転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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FGO二部の新オープニング
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歌詞と石井さんを当て嵌めてみる
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わぁお☆


今回は日常回です!!ほんわかしていってね!!


何かが違う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石井の様子がおかしいらしい。

 

 「みこっ……みこーん!!これは……イケてる魂、イケタマのニオイ!!だがしかぁしッ……!!その移り気、戦乙女が許してもこの学園最強が許しません!!弁明!!無用!!浮・気・撲・滅っ!!またの名を、一夫多妻去ヴゥッ……!!」

 

 「何やってんだよ、会長……ッ!!」

 

 「なんて声出してやがる、一夏……」

 

 「だって……だってぇ……!!」

 

 「私は生徒会長更識楯無だぞ。こんくれぇなんてこたぁねぇ。私は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に私はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 廊下に希望の花が咲いた。漂う空のどこか遠く、と誰かが歌ってる気もしなくもない。青い十二単姿の楯無が明後日の方向へと人差し指を指しながら倒れている。傍らに涙を堪えるライド・イチカ・サンタ・ユニコーン・オルタ・アイランド仮面。現在、十一月。

 

 何処と無く色々と混ざった挙げ句、火星の王になり損なった感を醸し出す夕暮れの廊下でそれを眺める男──石井は楯無渾身のメッセージとは裏腹に立ち止まっていた。先にお前がいられても困るし、お前がいるのなら動かねぇぜ?と言わんばかりに西陽を背に直立不動で冷たい視線を投げていた。何なのこいつ?的な恐ろしく冷静な俯瞰の元、拷問のような静寂を廊下へ叩き込んでいる。

 

 「────ッ!!」

 

 瞬間、ライド・イチカ・サンタ・ユニコーン・オルタ・アイランド仮面に稲妻が走る。

 

 無視、スルー、放置。いつもなら呆れながら声をかけるであろう石井が何の反応もなく、玉藻楯無とライド・イチカ・サンタ・ユニコーン・オルタ・アイランド仮面の横を通り過ぎた。成る程、確かにいつもと違う。まさにその衝撃は双腕・零次集束(ツインアーム▪ビッグクランチ)。まるで意味が分からない。そもそも、名前が長い。

 

 「駆けつけ三杯、寿司食いねぇ!!」

 

 何処から出したのか、赤い陣羽織を羽織って叫ぶライド・イチカ・サン(以下略)。錯覚だろうか、集中線が見える。

 

 嗚呼、だが無情。石井は首を鳴らしながら橙に染まる廊下を曲がり、姿を消した。諸行無常。これぞ詫び錆びのような気もしなくもないが、やはりそんなことはなかった。 

 

 本人たちが理解しているかは不明だが、これを俗にダル絡みという。お姉ちゃんたちのダル絡みマジめんどくさくて、しんどくて、でもやっぱお姉ちゃん尊い、とは更識簪の談。要するに傭兵二人はただの馬鹿であったらしい。

 

 「馬鹿な……ッ!?」

 

 まるで宇宙人を見たように驚愕の念を露にする楯無だが、端から見た場合楯無こそ宇宙人(やべー奴)──狐耳、狐の尻尾、十二単のイロモノ生徒会長──である。その傍の麻婆の臭いが染み付いてむせるお下がりのカソックを着たライド・イチ(以下略)も大概、どっこいどっこいだ。訂正すべきだろう。馬鹿ではない。石井もおかしいが、この二人は色々振り切れちゃった勢だった。若さって怖い。

 

 そういう訳で、石井の様子がおかしいらしい。

 

 初めは誰が言ったのか。気付けばその言葉は生徒たちの中で広がり、独り歩きしていった。教職に復帰(副業を再開)した石井に何らおかしい点は無かったのだが、不思議とこれまでの石井と微妙に違う部分がクローズアップされていくようになった。

 

 例えば、某世界最大の経済主体傘下企業の旧英国出身令嬢はこう語る。

 

 「エロい。兎に角、エロい。髪が長い。エロい。あー、何ですの?あの人妻感(男です)。妻に先立たれた男感、やべーですわ。ズブズブの沼に溺れたい。あー、あー」

 

 例えば、彼の義娘の妹の方はこう語る。

 

 「髪が長い父様も良いと思うぞ?初めはビックリしたが、もう慣れたな!!でも、最近姉様が父様を見るともじもじしてるのだ。あれは何なのだろうな?そういえば最近、父様が上の空でいることが多い気がする。二人とも身体を大事にして欲しいな!!」

 

 例えば、彼の友人である整備科の眼鏡フェチはこう語る。

 

 「アイツが最近おかしい?いや、年中おかしいだろうよ……。あぁ、でも最近ボーッとしてることは多いな。昨日も珍しく自分のマグカップを落として割ったらしい。疲れてんのかね?」

 

