転生して気が付いたらIS学園で教師やってました。   作:逆立ちバナナテキーラ添え

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 前回、書いてて思ったんですけど。タグに『主人公系ラスボス系主人公(トンチキ)』とか付けようか迷いました。

 そんなこんなの国家解体戦争編始まります。

 口汚く無礼に罵るのは傭兵の嗜みです。(AC並感)

 ほんへ、どうぞ。


Overture

 

 

 

 

 

 

 『作戦を説明する。雇主はオルコット財閥。目標は、オルコット財閥本社兼旗艦クイーンズランスを襲撃しようとするアメリカ海軍第七艦隊、これの撃滅だ。弾薬費は偉いさん持ちになっている。一人残らず排除してくれ。一応護衛艦隊とISもいるが、雇い主直々のご指名だ。第七艦隊には二機、ファングクエイク(IS)が配備されている。こいつらは、特別報酬の対象だ。逃がすなよ。こんなところか。悪い話ではないと思うぜ?連絡を待っている』

 

 数あるセーフハウスの一つ、薄暗いガレージの中でGAグループの仲介人からのメッセージを聞く。依頼は対艦隊戦。然程、難しい依頼では無い。

 

 タバコを灰皿に押し付けて、機体のチューンを始める。と言っても、大幅に弄る訳では無い。兵装はいつも通り、スラスターやジェネレーター等の内装も問題は無い。強いて挙げるならば、使用を検討している外付けブースター──『Vanguard Overed Boost(V O B)』との接続程度だろう。

 

 随分と好条件の依頼に多少の裏を勘繰ってしまうが、それは傭兵としての性ゆえ仕方無いだろう。態々、指名で自力で対処できる事態を依頼してくるというのも怪しくない訳では無い。かと言って、GAの仲介人が意地の悪い依頼を持ってくるとも思えない。GAの仲介人は良くも悪くも、大企業の仲介人らしく無い。要するに、いつも通りの出たとこ勝負だ。今回も障害を全て叩き潰して、勝利を積み重ねるだけだ。何も変わらない。騙して、自分を叩き潰そうとしているならば、叩き潰し返す。覚悟は決まったのだ。悩む必要は無い。

 

 シャッターを上げると、冷たい風が吹き込んできた。曇った重苦しい空と、荒々しく波が逆巻く海。着ていたフライトジャケットを年季の入った革のソファーに投げる。黒いISスーツに身を包んだ猟犬は、空の果てを凪いだ瞳で見つめ、小さく息を吐く。

 

 「行こう、『シュープリス』」

 

 純黒の断頭台が姿を顕す。背には巨大なブースター。ロケットを何本も纏めたような形状の超高速戦闘用追加兵装。理論上、時速四千キロを越す速度を出すことが出来る狂気の具現。凡そ、生身の人間が扱える代物では無い。そう、()()()()()()()()

 

 スラスターに火が灯る。両手のライフルを握り締め、機体を浮かす。足と腕を伸ばして空気抵抗を出来るだけ減らす。そしてVOBにも火が灯る。

 

 ──Ignition──

 

網膜に投影されたその文字と共に、猟犬は大気を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 レーダーに感知された一つの機影。恐ろしいほどの、操縦者を殺すほどの速度で接近してくるIS。IFFに応答は無い。太平洋沖を航行していた第七艦隊は戦闘体勢を即座に取った。たった一機のISで何が出来るというのだ。オルコット財閥の機体か?船員たちは高を括っていた。こちらにはISが二機もいるし、物量だって比較にならない。むざむざ死にに来た間抜けだと嗤っていた。

 

 「対空戦闘、対IS戦闘用意。挽き潰してやれ」

 

 高らかに指示をする将校。だが、その勝利を確信した顏は程なく崩れ去る。

 

 「コアパターン、照合……シュープリス……猟犬です!!」

 

 船員たちの顏から血の気が引く。戦場で最も会いたくない、会ってはいけない奴が自分たちを殺しに来たのだ。空母からF35がスクランブルする。発射される夥しい量の艦対空ミサイル(SAM)。しかし、その全てが意味を成さない。常識はずれの速度で振り切られる。艦載砲の砲撃も事も無げに回避される。戦闘機は残さず撃墜される。猟犬はどんどん距離を詰めてくる。

 

 単機で小国を相手取る事が出来ると言われているISの中でも規格外の九機、シングルナンバーと呼ばれる化け物たち。その一角、世界最悪と呼ばれる暴力装置が動いた。これは一つの絶望的な事実を示す。猟犬は企業に着いたのだ。国家という統治システムに反旗を翻した企業連に与し、体制を壊す。それこそ、世界を壊すつもりなのだ。篠ノ乃束の私兵として、彼女の意に従ってきた男が動いたということは──

 

 「天災も企業に着いたのか……?」

 

