転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 本屋「我が麗しの英雄、我が愛しい親友の義娘ならば、私の義娘とも言えるのでは?」

 猟犬「何言ってんだお前?」



 何言ってんだコイツ……


 ほんへ、どうぞ。


Dear moment

 

 

 

 

 

 

 

 格納庫で機体の整備をしていると声を掛けられた。ふと、振り返ると小麦色に肌を焼いた快活そうな男がいた。

 

 「あんた誰だ?」

 

 一夏が訊く。知り合いでもなければ、何処かで会ったことも無い。

 

 「つれないねぇ。まぁ、声だけじゃ分からないか。デルタスリー?」

 

 「あぁ……HQ……」

 

 そういうこと、と男。脇にファイルを抱えながら、手を差し出した。一夏は握り返す。

 

 「お前さんの担当オペレーターを務めることになった、フランクリン・デズモンドだ。フランクって呼んでくれ。出身は西海岸、海兵隊でEOSに乗ってた。その後、ここに来て警備科で二年、今は電子科でデスクワーク」

 

 「知ってると思うけど、織斑一夏。乳臭い学生で、さっき傭兵になったばかりのクソガキ。右も左も分からないから宜しくお願いしますよ」

 

 「タメでいい。俺らは今からパートナーだ。二番目に大事な、な。お前の一番は勿論、その可愛いお姫様(白式)だ。早速だが仕事の話をしよう。コーヒーはいかが?」

 

 プラスチックのタンブラーを受け取って、無骨なパイプ椅子を広げる。適当な作業大を持ち出して、フランクは脇に挟んでいたファイルを広げた。同じように、ディスプレイを投影して詳細を提示する。

 

 「今回の作戦は要人保護だ。目標は倉持第六生研に拘束されている篠ノ之箒と、その両親の計三名。位置は小笠原諸島付近の地図から抹消された島だ。情管(情報管理科)の話だと、元々はグアンタナモの真似をしたブラックサイトだったらしいが、倉持の役員をやってた国防族の議員が買い取っただとか。全体の戦況としてはGAジャパンと有澤が粗方、国内を制圧しつつある。倉持は篠ノ乃箒を新型に乗せて起死回生を図るつもりだろうが、ここで摘ませて貰う 」

 

 具体的なプランは、と一夏が促す。急かすなよ、とフランクはコーヒーを含む。力んでいるとろくなことが無いぜ?ガチガチに力入れてた同期は俺の隣で脳味噌ばら蒔いて婆ちゃんの所に逝っちまった。一夏(ルーキー)は手先でタンブラーを弄くる。気負いすぎない方が仕事はやりやすい。

 

 「回収用の部隊を向かわせる。お前はお迎えが来るまでに掃除をしてくれれば、それでいい。だが埃一つでも残したらアウトだ。確かに無駄な血を流すのはスマートでは無いかもしれないが、オーダーはきれいさっぱりだ。きちんと塵取りに入れなきゃならない」

 

 「戦力予想は?」

 

 「国家代表と打鉄カスタム、歩兵とEOS多数。各種兵器がより取りみどり。目標建造物に接近する際に、お前には超高速戦闘パッケージを装備して突っ込んで貰う。猟犬も第七艦隊にVOBで突っ込んだ。それのオマージュだ」

 

 「VOBを使う?」

 

 「いや、あれは猟犬専用だ。あんな物使ったらミンチになるぞ。あれよりは幾分か人間が使う物らしくなっている。目標の位置は追って知らせる。初陣だ、派手にやれ。お前の機体は修理以外は金が掛からない」

 

 了解、と短く返して作戦ファイルに目を通す。初陣で国家代表をぶつけられるとは思わなかった。だが、機体は第二世代を弄っただけの粗製。武装も目立って脅威になりそうな物も無い。専用機もあったのだろうが、破壊されたか修復中なのだろう。このパイロットは一度敗走しているらしい。GAのメイ・グリンフィールドと交戦した記録が記されている。こんな事にならなければ、モンドグロッソにでも出てたのだろう。

 

 年寄りは苦手だ、と一夏は笑う。態々、自分に篠ノ之箒を助けに行かせる理由は無いだろう。それ以前に篠ノ之束が滞在するタイミングでその血縁を同じ地に置く必要性が皆無だ。双方、望まないことは明白。老婆心だか、爺のお節介かは知らないが、自分に白馬の王子様の役をやらせて家族関係を修復させようとでもしているのか。今さら、篠ノ之家を握った所でアドバンテージは無いことぐらい分かっているだろうに、パフォーマンスのつもりだろう。

 

 溜め息を吐いて、タンブラーを口に運ぶ。傭兵としての初陣まで十二時間。力むなとフランクに言われたが、然程緊張もしてなければ、上がっている訳でもなかった。失敗するビジョンは浮かばない。良い傾向なのだろうか?

