転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。 作:逆立ちバナナテキーラ添え
一夏君、憧れの先生を取られる。
そんなこんなのほんへ、ドゾ^~
ところで、猟犬殿。酒の肴に一つ、小噺というほど面白くも無いかもしれないが、滑稽劇でもどうかな?
いや、なに。こうして静かに飲むのも趣深いが、音楽も何も無く酒を飲むのは少々味気無いと思ってね。君だって、よく映画を見ながら飲むだろう?私も歌劇を肴にすることもある。それと同じだよ。
では、一つ語るとしようか。語り手が未熟なのはどうかご容赦を。
テーマは君とも少なからず縁のある篠ノ之家だ。君の主である束嬢、その妹君であり、君の教え子である篠ノ之箒。彼女らの家族関係について、今回は取り上げよう。
君も知っての通り、篠ノ之家というのは家族関係が複雑だ。両親と妹は束嬢に対して好感は抱いてない。妹君は憎悪すら抱いていたようだ。曰く、家族がバラバラになったから。曰く、愛しの幼馴染みと離れ離れになってしまったから。全て、姉のせい。まぁ、結果だけ見ればそうなのだろう。そこに至るまでのプロセスを、他の者の心情を全て無視して、篠ノ之箒という被害者の振りをする女の供述だけに耳を傾ければ成る程、束嬢は一家離散の大元凶だ。
何?辛辣ではないか?事実であるよ、猟犬殿。君も彼女と接したのなら、篠ノ之箒がどんな人間なのか分かるだろう。それこそ、束嬢に深く関わる君だからこそあれの言葉に違和を覚えるのではないか?
事の仔細はそう大した物では無いのだ。
篠ノ之箒が束嬢を嫌うのは矮小で単純な劣等感から来る嫌悪による物なのだよ。何でも出来る姉への凡庸な妹からの羨望と嫉妬。姉のせいで家族がバラバラになっただとか、姉のせいで家族が迷惑を被っただとか、色々言ったが結局は劣等感を隠すために摩り替えただけの事だ。別に兄弟姉妹間で関係が良くないというのは珍しくも無いが、このケースは過剰に姉を嫌悪している筋違いな例だ。
だが、しかし。ここからが面白い。無知蒙昧たる愚かな妹は姉の真意を知るのだ。姉がどれ程深く家族を想っていたのかをだ。家でどれだけ強く当たり散らそうが、不当に罵ろうがだ。束嬢が彼の人工島に幽閉されている際、家族の自由と安全を保証する嘆願書を書いたのは君も知る所だろう。感服するよ。そこまでされながら、血の繋がった人間を案じ、思うとは。愚かだが、とても素敵だ。
劣等感に苛まれて的外れな憎悪を抱いた妹は姉に謝りたいと願う。だが、嗚呼、全てが遅すぎる。両親も同じ思いを抱く。だが、全くもって遅すぎたのだよ。時は巻き戻らない、束嬢は既に血縁への愛を失ってしまっていた。束嬢は既に君を含めた血縁の無いごく一部の者にしか純然たる興味は抱いていない。人類という種で見た場合は違うかもしれんがね。
では、何故束嬢が愛を失うまでに至ったか。それについても触れていくとしようか。
人の子というのは往々にして、父母の遺伝が影響する。猟犬殿も目元が母似だの、鼻筋が父方に似た等と言う者を見たことがある筈。こんな一般常識についての講釈は置いておくとして、私が言いたいのは外見以外、性格や癖に才覚。そういう部分にも遺伝は影響してくるという事だ。
鳶が鷹を生む、という故事があるがそういったレベルの話では無い。鼠が竜を生んだような、ある種の奇跡と言っても差し支えは無いだろう。明晰な頭脳や超人的な身体能力を持つ訳では無く、お世辞にも飛び抜けた才があるとは言えない両親から篠ノ之束という
束嬢は幼い頃よりその溢れんばかりの才を存分に発揮していた。一を聞いて十を知り、やることは全て人並み以上。明晰な頭脳、他の追随を許さない身体能力、整った容姿。それを鼻に掛けずに分け隔てなく、誰にでも優しく慈しみを持って接していた、と聞いている。
