英雄王と劣等生   作:がんきゃりあー

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今回長いです。
それと追憶編はこれで終わりです。

入学編、かぁ...


追憶編 #6

兄が外へ様子を見に行き、銃撃の音は、今や私の耳でも聞き取れるほど近づいており、この部屋にいくつもの足音が近づいている音も聞こえ、扉の前で止まった。桜井さんが私とお母様の前に立った。

「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります。」

基地の4人の兵隊さんが迎えに来たようだ。

「皆さんを地下シェルターにご案内します。ついて来てください。」

ついていってしまうと兄とはぐれてしまう。まだ英雄王?である彼とも合流できていない。なんとかしてそう言わないと思っていると

「すみません。連れが一人、外の様子を見にいっておりまして、それともう一人合流する人がまだ来ていませんので」

私が言う前に、桜井さんがそう告げてくれた。

「しかし既に敵の一部が基地の奥深くに侵入しております。ここにいるのは危険です。」

「では、あちらの方だけ先にお連れくださいな」

そう言ったのはお母様であった。

「息子を見捨てて行くわけには参りませんので」

私は桜井さんと、無言で目を見合わせた。確かに、どうしても違和感が拭い去れない。

「しかし...」

「キミ、金城君と言ったか。あちらはああ仰っているのだから、私達だけでも先に案内したまえ。」

さっき話した男性に詰め寄られて、四人の兵隊さんたちは険しい表情で顔を見合わせ小言で相談し始めた。

「...王様はともかく達也君でしたら、風間大尉に頼めば合流するのは難しくないと思うのですが?」

「別に、達也の事を心配しているのではないわ。あれは建前よ。」

私はガクガクと震え出した膝に、必死で力を込めていた。何故、実の息子であるあの人に対して、そこまで冷淡になれるの...?

「では?」

「勘よ」

「勘ですか?」

「えぇ。この人たちを信用すべきでないという直感ね。彼が居たら確信をもてるのだけど...」

彼、というのは恐らく王様のことだろう。お母様の直感と、王様の人を判断する目の洞察力は本当に凄い。

桜井さんが最高度の緊張感を取り戻すと、金城一等兵さんが戻って来た。

「申し訳ありませんが、やはりこの部屋に皆さんを残しておくわけには参りません。お連れの方は責任を持って我々がご案内しますので、ご一緒について来てください。」

言い終わった直後、別の人が入ってきて

「ディック!」

と桧垣上等兵が言うと、金城一等兵はいきなり発砲した。

桜井さんが起動式を展開したが、キャスト・ジャミングによって魔法式の構築を妨害する。こちらではお母様が胸を抑えて蹲っている!

まずい...

「ディック!アル!マーク!ベン!何故、軍を裏切った!」

「ジョー、お前こそ何故、日本に義理立てする!」

「狂ったか、ディック!日本は俺たちの祖国じゃないか!」

「日本が俺たちをどう扱った!軍に志願して、日本の為に働いても、結局俺たちは『レフト・ブラッド』じゃないか!俺たちはいつまで経っても余所者扱いだ!」

「違う!それは思い込みだ、ディック!軍や部隊や上官も同僚も皆、仲間として受け容れてくれている!」

今の話で大体何が起こったかどうか把握できた。すると、銃撃が止み、キャスト・ジャミングのサイオン波が弱まった。チャンスと思った私はアンティナイトを使用している奴に、精神凍結魔法「コキュートス」を発動した。

キャスト・ジャミングが止んだ。これで人間を止めてしまったのは、三人目。だが、他の相手が私に銃口を向けているのに、今更気づいた。引き金を引かれ、マシンガンの一掃で、身体に穴を穿つだろう。私は死を覚悟した...

 

 

 

 

 

 

 

銃を持っている人たちが引き金を引き、お母様と桜井さんが、血を流して倒れかける時に、銃を持っている相手の腕の真横で空間の歪みが発生していた。それも見たことのある空間の歪みが。

「雑種如きが!誰の許しを得て、我の深雪に手を出している!!」

彼の声だ。しかも、今まで私が聞いてきた声の中でダントツに大きい声で。更に、

「深雪っ!」

兄の声も聞こえた。

直後、その空間の歪みから剣が出現し、私に銃口を向けている人たちの腕を貫通し、肘から先が見事に切られていた。

痛みに耐えきれず彼らは、かなり大きな声で叫んでいた。

そんな声の中で

「貴様らは我のモノを傷つけようと、いや、我の宝を潰そうとしたのだ。この罪は死をもって償え。」

彼から、いや、王様の背後に空間の歪みが発生し剣を取り出すと

「達也、そう慌てるでない。貴様の宝は無事だ。貴様は深雪のもとへ行くがよい。我はこの雑種らに罪を償いさせる。」

「はい。」

兄は王様の言うとおりにし私のもとへきて

「深雪、大丈夫か?」

と心配そうな兄の顔をしていた。

「お兄様...」

すんなりとそのことばは、私の唇を通過した。

「良かった...っ!」

私はこれが当たり前なのだと、お兄様の腕の中がわたしの居るべき場所なのだと、そう感じていた。

お兄様は桜井さんに向けてCADの引き金を引くと、銃で撃たれた傷が消えた。床に飛び散った血の跡が消えた。

撃たれた事がなかった事にされている?

