転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 アルテラァッ!!(サンタお前かよ)

 ファフナー一挙見てホラ胃ズーンしてました。

 そんなこんなのほんへ、どうぞ。


Betrayal

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亡国機業。

 

 その単語が指し示す物を正しく理解しえる者は多くない。ファントム・タスク。亡霊。集団なのか、それとも個なのか。第二次大戦の際、枢軸国、主に第三帝国の生き残りが地下で創設した国家社会主義者の墓場。或いは優生学を都合数世紀以上研究し続ける気狂いの集まり。テンプル騎士団やシオン修道会と密接な関わりを持ち、中世から現在に至るまで連綿と世界の裏で活動し続ける秘密結社。

 

 等と、少し調べれば陰謀論めいた与太話が掃いて捨てるほどに出てくる。この企業が国家を淘汰し、新体制──パックスエコノミカが実現目前と言われる御時世にそういうオカルトに片足突っ込んだ組織がある筈も無い。そもそも、気が狂ったように優生学を研究し続けている者は堂々と陽の下を歩いている。アラスカ条約機構の研究員はそういう類いの人間ばかりだ。

 

 では、全てが与太話の都市伝説なのかと言われれば、それは違う。亡国機業は確かに存在する。ただ、前述の通り、オカルティックな秘密結社でも無ければ、第三帝国の生き残りだとかありがちな小説の設定のような組織でも無い。前身は第二次大戦終結時に発足されたが、組織を構成する人種はバラバラ。白人から黒人まで多種多様な国家、地域から人が集まったとされる。少なくとも物語の黒幕が所属する組織によくある選民意識やそれに準ずる思想は無いらしい。しかし、目的や理念は未だに分からず、謎の多い組織である。

 

 そんな組織にチェルシー・ブランケットは所属している。もう長く籍を置いている。セシリア・オルコットのメイド兼付き人との二足のわらじ。副業であるメイドの仕事をこなしながら、己の目的の為に暗躍する。やりたくも無い子守りとオルコット財閥の力を使った情報収集。鼻息が荒い男に媚を売って得る手掛かり。全ては突然失踪した妹を探すために。偽りの主に、心にも無い忠誠を捧げる毎日だった。

 

 だが、不思議な事にその毎日を悪くない、と彼女は思うようになった。自分を姉のように慕う主が過去の虚像()と重なって見えた。幼くして家族を失い、時折顔を出す後見人と自分しか信用できない。傷を埋める為の家族ごっこ。彼女も幼い主も互いに家族を失った傷をそうして、無意識に舐め合っていた。眠れぬ夜に寄り添い、共に笑い、語り合い、たまに喧嘩して、直ぐに仲直りする。嘗てあった物がそこにはあった。

 

 それでもチェルシー・ブランケットはセシリア・オルコットを裏切る。虚像(二人目)の妹を裏切る。それは避けられぬ決定的な未来であり、現状である。安寧を捨て、実の妹に会う為に偽りの主に銃口を向ける。その決心は揺るがない。だが、彼女の感情は酷く不安定だった。申し訳なさ、後悔、罪悪感、それらは彼女の胸で嵐のように吹き荒び、爪を立てる。善性が悲鳴をあげる。だが、裏切らなければならない。彼女は漸く有力な手掛かりを手にした。彼女の妹──エクシア・ブランケットが失踪する直前に会っていた男。頻繁に病室に訪れていたようだ。容姿は分からないが、名は知ることが出来た。

 

 アーカーシャ、男はそう名乗っていたという。

 

 「ところで、メイドというのは主人に刃を向けるのも仕事なのか?初めて聞いたのだがな」

 

 スライドを抑えて、掴むラウラ。手には九ミリ口径のハンドガン。サプレッサーが付けられた銃身は想定よりも目立つ。メイド服の中に隠しておいた物を抜いた瞬間、チェルシーは身動きが取れなくなった。レーゲンのAICなのだろう。これでチェルシー・ブランケットは誰が見ても、明確に主を裏切った。オルコット財閥次期総帥を殺そうとした。

