転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 この作品のグランドルートは三つ巴です。(大嘘)

 本屋「嗚呼、猟犬殿、我が麗しの英雄よ……その輝きを、未知の結末を見せてくれ!!」

 猟犬「吼えたな、詐欺師。俺は英雄などでは無いが、貴様は欠片も残さず消してやろう。来い、勝つのは俺だ」

 一夏「あぁ、あぁ……あぁ……煩いぞ。お前はいらないぞ、不必要だ、消えろよ本屋(塵芥)、糞が。お前が石井先生を語るなよ。邪魔だ。お前がいると石井先生に届かないだろうが」


 石井先生愛され過ぎィ!!

 ほんへ、ドゾー!!(迫真)


Why don't you come down

 

 

 

 

 

 『よぉ、猟犬。作戦を説明する。雇主はいつものGA。と言っても、ビッグボックス(本社)の連中じゃない。グループのお偉方からの依頼だ。十三時間前、アフリカで建造されていたオルコット財閥製アームズフォート『スピリット・オブ・マザーウィル』の一番機がロールアウトした。六脚歩行型のドデカイ移動要塞だか、地上空母だ。詳細は添付した資料を見てくれ。お偉方はこいつを早速動かすらしい。アナトリア半島への侵攻作戦が提議された。現在、マザーウィルはスーダンの工場付近を移動している。だが、エジプトととの国境にフランス軍がわんさかいるらしい。正直、寝起きのマザーウィルだけだと不安ってことか。本来ならこの辺りは西アジアを拠点にするアルテスか、ヨーロッパで大暴れしてるレオネアの領分なんだが、連中は手が空いてないとか何とか言っててな。GA所属のISも北米攻略に出払っている。すまないが支援機は望めない。内容はごく単純、敵を全て倒せばそれでいい。数が多くてちと面倒な作戦だが、見返りは十分に大きいぞ。連絡を待っている』

 

 猟犬は慣れた手付きで出撃の準備をする。すっかりと色の抜け落ちた、白い雪のような髪を棚引かせ、決まった手順で決まった工程をこなし、結果的にやることは変わらない仕事の支度を始める。何も変化も、機体の不調も無い。だが──

 

 『嘗て抱いた願いを封じて、化石を抱いて闘う猟犬よ。君は自らの悪正義をまだ忘れてはいまい。それこそが君の化石。嗚呼、だが哀しいな。いつかそれすら君は薪にするのだろう──』

 

 気持ち悪い。魚の小骨が喉奥に引っ掛かってるようだ。詐欺師のような知人の言葉が妙に引っ掛かる。何か、致命的なことを忘れているような、喪失感を覚える。

 

 開戦から六日目。戦況は企業の圧倒的有利で進んでいる。猟犬はそれに企業側の依頼を受けて介入している。戦果は上々。第七艦隊撃滅に始まり、大量の国家側の戦力を喰らった。猟犬の介入によりGAグループの北米攻略の進捗率は大いに進んだ。中米エリアへ裂く戦力にも余裕が出来たとはGA仲介人の弁。

 

 思惑通りに事は進んでいると言えるだろう。彼の飼い主が目指す『評決の日』への布石は滞りなく打たれている。国家というシステムは崩れ、企業が支配する新たな時代が近付いてきている。正常な戦争。大量絶滅。白亜期に恐竜という地上を支配した生命種が絶えたように、旧き人の枠が淘汰される。星の誕生以来幾度と無く繰り返されてきた霊長の入れ替え。それを限りなく希釈し、人類種の絶滅を除外した間引き。IS登場以前から確定していたいつか来るであろう大闘争の到来。猟犬の参戦はそれを加速させる。

 

 猟犬の瞳はセーフハウスに入った時から一度も色を灯してない。煌々と最奥で焔が薄く揺らめく。誰にも行き先を告げずにここに来た。同僚は勿論、飼い主にも知らせなかった。そういう手筈ではあったが、飼い主もこのセーフハウスの存在と位置を知らない。ある意味、このセーフハウスこそ猟犬本来の自宅とも言える。