 

 

同じようにお母様も蘇生をし、桜井さんは「信じられない」という面持ちで、自分の身体を見下ろしている。なお、王様による罪人の裁きの時、兄は王様の命令によって私の目を塞いでいた。

裁きが終わった後、兄は風間大尉と向かい合っていた。

「すまない。反逆者を出してしまったことは、完全にこちらの落ち度だ。何をしても罪滅ぼしにはならないだろうが、望むことがあれば何なりと言ってくれ。でき得る限りの便宜を図らせてもらう」

「ではまず、正確な状況を教えてください...敵は大亜連合ですか?」

「確証はないが、おそらくまちがいないだろう」

「敵を水際で食い止めているというのは、嘘ですよね?」

「そうだ、名護市北西の海岸に、敵の潜水揚陸部隊が既に上陸しており、慶良間諸島近海も、敵に制海権を握られて、那覇から名護に掛けて、敵と内通したゲリラの活動で所々において兵員移動の妨害を受けていた。」

...想像以上に酷い状態だった。

「では次に、母と妹と桜井さんを安全な場所に保護してください。できれば、シェルターよりも安全度の高い場所に」

「...防空司令室に保護しよう。あそこの装甲は、シェルターの二倍の強度をもつ」

...呆れた。民間人が避難するシェルターよりも守りが堅いなんて。

「では最後に、アーマースーツと歩兵装備一式を貸してください。しかし、消耗品はお返しできませんが」

「...何故だ?」

この要求には、私も疑問を禁じ得なかったが、

「フハハハハハ!貴様、さては深雪を手に掛けた罪を償わせるのだな?」

と答えたのは王様だ。

「はい、その通りです。」

「そうか!そうか!ならば臣下を見守るのも王の勤めよ、特別に付いて行ってやろうではないか!...おい道化!すぐに達也の言った物を用意せよ。」

「...わかった。では、君たちを我々の戦列に加えよう。」

「戯け、達也はともかく我は貴様ら道化らの指示には従わんぞ。」

「自分も軍の指揮に従うつもりはありません。ですが、侵攻軍という敵が同じで、殲滅という目的が同じであるなら、肩を並べて戦いましょう」

「...わかった。真田、アーマースーツと白兵戦装備をお貸ししろ!空挺隊は十分後に出撃する!」

 

☆☆

 

お兄様と王様が戦場へ向かわれ、私たちは防空司令室に避難した。

そこで、お兄様について説明してくれた。『分解』と『再生』の二種類の魔法しか使えないこと。人造魔法師計画により、感情が欠落してしまったこと。でも『兄妹愛』だけが、唯一残された感情であること。

お兄様のことを聞かなければ良かったと思うと同時に、聞いておいて良かったと考える自分がいた。

でももう一つ気になっていた事がある。

「お母様、王様についても教えていただけますか?」

そう、王様のことだ。彼は一応私のガーディアンであるが、言動や性格からしてガーディアンには全く向かないはず。なのに私のガーディアンであるのは何故なのだろうか?

「...そうねぇ。彼の許しはないけれどこの際だし言うわね。」

彼の許しが必要なのですね...

「彼は、貴女に興味があるのよ」

「興味、ですか?」

「えぇ。彼は今まで数多くの人や英霊を見てきたらしいのだけど、貴女みたいな魔法力を秘めている人は見た事がなくて、将来どのような人になるのか楽しみみたいよ。」

「...」

言葉が出なかった。あの人はいつも私に対してキツイ言動なのに、私の将来が楽しみだという。そんな親みたいな...親?そういえばお兄様は彼の事をもう一人の親、と言っていた...そういう事だったのね。

「彼は達也の将来も楽しみと言っていたわ。達也が貴女を守りたいと彼に言ったらしくて、それからずっと彼は達也の稽古に協力してるみたいよ。」

王様、貴方そんなに良い人だったのですね!

......そういえば英霊ってなんだろう?

