転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 知ってる?これ、第二部、二話目なんだぜ?

 ヒロインたちの胃に穴を開け隊。

 そろそろ一夏魔改造タグをつけるべきか悩む。

 そんなこんなの本編、どうぞ。



Loss

 

 

 

 

 

 

 独立学園研究都市ラインアーク。企業が国家に宣戦布告すると同時にあらゆる勢力からの独立を宣言した、第三の勢力。盟主は元防衛省情報本部(DIH)本部長、轡木十蔵。表向き、旧IS学園の学園長を勤めていた轡木藤子夫人の夫である。日本という国家の情報戦を支えた護国の将は国を裏切った。

 

 独立宣言後、ラインアークは前身であるIS学園の設備をそのままに、密接な協力関係にあるGAグループ傘下有澤重工の協力の元、急速な施設開発を押し進める。居住区、食糧生産プラント、工廠、防衛設備の増強。旧体制の裏切り者たちは楽園を着々と築いていく。当代の楯無はシトニコフの要請を受け、傭兵としてロシアへと向かった。更識という一族、組織は二分した。生き残りを第一とした楯無(ラインアーク)派と、国家の存続を第一とした先代派。変革の波は国家の闇さえも押し流す。しかし、皮肉にも更識という血脈はどちらに倒れても続いていくこととなる。

 

 そんな恐ろしく情勢が不安定な中、ラインアークは世俗とは反対に穏やかな日常が流れていた。午前で切り上げられるものの、通常通りに授業が行われ、部活動も行われている。戦火とはかけ離れた何処にでもある学園生活を生徒たちは送っていた。生徒の家族たちはラインアークとGA日本支社が確保、保護し、安全を保障している。権利も保障され、滅多な事では突破されない防衛線。ある種のシェルターやコロニー。正しく楽園と呼ぶに相応しい場所となりつつあった。

 

 ラインアークは海上に浮かぶ人工島である。故に、本土と島を結ぶ橋は補給の面で重要な役割を果たす。多くの検問所や詰所があり、警備科の職員が二十四時間体制で警備に当たっている。その検問所の一つ。連絡橋の中程に位置する検問所で一人の男が歩哨任務に着いていた。黒いコンバットブーツとグレーの都市迷彩、ボディアーマー。貰い物のサングラスを掛けて、M4カービンをぶら下げる男──織斑一夏は舐めていた飴を噛み砕いて通信を繋げる。

 

 「HQ、こちらデルタスリー、異常は無い。定期報告を終了する。オーバー」

 

 『HQ了解、デルタスリー、もうそろそろ交代だ。授業終わりで疲れているだろう。ゆっくり休んでくれ』

 

 「ありがとうございます。今度そちらにも差し入れ持っていきますね」

 

 『期待してるぜ新人。とびきり美味いのを頼む』

 

 検問所で引き継ぎを済ませ、橋を学園へ向かって歩く。サングラスは外してポケットへ突っ込む。吹く風は海上ということもあってか随分と寒い。早く部屋に帰って暖かい物が食べたい。冷蔵庫にある物で軽くスープでも作ろうか等と考えていると、見覚えのある人影が見えた。傍らには見知らぬ女性。軍服を着ている。

 

 「ラウラ?」

 

 「む、嫁か」

 

 クラスメートのラウラ・ボーデヴィッヒだった。寒い中、態々風が強い橋の上で佇んでいた。一夏はポケットにあった飴をラウラに投げると軍服の女性に会釈をした。

 

 「嫁、紹介するぞ。クラリッサだ。今朝ラインアークに着いた。私の部下だった者だ。シュヴァルツェ・ハーゼ全員がラインアークに亡命した」

 

 「織斑一夏で宜しいか?隊長がいつもお世話になっている。クラリッサ・ハルフォーフだ」

 

 「あぁ、こんな格好で失礼する。知ってると思うが、織斑一夏だ。よろしく頼む。しがない学生だから色々教えて貰えれば助かるよ。見ての通り、警備科で見習いもやっている。もし、警備科に入るなら仲良くしてくれ」