 

 これでいい、とチェルシーはほくそ笑む。セシリアの驚愕と衝撃の入り交じる表情を見て、満足する。これで自分は妹の不倶戴天の敵になれた。我が儘かもしれないが、殺される相手は自分で選びたい。どうしても避けられない別離なら後腐れ無く行こう。存分に恨み、殺意を乗せて欲しい。いつか、この恥知らずなメイドを殺しに来て欲しい。ただ、まだ死ぬ訳にはいかない。セシリアを殺したくも無い。態々、廊下で、ラウラが近くにいる時に銃口を向けたのはその為だ。

 

 警報のけたたましい音がラインアーク中に響く。しかし、それはチェルシーの行動が起因した物では無い。

 

 『敵襲──海上、第一防衛線が突破されました。保安部職員は直ちに配置に着いてください。代表より、第一種戦闘態勢への移行が発令されました。非戦闘員は直ちに──』

 

 「貴様、これが目的か……」

 

 AICに拘束された状態でチェルシーは口元を歪ませる。引き裂くように口角を上げ、眼帯の少女と元主人を嘲る。

 

 「チェルシー、何で……」

 

 「何で?勘違いしないで欲しいのだけれど、私は元からあなたに忠誠なんて捧げちゃいないの。私は私の目的の為に、あなたに近付いただけだから。勝手に家族ごっこを始めたのはあなたでしょう?」

 

 AICに皹が入る。例えば、人が焼かれてしまうほどに強力な大出力レーダーがあったとして、それに並のECM(電子対抗手段)が効かないように、単純な話として出力の小さい兵装はそれを上回る出力の兵装にはスペック上では勝てない。シュヴァルツェア・レーゲンを上回る機体。第三次欧州連合統合防衛計画(イグニッションプラン)に提出された第三世代前期型よりも後に製造された機体、第三世代中期型。現状、第三世代中期型の開発に着手していたのは旧イギリスとドイツの二か国だ。その一つ、旧イギリスの開発途上のプロトタイプが二機、強奪される事があった。BTシリーズの後発機二機。その姿を顕す。

 

 「ダイブトゥブルー、だと……!?」

 

 ブルーティアーズを継承した紺碧の機体。BT兵装を用いた全距離戦闘を想定し、後方支援機からの脱却、近接戦闘能力を大幅に上昇させたBTシリーズの最新鋭。

 

 碧い光がラウラを掠めた。ハイレーザーライフルによる射撃は壁を貫通し、遠くから炸裂音が聞こえた。着弾と同時に炸裂するレーザー。忌々しくチェルシーを睨み付け、ラウラもレーゲンを纏う。分は悪いが、やるしかない。

 

 天井を突き破り、上昇する二機。ハイレーザーライフルとレールカノンの応酬。それに加え、ビットによる死角からの攻撃をワイヤーにプラズマを纏わせ、落とす。回避行動と照準設定(ロック)、ワイヤーによるビットへの対処。砲戦型のレーゲンで高機動戦も想定したダイブトゥブルーに喰らい付くのは難しい。防戦一方になる。それでも被弾していないのは、偏にラウラの腕の良さなのだろう。

 

 距離が詰められないもどかしさに苦しめられる。ブルーティアーズのように後方支援──狙撃等の支援攻撃に特化した機体構成からの脱却を目指したダイブトゥブルーは主兵装に二丁のハイレーザーライフルを搭載している。高威力のレーザーと計九基の偏向射撃(フレキシブル)。徹底的な引き撃ちにより相対的に距離が離される。後、一機。白式(一夏)RAKAN(シャル)霧纒の淑女(更識楯無)のような前衛機がいれば、押し返せるだろう。しかし、シャルも一夏も楯無も今はラインアークにいない。いない者を宛には出来ない。

 