あぁ、だが、ここで疑問が浮かぶ。束嬢の幼少期と現在の性格はかけ離れているとは思わないかね?世間一般のイメージも然り。会った頃も、今もそこまで変わっちゃいない?それは君だからこそだよ、猟犬殿。だがその所感は彼女の根底に善性が根付いているという証明だ。君は真実彼女に愛を向けられているのだよ。何もおかしいことは無いだろう。君は今に至るまで、彼女の騎士を勤めあげているのだから。
哀しいことに人間という生き物は自分の理解の範疇の外にある事象を排斥することがある。知的好奇心と言うほど大仰な物では無いが、織斑一夏のように
簡単なことさ。束嬢の両親、あの凡愚どもは恐怖したのだよ。己の子に恐れを抱いたのだ。余りにも出来すぎた、神に愛されたとでも言うべき子供を異端としたのだ。たかが少し古い程度の流派の剣道の師範と、何も無い女は実に最低なことをしてくれたよ。君とは違う。彼らは愛を与えなかった。彼女の心を凍らせた。彼女が彼らを喜ばせようとしてやったことを彼らは否定し、常識という牢獄へと繋いだ。例えば夏休みの自由研究で簡単なラジコンを作った時、彼らはそれをやめさせて水彩画を描かせた。さぞ、怖かっただろうな。自分たちの知らぬ間に膨大な知識を得て、自分たちの理解の及ばぬ地点へ飛翔していく神童は。
彼らはその陳腐な常識で彼女を人並みに繋ぎ、抑圧した。その反動とも言えるのだろうが、束嬢は我らにも多少以上に縁のある代物──インフィニット・ストラトスを造り上げた。皮肉な事だ。抑圧の結果、彼女は世界を変えてしまったのだから。まぁ、それだけでは無いのだが、それはここではよそう。君も察しは付くだろうからね。
と、長ったらしく語っている訳だがこれもそう大した事では無い。実にあっけないことだ。
彼女は疲れただけだ。傷付けられながら、愛することに虚しさを覚えた。常人より大分遅いが、束嬢は漸く責め苦から解放された。掛け値無しの、無償の愛はとうとう潰えた。喜ばせようとしたことが全て糾弾される環境でよく持ったと思うよ。やはり彼女本来の根幹は聖母のような慈愛で構成されているのだろう。
全てが余りに単純で少し肩透かしを喰らったような気分だろうか?そうか、それは重畳。なに、君を不快にさせるつもり等、毛頭無い。これは君が薪にしてしまった物を復元しているのだよ。どうだろうか?既知感、いや既聴感とも言うべき物を感じているだろう?ふむ、どうやら上手く行っているようだ。
後は君も覚えているだろう。厚顔無恥にも妹は愛しの幼馴染みに追い縋る力、幼馴染みを守れるだけの力、自らが突き放した姉の力を欲し、地に叩き落とされた。その後、倉持の新型機のテストパイロットになると。捨てる神あれば拾う神あり、と言うが正にその通りになったようだ。
ここまで散々に言っておいては説得力等無いかもしれないが、私は篠ノ之箒という人間は嫌いでは無い。実に良い役者ではないかね?劇的だ。己の浅ましさを自覚し、後悔に苛まれ、しかし己の道を切り開く力を求める。そして再びの挫折。既に彼女が取り戻したい物は取り返せないが、彼女が並び立ちたいと思った者はどうだろう?少女は夢から覚めなければならない。辛く、悲しく、されど残酷なまでに美しい現実を生きなければならない。厳しくはあるが、これが法ゆえ仕方あるまい。
む?もっとましな話は無いのか?お気に召さなかったかな、猟犬殿?まぁ、これは前菜のような物だと思ってくれたまえ。
では、こんな話はどうだろう?以前、私が出会った少女の話だ。実に聡明な少女だった。しかし身体が弱くてね、床に伏せる毎日を送っていた。あぁ、私としたことが名を言い忘れていたよ。君も聞いたことがあるだろう。その少女の名はエクシア・ブランケット。今はエクシア・カリバーンか。眠り姫だよ。実にタイムリーなテーマだが、この話は役者が良い。妹を探し彷徨い、亡霊に身を窶した姉は至高だよ。