 

 グローブを外して、握手をする。可もなく不可もない挨拶を済ませる。クールな眼帯だ、と軽口を叩きながら笑みを浮かべる。悪い印象は与えないだろう。

 

 「それにしても、何でこんな寒い所にいるんだ?話すにしても中の方が暖かいだろう。着いて早々に風邪なんて引いたら大変だ」

 

 「クラリッサの亡命の際の話をしていたんだ。随分と急なことだったんだ。私も昨夜、博士から知らされたんだ」

 

 束さんから、と一夏。ラウラは頷く。

 

 「レオネアが蜂起する直前に、基地に『本屋』と名乗る男が現れたんだ。腰まである長髪の胡散臭い男だった。男の口車に乗せられて、気付けば輸送機に乗せられて、いつの間にかここにいた。詐欺師みたいな男だったよ。関わり合いになりたくない手合いの男だ」

 

 「それは御愁傷様。でも、良かったじゃないか。無駄に死にに行かなくて。ラウラとも合流できた。その様子じゃ親兄弟も無事なんだろう?ここにいる連中は皆そうだ。家族の安全が保証されて、ここにいる。政府軍の空爆に巻き込まれる危険は無い。そのぐらい狐に化かされたとでも思っておけばいいさ。それとも、あんた愛国者だとか?」

 

 「いや、そういう訳では無い。だが、そうだな。自分の知らぬ間に色んな物が動いて、知らぬ間に安全地帯にいると考えると、不気味というかなんというか」

 

 「そんな物だよ。俺もあんたも、お偉方も全部を完璧に把握してる奴なんていやしないさ。何処か皆抜けてるよ。まぁ、中には全部を全部知っている人たちもいるけど、それは例外だ。何はともあれ、ようこそラインアークへ」

 

 三人は歩き出す。一夏は息を吐いて手を暖める。クラリッサとラウラは四方山話に華を咲かせ、それを察した一夏は足早に警備科の隊舎へと入っていった。更衣室でジーンズとシャツにライダースを着込んで外に出るとラウラが一人で立っていた。一夏を見つけると手を振ってくる。

 

 「何してるんだ?ハルフォーフさんは?」

 

 一夏は訊く。話が終われば自室に戻れば良いものを、態々外にいるなんて何かしら用でもあるのだろうか?こんな天気だ、雨も振ってくるかもしれない。秋雨には濡れたくない。

 

 「お疲れさま。クラリッサなら部隊の皆の所だ。これを渡そうと思ってな……」

 

 差し出されたのはブラックの缶コーヒー。手に取ると、暖かった。礼を言って缶を開ける。ラウラも同じ物を買っていた。

 

 「ブラック飲めるようになったのか?」

 

 「あぁ、慣れた」

 

 ふぅん、と一夏は横目でラウラを見る。眉間に皺が寄っていた。明らかに背伸びをしていることが分かる。微糖でもカフェオレでも、何ならコーヒーから離れても良いだろうに、何故拘るんだと一夏は思う。大体は一夏と同じく、石井の真似をしているだけなのだが。

 

 そんな一夏にラウラも視線をやる。特に表情を浮かべずに、歩く一夏から見知った感覚を覚える。煙の匂い、コーヒーの香り。開戦直後に行方を眩ませた義父の影。

 

 「嫁、変わったな」

 

 「何が?」

 

 「雰囲気とかだ」

 

 「変わったんじゃない。鍍金が剥がれたんだよ。或いは自覚」

 

 一夏はニヒルな笑みを浮かべて、ライダースのポケットから煙草のソフトパックを取り出した。千冬姉には黙っててくれ、と言って火を付ける。

 

 「何処で、煙草なんか?」

 

 「警備科の先輩から貰った。悪くない味だよ。最近は、たまにこうやって吸ってるんだ。やっちゃいけないことをして、ストレス発散する。至って健全だ。やっちゃいけないと言っても、人様に迷惑は掛けてない。何事も折り合い。泰山の店主も良いことを言うよ」