 

 「囚われのヒロインを助けに行く割りには随分と落ち着いてるな、相棒」

 

 「現代っ子は薄情だからね。クールなんだよ」

 

 「幼馴染みなんだろう?」

 

 「まぁ、そうだな、幼馴染みだよ。でも、たかが幼馴染みとも言える。家族と比べれば、劣る」

 

 他人への愛が理解出来ない破綻者。織斑一夏の自己評価であり、真実である。家族と言える人物や一部の人間を除き、彼は本質を見せない。織斑千冬と一部以外のその他大勢に振り撒かれる平等な偽愛。篠ノ之箒も他聞に漏れず、温厚で善良な善き青年としての虚像を現実に見ていた。実直で正義感溢れる朴念仁。そんな織斑一夏など、何処にもいない。

 

 一夏は幼馴染みの顔を思い浮かべる。黒髪のポニーテール。義だの正々堂々だのと、昔堅気な人間だ。端的に言えば不器用。柔軟性が無いというか、その癖美味い思いをしたら味を占める。それでも悪い奴では無いと思う。共にいて不快になる類いの人間ではなかった。だから仕事云々関係なく、助けたいとは思う。普遍的な道徳に照らし合わせて、それが一般的に正しい行動であると判断する。そこに一夏自身の意思は介在しない。

 

 「一夏」

 

 自分を呼ぶ女の声。最も愛する女性の声。一夏は搬入口へ視線をやる。最愛の姉が立っていた。いつもの黒いスーツとヒール。仕事終わりか、視線は鋭い。

 

 俺はお邪魔のようだ。そう言ってフランクは席を立つ。今夜はよく眠れ、と肩を叩き格納庫を去った。姉弟のみが残された。

 

 「束がさっき到着した」

 

 「そう。そりゃあ、良かった。久し振りに話すかも」

 

 一夏はふわりと笑った。無邪気で、屈託の無い、しかし太陽のように眩しい訳では無い笑み。視線を姉からファイルに戻す。然り気無く投影ディスプレイの電源を切る。ヒールを鳴らしながら、千冬はフランクが座っていたパイプ椅子に座った。

 

 一夏が淹れたコーヒーを両手で包み、弟の横顔を眺める。随分とじっくり眺めることの無かった整った相貌。伸ばしているのか、伸びた髪を耳に掛けてピンで留めている。年不相応な色気を纏っている。だが、それだけでは無い。決定的に変わっている、変わってしまった物がある。

 

 「それが本当のお前なのか?」

 

 意を決して、口を開く。目を背けてきた深淵を覗き込む。深淵(一夏)は姉を覗き返す。弟の顏で、弟の声で深淵(一夏)は言葉を紡ぐ。

 

 「あぁ、これが俺だ。誰のせいでも無く、気付けば壊れていた。破綻者だ。他人への愛を理解できない。認識出来る、でも理解できない。好意を向けられた所で、それがどんな物か分からないから返しようが無い。だから理解したい。分からない、気持ち悪い(理解できない)物を理解したい。当然の欲求だ。解を求めている」

 

 「だから戦場に行くのか?そこにお前の探す物があると?」

 

 あぁ、と些事のように一夏は返す。

 

 「ふざけるな!!」

 

 マグカップが作業台に叩きつけられた。広い格納庫には音がよく反響した。

 

 「何故、戦場で答えが得られる?何故、戦場で愛を知ることが出来る?お前が他人への愛を理解できないとしても、戦場に行く必要が何処にある?」

 

 「闘争の先に解がある。そう感じる。この求道の先に、何かが掴めると信じている。あの人(石井先生)は絶対的なハンデを己の意思だけで克服した。適正という分厚い、才能の壁を打ち壊して解を得て、新たな形へ至った。石井先生なら出来た。ならば、俺も出来る筈だ。あの人は才能の差で諦めなかった。ならば、俺も諦めない。解を得るまで諦めない」