◆◇◆◇
直撃する物だけを斬っていく。あまり無駄な労力を費やしたくない。フレアもECMも搭載していない機体では回避手段が限られる。外装ブースターを接続した超高速戦闘下ではミサイルすらも置き去りにするほどの速度で目標へと接近する。しかし、僅かなミスが命取りになる。自身が高速で動いていれば、相対的に接近してくる物体も速く感じる。それを紙一重ので回避する。クイックブーストで左右へ回避しながら、右手に雪片弐型を持ち、左手──雪羅の防壁機構を展開する。シールドエネルギーを前面に発生させる障壁。対空砲の弾丸はこれで防ぐ。
ラインアークの保有する空母から発艦して五分。白式──織斑一夏は倉持第六生研から十二キロの地点を飛行していた。予想されていた拠点からの攻撃に加え、情報には無かった艦船──ミサイル駆逐艦からの攻撃を受け、フランクが怒りを顕にしたがそれ以外は特に問題なく作戦は進行していた。いい加減な情報に踊らされた側の一夏はどうでも良いという風な素振りであった。元より圧倒的な物量の前に単騎で突っ込むのだ。艦隊戦だろうが、防備を固めた要塞に駆逐艦の一隻や二隻加わろうが然程変わりは無い。前提が変わってないのだから、今さら増援が来ようがどうしようがやることは変わらない。
『熱烈な歓迎だな。目は回してないな?』
「あぁ、吐きそうだ。鉄とミサイルに愛されてもな、嬉しくないんだよ」
白亜の建物を捉える。予定外の駆逐艦は後詰めの部隊に任せて、目標建造物への強襲体勢を取る。外装ブースターの使用限界は間近。
『パッケージ使用限界だ。パージする』
慣性で進みながら、雪羅の防壁を解除。雪片弐型も
腕を振るう、突く、掴んで投げる、殴る。左手が塵殺を為す。ダストトゥダスト。時には蹴り、敵の近接装備であるナイフを持ち主の喉元に突き刺し、屍と離れないEOSを敵にぶつける。もっと合理的に。工程が多ければ無駄が入る。無手だからと言って、それに拘る必要は無いのだ。殴るより落ちてるナイフを投げた方が早ければ、そうしよう。首を折るより蹴った方が早ければ、そうしよう。施設を進めば進むほど敵は増え、沸いて出てくる。ISは最強の兵器だが、無敵ではない。故に無駄を省き、迅速にタスクをこなさなければならない。被弾や機体損傷は出来るだけ避けたい。
歩兵を潰し、対戦車ミサイルを雪羅で裂く。大仰な固定砲台も発射前に接近して、破壊する。気が狂うほど清潔な白で統一された壁は赤のコントラストを描いていた。鮮やかな赤、暗い朱。そして時折壁に付着している身体の一部だった物。
施設の隔壁が降りて、硬化液が放出される。閉じ込めて、機体ごと一夏を固めて殺すつもりのようだ。隔壁で閉鎖空間となった通路で足元と頭上から降り注ぐ粘性のある液体を浴びながら一夏は雪羅を起動させる。
確かにこの状況は危機的と言える。そう、いくらISでも無敵では無いのだ。箱の中で硬化液をぶちまけられ、化石にされてしまえば終わり。パイロットは窒息してしまうし、機体も少なくないダメージを被る。これがセシリア・オルコットなら、凰鈴音なら、ラウラ・ボーデヴィッヒなら無傷では済まない。死もあり得る。しかし、猟犬なら難なく脱出出来る。一夏にはそれだけで十分だった。
雪羅に収束する光。荷電粒子砲。白式唯一の遠距離兵装。膝まで硬化液で固まっても涼しい顏で、充填を待つ。これをモニターしている者たちは嗤っているのだろう。最期の悪足掻きだと。しかし、一夏はその確信を嗤う。何時、俺が諦めたと言った?何時、これが危機的状況だと認めた?耳元で喚くオペレーターも同じだ。俺は諦めても、慌てても、危機に陥っても無いぞ?