 旧き枠組みが淘汰される。その第一歩。圧倒的な個が、旧世代の衆を蹂躙する。ライフルの威力一つ取っても、戦闘機を容易く撃墜し、駆逐艦を玩具のように沈める。全てが桁違い。世代が違う。いや、そういう枠組みに入れるのも適切では無い。あれは例外なのだ。その例外を動かせるとするならば、

 

 「有澤……GAか……」

 

 迎撃に向かった二機のファングクエイクを無視し、シュープリスは艦隊に突っ込む。背部のVOBは既にパージした。シュープリスのカメラアイと外部センサー類に保護シャッターが降りる。そして、海域を閃光と衝撃が覆い尽くした。

 

 アサルトアーマー。機体周辺に展開する球状の特殊な防御フィールド──プライマルアーマーを瞬間的に開放することにより周囲に強力な閃光と衝撃を発生させるシュープリスの固有兵装。本来の動力源ではなく、シールドエネルギーを代用している為、威力は半減しているがそれでも艦隊を半壊滅に追い込むには充分な物だった。

 

 緑色の閃光が晴れると、蹂躙劇は更に苛烈さを極めた。残存する艦艇を沈め、海へ飛び込んだ船員に容赦なく弾丸を叩き込む。兵器を簡単に破壊する弾丸が人体にぶち込まれる。跡形は無く、人であった半固形の液体が海面を漂う。

 

 近接防空火器(CIWS)は一発も当たらない。VOB無しの戦闘でも、シュープリスを捉えることは出来ない。急激な方向転換(クイックブースト)であらゆる攻撃が回避される。被弾率はゼロ。嘲笑うかのように、空母の甲板に着地し両手のライフルを掃射して艦載機や設備を破壊していく。そして飛翔し、肩部兵装のグレネードキャノンを放つ。空母は炎に包まれた。艦隊の損害が六割を超える。

 

 「クソが!好き勝手やりやがって……墜ちろよ!!」

 

 ファングクエイク二機がシュープリスに銃口を向ける。二方向からの十字砲火(クロスファイア)。並みの兵器を鉄屑に変えてしまうであろう弾幕は不可視の壁に阻まれる。アサルトアーマーで減衰したプライマルアーマーは復活したのだ。シュープリスを球状に取り囲み、緑色の雷を纏わせる。

 

 機影がブレた。ファングクエイク二機はシュープリスを見失う。ほんの一瞬、されどそれは致命的な一瞬でもある。

 

 まずは一機のシールドエネルギーが急速に減衰した。今まで感じたことの無い重い衝撃がパイロットを襲う。そして業火と爆発。VTシステム、それも通常の物よりも凶悪な性能を持つプロトVTを沈黙させた兵装群がファングクエイクを攻め立てる。OGOTOの爆炎は一辺の情けなく、内装をオーバーヒートさせ、装甲を焼く。消火の為に海面へ急降下する火達磨を断頭台は逃がさない。二機目からの攻撃をプライマルアーマーで封殺し、蹴り飛ばして火達磨を掴む。その手にはライフルは無く、左手にレーザーブレードがマウントされていた。07-MOONLIGHT。月明かりが弧を描き、怨嗟を吐く火達磨を骸へと変えた。

 

 赤いカメラアイがもう一機を睨む。手にはライフル。純黒の装甲には傷一つ、返り血一つ無い。パイロットはその姿に死神を想起する。断頭台(シュープリス)、言い得て妙だ。

 

 シュープリスのライフルが唸る。高速起動から放たれる弾丸は通常の物よりも遥かに強い衝撃を与える。先に墜ちた一機と同じように、何の捻りも無く塵殺される。単純な力の差があった。覆し様の無い位階の差、シングルナンバーと凡百のISにあるあらゆる差がファングクエイクに反撃の余地を与えない。

 

 全ての抵抗が空を切り、弾丸は海へと沈む。空対空ミサイル(AAM)はフレアに誘導される。

 

 機影を見失うと突如、空気が肺から押し出され、息が出来なくなる。背後からの一際大きな衝撃。胸からライフルが生えていた。

 

 シュープリスの兵装の一つ。左腕部兵装、突撃型(アサルト)ライフル──04-MARVEの先端による刺突。高速戦闘時に空気抵抗を制御するための大気を切り裂くカバーである鋭い先端を、本来の用途を無視して無理矢理銃剣代わりにした。それは減衰したシールドエネルギーと装甲を貫き、パイロットの胸を穿った。

 

 ライフルを抜かれたファングクエイクは海中へ没する。シュープリスはそれを眺め、未だに燃え盛る空母に視線を移す。そこには一人の男がいた。涙を流し、こちらを見据え、慟哭を上げる男。OGOTOの砲身を向ける。男の叫びを聞かずに、グレネードが放たれ、空母は沈んだ。

 

 生体反応は無し。皆殺しだ。依頼は達成された。

 

 「ミッション完了、帰投する」

 

 所要時間、三分二十六秒。国家解体戦争三日目、第七艦隊は全滅した。アメリカ太平洋軍は深刻な打撃を被った。

 

 

 

 

 

 