 ライド・イ(以下略)もとい、彼の教え子唯一の男子生徒も割りとまともな所感を抱いている。

 

 「上手く言えないが、確かに変だよな。単純に疲労って訳じゃなさそうだけど、俺には分からない。案外あれが素だったりするんじゃないか?」

 

 彼が足繁く通う中華料理店の店主、現在は学食の調理員と購買部の販売員を兼務する眼が死んだ男はこう語る。

 

 「あの男がおかしい?あぁ、そうだな。アレはおかしいとも。私と同じような類いの者だ。産まれながらにしておかしい、ある意味では魔性と言える。理由などあるまい……何?そういう話では無い?ふむ、ところで、このシャープペンシル。温めますか?」

 

 と、多くの生徒や職員が石井という男の変調を感じ取っている。ただの体調不良と言う者もいれば、深い別の問題であると言う者もいる。確かなことは分からないが、石井に何かしらの変化、恐らくは彼の内面に関することがあったのは確実だろう。

 

 伸びた髪を後ろで縛り、解れた髪を耳に撫で付ける石井は風評通り、別人のような雰囲気を感じさせる。上の空でいる時の冷たい表情と誰かと言葉を交わす時の差は、まるで別人だ。何かが欠落したような空虚な視線を中空に漂わせ、紫煙を燻らせる。

 

 実際には何かが変わった訳ではないのだ。仮面を被るのに戸惑っているだけ。その内、放っておけばいつも通りの石井が顔を出す。そういう意味では一夏の所感は的を得ている。生徒の馬鹿に呆れつつ、苦笑を浮かべて歓談する、『みんなの石井先生』という副業の勘を取り戻している最中なのだ。

 

 石井の素顔とは存外につまらない物だ。周囲に知られていないだけで、石井と名乗る無銘の猟犬は面白味の欠片も無い伽藍洞の生き物だ。現に彼は己のことに関して非常に無頓着だ。他人の生活を気遣う癖に己は散々な生活を送る、趣味と思われている映画も世間一般に於ける普遍的な人間を想定して適当に課した物である。

 

 彼がどのような人間なのか誰も知らない。彼がどのようなことが好きなのか、誰も知らない。彼が嫌いな物も、本名も、誕生日も、出身を、誰も知らない。彼がどのような存在なのか、誰も知らない。彼の飼い主すら知らないことを、どうして他の者が知れるというのだろう。

 

 石井が去った廊下で狐耳を外して溜め息を吐く楯無。眼を見開き、大声で叫び出した。 

 

 「何だあのヤロー!?無視しやがって!!怒らせちゃったねぇ!!私、怒りましたねぇ!!」

 

 「先輩、大分やばいっすね。キテますね、色々」

 

 「あ゛ぁん゛?キテるに決まってるじゃない!!あの長髪エセ教師、無駄に髪綺麗だし、結構恥ずかしいのにガッツリ無視するし、あー気に食わない」

 

 「割りと楽しんでませんでしたか?みこーんとか、止まるんじゃねぇぞとか」

 

 「そういうあなただって、そのカソック何処で手に入れたのよ?」

 

 「購買部の販売員から。という訳で次は魔法少女コスで行きましょう。とりあえず、円環の理を乗っ取る感じで」

 

 「あなたって結構アニメ見るのね……」

 

 「購買部の販売員……副部長が愉悦アニメだって言ってたんです」

 

 「え?副部長……?え?」

 

 「えぇ、愉悦部の」

 

 説明しよう!!愉悦部──IS学園愉悦部とは、紅洲宴歳館・泰山IS学園支店長を副部長とし、曰く、夜な夜な薄暗い学園内にある教会の地下に潜り込み、部員たちと酒を酌み交わしつつ、真の愉悦とは何かを延々問答し妄想し続けフハハハハッ!と邪悪に笑い合う紳士の社交場である!!ちなみに部長は永久欠番らしい。

 

 部員は新米の織斑一夏、マネージャー、妖怪無差別麻婆の石井、顧問、スーパークソ狸親父の轡気十蔵。

 

 「何その部活!?申請来てないわよ!?」

 

 「先輩を通さずに認可が降りました」

 

 一夏の顔にイイ笑顔が浮かぶ。何処かで戦乙女(ブリュンヒルデ)が啜り泣く声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 クロエ▪クロニクル、父親の部屋に立つ。

 

 三角巾と割烹着を着た銀髪の少女は掃除機片手に石井の部屋に仁王立ちする。そして──

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!入っちゃった、本当に入っちゃったよ!?どぉぉぉぉぉぉしよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 大いに混乱していた。

 

 事の発端を語るには少しばかり時を遡る必要がある。クロエは妹であるラウラと些細な喧嘩をしてしまった。切っ掛けは本当に些細極まる物。作り置きしておいたおかずをラウラが勝手に食べたという物であった。

 