 AICで機動に負荷を掛ける。拘束することは出来なくても、動きを止めるぐらいの事は出来る。ダイブトゥブルーの速度が落ちる。目標を網膜に投影されたサイトに捉える。装填(ラーデン)発射(フォイア)

 

 僅かに回避されるが、右脇腹を掠める。装甲を破壊する。進行方向へとワイヤーを発射。網を作る。

 

 ハイパーセンサーにロックオンアラート。背後に不明機、六時の方向。ダイブトゥブルーでは無い。スラスターにエネルギーを回す。反転し、敵影を確認する。

 

 現在、ラウラが交戦しているのはラインアーク居住区。幾層にも設定されている都市防衛線、最終防衛ラインの内側だ。つい先程第一防衛線を突破されたというのに、これは些か早すぎる。防衛線への攻撃、チェルシー・ブランケットの裏切りすらもブラフだとすれば、本命は不明機か。経路は海中だろう。

 

 敵機を確認したラウラは溜め息を吐いた。幾らなんでもふざけすぎだろう、と呆れる。蝶の意匠を組み込んだ群青の機体が銃口を向けている。先端には銃剣(バヨネット)。BTシリーズ二番機──サイレントゼフィルスがラウラへ襲い掛かる。

 

 『隊長、ご無事ですか?』

 

 通信が入る。クラリッサだった。

 

 「何とかな。分は悪いが、粘ってはいる。増援はまだか?」

 

 『私を含め、ラファール一個小隊が後三十秒で到着します。第一防衛線付近に展開していた敵性部隊は凰鈴音が対応、撤退を確認しました。居住区の避難も完了』

 

 「早く来てくれ。BTシリーズ後発機二機を一人で相手にするのは、キツイ。連中の目的は分かるか?」

 

 『噂の亡国機業という組織らしいです。収容所への侵入は見られませんので、威力偵察かと』

 

 威力偵察にしては戦力が贅沢過ぎるな、とラウラは独り言ちる。BTシリーズ二機を投入するなんて、潰しに来たと言われても驚かないだろう。さらに、海中を感知されずに居住区まで侵入されたとなると些か不味い事になる。それだけの装備──ステルス侵入パッケージを装備出来るだけの組織なのか、ラインアーク内に内通者がいるか。前者はまだいいかもしれないが、後者は看過できない事態だ。 

 

 気が狂いそうな程のレーザーの檻。絶えず動き続けるビットの射撃を致命的な物以外を装甲で受ける。倍になったビットの全てをワイヤーで処理する事は不可能。手が回らない。ダイブトゥブルーを前衛として、サイレントゼフィルスが後方から狙撃支援に徹する。理想的な機体運用。レーゲンの残存シールドエネルギーは三十パーセント。機体損傷率は六十七パーセント。増援の到着まで二十秒、機体が持たない。

 

 ラウラがべイルアウトを頭の片隅に浮かべた瞬間、ビットの半数が動きを止めた。サイレントゼフィルスからの狙撃も止んだ。停止したビットをワイヤーで叩き落としていく。彼方で爆発音が聞こえた。ミサイルの着弾音。レーダーが新たな機体を感知する。四十八発のミサイルがサイレントゼフィルスを執拗に追尾する。IFFに反応あり、パーソナルネーム打鉄弐式、エンゲージ。

 

 肉薄した打鉄弐式の薙刀──夢現の高周波ブレードがサイレントゼフィルスの銃剣(バヨネット)を削り、火花を上げる。距離を開けるサイレントゼフィルスに肩部のチェーンガンを放つ。その全てがシールドビットに阻まれるが、更識簪は気にも止めない。この程度で終わって貰っては歯応えが無さすぎる。姉には及ばないが、十分強い。

 

 「楽しそうだねぇ、私も混ぜてよ」

 

 無言の蝶。簪は口元を凄惨に歪ませる。面白味の無いパイロットだが、嫌いでは無い。実戦慣れしていると見える。機体のテスト相手には持ってこいだ。何処まで通用するか測らせてもらう。