 

 煙を吐き出す一夏。指に挟まれた煙草をラウラは掠め取り、地面へ踏みつける。一夏は唖然として、さっきまで煙草を挟んでいた指を見つめている。

 

 「おい、何すんだよ。いや、ポイ捨てもいけないけど、いきなり何だよ」

 

 「煙草は身体に悪い!駄目だ!どうして私の周りの男たちは煙草ばかり吸うんだ!!父様も嫁も、もう少し自分の身体を労れ!!それに、きちんと拾ってゴミ箱に捨てるからポイ捨てじゃない。もう煙草は禁止!!禁煙だ」

 

 「え……いや、別にヘビースモーカーじゃないし、健康は最低限は気を付けてるぞ?だから禁煙は……」

 

 「駄目だ!!てか、私に迷惑掛けてる!!」

 

 ラウラのボルテージが高まり説教が始まろうとすると、一夏のスマホにメールが届いた。ラウラを手で制してディスプレイを見た一夏は素頓狂な声を挙げた。ラウラが画面を覗くと、差出人は篠ノ之束。文面は、

 

 『明日か明後日、ラインアークに行くね。よろしく。ちーちゃんに伝えといてね。追伸、いしくん並みのヘビースモーカーにはならないように。束さんとの約束だぞ』

 

 きっと、雷が落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 革張りのソファーに毛布に包まる物が蠢いている。時折、魘されながら寝返りを打つ。

 

 テーブルには飲みかけのウイスキーの瓶とロックグラス、煙草と黒いジッポ、ピーナッツが盛られた皿と新聞等が乱雑に乗せられている。薄暗い室内にはソファー脇のランプしか光源が無く、昼過ぎだというのに夜中のような雰囲気を醸し出していた。

 

 ソファーで眠る猟犬の額には珠のような汗が浮かび、大層苦しそうな表情を浮かべている。本人の意図と関係無くそれは彼の脳内を駆けずり回る。内容なんて物は無い。浮かぶだけで、再生されるだけで不快。摩耗した部分によく響く。レム睡眠やノンレム睡眠、ストレス等から来る悪夢では無い。低いIS適正でシングルナンバーコアを動かす弊害、致命的な精神負荷。肉体的な負荷の代わりに、猟犬が差し出すのは内面の傷。身体が動けば闘える。故に彼はフィードバックを受け入れた。凡百の人間なら発狂しかねない不快感。普通なら潰れてもおかしくない。それに耐えるというのは、やはり例外足る所以か。しかし──

 

 「黙れ」

 

 猟犬は無理矢理身体を覚醒させる。脳に反響する不快な音を払い、冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲む。一々フィードバックに苦しんでいる、構ってやるほど猟犬は優しくない。闘えるならば、幾らでも苛め。休暇は充分に過ごした。その分は働く。元より、自分が行き着く先を機体の名にした。この程度の苦しみならば、乗り越えられる。勝つために必要ならば、もっと持っていけ。

 

 PCが着信を知らせた。依頼だろうか、と投影ディスプレイを見ると知人からだった。

 

 「何の用だ、『本屋』」

 

 『やぁ。お目覚めかな、猟犬殿。起き掛けだったならば、申し訳ない。また掛け直すとしよう』

 

 「いや、構わない。確かに寝起きだが問題は無い。それで、何の用だ?」

 

 ディスプレイに映る長髪の影絵のような男に猟犬は促す。胡散臭い知人だ、とつくづく思う。

 

 『依頼の完了を報告しようと思った次第だ。クラリッサ・ハルフォーフ以下シュヴァルツェア・ハーゼのラインアークへの移送が完了したよ。それと久し振りに君と言葉を交わそうと思ったのだよ。友人と談笑するのに大した理由などいらないと思うのだが、迷惑だっただろうか?』

 

 「私はお前を知人程度としか見てないが。まぁ、いいだろう。暇潰しにはちょうどいい」

 

