。
達也と深雪はエリカ達にティータイムの誘いを受け、行くことになり。ギルガメッシュは用があると言い、先に帰った。
ギルガメッシュが達也の家に着くとモニターを開き、連絡をする。連絡する先は四葉真夜。
「どうだった?一高は?」
「はっ。自分自身の実力を知らず、舞い上がっている雑種共が集う場所など行きたくもないわ。だが、雑種の中にもこの我が興味をもった奴もいる。退屈はせんだろう。」
「あら?意外と高評価なのね?」
「戯け、まだ軍の基地の方がよいわ...それで?この我に何の用だ?」
「用件はもう終わったわ。貴方の一高の評価と貴方と通話することが目的だったから...それと、入学おめでとうって深雪と達也に言っておいて」
「貴様が言えばよかろう...まぁ良い、そう伝えておこう」
ギルガメッシュは達也達が帰ってくるまで自室でくつろいだ。