 

 「石井は関係ないだろ!!」

 

 「いいや、ある!!あの背中に憧れた!!誰が何と言おうと、あの人は俺の追いかけるべき恒星だ。憧れが踏破した道を俺も征く。辿り着く場所は違えど、俺は俺の望みの為に歩み続ける。諦めなければ、解を得られると信じている。だから闘うんだ。俺は、誰かを愛したいんだ……身体が闘争を求めているんだ……でも、それ以上に」

 

 一夏は千冬を後ろから抱き締めた。突然のことに千冬は戸惑い、身を固くする。一夏は強く、強く千冬を抱き締める。そして絞り出すように、声を出した。耳元で囁かれる、その願いは甘くて、どろどろとしていて、千冬の脳髄を溶かすような麻薬性を持っていた。

 

 「あなたに……千冬姉に報われてほしい。千冬姉はもう十分、闘ったよ。俺を育てて、夜遅くまで仕事して、俺のことを守ってくれて。もう十分だ、十二分に守られたよ。少し休んでくれ。これからは俺が千冬姉を守るよ。俺が千冬姉の代わりに闘う。誰かを愛したい。でも、俺が今、全力で愛を向けているのはあなただ。唯一人の家族なんだ。だからあなたに害を成す物(塵芥)は俺が全部斬る」

 

 腕を離して、搬入口へと向かう一夏。弟の姉への愛はよく効いたようだ。姉としての苦労、苦悩へ報う。姉孝行とでも言うべき一夏の願いは千冬の心臓を掴む。千冬の顔には汗が浮かぶ。恋慕する男は闘い続け、弟もそれに続く。後者、唯一の家族に至っては己がその切っ掛けを作ったような物だ。

 

 「だから、俺は闘うよ。そんなに高尚な物じゃない。金で動く傭兵でも、それぐらいの願いは持ってても良いじゃないか」

 

 格納庫の扉が閉まる。作業台に頭を押し付ける。無力感に苛まれる。人生最大の無力感だ。力が抜けていく。

 

 弟は本当に何処までも闘い続けるのだろう。それこそ、四肢が千切れようとも、修羅に、悪鬼羅刹になろうとも己の願いと姉の為にその身を闘争へと投じ続けるのだろう。 

 

 十分なのはこちらの方だ、と独白する。確かに苦しい時もあった。折れそうになった時もあった。それでもここ迄来れたのは弟のお陰だ。その笑顔と優しさに何度救われたことか。その弟が笑って、楽しく暮らしてくれている。それだけで織斑千冬は報われていた。それなのに──

 

 「馬鹿な弟だ……本当に、教師も教え子も揃って、大馬鹿だ」

 

 力が欲しいと心の底から願う。何処までも闘い続ける馬鹿な男二人を殴れるだけの力が欲しい。職員室で馬鹿な同僚とアホらしい世間話をして、馬鹿な弟の料理を食べて、馬鹿な同僚と一緒に授業をして、馬鹿な弟のドジに共に頭を抱えて。そんな刹那が愛しい。どいつもこいつも闘うことばかり考えて、残される者のことをすっかり頭から追いやっている。石井も、一夏も、束も、滅茶苦茶に掻き乱して、もう戻れない。だからせめて、馬鹿共を殴って、もう一度やり直したい。崩れたならもう一度積み重ねればいい。

 

 その願いに、兎は笑い、蛇は嗤った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 人が一人もいない街というのは、どうしようもなく不気味さを感じさせる。人の営みがすっぱりと途絶えて、風が路地を吹く。廃墟になったビルには出所の分からない音が響き、何処からか何かが倒れる音が鼓膜を震わす。成る程、ゴーストタウンとはよく言った物だ。

 

 耐弾外骨格(アーマー)を装備したISスーツにHK416を構えた白髪の男──猟犬は亡霊の街を歩く。生体反応は皆無。人一人として、犬の一匹もこの街にはいない。血の一滴も無く、屍の一つも無いままに街は死んだ。発令された避難勧告は正常に機能し、住人をシェルターへと誘った。残ったのは文明の象徴足る鉄筋の塔と脱け殻。