 

 もうそろそろラインアークに着いた頃だろうか、と猟犬は飼い主の動向を思う。開戦してある程度国家側の損害が大きくなったタイミングを見て、協力者である轡木十蔵が収めるラインアークへと引きこもるという計画。それまで通りに暗い海の底をぶらついていても良いのだが、飼い主が陸に上がりたいと所望した結果、ラインアークに滞在するということになった。

 

 フライトジャケットのポケットを(まさぐ)り、煙草を探すとくしゃくしゃのソフトパックしか出てこなかった。小さく舌打ちをして、ゴミ箱へ放り投げる。積み上げられた木箱の一つを殴って、溢れたソフトパックをポケットに押し込む。他にもレーションや水、サバイバルキットをザックに入れて拡張領域(パススロット)の中へ投げ込む。時代遅れのコンロで作ったベーコンエッグを掻き込んで、シャッターを上げると眩しい朝の光が射し込んだ。

 

 「最悪だ……」

 

 猟犬は呟くと、飛翔した。八度目の介入が開始される。

 

 七時間後、スーダンとエジプトの国境に敷かれた血と炎と油の絨毯を踏み締めるマザーウィルが確認された。これにより、GAグループの全面的な中央アジア進出が開始される。後にこれはGAとアルテスの深い確執を成す一端へと繋がる。

 

 マザーウィル国境通過の二時間後にはレオネアがフランスを陥落させる。アルテス傘下のデュノアは本社機能を放棄し、国外へ撤退した。ヨーロッパの覇権を事実上、レオネアが握った瞬間であった。

 

 猟犬の八度目の介入を引き金に、国家解体戦争は新たなステージへと突入する。完全に国家というシステムを淘汰し得ていない状態ではあるが、戦況はIS委員会(企業連)とアラスカ条約機構の企業間抗争、二つの大きな巨人──GAとレオネアの対立構造が顕著になっていく。北米と欧州の大西洋を挟んだ緊張状態は、嘗てのアメリカとイギリスの独立戦争を彷彿とさせた。相違点を挙げるとすれば、ブリテン島がアメリカ側の領土ということか。

 

 そして、混迷を極める表舞台に元凶とも言える人物が舞い戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 旧IS学園、学園長室。現在はラインアークの盟主たる男の執務室となっている。

 

 高そうな応接用のソファーの座り心地は格別と言える物だった。腰まで沈むような柔らかさのボルドーの革。人によれば落ち着かない者もいるだろう。ソファー以外の物もそうだ。デスクの上のボールペンでさえ見るからに高価であることが分かる。大人の拘りと言ってしまえばそれまでだが、矢鱈と高そうな物に囲まれてはリラックスして話をしろと言われても上手く口が回らない。出されたティーカップがマイセン等という有名な高級老舗メーカーの物であるなら尚更。

 

 「落ち着かないかな?」

 

 「えぇ、まぁ。失礼ながら、楽しく世間話する気にはならないですね。知っての通り、出はしがない庶民ですので」

 

 「歳を取ると金ばかり貯まってしまう。汗水垂らして得た物でも、使い道が見当たらない。元より趣味と言える物が少なくてね。妻も物欲のある方では無い。だからこうして身の回りに気を付けてみようと思ったんだよ。一つ一つの物をより洗練された物にしていく。これが中々どうして、面白くてね。老い先短い身だが、死ぬまでの一点物を探すことに嵌まってしまった。まぁ、まだ若い君には縁の無い話だと思うがね」

 

 「いえ、とても興味深い話だと思いました。先人のありがたい言葉として頭に入れておきます」

 

 そうか、と轡木はカップをソーサーに置いて目の前に座る老成した雰囲気を漂わせる少年、織斑一夏を見た。一夏はカップに口を着けて、紅茶で喉を潤す。落ち着かないと言う割りには、動じていない。視線に気付くと不適な笑みを浮かべて、ソーサーと一緒にカップを置いた。

 

 「俺を呼んだのは束さんの件ですか?」

 