 台所事情を一手に引き受け、キッチンを己のテリトリーとする姉はこれに憤慨する。一週間の献立が狂ってしまう。バランスを考えて毎週月曜日に七日間の献立を考える苦労、不摂生がちな母親のような人物が体調を崩さないように偏っているだろう栄養を含有する食材を栄養価を残したまま調理する手間。それらが可愛い妹に喰い尽くされた。

 

 勿論、妹もこれには反論する。一品ぐらい良いじゃないか、とラウラは主張する。悪かったとは思っている。でも、そこまで怒る必要は無いじゃないか。おやつのケーキ抜きとは外道畜生、悪鬼羅刹の所業。吊り合いが取れていない。いつもはそんなに短期では無い姉の怒り様に困惑し、反射的に反発してしまった。

 

 「どうせ、姉様は父様が帰ってきても話せてないから拗ねてるんだ!!」

 

 「は──?何を言ってるのかしら、ラウラ?」

 

 「あっ……」

 

 そして見事に地雷を踏み抜いた。

 

 「何故、私が拗ねてるって……?お姉ちゃん怒らないからもう一回言ってみせてくれないかしら?」

 

 「あわわわわわわわわわ……あわ、あわわっ……あわっ……」

 

 この後ラウラはほっぺたむにゅむにゅの刑に処され、頬をふにゃふにゃにされたのだが、それは別の話。しかし、ラウラの言葉は余りにも的確に、残酷なまでに真実を射ていた。

 

 石井がラインアークに帰還してから、クロエは一度も石井とまともに顔を合わせていない。一度だけ夕食を作ってくれたが、同席はせずに仕事に明け暮れている。遠目で見掛けることはあっても、中々声を掛けにいけない。臨海学校の件が頭を過ることもある。ラウラのように生徒として授業に出られる訳でも無い。

 

 アドバンテージはラウラの方が上だ。あらゆる面でも一歩先を行っている。石井と過ごす時間も自ずとラウラの方が長く、話す機会も多い。らしくは無いが、嫉妬してしまう。もう少しだけ、ほんの少しで良いから話したい。おかえりなさい、ぐらいは言わせて欲しい。クロエはそう思う。

 

 そういう訳で、クロエは強行手段へと走った。正にお眼眼ぐるぐる。何をトチ狂ったのか普段着慣れない割烹着などという和風テイストな、一部には非常に需要のあるであろう装備を身に纏い、半ば魘されながら石井の部屋を掃除するに至った。ラウラが御飯を作ったなら、私はお掃除すれば良いじゃない。そう自信ありげに語っていたクロエだが、現状は頭から湯気を出してオーバーヒートしている。

 

 「あわわわわわわわわわ……あわーっ、あわわっあわっ……あわー!!」

 

 やはり姉妹である。

 

 勇んで来たは良いが、問題は他にもあった。綺麗すぎるのだ。塵が一片足りとも無い、異常なまでに整頓された空間に掃除をする余地など何処にも無い。帰宅早々に石井が自分である程度の事をしてしまったのだ。幾ら無頓着とは言え、一応は長く根を降ろして使う拠点である。世界中に点在するセーフハウスやガレージとは事情が違う。

 

 今更恥ずかしさと、色々やらかしている現状に苛まれているとガチャリと背後から鍵の開く音がした。

 

 「え……?」

 

 「は……?」

 

 家主の帰宅。髪を一つに縛った石井が眼を丸くしていた。

 

 「何を、しているんだ?」

 

 義娘の割烹着姿に呆気に取られる石井。理解が追い付いていないのだろう。瞬きをせずにクロエを見ている。何故、割烹着なんだ?部屋にいたことは、まぁ良いとして。何故、割烹着を着ているんだ?石井の頭の中は混沌が渦巻き、宇宙創成の広がりを見せていた。

 

 「お父様の髪が長い……!?」

 

 「えっ……?」

 

 「あわー!!」

 

 ディスコミュニケーションここに極まれり。意味不明な、これも今更ながらの容姿に対する驚愕と、ポンコツ感溢れる叫び声と共に石井の部屋を飛び出すクロエ。三角巾は宙を舞い、掃除機を放り出して何処までも駆け抜ける。置いてきぼりにされた三角巾と掃除機は静かに訴える。解せぬ、と。

 

 静寂を取り戻した部屋にて石井は暫く立ち尽くした後、落ちたままの三角巾を拾おうとする。

 

 「────」

 

 上手く掴めない。するりと掌から滑り落ち、地へと戻る。

 

 「()()()か……」

 

 ぎこちなく、軋むような動きをする手を見ながら石井は小さく独り言ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






そろそろだと思っていたよ。

あぁ、然り、分かっているとも。その身体を用立てているのは私ゆえ、言わずとも分かるのだよ。

では、いつも通りに更新しよう。なに、すぐに終わる。











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