 

☆☆☆

 

風間の指揮する恩納空挺部隊に達也、ギルガメッシュが同行したことにより、状況はかなり優勢であり、侵攻軍を水際まで追い詰めていた。途中、白旗を揚がっている侵攻軍を達也が消そうとしたが、止められ、風間大尉によって達也はCADの引き金から指を外した。

が、王様は軍の指示に従う事もなく、白旗を揚げていた侵攻軍を一瞬で殺した。風間大尉も含め彼に虐殺したことに抗議しようとしたが、

「敵の雑種なんぞ、何人殺そうが変わらんだろう」

と彼が言うと恐れたのか抗議しようとしていた者たちは静かになった...

そんな静寂を破ったのは通信兵である。風間の許へ駆け寄り、

「敵艦隊別働隊と思われる艦影が粟国島北方より接近中!高速巡洋艦二隻、駆逐艦四隻!迎撃は間に合わず!二十分後に敵艦砲射程内と推測!至急海岸付近より退避せよとのことです!」

かなりの凶報であった。

風間が無線のやりとりをし、終わると、

「特尉と貴方は、先に基地へ帰投したまえ」

帰投と表現しているが、これは逃げろという意味だ。

「敵艦の正確な位置はわかりますか?」

達也は風間の指示に頷くかわりに、そう質問した。

「それは分かるが...真田!」

何故だ、とは、問わなかった。その代わり、戦術情報ターミナルを背負っている部下の名を呼んだ。

「海上レーダーとリンクしました。特尉こバイザーに転送しますか?」

「その前に、先日見せていただいた射程伸長術式組込型の武装デバイスを至急持って来ていただけませんか?」

届きますが、という真田のセリフをぶった切って、少年らしい性急さでそうリクエストした。

 

☆☆☆☆

 

達也は敵艦を破壊する手段がある事を言い、部隊には見られたくない。ため部隊を撤退させたる事を要望した。しかし、風間と真田とギルガメッシュは立ち合わせることになった。

 

武装デバイスの準備を終えた達也に猶予時間を告げ

「敵艦はほぼ真西の方角三十キロを航行中...届くのかい?」

と真田は尋ねる。

「試してみるしかありません」

と達也は返し、武装デバイスを仰角四十五度に構えた。

銃口の先にパイプ状の仮装領域が展開さた。通り抜ける物体の速度を加速する仮想領域魔法。仮想領域の作成に時間がかかっているものの、構築された仮想領域のサイズに、真田は満足して頷いていた。

だが、達也は物体加速の魔法領域のその先に、もう一つの仮装領域が発生した。

「信じられん事をする少年だな...」

真田の呟きは狙撃銃の発射音にかき消された。見えるはずのない超音速の弾丸を、目で追いかけるようにして沖を見つめる達也。

やがて彼は、落胆したように首を振った。

「どうやら、届かなかったようだな」

王様が代弁する。

「敵艦が二十キロメートル以内に接近するのを待つしかありません。」

「それでは、敵の射程内に入ってしまう!」

「分かっています。なので基地に戻ってください。ここは自分だけでは...不十分ですね。王様、残っていただけますか?」

「フハハハハ。なに、貴様に言われずとも残っておる」

「バカな事を言うな!君も戻るんだ」

ここは最後に敵と交戦した地点であり、敵がここを攻撃してくるのは、ほぼ確実である。

「口を慎め雑種。達也がやると言ったのだ。口出しするでない」

「...そうか、では我々も残るとしよう」

「ほう。貴様らはここで死んでも良いと?」

「生死は兵士の常だ。百パーセント成功する作戦などあり得んからな。」

「ほう...道化にして中々言うではないか。」

風間の言葉に、ギルガメッシュは少しだけ風間を見直した。

 

☆☆☆☆☆

 

沖合で水柱が何回か上がる。

敵の艦砲射撃の試し打ちだろう。最早達也も風間も真田も王様も何も言わない。

達也は武装デバイスを構えた。銃弾の飛行時間と落下時間を考慮すれば敵艦の射程内だ。達也は、仮装領域魔法を発動して、続けて四回、引き金を引き、それぞれ照準誤差を補うようにして撃っている。

だが、敵は既に試射を済ませており、弾道を修正した砲撃が来た。

しかし途中から何故か合流した桜井さんによりその心配はなくなり、達也は自分の術式に専念できるようになった。自分の銃弾が敵艦隊のすぐ上空に到達したのを心眼で識ると、達也は右手を前に突き出し、西を指差し、その掌を力強く開いた。

 

銃弾が、エネルギーに分解された。

 

質量分解魔法『マテリアル・バースト』が、初めて実戦で用いられた瞬間だった。

 

 