 

 「隊長、大丈夫ですか?生きてますね?なら良し」

 

 クラリッサたち、ラファール四機もラウラの援護に入る。数的優位が覆された。ダイブトゥブルーに対し、制圧射撃が行われる。レーゲンは後退し、砲撃支援に回る。

 

 「あぁ、そっちのラファール四機とボーデヴィッヒさんはこっちに手出さないでね」

 

 「正気か?貴様一人でサイレントゼフィルスを相手に出来るのか?」

 

 簪の注文にラウラが返す。先程までの戦闘で敵の強さを身に染みて感じたからこそ、単機で挑む簪の暴挙が信じられなかった。勝率はかなり低いだろう。

 

 「正気も何も、ここに正気が一つでもある?あなた軍属だったんでしょ?なら分かる筈だよ。つべこべ言わないで、あの目に悪い蝶々は私にちょうだい。あなたが相手出来る訳ないでしょう?そんな機体じゃあ、死にに行くような物だよ」

 

 「勝手にしろ。死んでも骨は拾わん」

 

 「結構」

 

 視線を、瞳を動かし、羽ばたく蝶を山嵐が追い詰める。ビットを使わせない程に敵を振り回す。荷電粒子砲とチェーンガンでシールドビットを叩く。そして距離を詰める。後方支援機が苦手とする近接格闘。それへの対策として搭載された銃剣(バヨネット)。だが、相手が悪い。夢現の刀身、高周波ブレードは生半可な装甲を豆腐のように容易く斬り裂く。事実、スター・ブレイカーと名付けられたスナイパーライフルのバヨネットラグや、刃は刃零れや損傷が激しかった。

 

 「所詮、機体テストだよ。刺激的にやろうか……」

 

 そう呟いて、膝に仕込まれたニードルガンを発射し、サイレントゼフィルスと離れる簪。眼鏡を外し、拡張領域へと仕舞う。夢現を軽く回して、構え直す。

 

 「サイレントゼフィルス……BTシリーズ後発機……。優秀な機体って話だけど、実戦想定機に試作機(プロトタイプ)が勝てる訳無いでしょ。行くよぉぉぉぉおあ!!」

 

 ラインアーク主権領域内での初の戦闘は熾烈さを増していく。

 

 

 

 

 

 






 簪「これより修羅に入る」

 一夏「分かりみが深い」

 猟犬「修羅……黄金……うっ、頭が……」

 本屋「『Ab ovo usque ad mala.(始まりから終わりまで)

    『Omnia fert aetas.(時はすべてを運び去る)』」


 書いてる時に【修羅残影・黄金至高天】流してたら簪ちゃんが古王になっていた……。



 以下、作者の独り言です。






 皆様、こんにちは、こんばんは、おはようございます。作者です。

 なんだかんだと、実は今回で50話らしいです。評価者も100名。評価を下さった皆様、お気に入り登録してくださった皆様、誤字報告してくださる皆様、いつも拙作を御愛読して頂いてる読者の皆様、ありがとうございます。

 まだまだ書きたい事がたくさんあるので、これからも頑張って更新していきたいと思います。応援してくださると作者が発狂して歓喜に打ち震えます。

 50話ということで記念で何かしら番外編でも書こうかなとか考えたり、考えなかったりしてます。本編の展開が遅いので、もしかしたらそのまま本編垂れ流しになるかもしれませんが。色々、考えてます。日常系ハートフルとか、ぼくの考えたアーキタイプブレイカーとか、石井さん抑止の守護者inカルデアとか。どれも難しくて頭の中で滅茶苦茶になっているのが、現状ですが。

 そういう感じで、次は100話目指してボチボチやっていきます。

 以上、最近、この作品書いてると能力バトル物を書いてる錯覚に陥る作者の独り言でした。

 御意見、御感想、評価お待ちしてナス!!
 

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