網膜に充填率が六割を越えたことが投影される。満タンで撃つ必要は無い。オーバーキルになってしまう。
雪羅から放たれた光の奔流はいとも容易く隔壁を破壊し、進行上にある物を全て焼いていく。初撃とは比べ物にならない程の威力で蹂躙と言うにはやり過ぎな、灰塵一つ残さない暴力。猟犬には遠く、届く兆しも無い。しかし、歪な片鱗を見せるには十二分を越えている。
だが、これでは終わらない。光を放出し続けている左手を一夏は、滅茶苦茶に振り回す。上下に、左右に、三百六十度、駄々をこねる子供のように振り回す。極大の熱量を帯びた光は施設を両断する刃と化す。硬化液は剥がれ、それを放出するシステムも壊れた。目標がいる区画には刃は届いていない。ならば、問題無い。
嘗て猟犬が語った織斑一夏に内在する先天的な争いを忌避する因子は未だに彼の中に息づいている。彼は真実争いを嫌い、善しとはしない。しかし、何事にも例外が存在する。彼は自身の歪みを正しく認識し、己の解を求める求道を開始した。己の行く道、憧れが行く道を踏破すれば求める物を得られると信じている。その先に彼の可能性と答えがある。故に、これは仕方ないことなのだ。彼が殺すのも、たくさん殺すのも、虐殺するのも彼が人並みになる為に仕方の無いことで、彼にはその圧倒的才能があった。その歪さが現出した白い暴力は倉持第六生研を斬り裂いた。
『全く、ヒヤヒヤさせやがって……滅茶苦茶だよお前は……前方よりISが一機。国家代表のお出ましだ』
グレーの装甲と甲冑のような意匠。
「
「そりゃあ、どうも。
強く出てみたものの、女は内心恐怖していた。決して侮っていた訳では無い。しかし、さすがに国家代表レベルの実力を持っているとは思っていなかった。だが、これはなんだ?目の前にいる男はそんなタマじゃない。織斑千冬の弟だからだとか関係なく、彼が恐ろしい。純然たる格の違いを感じる。勝つためのビジョンが浮かばない。白を朱に染めた左手で貫かれるイメージが頭から離れない。
猟犬が有する圧倒的な経験と直感、それと対を成す圧倒的な才能。織斑一夏が有する最大の武器だ。剣や槍、射撃と細分化されない闘いの才能こそが織斑一夏を実力差を度外視にして
動くのは
白式の装甲に銃弾が跳ねる。防壁を展開せずに突っ込む一夏はそのまま弾丸の雨を浴びている。シールドエネルギーは凄まじい勢いで減衰し、肩からは銃弾が掠めて血が出ている。しかし、止まらない。余計な回避行動を取っていたら、相手は更に距離を離して一方的に撃ち続けるだろう。それは不味い。元よりクロスレンジや超近距離に於ける一撃必殺を得意とする
スラスターでエネルギーを圧縮して放出する。俗に
「ぐッ──!?」
シールドに叩き込まれた衝撃の正体は蹴りだった。急速な加速から繰り出された蹴りはシールドを砕いた。白と朱の斑がシールドの破片が舞う中で見える。右耳に掛けた黒髪と憎悪の欠片も無い謹直な殺意。誰かを殺す為の動き。輝ける白夜。
一閃。右肩から左脇腹へと抜ける紅い線。
「へぇ、存外こんな物か……」
装甲を裂き、肉を斬り、骨を絶つ。甲冑のような装甲は綺麗に斬られ、傷口も一つの美しい軌跡を描いていた。横たわる女を一瞥し、一夏は歩みだす。開いたままの瞼を手で閉じる。
『敵ISの撃破を確認。外でも駆逐艦の撃沈を確認した。卒業おめでとうってか?』
「あぁ、後は楽で良い。人探しだけだ」
『淡白だな。まぁ楽なのは事実だ。三人とも無事だろうな?お前の無茶苦茶で死んじゃいないだろうな?』
「大丈夫だろ。多分」
暫く探索すると三つの生体反応を感知した。分厚い隔壁の先。シェルターだろうか?雪羅を起動させて扉を吹っ飛ばすと部屋の隅に固まる三つの人影を見た。
「あぁ、お久し振りですねおじさん。少し痩せましたか?酷い顔だ。箒もおばさんもやつれてる。ホラ、助けに来ましたから」
目標確保。作戦終了。
一夏君、大暴れするの回。
本屋が準レギュラーになりつつある、この頃。
もう、光の亡者タグ付けようかな……。
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