 猟犬はグラスにバーボンを注ぎ、口にする。ディスプレイ越しの『本屋』もグラスを掲げて真っ赤なワインを口に含んだ。

 

 『ふむ、やはり君にはウイスキーが似合う。学園ではワインやシャンパンも飲んでいたようだが、しかし私としてはその姿がしっくり来る。それが君の偽らざる顔だ』

 

 「私は何も偽ってなど無い。酒の好みで私の顔が云々等と、よく回る口だな」

 

 『ハハハ、よく言われるよ。君も私のことを詐欺師と称しただろう。まぁ、だが私も何も偽ってなど無い。猟犬殿、私はその姿が好きなのだよ。君のその燃え尽きても尚、燃え滓すら燃やして闘い続けるその輝き。メイ・グリンフィールドや君に憧れる者は君のことを黒い太陽と感じるようだが、私は違う。君は琥珀だ。名を忘れた英雄。嘗て抱いた願いを封じて、化石を抱いて闘う猟犬よ。君は自らの(正義)をまだ忘れてはいまい。それこそが君の化石。嗚呼、だが哀しいな。いつかそれすら君は薪にするのだろう。君はその果てに何を見る?君が奉じる飼い主の願いの先には何がある?その英雄譚の結末は?』

 

 「もう酒が回ったか?私は英雄などでは無い。それに、私は琥珀のように上等な代物でも無い。お前は私を過大評価する傾向がある。()()()()()()()()。名など無くとも、生きていける、闘える。()()()いらない」

 

 『本屋』と呼ばれた男は嗤った。猟犬が知らぬ内に己を晒け出していたことに。その輝きに惜しみ無い称賛を贈りたい。その救い用の無さに哀しみも覚える。そして、その結末を見届けたい。英雄よ、誰かの為()の英雄よ。君が闘いの果てに得る物を私にも見せてほしい。心の底から猟犬に惚れ込んでいる男は、無二の友人がどんな物語を描くのか気になって仕方がない。

 

 「だが──俺の(正義)とは何のことだ?」

 

 グラスに映る石井の髪は真っ白に色が抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フッ……フフフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハ──」

 

 『本屋』の高笑いが部屋に響く。彼の友人との通話は既に切られている。

 

 「嗚呼、救われないな──救われないな、我が友人、我が英雄。君は既に己の(正義)すら薪にしたというのか!!あぁ、素晴らしい!!あぁ、愚かしい!!眩いな、猟犬!!余りにも強すぎる!!」

 

 予想以上の友人の愚かさ(雄々しさ)に感情の昂りが抑えられない。彼は己の化石の燃え滓でしか、原初を思い出せない。夢の中でしか、己の起源を回想出来ない。一人の女の為にそこまで投げ出したのだ。素直に尊敬の念を抱く。だが、

 

 「君は彼女に誰を重ねている──?誰を見ているのかね?」

 

 彼は幻を見続けている。そこにいて、そこにいない誰かを重ねている、見ている。琥珀に閉じ込められていた欠片。既に失われた何か。決して戻らない、何時かの更識楯無のように不可逆的な物を見ている。しかし、()()()バックアップを取っている筈だ。

 

 「嗚呼、頑張りたまえよ。君が頑張らなければ、彼は辿り着かないぞ?潰えるぞ?頼むから我が英雄を潰してくれるなよ?断頭台の少女よ。まだまだ、先は長いぞ?」 

 

 『本屋』はその部屋から消えるように去った。そこには人のいた形跡は残っていなかった。まるで、初めから誰もいなかったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 20■■年、10月■■日。

 

 ドイツ陥落、レオネアの統治下に入る。

 

 国家解体戦争開戦五日目のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ラインアークの収入源→研究開発

            学園経営

            傭兵←New!!

 石井さん、気付けば悪化していました。(白目)

 でも、トンチキだから大丈夫!!ヘーキヘーキ!!勇気と根性でどうにかなるよ!! 

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