 一夏は両手の指を組んで訊いた。真剣な話をする時の癖だ。しかし、それを知る者はいない。仮面を外した彼を知る者は極端に少ない。

 

 「違う。その件は束君から事前に連絡があった。仮にも私は彼女の協力者だ。ある程度の動向は知らされている」

 

 「初耳ですね。では、どうして俺を?」

 

 「初めて言ったからな。君は警備科の研修は終えたのかね?」

 

 「はい。取り敢えず、警備科と情報管理科で研修を受けました。研修だけで、BCT(基本戦闘訓練)はまだです。今は歩哨任務やりながら、見習いやってます」

 

 轡木は傍らに置いてあったファイルからだったら一枚の書類を取りだし、視線を向ける。紙が擦れる音が静寂を妨げる。一夏はソファーに背を預け、窓の外を眺める。大して眺めも良くないが、することも無いから遠くを見てみる。紅茶もたまには良いかもな。セシリアに紅茶のこと教えて貰おうかな。いや、シャルも詳しそうだな。取り留めの無いことを頭に浮かべては消していく。用が無いなら、帰っても良いのでは?無礼だが、意味も無くここにいても利は無い。

 

 「現在のラインアークの収入源は分かるかな?」

 

 不意に轡木が口を開いた。視線を戻す。

 

 「研究開発、学園経営、教導。それと戦闘業務代行、戦力派遣でしたっけ?」

 

 「前者に関してはこれまで通り、恙無く回っている。後者は現在この業務に着いているのは楯無君のみ。先程、シトニコフからの依頼を終え、ロシアから帰還した所だ。簡単な警備任務だった」

 

 「シトニコフですか。代表つながりですかね。ロシア出身企業だから?」

 

 「恐らくは。私は君に二人目の傭兵になって貰いたいと思っている」

 

 俺が、と一夏。轡木は深く頷く。千冬姉に怒られそうだ、と肩を竦めて笑う。

 

 「君もコアからある程度情報を受け取っているのではないか?シングルナンバーの事も、それなりには知っているだろう。君と白式は現時点で我らラインアークが有する、()()()()()()唯一のシングルナンバーコアだ。力量についても問題は無いだろう。楯無君と合わせた最高戦力と言っても申し分無い」

 

 「随分と持ち上げますね。俺はまだ童貞のガキですよ。それに、我らが千冬姉こそが最高戦力と言えるのでは?俺なんか足元にも及ばない。変に上げられて、犬死にするのは御免被ります」

 

 「最近の若者は裏表が激しくて困る。姉に似ずに、随分と冷めた、シニカルな態度を取るんだな」

 

 「歪んだ欠陥品ですので。気に食わないですか?」

 

 まさか、と轡木は一笑に付す。欠陥品等、珍しくも無いと。織斑一夏の鍍金が剥がれて、本性がどんな物であろうと、織斑一夏の価値は変わらない。

 

 「どうかな?受けてみないか?」

 

 「悪くはない。前向きに考えたいです。でも、絶対に許さない人がいる。それはどうにかしてください」

 

 ふぅん、と鼻を鳴らす。会ったばかりの頃の猟犬に似ている。いや、今もそうか。

 

 「いいだろう。君は君の為に、私はこの楽園の為に。末永く」

 

 一夏は差し出された手を握り返す。食えない爺さんだ。奇しくも、その所感は猟犬と同じ物だった。轡木は手にしていた書類をテーブルに置く。見ろ、と。

 

 「最初の仕事だ。依頼では無い。ラインアークとしての作戦行動だ。さっさと、童貞を棄てたまえ」

 

 書類を眺めること数瞬。へぇ、と呟いて立ち上がる。

 

 「あんた、性格悪いよ。最高に悪いね」

 

 薄く、唇を歪ませて一夏は部屋を出た。

 

 廊下を歩くと、制服を着た楯無と鉢合わせた。おかえりなさい、と一夏が言う。ただいま、と楯無。

 

 「ロシアはどうでした?ボルシチ食べました?」

 