水平線の向こうに、閃光が生じ、空を覆う雲が白く光りを反射する。日没には程遠いが、水平線が眩く輝き、爆音が轟いた。と同時に不気味な鳴動が伝わる。

「津波だ!退避!」

風間が叫ぶ。だが一人は違った。

「フハハハハ!よくやった達也よ。我に中々良いものを見してくれるではないか!褒美として我の力も見してやろうではないか」

と王様は手元に鍵のような物が出現し、そこから赤い水晶が空中に走査し、それが収縮して、剣のような物が出て来た。

桜井さんは崩れ落ちていて見えてないが、他の三人は驚愕していた。その中でも達也が一番驚いていた。

【眼】を使っても、あれが何なのか全くわからないのだから。

「一掃せよ、エア!」

彼がそう言うと剣と思われるものがまわりはじめ、剣と思われるものに暴風が発生し、津波を潰した。

「加減はしたつもりだが...」

だが、被害はそこそこあった。達也たちが衝撃に耐えられず突き飛ばされていた。だが、

「王様、今のは一体...」

達也は自分が飛ばされたことより今の衝撃が気になった。

「これか?なに、我の宝具だ。これを拝める日が来るとはな、光栄に思え」

達也は宝具という物がわからないが、恐らくCADに似た何かだろうと解釈していた。風間達が起き上がり、今のは何かと尋ねようとしたら風間に無線機の着信音がなった。

「はい......なに!それは本当なのか!?」

風間大尉は酷く慌てていた。

「さっきの達也君の魔法により、宣戦布告と見なしたのか、40キロ先に先程の二倍以上の量の艦隊が現れたようだ...」

風間さんの顔が青くなっていってる。

「フハハハハ!そうか!ならば我の力をもう一度見よ。なぁに、今度は加減を程々にしてやる。達也、道化よここから離れて見ておけ」

と彼が言うと、桜井さん含め四人は急いでここを離れ、遠くから彼を見ることになった。達也は加減を程々にするから離れることに、やや違和感を感じた。

 

 

ギルガメッシュは風間に敵艦のいる方角を聞き、言われた方角を見ていた。

『ーーー目覚めよ、エア!』

彼は乖離剣を突き立て、乖離剣は刃の部分であろう所がまわりはじめた。

『原初を語る。元素は混ざり、固まり、万象識り成す星を生む。』

周囲の建物や軍事施設が次々と乖離剣から発生している暴風で崩壊しはじめていた。彼と乖離剣は上空へと浮かび、やがて、乖離剣から発生していた暴風は、絡み合う風圧の断層となり、擬似的な、空間断層となっていた。そのエネルギーは沖縄全土、いや、九州まで感じ取る事ができるだろう。

乖離剣を手に取り、上へ向ける。

風圧の断層も上へとそのまま移動する。

『死して拝せよ。』

天地乖離す開闢の星(エヌマエリッシュ)!!!』

乖離剣を敵艦のある方向に向ける。

風圧の断層は一気に剣の向けてる方向に向かい、風圧、暴風が勢いよく向かった。その際周辺の、海が、空が、大地が、その断層を境にして割れた。

後日談ではあるが敵艦は消滅し、大亜連合の一部の港とその港の周辺の都市が消滅したとのこと。

 

この日、日本に、二人の戦略級魔法師が誕生した、一人は【質量爆散(マテリアル・バースト)】の大黒竜也こと司波達也。

もう一人は【天地乖離す開闢の星(エヌマエリッシュ)】の言峰儀瑠ことギルガメッシュである。

 

☆☆☆☆☆☆

 

飛行機発着のアナウンスを聞きながら、私は六日前の事を思い出していた。水平線に突然生まれた、太陽よりも眩い光。光の中に消え去った敵の船。全てを裂くであろう空間の発生。

陸海空を裂いた空間の発生。

それが、世間と共有しているあの後の顚末。

私たちだけが知っているのは、お兄様と、王様が、敵を退けた英雄だということ。王様は既に英雄王でしたね。

桜井さんはあの後、帰って来ませんでした。私は泣き崩れてしまいたしたが、お兄様が慰めてくれたのと、王様が、

「いつまで泣いている。桜井は貴様の泣き顔など見たくもないだろう。笑って送るのが貴様の使命であろう」

と言われ、私は泣きながら笑っていました。

「フハハハハ!泣きながら笑うとは、器用な奴よのぅ」

王様に笑われましたが、それはバカにされている時と違い温もりがありました。

灰になっていく桜井さんを見みつめながら、私は決めたのです。

 

深雪は、何処へでも、何処までも、お兄様と王様についていきます。

 

 

 




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