 

 白く照らされる。そう感じる。人の営みが途絶えた街は色を失っていた。瓦礫では無く、舗装された綺麗なアスファルトを踏み締めて命の無い街を歩くのは始めてだった。大体は舗装も儘ならない悪路か、瓦礫や燃える地を歩いて命の途絶えた街へと向かった。今回のようなケースは珍しかった。

 

 嫌味な程に歩きやすい戦場をただ一人、滑稽な程に警戒しながら進むと一つ裏の路地に昼間からネオンを付けるバーが目に入った。Aのライトは切れてるらしく、BとRが煩く点滅していた。年期の入った木のドアは所々に傷が見え、銃痕が一つ補修されていた。ハンドガンに持ち替えて、ドアを引く。

 

 「その物騒な物を下ろしてはくれまいか?」

 

 カウンターに立つ影絵のような男が両手を上げる。紺色のコートに身を包み、髪を黄色のリボンで纏めた胡散臭い知己。猟犬はホルスターにハンドガンをしまって、手近な椅子に腰を下ろした。

 

 「ご注文は?」

 

 「ビールかスコッチ。無ければ、適当で構わない」

 

 「承ったよ、猟犬殿」

 

 マッカランをグラスに注ぎ、ドライレーズンが盛られた皿を出してくる。猟犬はグラスを口に着けて、レーズンを摘まむ。影絵のような男──本屋もワインを味わう。

 

 「猟犬殿、チェルシー・ブランケットがそろそろ裏切る頃合いだが?」

 

 本屋が徐に口を開く。猟犬はちらりとカウンターの向かいに立つ詐欺師を見て、レーズンの皿へと意識を戻す。

 

 「それがどうした?前々から分かっていたことだろう。あれは元から亡霊の側の人間だ。今さら、そんな事を言う為に態々呼んだのか?」

 

 「いやいや、違うのだよ。チェルシー・ブランケットが裏切ることなど私も委細承知だが、私が君を呼んだのは別の理由だ。私としては君と直接会ってこうして飲み明かすことが愉しみの一つでもあるのだが、今回は君に耳寄りな情報を持ってきた」

 

 「相変わらず、回りくどい言い方が好きだな。何だ?」

 

 「これは癖故な。仕方ないのだよ。では、これを」

 

 出される記録媒体。端末に接続して、内容を改める猟犬を眺めながら本屋は続ける。

 

 「私が何故、ここを選んだか分かってくれたかな?ここは君のセーフハウスよりも、あの島に近い。飛ばせば、三時間程だろうか」

 

 「成る程、確かに理に叶っている。だが、セーフハウスにいても間に合ったと思うが?」

 

 「悲しいな、猟犬殿。そんなに私と顔を合わせることが嫌かね?」

 

 「私の他にも友人を作れば良いだろう。別に私に固執する理由も無いだろう」

 

 「違うな、違うのだよ猟犬殿、我が親友。私が真に心の底から敬い、友と認めるのは()()()だけだ。その所以は先日の通話で察してくだされ。私は真にあなたを想い、あなたの英雄譚を望んでいる」

 

 「またそれか……まぁ、良い。お前の交遊関係の狭さは今に始まったことじゃない」

 

 「然り、友など君だけいれば良いよ」

 

 そういう台詞は女に言ってくれ、と猟犬はグラスを空にする。本屋がそこに琥珀色の液体を注ぐ。

 

 誰もいない死んだ街で、男二人はひっそりと宴を開く。猟犬と蛇、互いを喰らわない稀有な組合せは夜の帳が降り、それが上がると街から消えていた。最期の客が帰った街は今度こそ死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 猟犬出撃→ガシッ、ボカッ→敵は滅びたガンマレイ♪すぎて容易に主人公を戦わせられないジレンマ。


 ・小ネタ『面接(強行)』

 ???「魔術の経験は?」

 石井「何ですかそれ」

 ???「あぁ、大丈夫ですよ。経験が無くても、ウチは大歓迎ですから。道具(宝具)も支給されますから、心配無いですよ」

 石井「業務内容って何ですか?」

 ???「清掃です(人類の自浄作用)」

 石井「清掃ですか(ビルの清掃とかかぁ)」


 フロムみをもっと出したいこの頃。


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