 『聞こえるか?こちらオルコット財閥本社艦隊旗艦クイーンズランスだ。聞こえるか、猟犬?』

 

 帰投する猟犬に通信が入る。今回の雇主からだった。

 

 「何の用だ?追加の依頼は受け付けてない。自力で何とかしてくれ」

 

 『そういう話では無い。礼を言おうと思って通信をした』

 

 声色からして老人だろう。老いた男は猟犬に親しげに話しかける。気持ちの悪い話だ。猟犬にはオルコット財閥に恩を売った覚えも無ければ、今回の依頼にしてもGAの仲介人が持ってきた物を受諾しただけだ。弾薬費を持ってくれるのは嬉しいが、言ってしまえばそれまでだ。それに、まだオルコット側の裏切りが無いとも言えない。

 

 「何の礼だ?イギリス人は何でもかんでも恩を感じなければ生きていけないのか?難儀だな。こんな無礼な傭兵にも恩を感じるとは」

 

 猟犬は口汚く老人を叩く。こういう老齢の人間は得意では無い。ましてや、この業界の老人は特にそうだ。IS委員会(企業連)の老醜よろしく、ろくでもない連中ばかりだ。何を企んでいるか分かった物では無い。下手に出る必要も無い。依頼は達成した。ならばクライアントでは無い。元より、味方でも無いが。

 

 『ふむ、噂通りの人間のようだ。飼い主以外には尻尾を振らない、忠実な猟犬。牙を剥いた相手を必ず滅ぼす最悪の暴力装置。今回の依頼も見事な手際だった。賞賛に値する』

 

 「何が言いたい、老人?回りくどいのは好きじゃない。耄碌してるのなら、さっさと引退した方がいいんじゃないか?」

 

 『手厳しいな。では、本題に入ろう。いつも、お嬢様がお世話になっている。お嬢様は元気でやっているだろうか?』

 

 お嬢様。オルコット財閥のお嬢様と言えば、セシリア・オルコットのことだろう。何故、この老人がそのようなことを自分に訊くのか。猟犬は無言で返す。意図が読めない。レーダーの探査範囲を拡大する。何かしらの合図かもしれない。

 

 『あぁ、そうだ。名乗っていなかったな。これは失礼した。私はジョナス・ターラント。総帥代理、セシリア様の後見人をしている』

 

 「ジョナス・ターラントだって?」

 

 ジョナス・ターラント。現在のオルコット財閥の実質上のトップ。若年のセシリアに代わり、財閥の運営を一手に引き受けるやり手。オルコット財閥本社機能の艦隊への移行も彼が提案した物だ。社内の対抗勢力を駆逐してからは、軍需部門の増強に着手し、現在はアームズフォート二機の建造をアフリカで行っている。親会社であるGAとも対等以上にやり合う陰謀家。猟犬のジョナス・ターラントに対する印象はそのような物だった。

 

 「驚いた。悪名高き陰謀家からの直々のご指名だったとは。後見人を勤めたのも何かの策略か?」

 

 『どうやら、最近周りが私を避けると思ったらそういうことか。私はセシリア様に仇為すことは無い。オルコット家と女王陛下に忠誠を誓った身だ』

 

 「だから王室に手を出さなかったと?変に律儀だな。有澤重工と言いオルコットと言い、王朝がある国が出身の企業は悉く王族関係を保護している。そこは素直に美徳と評価するべきか」

 

 『若いのに随分と擦れているな。まぁいい。で、どうなんだ?』

 

 「元気にやっている。何も問題は無い。後見人が心配することは何も無いさ」

 

 『悪い虫の類いは?』

 

 「それこそ老いぼれの出る幕じゃない。あの子の旅の邪魔をするなよ。あの子の人生はあの子だけの物だ。失敗も成功も栄光も屈辱も含めてだ。私たちが手を加えることは多くない」

 

 『言うじゃないか若造、貴様のことを言っているのだがな』

 

 「手は出しちゃいない。老人は気にしすぎる。孫の火遊びに過剰に反応するから嫌だね。それに、陰謀家が優しいお爺ちゃんの振りか?似合わないからやめろ」

 

 通信を切る。過保護な爺に付き合ってられるほど、暇では無い。仲介人からの入金も確認した。もう、話すことは無い。猟犬は速度を上げた。取り敢えず、帰ってバーボンを飲みたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 20■■年、10月■■日。

 

 静観を決め込んでいたレオネアグループがヨーロッパ全域で蜂起。フランスとドイツで大規模な戦闘が発生する。

 

 同日、ドイツ陸軍第六十三特殊機甲歩兵大隊──IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼがラインアークに亡命。

 

 同日、GA製アームズフォート『ランドクラブ』がロールアウト、戦線に投入される。史上初めて、アームズフォートが戦闘に投入された。 

 

 

 国家解体戦争開戦四日目のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 要約:家の子に手出すなよ?→出してねぇよ、引っ込めジジイ。


 フロムマジック、ライフル刺突。これがやりたかっただけ。


 GAの兄貴が好きすぎて辛いです。


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