 「不味いレーションで口が死にそう。バジュレイの無人兵器を爆発させるだけの簡単な仕事よ。寒いだけ」

 

 「お疲れ様です。今から報告に?」

 

 「あなたはどうしたの?」

 

 手に持った書類をひらひらと揺らす。楯無はそれを手に取る。眉を潜め、ほんの少し哀しげな顔をする。

 

 「本当にこっちに来るの?今なら戻れる。悪いことは言わないから、やめなさい。ろくな事が無いわ」

 

 「心配してくれてる?」

 

 勿論、と楯無は一夏を見る。可愛い弟分を潰したくない。しかし、一夏はそれを否定する。彼の本質は研磨され、顕になりつつある。その上で彼は求道している。これも、その一環に過ぎない。

 

 「俺はやりますよ。その先に俺の歪みを、空っぽを埋める答があると信じている。俺には闘いが必要なんです。誰が何と言おうとね。好き好んで殺したくは無いけど、必要なんだ」

 

 そう、と短く答えると書類を一夏の胸に押し付けた。暫く俯き、一夏に微笑みかける。

 

 「この後、空いてる?」

 

 「ホームアローンを見るぐらいには」

 

 「じゃあ、付き合いなさい。ご飯食べるわよ。何か作って」

 

 「デート?誘ってる?」

 

 「さぁ?どうかしら。いつからそんなプレイボーイになったの?」

 

 「なっちゃいない。全部口から出任せですよ。また、後で」

 

 手を振って、一夏は自室に戻る。食材の準備をしなければならない。

 

 

 『篠ノ乃家奪還作戦』まで十八時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 何年ぶりだろうか。リクライニングチェアにもたれ掛かる女性は思う。垂れ目をはっきりと開き、合金製の天井を見つめる。

 

 IS学園よりも前、その人工島が『国際先進宇宙工学開発研究所』という長ったらしい名前の牢獄であった頃から、その地にはいい思い出は無い。自分の為の監獄で、自分の為の箱庭で、自分の為の玩具箱だった。もっとも、求める水準に達していない、使いどころの無い玩具であったが、退屈で人を殺す凶器としては優秀だったとあの島は評価出来る。

 

 何の因果か、その忌まわしい地に再び根を降ろすことになるとは思わなかった。人生、何があるかは分からないが、よりによってあの島とは、と笑う。全て自分の描いた図面通りだが、どうなのだろう。きっと、何もかも変わっている。それは少し楽しみだ。出来るなら自分を守ってくれているあの男と共に里帰りしたかったが、連絡が着かない。暫く連絡はしない、とだけ言って世界中で暴れまわっている。うんともすんとも言わなければ、何処にいるかも分からない。娘も心配しているというのに、どうしようもない父親だ。

 

 大きく身体が傾く。上昇を開始したようだ。もう、目的地が近い。

 

 「束様、もうそろそろです」

 

 「そうだね、くーちゃん。もうすぐだね。着いたらあのトンチキ野郎の部屋を隅々まで漁ってやる。ヘビースモーカーめ、煙草全部捨ててやる。連絡の一つも寄越さない奴にはお仕置きが必要なんだ」

 

 海面から巨大な船体が浮上する。空母二隻分の大きさを誇る潜水艦──我輩は猫である(名前?ねぇよ、んなもん)がその姿を現す。黒い船体の上部が開き、人影が二つ船体の上に立つ。

 

 「クソ忌々しい人工島よ!!私は帰ってきた!!これはお約束だよね!!」

 

 世界一傍迷惑な天才、天災──篠ノ乃束が表舞台に返り咲く。

 

 

 

 

 

 

 

 






 一夏、傭兵やるってよ。


 ・小ネタ


 石井「なんだコレ?」

 『最近、謎の使命感に駆られているそこのアナタ!!その使命感を人類の為に使ってみませんか?急募、抑止力の代行者。勤務条件、応相談。アットホームな職場です。株式会社アラヤ。電話番号──』

 ???(弓)「新入りか?」

 石井「え?」





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